The Conversation 2023年6月7日
美しさの醜い側面: 化粧品に含まれる化学物質類が
大学生年代の女性たちの生殖上の健康を脅かす

レスリー・ハート/チャールストン大学公衆衛生准教授
情報源:The Conversation, June 7, 2023
The ugly side of beauty: Chemicals in cosmetics
threaten college-age women's reproductive health

Author: Leslie B. Hart / Associate Professor of
Public Health, College of Charleston
https://theconversation.com/the-ugly-side-of-beauty-chemicals-
in-cosmetics-threaten-college-age-womens-reproductive-health-206572


訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2023年7月3日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/edc/USA/230607_The_Conversation_The_ugly_side_
of_beauty_Chemicals_in_cosmetics_threaten_college-age_womens_reproductive_health.html



 地元の店舗の身体手入れ用品(パーソナルケア用品)コーナーを歩いてみると、肌を柔らかくしたり、香りを良くしたり、まつげを伸ばしたり、シワを減らしたり、縮毛を整えたり、さらには半永久的に唇、髪、肌の色を変えたりすることを約束する製品が数多く並んでいる 。

 ”うますぎる話には裏がある”という格言をを思い起こしてほしい。
(Remember the adage "If it seems too good to be true, it probably is"?)

 このような製品の約束の多くは、生殖能力や生殖胎児の発育、及び乳児発達を妨げる可能性のある内分泌かく乱化学物質類など、健康に害を及ぼす可能性のある化学物質類に基づいている。

 これらの製品は、家族を持つことを考える前の数年間に若い女性に重点的に販売されているため、これは大きな懸念である。

 最近の研究では、大学生年代の女性たちは他のグループよりも高い率で化粧品を使用していることが実証されている。 さらに、これらの若い女性の多くは、新たに懸念される汚染物質類を含む人気製品を頻繁に使用することによる健康リスクに気づいていない。 そして、よりクリーンな代替品を見つけることは、多くの場合、より多くの費用を支払うことを意味する。

 私は自身の不妊治療と闘ってきた疫学者として、化粧品、シャンプー、ローション、プラスチックなどの日用品に含まれる内分泌かく乱化学物質類への暴露を研究している。 私は若者の健康リスクについての意識を高め、化粧品の慎重な使用を奨励するために働いてきた。

規制されておらず、潜在的にリスクがある

 米国食品医薬品局によると、”化粧品”という用語には、消臭剤、香水、ローション、マニキュア、シャンプー、その他のヘア製品のほか、目、唇、顔の化粧品類も含まれる。

 アメリカでは、これらの製品はフケや発汗などの症状の治療に使用されない限り、医薬品が受けるような連邦政府の規制を受けないことを知っておくことが重要である。 すなわち、製品の安全性をどのように伝えるかは化粧品会社の判断に委ねられている。(訳注:日本は化粧品基準により、成分として配合してはならないもの(別表第 1、他)、配合量に制限があるもの(別表第 2)、防腐剤、紫外線吸収剤及びタール色素の配合の制限(別表第 3 、別表第 4、他)がある。化粧品基準 平成12年9月29日 厚生省告示第 331 号

 身体手入れ用品には、メーカーが特定の目的で添加する多くの種類の化学物質が含まれており、その中には内分泌系の正常な機能を妨害したり混乱させたりする可能性のある化学物質もある。 たとえば、日光によるダメージから肌を守るためにオキシベンゾン、香りを高めるためにフタル酸エステル、抗菌特性のためにパラベンやトリクロサン、耐久性を高めるためにパーフルオロアルキル物質やポリフルオロアルキル物質(PFAS)などの UV フィルターを加えるのが一般的である。

日常使用する化粧品中でしばしば見られる化学物質

 フタル酸エステル、パラベン、トリクロサンなどの内分泌かく乱化学物質類は、自然に生成されるホルモンを模倣したり、ホルモン受容体をブロックしたりして、異常なホルモン生成を引き起こす可能性がある。

ProductEndocrine-disrupting chemicals found in some brands
Body LotionParabens, Phthalates, Oxybenzone
Body WashPhthalates
ConditionerParabens, Phthalates
DeodorantPhthalates
Face CleanserParabens, Phthalates
Face LotionParabens, Phthalates
Lip BalmPhthalates
Liquid Hand SoapParabens, Phthalates, Triclosan
MascaraParabens
ShampooParabens, Phthalates
Table: The Conversation/CC-BY-ND Source: Leslie Hart, based on research Get the data Download image Created with Datawrapper

