米会計検査院(GAO)報告書 2005年6月(本文紹介)
化学物質規制
健康リスクを評価し、化学物質検証プログラムを管理するための
EPAの能力を改善する選択肢がある

情報源:GAO Report to Congressional Requesters June 2005
CHEMICAL REGULATION
Options Exist to Improve EPA's Ability
to Assess Health Risks and Manage its Chemical Review Program

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2005年8月4日
このページへのリンク
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/eu/usa/GAO/Chemical_Regulation_June_2005.html

訳注:
 この報告書は米上院・環境公共事業委員会の上院議員ジム・ジェフォーズらの求めに応じて米会計検査院(GAO)天然資源・環境ディレクターのジョン B. スティーブンソンが作成した報告書であり、2005年6月13日付けジム・ジェフォーズらへの書簡という形をとっている。
 有害物質規制法(TSCA)の下で、EPAは既存化学物質の安全情報の入手が困難であること、新規化学物質に関し産業側の上市前テストがTSCAで求められていないことなどを指摘し、有害物質規制法(TSCA)を改正するよう議会に勧告している。
 ジム・ジェフォーズら民主党上院議員5人がこの勧告に基づき、有害物質規制法(TSCA)の改正案”2005子ども安全化学物質法案”を2005年7月13日に議会に提出した。
 以下に報告書の一部を紹介する。



なぜ会計検査院(GAO)はこの調査を行ったか
 化学物質は日常生活において重要な役割を果たすが、あるものは人間の健康と環境に有害である。化学物質は、例えばクレンザー、塗料、プラスチック、燃料などの消費者製品、さらには産業用溶剤や添加剤などを含む、社会で広く使用される製品を製造するために用いられている。しかし、鉛や水銀などのような化学物質はある用量では非常に有毒であり健康と安全の観点から規制される必要がある。
 1976年、議会は有害物質規制法(TSCA)を採択し環境保護局(EPA)に人間の健康又は環境に不合理なリスクを及ぼす化学物質を規制する権限を与えた。
 GAOは、EPAの、(1)まだ上市されない新規化学物質の規制、(2)上市されている既存化学物質の評価、及び(3)TSCAの下で化学会社により供給される情報の公開−に関する取り組みについてを検証した。


GAOの勧告は何か
 GAOは、議会がEPAの化学物質のリスクを評価する能力を改善するためにTSCAの下において更なる権限をEPAに与えること、及び、EPA長官がEPAの化学物質プログラムの管理を改善するためのいくつかの措置とることを勧告する。
 EPAはGAOの勧告に意見が異なるわけではなかったが、独自のコメントをした。


GAOは何を見つけたか
 EPAの新規化学物質の検証は、化学物質が上市される前に健康と環境に対するリスクを十分には特定できていない。化学会社は、TSCAにはテスト規定がないので、新規化学物質を上市する前にEPAの検証のためにテストを行うことを求められておらず、一般的にそのようなテストを自主的に行うことはない。
 もし限定されたテスト・データしかなければ、EPAは以前にテストしたことのある分子構造の似た化学物質と比較して新規化学物質のモデルを作ることによりその毒性を予測している。しかし、このようなモデルは化学物質の特性と毒性、特に一般的な健康影響について必ずしも正確ではないので、新規化学物質が上市される前に十分に評価されることを保証するものではない。
 それにもかかわらず、もしテスト・データと健康と安全に関する情報をEPAが入手できないなら、これらのモデルは、潜在的に有害な化学物質を特定するためのスクリーニング・ツールとして一般的には有用であり、新規化学物質の予想される用途や暴露のような他の情報も併用することで、その新規化学物質を検証するための合理的なベースを与えると、EPAは信じている。
 しかしEPAはもっと情報を入手することができれば、そのモデルの予測能力を改善することができるということを認めている。

 EPAは日常的には全ての既存化学物質のリスクを評価しておらず、EPAは評価するために必要な情報を入手することの困難さに直面している。
 有害物質規制法(TSCA)による職権の下で既存化学物質のデータを収集することはEPAにとって一般的に金と時間ががかかり過ぎるので、有害物質規制法(TSCA)はEPAがそれらの物質を検証する上で助けにならない。
 既存化学物質に関する情報が欠如しているという理由もあって、EPAは1998年に、産業界及び環境団体と連携して高生産量化学物質(HPV)チャレンジ・プログラムを立ち上げ、このプログラムの下で化学会社は大量に製造される化学物質の基本的な特性に関する情報を自主的に提供し始めた。
 このプログラムが、EPAが人間の健康と環境に及ぼす化学物質のリスクを決定するために十分な情報を生成するかどうかは不確かである。

