CNN 2011年7月8日
新たな法案は、高懸念の内分泌かく乱物質を
研究者に禁止させることを提案している


情報源:CNN July 8, 2011
Bill would let federal health researchers ban certain chemicals
By William Hudson
http://edition.cnn.com/2011/HEALTH/07/08/chemical.bans/index.html

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2011年12月23日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/edc/USA/110708_CNN_EDCs_Act.html


【CNN】 この新たな法案は、研究者らに今日使用されている潜在的に最も有害な化学物質に対して迅速な行動を取る権限を与えることにより、アメリカの化学物質規制の様相を一変させることができるかも知れない。

 今月末には導入されるこの法案は、国立環境健康科学研究所(NIEHS)の所長、及び所長により任命される専門家委員会に、市場に出ている化学物質のあるもを高い懸念があるとして分類することにより、毎年、10化学物質までを禁止する権限を与えるものである。

 これらの化学物質は、そのような指定を受けた後24か月で使用することができなくなる。
 禁止の対象となり得る化学物質には、最近数ヶ月、議論の標的となっているプラスチックの中で広く使用されている内分泌かく乱物質のビスフェノールA(BPA)がある。

Gupta: Chemicals around us ? we must know more (CNN Health October 26th, 2010)
グプタ博士:我々は有害化学物質についてもっとよく知らなくてはならない。

 同法案は、今月末に下院議員ジム・モラン(Jim Moran)/バージニア/民主党と、上院議員ジョーン・ケリー( John Kerry)/マサチューセッツ/民主党により議会に導入されることになっている(訳注1:実際には7月13日に導入された)。
 しかし、この法案の先行きはどうなるのか定かではない。同法案は共和党が支配する上下院両方の委員会を通らなくてはならず、民主党は少数派である。

 CNNは、「内分泌かく乱化学物質曝露廃絶法 2011」 と名づけられた同法案のコピーを事前に入手した。同法は、国立環境健康科学研究所(NIEHS)により高懸念化学物質としてリストされると、その化学物質又はその化学物質族(class)は自動的に合法ではなくなり、各規制機関にその化学物質を禁止するための措置を求めることとなる自動施行制定法(self-executing statute)である。

 もしこの法案が法律になれば、国立健康研究所(NIH)の一部である国立環境健康科学研究所(NIEHS)は、当該化学物質を従来より迅速に非合法にすることができる。

 それは化学物質規制への劇的な変化を示しており、また、多くの人々が抱く規制機関の非常に緩慢なペースへの苛立ちと蓄積した多くの科学的証拠を指摘している。それらの証拠は先進国世界の最もゆゆしいいくつかの健康問題のひとつである内分泌かく乱化学物質を告発すべき国立健康研究所(NIH)の科学者らに入手可能である。

 自然に又は人工的に生じるそれらの化学物質は、洗剤、難燃剤、食品、化粧品などの日用品中に見出される。研究者らはそれらがホルモン機能を阻害し、人の健康に有害影響を及ぼすことを見つけている。

Apples top 2011 'Dirty Dozen' produce list (CNN HealthJune 13th, 2011)
リンゴは2011年”12の汚染”リストのトップにランク(ビデオとリスト/EWG

 国立環境健康科学研究所(NIEHS)は、この種類の化学物質について独自の研究を実施しているし、また全国の研究施設での研究に基金を提供している。NIEHS の研究者等は最新の研究を最も詳しく知っていると広く考えられているが、一方彼等は規制当局に報告することはできるが、規制する権限はない。

 この法案はそれを変えることになる。

 内分泌かく乱化学物質の研究は、生物学者らが多くの野生生物の集団で奇怪な生殖問題に気がつき始めた時に始まった。1970年代からの最も有名な事例のひとつは、DDTが食物連鎖中で順次、高い濃度で蓄積され、大きな魚やその他の鳥類を捕食するハクトウワシをほとんど絶滅に追いやった。

