(96/12/10掲載)
「田園」の批判校訂について述べている児島新著「ベートーヴェン研究」(1985年春秋社刊・最近再発売になりました・初出は1980年4月の「フィルハーモニー」)の内容は多少煩雑なので、例によって見やすく整理してみました。児島氏は「新しい版を指揮者たちが受け入れて演奏してくれるまでにはおそらく2〜30年はかかることであろう。」と述べていますが、今だったらすぐにとびつく指揮者は十人をくだらないことでしょう。もう少し生きていて欲しかった方です。
校訂に用いられた資料
A:自筆スコア(1808年6〜7月) ボン・ベートーヴェン・ハウス所蔵
X:版下用スコア(1808年9月) 行方不明
C:初演パート譜(1808年12月) ウィーン音楽友好協会所蔵
B:スコア写譜(初演後) リュブリアーナ国立図書館所蔵
D:パート譜初版譜(1809年) ブライトコップフ&ヘルテル社出版
E:スコア初版譜(1826年) ブライトコップフ&ヘルテル社出版
各資料の縁故関係
資料評価
CとBの資料価値が最も高く、Aも(4)の訂正を含まないとはいえ、主資料の一つとみなされます。
一方Dには(2)の改定が全く含まれないという大きな欠陥があり、Eの資料価値は極めて低いものです。
現在までに出版された校訂譜
ユリウス・リーツ版(1862)ブライトコップフ&ヘルテル
旧全集版として世界中のオーケストラで一般的に使われている版。Eを版下にして、Aをもとに校訂。
マックス・ウンガー版(1952)ペータース
Eに由来するオイレンブルク版を版下にして、Dを重視して校訂。
※この2つの版では、最も高い価値の資料であるCとBを無視したため、Aの資料価値をも正当に評価できず、多くの誤りを残しています。
ペーター・ハウシルト版(1982)ペータース
旧東独で出版された「新原典版」。日本では高関/群響、岩城/金沢など6つのオケですでにこれを使った演奏を行っています。
シン・アウグスティヌス・コジマ(児島新)版ヘンレ 未刊行
上記の資料批判に基づく「新全集」の「児島版」は1984年頃に出版される予定でしたが、諸般の事情で、現在にいたるまで日の目を見ていません。
ジョナサン・デル・マー版(1998)ベーレンライター
最近発見された決定的な資料(つまり、上記以外の資料)も加味し、1996年の「第9」を皮切りにベーレンライターより刊行されている「新校訂版」。
旧全集版と批判校訂版との違い
児島氏によれば、次の小節の箇所が「児島版」で修正された旧全集版の「重要な誤り」です。
第1楽章
366〜369 Fg:ユニゾン→ソロ
370〜371 FlU:FlTとユニゾン
第2楽章
14 Cl/Fg:ユニゾン→ソロ
82 Fl:ユニゾン→ソロ
第3楽章
76〜 86 Fg/Hr:sfは79、83のみ
85 FlU:四分音符c3→a2
256 VnU:付点二分音符g2→e2
258〜264 Fg/Hr:sfは261のみ
264 VnT:四分音符はg1とe2の2音
第5楽章
20 VnT:最後の十六分音符c3→b2
100、104 ObU、FgU:1番とユニゾン
104 ClT/U:小節の最後に八分音符実音f2/d2
109〜113 Fl:ユニゾン→ソロ
109、110 Ob:Flとユニゾン→休止符
113 Fl:e3→c3
114 VnU:小節後半休止
193 Va:最後の3つの十六分音符d2/f1→f1のみ