 有害物質規制法(TSCA)の下で化学会社から受け取る情報をEPAが公的に共有する能力には限界がある。TSCAは機密ビジネス情報の開示を禁じており、化学会社は提出するデータの多くを機密であると主張する。
 一方、EPAはこれらの機密であるとする主張の正当性を評価する権限を持っているが、数多く出される主張を処理するだけのリソースを持っていないとEPAは述べている。
 州の環境機関やその他の機関は、製造設備における高い毒性を持つ物質の存在について担当要員に警戒態勢をとらせるための緊急事態対応計画を作成するなど、様々な活動に使用するために機密ビジネス情報を入手することに関心がある。
 化学会社は最近、適切な防護措置をとることで、他の組織がこの情報を使用することができるようにするためにEPAと協議することに関心があると表明している。


内 容
書簡 ■書簡導入部
■結論要約
■背景
■EPAは、新規化学物質の健康と環境への潜在的なリスクを確実に特定するための十分な情報を持っていない
  • EPAは新規化学物質に関し限られた情報しか持っておらず、新規化学物質の健康と環境へのリスクを評価するためにモデリング・ツールに依存している
  • 製造前届出時の暴露、その他の情報の見積りは製造開始後に変更されることがある
  • EPAの新規化学物質の検証の結果、多くの規制措置がとられた
■EPAは日常的に既存化学物質の評価をしておらず、健康と環境へのリスクに関する情報は限られており、既存化学物質を管理するための規制をほとんど行っていない
  • EPAEが持っている既存化学物質を検証するために必要な毒性及び暴露データは限られている
  • EPAは、化学物質が不合理なリスクを及ぼすことを証明することの難しさに直面しており、TSCAの下で既存化学物質はほとんど規制されていない
  • カナダとEUは既存化学物質のより強力な管理に向けて動いている
■有害物質規制法(TSCA)の下で収集されたデータを公開するするEPAの法的権限は限定されている
■結論
■議会が検討すべき事項
■EPA長官への勧告
■EPAのコメントとGAOの評価

付属書 ■付属書T:EPA自主プログラム
■付属書U:カナダとEUの化学物質法
■付属書V:TSCAの下で化学物質を評価し規制するためにEPAの権限を強化するための更なる選択
■付属書W:範囲と方法論
■付属書X:TSCA第6条の下で発布される規制
■付属書Y:EPAからのコメント
■付属書Z:GAO連絡先およびスタッフ謝辞
■表1:化学物質データ収集と管理のためのTSCAの主要条項
■表2:アメリカ、カナダ、及び欧州連合(EU)の化学物質規制

書簡 (会計検査院(GAO)から上院議員への書簡)

■書簡導入部
2005年6月13日
ジェームス M, ジェフォーズ閣下
少数党幹部議員
米上院環境公共事業委員会

フランク R. ローテンバーグ閣下
米上院議員

パトリック・リーイ閣下
米上院議員

ジョン B. スティーブンソン
天然資源・環境ディレクター


 アメリカでは現在、数万種の化学物質が商業用に用いられており、毎年平均、700種以上の新しい化学物質が市場に出されてる。これら化学物質の多くは人々の日常生活において重要な役割を果たしている。消費者はクレンザーや塗料からプラスチックや燃料にいたるまで化学物質を含む又はそれらからできた製品を使用している。その他の広範な様々な製品中や産業用プロセスで、会社は溶剤や添加剤のような化学物質を使用している。化学物質は商品の生産やサービスで重要であるが、あるものは人間の健康と環境に有害な影響を及ぼす。
 例えばアスベスト、これは非常に細い繊維に分離するいくつかの鉱物であるが、吸入すると肺がんやその他の疾病を引き起こすことがあるヒトへの発がん性物質として知られている。その有害な影響が知られる前は、アスベストを含む材料が建物の建築や修繕において耐火用、保温や防音用、そして装飾用に広く使用されていた。