 しかし、これらの化学物質の全てが全ての製品に含まれているわけではないため、暴露を回避する方法を見つけるのは複雑になる場合がある。 例えば、日常使用の化粧品から内分泌かく乱化学物質を検出した研究に関する2021年のレビューでは、フタル酸エステル類は香水、シャワージェル、シャンプー、マニキュアに含まれていた。 パラベンは、ローション、クリーム、シャンプー、ボディーウォッシュ、洗顔料、口紅から検出された。 トリクロサンは歯磨き粉、石鹸、その他の洗剤から検出された。 また、UV フィルターは日焼け止め、ローション、歯磨き粉、口紅にも含まれていた。

 これらの化学物質の多くは製品中に共存する可能性があり、ラベルには成分中に内分泌かく乱化学物質が必ずしも記載されていないため、消費者は一度に複数の化学物質類にさらされるリスクがあり、場合によっては警告なしに暴露されることがある。

化粧品に含まれる化学物質が健康上のリスクとなるのはなぜか?

 化粧品を肌にこすりつけたり、その香りを吸い込んだり、歯磨きに使用したりすると、化粧品に含まれる化学物質が体内に伝わり、内分泌系、神経系、心臓血管系に影響を与える可能性がある。

 これらの化学物質類がフタル酸エステル類、パラベン、トリクロサン、PFAS などの内分泌かく乱物質である場合、自然に生成されるホルモンを模倣したり、ホルモン受容体をブロックしたりする可能性がある。 それらの存在により、体全体のホルモンの生成、分泌、または輸送に異常が生じる可能性がある。

 これらのホルモンの変化は、精子の質の低下流産子宮内膜症などの生殖上の問題を引き起こす可能性がある。 また、甲状腺障害成長や発達の異常を引き起こす可能性もある。

 注意欠陥・多動性障害(ADHD)認知障害うつ病などの神経疾患も、化粧品に添加される化学物質と関連しているといわれている。 高血圧インスリン抵抗性冠状動脈性心臓病などの心血管系の問題も同様である。

 リスクのレベルは測定が難しいことが多く、暴露量、化学物質の種類、化学物質が内分泌系とどのように相互作用するかによって部分的に決まる。 ユタ州とカリフォルニア州の18〜44歳の女性を対象としたある研究では、一般的なフタル酸エステル類への暴露が増えると、痛みを伴い妊娠を妨げる可能性がある子宮内膜症を発症する確率が2倍になることが判明した。 内分泌かく乱化学物質に職業的に暴露した妊婦のメタ分析(訳注:メタアナリシス(meta-analysis)とは、複数の研究の結果を統合し、より高い見地から分析すること、またはそのための手法や統計解析のことである。ウィキペディア)で、研究者らは、母親が複数種の内分泌かく乱化学物質に暴露した場合、低出生体重児になる確率が25%増加すると計算した。

各州はこれらの化学物質を禁止し始めている

 大学生年代の女性を対象とした我々の調査では、若い女性は内分泌かく乱化学物質を含む可能性のある身体手入れ用品を毎日平均 8 種類使用していることがわかったが、中には 17 種類もの製品を使用していると報告している人もいる。人々が使用している製品の数は、内分泌かく乱化学物質への暴露量の増加と関連していると考えられているので、これは憂慮すべきことである。

 さらに、我々が調査した女性の 80% は、自分の化粧品に有害な化学物質が含まれているかどうか知らなかった。



若い女性の多くは、化粧品に含まれる化学物質に含まれるリスクを知らない。 Shannon Fagan/The Image Bank via Getty Images
 研究によると、ファンデーション、チーク、マスカラを着用した思春期の少女の方が、そうでない少女よりもフタル酸エステル類やその他の化学物質類への暴露が著しく高いことが判明した。 ある研究者は、思春期の少女たちが内分泌かく乱化学物質を含む製品の使用をやめると、尿中の濃度が 45%も低下したことを発見した。

 欧州連合は化粧品におけるこれらの化学物質の使用の規制を主導しており、米国の政策は概して遅れをとっているが、状況は変わりつつある。

 ワシントン州は最近、PFASフタル酸エステル類ホルムアルデヒド、その他の有害な化学物質を2025年から禁止する法案を可決し、企業がより安全な製品を生産する新たな動機を生み出すことになった。 ニューヨーク州は、美白剤として使用できる神経毒である水銀を2023年6月1日から禁止した。カリフォルニア州ミネソタ州メイン州も化粧品中の化学添加物に対して広範な制限を設けている。

 多くの化粧品会社は内分泌かく乱化学物質を含まない代替製品を提供しているが、価格が高くなる傾向があり、より安全な製品が若者の手に届かない可能性がある。 私は、化粧品への有害な化学物質の使用を国家的に禁止することが、すべての人々の暴露を減らすための最も公平な手段であると信じている。


訳注:当研究会が紹介した化粧品中の有害化学物質に関する主要な記事


化学物質問題市民研究会
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