 ハクトウワシの成鳥はDDTで直ちに死ぬわけではないが、その化学物質が健康な子孫を残す能力に影響を与えた。我々人間は食物連鎖の頂点おり、また我々が毎日使用する製品を通じて、ビスフェノールA(BPA)のような多くの種類の内分泌かく乱物質に我々自身を曝露させているので、人間にもまた生じるという強い恐れがあるということである。プラスチックに加えて、BPA はまた缶詰の内面ライニング中にも見出される。

 通常の毒物では、用量が高ければ毒性も強くなるという直接的な関連があるが、内分泌学者の世界最大の組織である内分泌学会( Endocrine Society)によれば、内分泌かく乱物質の場合は直感に反して、低レベルにおいて、たとえそれが極微量でも毒性が強くなる(訳注2)。

 そのことが、従来の毒性学に基づき、内分泌系への化学物質の低用量影響を検出できない環境保護庁(EPA)のスクリーニングテストに問題を引き起こすと、内分泌学会のメンバーであるフデリック・ボンサールは述べた。

 そしてその影響は長い年月が経過してから現れる。例えば、高い不妊率や、同じく内分泌かく乱物質であり、妊娠中にDESを処方された女性の子どものがんなどである。

 議会は1996年にEPAに内分泌かく乱物質のためのスクリーニング・プログラムを策定するよう求めていた。内分泌かく乱物質スクリーニング・プログラムはEPAによって策定されたが、2009年にいたるまで、EPAどのような化学物資についても内分泌かく乱影響をテストしていなかった。

 しかし2009年は転機の年であった。

 内分泌学会(Endocrine Society)は、初めて”科学的声明”を発表したが(訳注3)、それは内分泌かく乱化学物質に対する証拠を組織的に提示し、それらのヒト健康への役割をもっと多く研究し、もしそれら化学物質の影響が適切に理解されていないなら、それらへの曝露が低減される場合には、いわゆる”予防原則”を採用することを求めた。

Scientists warn of chemical-autism link(CNN Health June 7th, 2011)
科学者らは、化学物質と自閉症との関連を警告

 また、2009年にEPAの上席アドバイザーであるリンダ・バーンバウムは、EPAを離れ、NIEHSの所長になったが、それは、10年間、年に最大10化学物質まで禁止するする権限を持つというまさにそのポジションである。もし、この法案が通れば、彼女は NIEHS において、EPAにいたときよりもっと迅速に規制権限を行使することができるであろう。

 バーンバウムの事務所は、NIEHS は本件についてはコメントしないと言った。

 20099年12月に、連邦機関の間の内分泌かく乱化学物質に関するより良い研究を確立するために、ある法案、「内分泌かく乱防止法 2009 (Endocrine Disruption Prevention Act of 2009)」 が議会に導入され、内分泌学会はそれを完全に支持した。

これもまたモランとケリーによって導入され同法案は恐るべき話を述べているが、それによれば、かつては稀であった自閉症、注意欠陥多動症(ADHD)、学習障害、そして肥満のような障害が先進国では珍しくなくなった。多くの研究者等が、これらの障害は、ヒトの体内のエストロゲン(女性ホルモン)やテストステロン(男性ホルモン)のようなホルモンの微妙な機能を模倣しかく乱する合成化学物質の広範な使用のためであると示唆している。

 ”これらの障害は、第二次世界大戦後、合成化学物質が円熟期を迎えて第一世代の子どもが胎内で曝露した1970年代の初めに、地域集団レベルで目立って増加し始めた。1950年以前はこれらの障害は稀であり、したがって、このことはこれらの障害の遺伝の可能性はない”と2009年の法案は最初に述べている。

 ”今日、胎内で曝露した第四世代の子どもたちの中で、3人の子どもたちのうち1人、マイノリティでは2人に1人が糖尿病になり;6人に1人が神経系障害をもって生まれ;100人に1人、男児の場合には58人に1人が自閉症スペクトラムであり;男児125人に1人が、尿道がペニスの先端で開いていない尿道下裂をもって生まれる”。