 1976年、議会は有害物質規制法(TSCA)を採択し、環境保護局(EPA)に対し、化学物質に関するもっと多くの情報を入手し、人間の健康と環境に不合理なリスクを及ぼす化学物質を規制する権限を与えた。TSCAは、商業用に製造され、輸入され、調剤され、流通され、そして使用され又は処分されるこれらの化学物質を対象とするが、それ以外の物質の中で特に連邦殺虫剤殺菌剤殺鼠剤法(FIFRA)で規制される農薬、及び連邦食品医薬品化粧品法(FFDCA)によって規制される食品、食品添加物、医薬品、化粧品、又は装置などの特定の物質は除外さる。

 TSCAは、EPAに化学物質を上市前に評価し(新規化学物質)、すでに市場にある化学物質を検証する(既存化学物質)権限を与えている。EPAは上市されている化学物質をTSCA目録にリストしている。現在、TSCA目録にリストされている82,000種を超える化学物質のうち、約62,000種はEPAが1979年に検証を始めた時にすでに上市されていた。その時以来、EPAは40,000種以上の物質を新規化学物質として検証し、そのうち約20,000種を化学会社が製造を開始した後に目録に加えた。
 EPAは新規及び既存の化学物質の潜在的なリスクを評価し、テストし、管理するプログラムを開発した。リスクを評価するために、EPAは人間の健康と環境に及ぼす化学物質の潜在的暴露レベルと有害影響を評価する。新規化学物質については、一般的にTSCAは会社に対し少なくとも新規化学物質の製造を開始する90日前に事前製造申請を提出することにより、EPAに届け出ることを求めている。
 これらの届出は、化学物質の身元、製造プロセス、予想製造量、意図される用途、潜在的な暴露と排出レベル、廃棄処分、副産物、化学会社が所有又は管理するテスト・データ、及び、化学会社によって合理的に確かめられる既知の化学物質の環境又は健康への影響に関するどのような記述をも含む。

 TSCAの下でEPAが収集した化学物質のリスクに関する情報は必ずしも州政府、地方政府及び公衆がが利用できるわけではない。通商上の機密、特典を与えられている又は機密の商業上又は財政に関する情報を保護するために、TSCAは化学会社にEPAに提出した情報を機密と指定することができ、もし、それがある基準を満たせば、EPAはこの情報を開示することができない。
 あなた方(議会委員会)の要求に対応して、我々はEPAの、(1)まだ上市されていない新規化学物質の規制、(2)上市されている既存化学物質の評価、及び(3)TSCAの下で化学会社から供給される情報の公開、に関する取り組みについて検証した。
 これらの問題に向けて、我々はまた、TSCAを補完するためのいくつかのEPAの自主的な化学物質管理プログラム、カナダ及び欧州連合(EU)の化学物質管理プログラムに関する情報を入手した。
 さらに、我々は過去に指摘したいくつかの立法的選択が、TSCAの下でEPAが化学物質を評価し規制する権限を強化することができるということがわかった。この情報はそれぞれ付属書T、U、及びVに記載されている。

 EPAが新規及び既存の化学物質のリスクを評価した程度、及び、TSCAの下で得られた情報を公開した程度を検証するために、我々は、機密情報の取り扱いを含む、新規及び既存化学物質の検証と管理プログラムに関するEPAの政策とガイドラインを特定し評価し、EPAが化学物質を管理するためにどのような措置をとったかを確認した。
 我々はまた、EPAの自主的プログラムに関する文書を収集した。我々は、EPA担当官、アメリカ化学協議会(全国的な化学物質製造者の協会)、エンバイロンメンタル・ディフェンス(全国的な非営利環境団体)、及び、合成有機化学物質製造者協会(全国的な特殊化学物質製造者の協会)らの代表とのインタビューで更なる情報収集を行った。
 我々はまた、機密ビジネス情報が州政府に有用であるかどうかについて、EPAが実施した調査を入手し検証した。
 TSCAの下で化学物質のリスクを評価し規制することについて、EPAの権限を強化するための潜在的な選択肢を特定するために、我々は、(1) EPAの担当官、アメリカ化学評議会、エンバイロンメンタル・ディフェンス、EPAの国家汚染防止毒物諮問委員会、及び合成有機化学物質製造者協会とのインタビュー、(2) TSCAに関するGAOの以前の報告書、判例、及び議会での聴聞を含む関連文書の検証、(3) EPAその他が開催した様々なパブリック・ミーティングや会議への参加、及び、(4) カナダ及びEUの化学物質規制法についてカナダ及びEU代表との討論を実施した。
 我々の範囲と方法論についての詳細は、付属書Wに記述されている。我々は作業を2004年7月から2005年5月までの期間、一般に認められている政府会計監査基準に則して実施した。


