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(1997/3/4掲載)

ベーレンライターの ベートーヴェン交響曲全集


 新バッハ全集や新モーツァルト全集など、原典版史上に輝かしい実績を築いてきたドイツの楽譜出版社ベーレンライターから、ついにベートーヴェンの全交響曲の原典版が出版されることになりました。この度その全貌が記されたパンフレットが入手できましたので、その内容をご紹介しましょう。なお、資料の提供はオーケストラのパート譜などを専門に扱っている(有)ミュージック・サプライさんです。

ベーレンライター版の写真


刊行予定 

エディションに取り入れられた最新の資料      


旧全集との相違点

 ブライトコップフ社の旧全集には、多くの間違いがあることは以前から指摘されていました。今回の校訂で正しいアーティキュレーションとダイナミックスが再現され、ベートーヴェンの意図した通りのスコアが、旧全集の出版からほぼ150年の歳月を経て初めて誕生したのです。
 この原典版の出現によって、バッハやモーツァルトがそうであったように、ベートーヴェンの交響曲に対する聴き方、理解の仕方が全く新しくなってしまうことでしょう。

校訂者

ジョナサン・デル・マーの写真 この全集の校訂者は、ジョナサン・デル・マーという1951年生まれの新進気鋭のイギリスの音楽学者/指揮者です。(この方のお父さんもノーマン・デル・マーという指揮者で、シャンドスなどのレーベルにいくつかのCDがありますが、何よりも例の「ホフヌング音楽祭」の最初の指揮者として有名です。)
 彼は
1985年から、本格的にベートーヴェンの現存する資料の調査を始めたのですが、それまでの一種近視眼的な調査・研究とは異なり、最高水準の音楽学の成果をふまえつつ、実際に演奏する人達、特にオリジナル楽器の演奏者達とのコラボレーションによって、実践的な校訂作業を行ったのです。そしてこの作業の中から、80年代にはロイ・グッドマンとハノーヴァー・バンドによるニンバスへの録音90年代にはジョン・エリオット・ガーディナーとオルケストル・レヴォリュショネール・エ・ロマンティークによるアルヒーフへの録音という、2つのオリジナル楽器によるベートーヴェンの交響曲全集が完成されることになるのです。
 一方、モダン楽器の演奏家によってもデル・マー版はとりあげられています。
1995年にはサイモン・ラトルとバーミンガム市交響楽団がフランクフルトとロンドンでこの版を使って大成功をおさめました。
 さらに
19964月には、クラウディオ・アバド指揮のベルリン・フィルというメジャー中のメジャーが、ザルツブルク・イースター・フェスティバルでデル・マー版の「第9」を演奏し、直ちにソニーへのレコーディングを行いました。このCDは、199610月の日本ツアーに先駆けて、いち早く7月にはリリースされ、CD、ライブ演奏とも大きな反響を呼んだことはまだ記憶に新しいところですね。
 ところが、このCDの発売やベルリン・フィルのライブの時点では、日本の音楽ジャーナリズムでデル・マー版を知っていた人は誰もいなかったのです。そのために、例えば「レコード芸術」誌上での金子建志氏宇野巧芳氏などは、実にとんちんかんな対応を見せています。蛇足ですが、金子建志氏などは、世界最高のピッコロ奏者ハンス・ヴォルフガング・デュンシェーデの名人芸による最終音のピッコロのオクターブ上げという、楽譜の版とは根本的に次元の違う問題までとりあげて大まじめに検証していました。あんなことをやって評論家としての経歴に傷が付かなければと、人ごとながらマジで心配になってしまいます。  

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