 ちょうど今週、自閉症スペクトラム症候群については、環境的要因が以前に考えられていた以上に大きな役割を果たしているということを新たな研究が発見したということが発表された。

Pediatricians want more chemical safety laws (CNN April 25, 2011)
小児科医は化学物質の安全に関わる法律をもっと強化することを望んでいる

 ”我々は長い人生を生きており、その間に多くのものに曝露しているので、単一の要素をひとつの障害に関連付けることは難しい”と、神経系内分泌かく乱物質を研究しているアンドレア・ゴアは述べた。

 ”一方、動物研究から、そして細胞系や数学的モデルから我々が学んだことは、これらのメカニズムの多くは人間にもまた当てはまると、私は考える”。

 この法案は化学産業会から強い反対にあることが予測される。

 CNN の要求に基づき、Center for Responsive Politics (訳注4)が編集したロビーイング公開情報によれば、2009年と2010年に、最大の化学物質製造者の団体である米国化学工業協会(American Chemistry Council)は、「内分泌かく乱防止法 2009」及びその他の化学物質法案をつぶすためのロビーイングに1,025万ドル(約8億円)を費やした。

 農業で使用されている農薬やその他の化学物質を製造している会社の協会である CropLife America は、2009法案及びその他の化学物質法案つぶしのロビーイングに288万ドル(約2億4,000万円)を使った。

 その法案は委員会から外に出て日の目を見ることは決してなかった。

EPA proposes new standards for PVC plants (CNN Health)
EPAがPVCプラントのための新たな基準を提案

 米国化学工業協会は、まだ見ていない法案についてはノーコメントであると述べている。しかし、書面による声明では、BPAのような化学物質は安全であることが示されていると述べた。

 ”BPAは、今日使用されている中で、最も徹底的にテストされている化学物質であり、50年間の安全実績がある”と同協会は述べている。同協会はまた、政府の規制機関は、”BPAは多くの応用での使用に安全であると宣言している”と指摘した。

 ボンサールは、それは”ガラクタ科学(junk science)”に基づいたもであり、どのようにタバコ産業が喫煙を擁護したかを思い起こさせると述べている。

 ”政府機関と学界側の人々によりなされた文字通り数万という研究と、この化学物質は安全であるとする全て会社側によってなされた少数の研究の間に、このように大きな乖離があるという状況が、BPAの事例である”とボンサールは述べた”。

 もし、産業側が、例えば食品への漏出を防止することによってある化学物質の曝露を低減することができるなら、たとえその化学物質は高い懸念があると判定されていても、この法案はその商業利用を許すであろう(訳注5)。  ”我々は、化学物質の規制に関しては、ほとんど第三世界の国の様なものだ”と、ボンサールは述べた。”両方の側の人々がこれらの化学物質に関連する病気を示す家族を持つているであろう時に、なぜ、これが政治的、党派的な問題になるのか、公衆の健康に関心を持つ人々には理解でいないであろう。これからどうなるのであろうか?”


訳注1
 実際には7月13日に下院及び上院に導入された。 訳注2
訳注3
訳注4
  • Center for Responsive Politics / Wikipedia
    The Center for Responsive Politics (CRP) is a non-profit, nonpartisan research group based in Washington, D.C. that tracks money in politics and the effect of money and lobbying activity on elections and public policy and maintains a public online database of its information.
    Their database OpenSecrets.org allow Web users to track federal campaign contributions and lobbying activity in a variety of ways, such as by industry and interest group.

訳注5:訳者の意見

 ここでCNNが述べている”ある化学物質は高い懸念があると判定されていても、曝露を緩和することができるなら、商業利用が許される”という考え方は、いわゆるリスクベースの考え方であり、そのままでは受け入れることはできない。本質的に高い懸念(ハザード)があることが分かっているなら、使用しないこと(禁止)が原則でなくてはならない。”管理できる”と国や産業が主張しても、実は管理できずに大きな犠牲をもたらしているのが”アスベストの管理使用”であり、”原発の安全神話”である。

訳注:関連情報


化学物質問題市民研究会
トップページに戻る