■結論要約
 TSCAは、もしEPAがあることを発見した場合にはEPAに、会社に対しテストを実施するよう求める権限を与えているが、TSCAは化学会社に対し、EPAの検証のために新規化学物質について毒性をテストし暴露レベルを評価してEPAに提出することを求めておらず、EPA担当官によれば、一般的に化学会社は自主的にそのようなテストを実施することはない。
 そのようなデータがない場合には、EPAは新規化学物質の潜在的な暴露と毒性を科学的モデルを使用することによって、及び分子構造の似た化学物質(類似化合物)の毒性情報と比較することによって、予測する。
 しかし、モデルは物理的化学的特性を予測する場合に必ずしも正確ではなく、また一般的な健康影響の評価は適切な類似化合物の入手に依存するので、評価に当って弱点を示すことがある。
 もし、テスト・データ及び健康と安全に関する情報をEPAが入手できない場合には、そのモデルはその物質が潜在的に有害化学物質であるかどうか特定するためのスクリーニング・ツールとして一般的には有効であり、化学会社が製造前届出時に提出する新たな化学物質の予想される潜在的な用途や暴露など他の情報と併せることで、そのモデルは新たな化学物質をレビューするために合理的なベースを与えるとEPAは信じている。
 EPAが、ある属性や特性により化学物質をスクリーニングすることが可能になれば、人間や環境に潜在的なリスクを及ぼすと一般的に確認された属性と特性を持つこれらの化学物質をEPAはもっと詳細に検証することができる。EPAは、限定された有効性調査に基づいているので、モデルは偽陰性(化学物質は、後で実際には高い懸念があると判明しても、最初は懸念が低いと判定される−false negative)よりも偽陽性(化学物質は懸念がある−false positive)を示す傾向があると信じている。
 しかし、EPAは追加的情報を化学会社から入手できれば、化学物質の毒性を予見することができ、そのモデルの予測能力を改善することになると認めている。
 更に、EPAが暴露を評価する製造前届出時の化学物質製造量と予想される用途の見積りは、EPAによる検証が完了し、化学会社による製造が開始された後に大きく変更されることがある。これらの見積りは、EPAが化学物質成分の用途を全く新たな用途であると決定しない限り、会社は修正することを求められない。
 全く新たな用途であると決定した場合には、新たな用途の届出が求められるが、EPAが新たな用途であると決定するケースはまれである。しかし、化学会社が生産量を上げたり化学物質の用途を広げれば、暴露のリスク、したがって人間の健康又は環境を脅かすリスクは増大するであろう。

 EPAは日常的には全ての既存化学物質のリスクを評価しておらず、EPAは評価するために必要な情報を入手することの困難さに直面している。これに関し、化学物質が、(1) 健康又は環境に損傷を及ぼす不合理なリスクを有することを示す、又は (2) 大量に製造されて、かつ (a) その化学物質への著しい又は重大な人間の暴露がある、又は (b) 大量に環境中に排出される−場合にのみ、TSCAはEPAが化学会社にテストデータを要求する権限を与えている。
 しかし、EPAは、化学物質の健康又は環境への影響を合理的に決定する又は予測するためにデータが不十分であり、そのようなデータを作成するためにテストの実施が必要であるという裁定をしなくてはならない。EPAは1979年、TSCAの下に化学物質の検証を開始して以来、上市された62,000種の化学物質のうち、わずか200種以下の化学物質についてしかテスト実施要求の権限を執行していない。
 1990年代後半、化学会社と環境団体の協力の下に、EPAは高生産量化学物質(HPV)チャレンジ・プログラムを立ち上げ、化学会社は年間100万ポンド(約4,500トン)以上生産される約2,800種の化学物質に関するテスト・データを自主的に提供し始めた。しかし、化学産業は、当初からHPVチャレンジ・プログラム含まれていた300種の化学物質についてテストを実施することに同意せず、またEPAは、もっと少ない生産量の化学物質の中にもテストを実施する必要があるものがあると信じている。
 さらに、たとえテスト・データがHPVチャレンジ・プログラムの下で提供されても、EPAはTSCAの下で製造又は使用を規制するためには当該化学物質が不合理なリスクを及ぼすということを立証しなくてはならない。
 一方、EPA担当官によれば、TSCAはどのようなリスクが不合理(unreasonable)なのかということについて定義しておらず、その基準を設定すること困難である。法的精査に耐えるためには、確固とした証拠によって支えられなくてはならない。

