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ペータース版の「田園」

(1996/12/10掲載)


 ボンのベートーヴェン・アルヒーフで長年にわたって進められている研究を基に、ミュンヘンのヘンレ社から刊行されている「新全集」では、交響曲は1995年にやっとアーミン・ラープの校訂による1番と2番が出ただけで、出版作業は遅々として進んでいません。ドイツがまだ東西に分裂していたころ、東ドイツではそのような西側の鼻をあかしてやろうと、1977年のベートーヴェン没後150年にあわせてライプツィッヒのペータース社から「新原典版」の交響曲全集を出版することを計画しました。その第1弾が、当時大きなセンセーションを巻き起こしたペーター・ギュルケ校訂の「運命」だったわけですが、ペーター・ハウシルトの校訂による「田園」も「新原典版」の一つなのです。これは、基本的には「児島版」と同じ資料評価に基づいているのですが、次の2点で「児島版」と異なった解釈を示しています。

第2楽章 84小節
 「児島版」では全く触れられていませんが、ハウシルト版は後半のVa、Cl、Hrの実音esをeに訂正しています。これはVaのフラットをナチュラルの誤りと解釈しているのでしょう。83小節目から86小節目の頭まで音が聴けます。
確かに84/85のコード進行は、現行のG7→Cm→Cm7→F7からG7→C→C7→F7と健康的な感じにはなりますが、この訂正はちょっとフライング気味のような気がしないでもありません。

第5楽章 113小節から114小節にかけてのFlの符点二部音符と符点四分音符
 自筆スコア(資料A)ではc3−e3ですが、2つの音符を繋いでいるのがタイであり、小節の境目がページの変わり目であるために誤記をしたとの解釈から、「旧全集版」ではe3−e3、「児島版」ではc3−c3と同じ音に直しています。しかし、ハウシルト版では自筆スコア通りc3−e3のスラーとなっています。


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