EHP 2016年8月1日
ラベル内容を理解するための情報科学的アプローチ
身体手入れ用品中の共通化学混合物を特定する

キャロル・ポテラ

情報源:Environmental Health Perspectives, August 2016
An Informatics Approach to Reading the Label:
Identifying Common Chemical Mixtures in Personal Care Products
By Carol Potera
http://ehp.niehs.nih.gov/wp-content/uploads/advpub/2016/4/EHP217.acco.pdf
関連論文:
An Informatics Approach to Evaluating Combined Chemical Exposures from Consumer Products:
A Case Study of Asthma-Associated Chemicals and Potential Endocrine Disruptors
Henry A. Gabb and Catherine Blake


訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2016年8月6日
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http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/research/ehp/
16_06_ehp_Informatics_Approach_to_Reading_the_Label.html

 長年、化学物質リスク評価は単一物質への暴露に目を向けていたが、現在では研究者らは化学混合物にもっと注意を向けている。特に関心がもたれるのは、シャンプー、脱臭剤、歯磨き、その他に含まれる成分の組み合わせを含んで、日常生活で人々が遭遇する混合物である。今号の EHP の中で研究者らは、身体手入れ用品中で一般的に見いだされる化学混合物を特定するための新たな情報科学的アプローチについて記述している[1]。

 身体手入れ用品中で使用されているある成分は人間や動物への有害影響と関係している。例えば、ある香気化合物や抗菌剤はぜんそくを悪化させることがあるという証拠がある[2],[3]。他の成分は、人間での影響は明確ではないが、動物研究で内分泌かく乱作用、例えばテストステロンの生成阻害[4]、甲状腺ホルモンの抑制[5]、及びエストロゲン擬態[6],[7],[8],[9]を示している。朝の日課の身体手入れも年月が経つと、単一成分でもその組み合わせでも潜在的に有害影響を持つ多種成分への累積的な暴露をもたらすことがあり得る[10]。

 アレルギー、ぜんそく、その他の症状をもつ人々は、彼らが使用する製品について情報に基づく決定をするために製品ラベルに依存するかもしれない。しかし多くの製品は成分ラベルに、香気や風味を構成する特定の化学物質の代わりに、”香気(fragrance)”あるいは”風味(flavor)”などとリストするだけである。

 化学物質はまた、多数の名称をもっており、消費者がラベル表示を理解するのを困難にしている。例えばよく使われる合成香気成分であるビシナル(bucinal)はまた、その同義語であるリリアール(lilial)又はブチルフェニルメチルプロパナール(butylphenyl methylpropional)として表示されているかもしれない。”化学者ですら、ひとつの化学成分の全ての異なる名称を思い出すのは難しいであろう”と、報告書の共著者でイリノイ大学アーバナ・シャンペーン校情報科学部の研究助手ヘンリー・ガブは述べている。

 今回の研究は、以前の研究[10]が身体手入れ用品中で定量化した55種の潜在的に問題のある化学物質に焦点を当てた。ガブと共著者であり情報科学部の准教授キャサリン・ブレイクは消費者製品のデータベースを開発するために情報科学アプローチを使用した。彼らは、ウェブ小売りのドラッグストア・ドットコム(Drugstore.com)の製品成分情報を収集するために特別のソフトウェアを用い、38,975 種の区別できる製品のデータベースを生成した。そして彼らは製品中で単一又は混合物中にしばしば現れる化学物質を特定するために成分情報を解析した。彼らは、化学的同義語を照合するために、統一医学用語システム (Unified Medical Language System)と PubChem Compound データベースを用いた。

 著者らがどの製品が 55種の標的化学物質のどれかを含んでいるかを調べるために製品ラベルを検証すると、30%の製品が少なくとも1種類の標的化学物質を含み、13%が1種類以上を含んでいた。少なくとも標的化学物質のひとつが70%のサンスクリーン、69%のメークアップ、66%のローション、58%のコンディショナー、44%のシャンプー、42%のリップスティック、33%のボディウォシュ、12%のデオドラント、12%の歯磨きに含まれていた。標的化学物質の 3分の1以上が異なるラベル上で異なる名前で示されていた。