 EPAはTSCAの下で受領した情報を公開することを制限されている。TSCAは一般的に連邦政府担当官以外に、情報自由法の下に保護された通商上の機密、特典を与えられている又は機密の商業上又は財政に関する情報の開示を禁止している。
 TSCAの下で化学会社はEPAに提出した情報を機密と指定することができ、もし、それがある基準を満たせば、EPAはこの情報を開示することができない。
 さらに、TSCAは化学会社がデータを機密ビジネス情報であると主張することを認めている。EPA担当官によれば、化学会社による新規化学物質の製造前届出の約95%が機密と主張される何らかの情報を含んでいる。EPAの規制の下では機密ビジネス情報として主張された情報は一般的にそのまま機密情報として扱われる。
 例外は、その情報が他の連邦法または司法の命令で開示を求められる場合、会社が自主的に機密の主張を撤回した場合、又はEPAが、その情報は主張の法的権利を支える法的基準に合致しないという決定の行政措置をとった場合である。
 TSCA機密ビジネス情報は連邦政府担当官及び契約者には提供することができるが、一般的には、州環境機関や外国の政府を含む、化学物質リスク評価、化学物質管理法の実施、その他の環境活動の遂行に責任がある組織への提供できない。
 しかし、いくつかの州の環境規制担当官は、TSCAの下に提出される毒性情報は、例えば製造施設において高い危険物質への緊急事態対応要員への対応計画を作成することなどを含む、環境リスク・プログラムを管理する上で有用であると信じている。
 EPAは機密要求の正当性を評価する権限があり、もし、それらが妥当でないなら会社の機密主張を拒否することができるが、これらのことは時間と人手がかかり、EPAは著しく大量の主張に対応するリソースをもっていない。
 EPAは、化学会社に彼らの主張の根拠をもっと完全に実証することを求めるなど、TSCA機密要求の規制の様々な修正を検討している。更にEPA Office of General Counsel はEPAの広範な機密ビジネス情報規制の包括的な検証を行った 。これはTSCA機密ビジネス情報規制に対応するものであるが、検証の結果はEPAの規定のどのような修正の必要性をも導き出さなかった。

 EPAの化学物質に対する健康と環境のリスク評価の能力を改善するために、我々はEPAに更なる権限をを与えるために議会がTSCAを修正することを考慮するよう勧告している。我々はまた、化学物質検証プログラムに関するEPAの管理を改善するためのいくつかの勧告を用意している。


■結論
 EPAは、TSCAの下で法的手続きをとって既存化学物質のテスト実施を要求することは可能であるが、化学物質が不合理なリスクを及ぼすかもしれない又はその化学物質が非常に大量に製造されるかもしれない、またその化学物質に対する人間又は環境の大きな暴露が存在するかもしれないという検証結果を立証することなどを含めて、法的手続きをとることは困難で金がかかるということがわかった。
 したがって、既存化学物質に関する必要なテスト情報を得るために、(1) 化学産業と交渉して結ぶ同意協定の下に、そして (2) HPVチャレンジ・プログラムでの産業側の自主的な取り組みの下に、ある化学物質の特定のテストを実施する化学産業にEPAは大幅に依存する。
 EPAは、交渉した同意協定は法的拘束力があり、TSCA第4条のEPAの権限と一貫性があるということを承知しているが、法的強制力のある同意協定はかつて一度も法廷で試されたことがなく、EPAはTSCAの中に協定への明示的な引用を含めることが有益であると信じている。

