カリフォルニア大学バークレー校2006年3月14日
カリフォルニアは新たな産業:グリーン・ケミストリーの
パイオニアになるであろう

ウィルソン報告書『カリフォルニアのグリーン・ケミストリー』の紹介
サラ・ヤング

情報源:University of California at Berkeley, Mar. 14, 2006
California Could Pioneer A New Industry: 'GREEN CHEMISTRY'
By Sarah Yang
http://www.precaution.org/lib/06/prn_green_chemistry_in_calif.060315.htm

オリジナル報告書:Green Chemistry in California:
A Framework for Leadership in Chemicals Policy and Innovation
Michael P. Wilson with Daniel A. Chia and Bryan C. Ehlers
http://www.chemicalspolicy.org/downloads/CAGreenChemistryReport.pdf

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2006年3月16日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/eu/usa/cal/CAL_Report_Green_20060314.html

 アメリカの弱体な化学物質法は、産業界がより安全な代替物質を求めることの妨げとなっている。
アメリカはグリーン・ケミストリーを含む、よりクリーンな技術への世界の動きから後れてしまっている−と報告書の著者らは述べた。

訳注:報告書『カリフォルニアのグリーン・ケミストリー:化学物質政策と革新におけるリーダシップのための枠組み』のエグゼクティブ・サマリー (当研究会訳)

 【カリフォルニア・バークレー】カリフォルニア大学バークレー校、労働環境健康センター(COEH)[2]の研究者らによる新たな報告書[1]によれば、カリフォルニは化学物質製造と使用のための包括的な政策の確立を率先して行うべきでありと、さもないと増大する一連の健康と環境の問題、及び世界の経済に取り残される危険がある。

 これは、世界の”グリーン・ケミストリー”の動きに対応した州の枠組みを確立するためにアメリカで初めて発表された報告書であり、そこでは、毒性が少なく、生体蓄積せず、環境中でもっと容易に分解する化学物質の設計と使用に産業が投資する意欲を持つよう政策が設計されている。グリーン・ケミカル製造プロセスはまた、より安全でよりエネルギー消費の少ない材料を使用し、有害な廃棄物の発生も少ない。

 2004年に、カリフォルニア上院環境品質委員会及び環境安全と有害物質に関する下院委員会の委託を受けて、本報告書は本日、カリフォルニア大学学長室の後援の下に、カリフォルニア政策研究センターによって、両委員会に提出された。報告書は、産業指導者と企業家に対しグリーン・ケミストリーに投資する動機を与えるために、革新のためのもっと大きなインセンティブが必要であると述べている。これらには、化学的毒性に関する情報、より強化された規制監視、及びカリフォルニアにおけるグリーン・ケミストリーへのより大きな資金調達を改善することを含まれる。

 報告書は、カリフォルニアはこれらの変革を実現するために包括的な化学物質政策を開発し、州議会はこのプロセスの第一歩として、化学物質政策タスクフォースを召集することを勧告している。

 アメリカは既に、グリーン・ケミストリーを含む、よりクリーンな技術に向けての世界の動きに後れを取っている−と報告書の著者らは述べている。例えば、欧州委員会は既に環境的により安全な物質を推進する画期的な立法を行っている。そのひとつ、廃電気電子機器指令(WEEE 指令)2002/96/EC [3] (訳注1)は、電子製品に循環及び再生の時に扱いやすいような新たな物質を使用することを促すよう意図されており、EUで電子製品を販売する製造者に電子廃棄物を削減する責任を求めている。

 第二のEU法は、電気電子機器における特定有害物質使用制限指令(RoHS指令)2002/95/EC [4] (訳注2>であり、有害物質(水銀、カドミウム、鉛、六価クロム、ポリ臭化ビフェニル(PBB)、及びポリ臭化ジフェニルエーテル(PBDE))を欧州連合内で販売される電気電子機器に使用することを制限する。

第三の現在提案中のREACH規制案(Registration, Evaluation, and Authorization of CHemicals 化学物質の登録、評価、認可)[5](訳注3)は、EUの化学物質製造者と輸入者に約30,000種の化学物質の毒性と用途に関する情報を提出することを求め、さらに非常に有害な化学物質約1,400種について使用のための認可手続きを導入するものである。

訳注1:
廃電気電子機器指令(WEEE 指令)2002/96/ECの紹介(当研究会抄訳)
訳注2:
電気電子機器における特定有害物質使用制限指令(RoHS指令)2002/95/ECの紹介(当研究会抄訳)
訳注3:
REACH関連情報紹介(当研究会ウェブサイト)

 ”欧州連合はクリーン技術と化学物質管理における世界のリーダーとして出現しており、その製造手法を世界的に変革しつつある−とカリフォルニア大学バークレー校公衆健康学部/労働環境健康センターの研究科学者であり、報告書の主著者であるミカエル P. ウィルソンは述べた。”カリフォルニアは、グリーン・ケミストリーを含む技術の最先端をいくべきであり、そのことはカリフォルニアの長期的な生産能力の懸念への対応としてだけでなく、州内において健康、環境、ビジネス及び政府に影響を与えている化学物質問題の全体に目を向けるべきである。”