 最もしばしば現れる化学物質は、防腐剤の 2-フェノキシエタノールとメチルパラベン、香気成分のリモネンとリナロール、そして紫外線フィルターのオクティノクセイトであった。これらの化学物質はしばしば、消費者製品中で対(pairs)又は三つ組(trios)として含まれるが、最もしばしば現れる三つ組の 2-フェノキシエタノール、メチルパラベン及びエチルパラベンは3%の製品中にしか見いだされなかった[1]。

 著者らは、見当たらない、又は不完全な製品ラベルは情報科学アプローチが検索することのできるデータの数を制限するということを指摘している。それでもその結果は、公的に利用可能なデーは人々がしばしば暴露する化学混合物を特定するのに有用であることを示している。この情報は、将来の毒性学的及び疫学的研究を導くのに役に立つことができるであろう。

 ”我々の論文は、製品中に何があるのかを実際に示し、そして消費者が理解できる言葉で成分リストを持つことが何故重要なのかを強調している”とブレークは言う。”私はまた、我々の仕事が、製品ラベルに何が書かれるべきか、又は何が書かれるべきでないか、についてさらなる議論を高めることを望む。”

 ”この研究は消費者製品中の化学物質に関する増大する文献への重要なひとつの追加である。この研究は消費者製品化学物質暴露に関連する顕著な知識のギャップに目を向けている”と、沈黙の春研究所(Silent Spring Institute)の研究科学者であり、この研究には関わっていないロビン・ドッドソンは述べている。”実際の製品テストで補足されたもっと完全な製品成分ラベルは、消費者がある化学物質を避けるのに役立つであろう”。

References

1. Gabb HA, Blake C. An informatics approach to evaluating combined chemical exposures from consumer products: a case study of asthma-associated chemicals and potential endocrine disruptors. Environ Health Perspect 124(8):1155-1165 (2016), doi: 10.1289/ehp.1510529.

2. Bridges B. Fragrance: emerging health and environmental concerns. Flavour Fragr J 17(5):361-371 (2002), doi: 10.1002/ffj.1106.

3. Anderson SE, et al. Exposure to triclosan augments the allergic response to ovalbumin in a mouse model of asthma. Toxicol Sci 132(1):96-106 (2013), doi: 10.1093/toxsci/kfs328.

4. Howdeshell KL, et al. A mixture of five phthalate esters inhibits fetal testicular testosterone production in the Sprague-Dawley rat in a cumulative, dose-additive manner. Toxicol Sci 105(1):153-165 (2008), doi: 10.1093/toxsci/kfn077.

5. Paul KB, et al. Short-term exposure to triclosan decreases thyroxine in vivo via upregulation of hepatic catabolism in young Long-Evans rats. Toxicol Sci 113(2):367-379 (2010), doi: 10.1093/toxsci/kfp271.

6. Stoker TE, et al. Triclosan exposure modulates estrogen-dependent responses in the female Wistar rat. Toxicol Sci 117(1):45-53 (2010), doi: 10.1093/toxsci/kfq180.

7. Bonefeld-Jorgensen EC, et al. Endocrine-disrupting potential of bisphenol A, bisphenol A dimethacrylate, 4-n-nonylphenol, and 4-n-octylphenol in vitro: new data and a brief review. Environ Health Perspect 115(suppl 1):69-76 (2007), doi: 10.1289/ehp.9368.

8. Quinn AL, et al. In vitro and in vivo evaluation of the estrogenic, androgenic, and progestagenic potential of two cyclic siloxanes. Toxicol Sci 96(1):145-153 (2007), doi: 10.1093/toxsci/kfl185.

9. Schreurs RH, et al. Interaction of polycyclic musks and UV filters with the estrogen receptor (ER), androgen receptor (AR), and progesterone receptor (PR) in reporter gene bioassays. Toxicol Sci 83(2):264-272 (2005), doi: 10.1093/toxsci/kfi035.

10. Dodson RE, et al. Endocrine disruptors and asthma-associated chemicals in consumer products. Environ Health Perspect 120(7):935-943 (2012), doi: 10.1289/ehp.1104052.



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