 化学会社はEPAが化学物質のリスクを評価するために必要とするテスト・データをHPVプログラム通じて自主的に供給し始めている。しかし、産業側が適切で時宜を得たやり方で自主的にテストを実施することに同意しない場合には、そのようなテストの実施を要求することが確実にテストを実施させるための唯一の現実的な方法であるとEPAは信じている。
 これに関し、化学産業はEPAはTSCAの下でテスト実施を要求する権限を利用することができ、ケース・バイ・ケースで必要なテストを要求できると信じている。
 EPAは大規模な複合化学物質テスト実施規則を発布するという経験が比較的ないということ、及び、テスト実施当局は多数の化学物質について実施することは難しいとということを示すかもしれないということに留意する。
 高生産量化学物質に関する自主的な取組にもかかわらず、 (1) 化学会社はEPAが高生産量物質であるとした300種の化学物質のテストを実施することに同意しなかったこと、 (2) 変動の激しい化学物質市場では、いずれ高生産量物質になる追加化学物質が出てくること、そして (3) 特定の高生産量ではない化学物質でも、その毒性や暴露の特性によってはテストを実施することの正当性があること−を指摘している。
 さらに、化学産業はEPAがTSCAの下でルール・メーキングに求められる証拠を準備する前であっても喜んで行動するかも知れないが、産業界は大きく多様なので、全ての会社が常に自主的に行動するということは確かではない。

 機密ビジネス情報の保護は明らかに適法性に関する懸念であるが、TSCAは現在、EPAがこのデータの多くを、完全な情報を州政府環境管理機関に供給することや、SAR(構造活性相関)モデルを開発し有効性を確認するための、又は外国政府と情報を共有すること−目標は一般的に政府と産業界が共有すること−により、化学物質の評価アプローチの調和を図るための国際的な取り組みを支援するなど、有用で重要な目的のために開示することを禁じている。
 受領者が情報の不適切な開示を行うことを防ぐような政策と手順を適切に持つことをEPAが確実にするなら、EPAと化学産業界の双方は、そのような情報の共有を許すためにTSCAを改正することは有益なことであると信じている。
 さらに、EPAと化学産業は、産業側のデータを保護するための必要性が時間が経過するにつれてしばしば減少し、したがって、産業側が定期的にビジネス情報の機密性を最言明することを求めるためにTSCA規制を改正することは適切であるということに同意している。

 新規化学物質の届出において提出されるテスト・データの量とタイプへの対応の限界が大きな理由で、過去数十年間にEPAは新規化学物質の評価に対し、また化学物質を評価する上で必要となるテスト・データの入手に対し、革新的なアプローチを採用する方向に動いた。最も顕著なことは、これらのアプローチには、新規化学物質を評価するためのモデルの開発とその広範な使用、及び、既存化学物質を評価するために必要なテスト・データを入手するための自主的な化学物質テスト実施などがある。
 EPAのモデルの多くは法規制の目的のためには有効性が確認されていないが、それらは、TSCAの下で検証された32,000種以上の新規化学物質のうち約3,500種の製品又は用途を規制するためのEPAの活動を支えてきた有用なスクリーニング・ツールであるとEPAは信じている。
 それにもかかわらず、もしこれらのモデルが化学物質検証プロセスの中で中心的な役割を演じるならば、モデルを改善するために多面的な戦略が必要であり、それらには法規制を目的としたモデルの開発及び有効性の確認に必要な化学物質の属性に関する追加的な情報を入手することが含まれる−とEPAは認識している。

 同様にEPAは、既存化学物質のHPV自主的テスト・プログラムがすでにもたらした早期の結果である多くの基本テスト・データに勇気付けられている。
 EPAは、まだ実施はされていないが、今後検証すべき化学物質の優先度を決め、製品と用途にどのような規制がとられるべきかを決定するために必要な追加データを特定するために必要なデータ使用の方法論−の方向に動いている。
 EPAの検証プログラムは、会社がカナダ及びEUに供給することを求められる追加データを用意するということにより、よい影響を受ける可能性がある。アメリカの会社及びその関連会社が外国政府に提出したのと同じ情報をEPAに提出することを求める規則を発布することにより、会社にはほとんど追加コストを負担させずに、EPAは相当な量の追加基本データと健康と安全調査を取得することができる。


■議会が検討すべき事項
 化学物質の健康と環境へのリスクを評価するためのEPAの能力を改善するために、議会は有害物質規制法(TSCA)を下記のように改正することを検討すべきである。
  • 化学会社にテスト実施を求める法的強制力のある同意協定(enforceable consent agreement)をEPAが結ぶことの権限を明示すること
  • TSCAの第4条の下における現在の権限に加えて、製造量が著しく多い場合及びテスト実施の必要性がある場合に化学物質製造者及びその調剤業者にテストを実施することを求める権限をEPAに与えること
  • 化学会社がEPAに供給した機密ビジネス情報をEPAが州政府や外国政府と共有する権限をEPAに与えること。ただしEPAは化学会社やその他の関連団体と協議して、その情報が不法に開示されることを防止するために、その情報の全ての受領者が守るべき手順を示した規制を制定すること