は  報告書によれば、比較的規制の弱い米有害物質規正法(U.S. Toxic Substances Control Act (TSCA))[6]はアメリカの製造者がグリーン・ケミストリー技術に投資するためのインセンティブをほとんど提供していない。例えば、米有害物質規正法(TSCA)は、商業的に使用されている人工化学物質ほぼ99%について、毒性及び曝露情報を生成し公開することを化学物質製造者に求めていない。

 ”その結果、アメリカの消費者、産業、及び中小企業は市場にあるより安全な化学物質製品を特定することができず、産業が彼らのサプライチェーンの中で有害化学物質を特定することを非常に困難にしている”−と報告書は述べている。また報告書は、”人の生涯の全ての過程で、特に、生物学的に感受性が高い胎児と子どもの発達期間に起きる化学物質曝露の生物学的影響についての科学的懸念が増大している”−と指摘している。数百の化学物質が環境中に残留しており、ヒトの体内組織に蓄積している。

 報告書は、化学物質曝露は、ぜんそく、神経発達障害、及びある種のがんなど子どもの疾病の原因となっている。また報告書は、カリフォルニアでは毎年23,000人の労働者が職場の化学物質曝露が原因で重大な慢性疾病であると診断されており、それ以外に5,600人が職場での化学物質曝露に誘引される慢性疾病の結果、死亡している。

 報告書は、アメリカ環境保護庁(EPA)は、今日、77,000か所ある有害廃棄物処分場が2033年までには217,000か所になり、新たに出現する処分場の環境的影響を緩和するための取組にさらに2,500億ドル(約28兆円)のコストがかかるであろうと推定してる。

 報告書は、Kaiser Permanente社、Catholic Healthcare West、Intel、HP, Apple、IBM など、カリフォルニアの多くの一流企業は有害物質の使用を回避するための化学物質方針を実施中であり、カリフォルニア州に化学物質政策があれば彼らに役に立つであろうと述べている。

 ”カリフォルニアのビジネスは、化学物質の安全性についてのもっとよい情報を必要としているが、彼らは長年の連邦政府の化学物質政策の弱体、特に有害化学物質規正法(TSCA)によって挫折させられている”−とウィルソンは述べている。”これらの弱点をカリフォルニアで正すことは長期的に我々のビジネスを支援し公衆健康と環境の問題に目を向けることになる。それは化学物質製造者にグリーン・ケミストリー技術への投資を開始する動機付けとなるであろう。カリフォルニア州のリーダーシップなしにはこの分野での競争力を失うことになる。”

 このシナリオを前に、カリフォルニは多くを得るか、失うかの岐路に立っている−とウィルソンは述べている。この報告書は、2050年までに州人口は50%増大して5.500万人になると予測している。社会的、経済的、及び環境的な問題に対処しつつ、持続可能な方法で成長を有効に管理することを、今直ぐ、始めることが必要である−と彼は述べている。

 さらに、化学産業はカリフォルニアの経済に有用な役割を果たしている。カリフォルニア化学産業協議会の資料によれば、2004年には、化学産業界は約81,000人を雇用し、286億ドル(約3兆円)を雇用者の給料として支払い、17億ドル(約1,800億円)を州税及び地方税として納入している。

 ”カリフォルニは既に、エネルギー効率など、多くの革新的な分野で主導的な役割を果たしている”−ウィルソンは述べた。”直ぐに行動を起こせば、カリフォルニアはグリーン・ケミストリー革新における世界のリーダーになるであろう”。

 この報告書はカリフォルニア大学バークレー校(UC Berkeley)、ロサンゼルス校(UCLA)、及びリバーサイド校(UC Riverside)からの部門メンバー、及びカリフォルニア州健康サービス局からの科学者ら、計13人の委員が構成する委員会によって率いられた。

 この報告書の共著者は、ダニエル・チアとブライアン・エーラーであり、二人ともカリフォルニア大学バークレー・ゴールドマン校公共政策学修士課程で学ぶ傍ら、この作業にかかわった。

 カリフォルニア政策研究センターは、州全体の重要な問題に関する州及び連邦政府の政策の分析、開発、及び実施に対し、同大学の広範な研究専門性を適用するために設立されたカリフォルニア大学の研究プログラムである。

[1] http://coeh.berkeley.edu/GreenChemistryReport.pdf
[2] http://coeh.berkeley.edu/
[3] http://europa.eu.int/comm/environment/waste/weee_index.htm
[4] http://www.efsot-europe.info/servlet/is/395/
[5] http://www.euractiv.com/Article?tcmuri=tcm:29-117452-16&type=LinksDossier
[6] http://www.law.cornell.edu/uscode/html/uscode15/usc_sup_01_15_10_53.html


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