■EPA長官への勧告
 EPAの化学物質検証プログラムの管理能力を改善するために、我々はEPA長官に下記を勧告する。
  • 今後検証すべき化学物質の優先度を決め、それらのリスクを評価するために必要な追加データを特定し入手するために、HPVチャレンジ・プログラムを通じて収集された情報を利用するための手法を開発し実施すること
  • 化学会社は、アメリカ国内で製造、調剤又は輸入する化学物質に関し、外国政府に提出するどのような健康と安全調査についても、また、環境と健康への影響に関するその他の情報についてもコピーをEPAに提出することを求める規定をTSCA第8条の下に発布すること
  • 化学物質のリスクを評価、予測し、化学物質の製造、使用、及び処分に関する法的決定を通知するためにEPAが使用しているモデルを法目的のために使用できるよう改善し有効性を確認する戦略を開発すること
  • 会社が最初に情報が機密であると主張した後ある期間の間に、会社はTSCAの下にEPAに機密主張を再言明することを求めるよう規制を改正すること

■EPAのコメントとGAOの評価
 我々EPAにこの報告書のドラフトを彼らのレビューとコメント用に送付した。EPAはこの報告書の結果と勧告について反対はしなかった。しかしEPAは二つの本質的なコメントを申し出た。
 化学物質製造者が外国政府に提出したデータを入手するためにTACA第8条規定の発布に関するEPA長官への我々の勧告に関し、EPAは、そのような報告規定は有用な情報をもたらすかもしれないが、外国政府の指令よりもEPAの国内での優先順位に目を向けた情報収集のための他のアプローチをとる方が賢明であるかもしれない−とコメントした。
 我々は、外国政府に提出された情報にアクセスできるということは、EPAが既存化学物質のリスクを評価するために、そして新規化学物質を評価するためにEPAが使用するモデルを改善するために、有用な情報の重要なソースをEPAに供給することである信じる。

 しかし、すでに所有する情報の重複を避けるなどの理由があるなら、EPAはこの規定をもっと狭義に調整することができる。議会は法的強制力のある同意協定を明示的に認めるためにTSCAを改正することを検討するという件に関し、EPAはこれらの協定のための強い法的権限が現在存在すると信ずると述べた。
 我々は報告書に述べたとおり、TSCAは、EPAがこれらの協定を結ぶことについて明示的に権限を与えておらず、裁判所はテスト実施規定の発布ではなく、むしろテスト実施を要求することの裁量にEPAは欠けると判断するであろう。
 EPAのコメントは付属書Yに収録されている。

 我々はこの報告書のコピーを、EPAとその活動を管轄する議会の委員会、EPA長官、行政管理予算局長官に送付する。我々はまた、要求があれば、他にもコピーを送付する。さらにこの報告書は会計検査院(GAOのウェブサイトでも無料で入手可能である。
http://www.gao.gov


訳注: 下記ウェブサイトをご覧ください

GAO報告書の概要:化学物質規制 健康リスクを評価し、化学物質検証プログラムを管理するためのEPAの能力を改善する選択肢がある
GAO Abstract for Chemical Regulation: Options Exist to Improve EPA's Ability to Assess Health Risks and Manage Its Chemical Review Program

子ども安全化学物質法案はEPAにテスト要求権限を与える−米会計検査院(GAO)の報告書に基づく法案−(当研究会訳)

米子ども安全化学物質法案−子ども、労働者、及び消費者の有害物質への暴露を低減するための有害物質規制法(TSCA)を修正する法案 (当研究会部分訳)

■米上院環境と公共事業委員会プレスリリース2005年7月13日
上院議員ジム・ジェフォーズ アメリカ人を消費者製品中の有害化学物質から保護する法案を提案
Minority Press Release 07/13/2005
SEN. JEFFORDS INTRODUCES BILL TO PROTECT AMERICANS FROM HAZARDOUS CHEMICALS IN CONSUMER PRODUCTS
(HTML)



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