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作曲・校訂・出版の経緯

(96/1/30掲載)
(2021/9/15追記)


ブルックナーの写真

 ニューフィルは、今年の秋の定期演奏会では、長田さんの指揮でブルックナーの交響曲第4番をとりあげることになりました。ブルックナーのファンとしては、今からとっても待ち遠しい思いです。
 ところで、ブルックナーの交響曲のタイトルには必ず「〜版」というただし書きが付いていますよね。4番の場合だと「第1稿」、「第2稿」、「仙台二高」、「第3稿」、「原典版」、「1874年版」、「1878/80年版」、「国際ブルックナー協会版」、「改訂版」、「第1次批判全集版」、「第2次批判全集版」、「音友版」、「ハース版」、「ノヴァーク版」、「ノーヴァク版」、「オイレンブルク版」、「レーヴェ改訂版」、「リミックス版」まっ、ウソもまざってますが、それにしてもいっぱいあるものですね。
 いったいどうしてこんなことになってしまったのでしょう。その辺の事情を、作曲と出版の経過を調べて、明らかにしてみようではありませんか。
 彼の伝記を読むと分かるのですが、ブルックナーというのは自分の作品に対する自信がなかなか持てない人で、まわりの人に何か言われると、すぐ手を入れて改作してしまうような性格でした。良く言えば完璧主義、悪く言えば優柔不断というこの性格のため、一つの曲に沢山の異稿が存在するのもめずらしくありません。

経過図

 そもそもブルックナーが交響曲第4番を最初の形で完成したのは1874年の11月のことでした。この版が1874年の1稿と呼ばれるものです。しかし、彼はこの出来に満足出来ず、お約束の改訂を施し始めます。そして、18789月までには124楽章を改訂し、11月には第3楽章を全く新しく作曲し直しました。さらに第4楽章だけは何度も大幅な手直しを行って、18806月に第2稿として完成しました。これが1878/80年の2稿で、ブルックナーはこの版を決定稿として 発表したいと考えていました。
 ところが、この稿はハンス・リヒターの指揮による初演こそ成功したものの、弟子のフェリックス・モットルが指揮をした再演は大変な不評に終わってしまったのです。
 さあ、自分に自信が持てないブルックナー先生は、案の定、こんなことを考えてしまうのです。「私の交響曲は今の時代には合っていないのではないか。」事実、彼の交響曲は当時の聴衆には長すぎ、また響きも当時主流を占めていたワーグナー風のものとは程遠かったのです。で、18899月にウィーンのアルベルト・J・グートマン社が出版した際に、第2稿のままでは売れ行きが思わしくないとの判断から、弟子のフェルディナント・レーヴェの手によって、第3楽章と第4楽章の一部をカットされ、オーケストレーションもワーグナー風の響きに改変されてしまっても、不承不承従わざるを得ませんでした。  この、ブルックナーが望んだものとは程遠い形で出版されてしまった3稿、いわゆるレーヴェ改訂稿が、以後47年間、この曲の唯一の出版稿として流布することになるわけです。
 
 ブルックナーの交響曲を本来の形で出版しようとする動きは、1929年にウィーンに国際ブルックナー協会が設立されて具体化します。そして、ロベルト・ハースの手によって次々と原典版が出版されるようになります。これが第1次批判全集版、いわゆるハース版と呼ばれるものです。交響曲第4番のハース版は1936年に刊行されました。
 さらに、1950年代には、レオポルド・ノヴァーク(ノーヴァク)により、新しい研究結果を取り入れた第2次批判全集版、いわゆるノヴァーク(ノーヴァク)版が刊行され、交響曲第4番も1953年に出版されました。ハース版、ノヴァーク版とも、もとになったのはもちろん1878/80年の第2稿です。
 ノヴァークの仕事は、一通り全交響曲の校訂を終えたあと、さらに異稿にもおよびました。その結果1975年には1874年の1稿、さらに第2稿発表の際に改訂された1878年版の第4楽章も出版され、全ての稿が陽の目を見るようになったのです。
(追記)ノヴァークの没後、ベンジャミン・コーストヴェットによって、第3稿は改竄ではなく、しっかりブルックナーの意思が反映されているという主張がなされ、それに基づいた楽譜が、やはり国際ブルックナー協会によって2004年に出版されました。

 現在、コンサートやCDで演奏されるのは第2稿、それもノヴァーク版が大半を占めています。音楽の友社からはノヴァーク版のリプリント版が出ていますし、長田さんもノヴァーク版を使うはずです。しかし、未整理な中にも多くのファンタジーを秘めた第1稿や、今聴くと笑ってしまうけど、当時の趣味を知るにはとても貴重なレーヴェ改訂版をノヴァーク版と聴き比べてみれば、もっと多面的にブルックナーを理解できるのではないでしょうか。さいわい1稿第3稿ともいろいろなCDがリリースされていますので、ぜひこの機会に御一聴をおすすめします。
 次回は、それぞれの版の違いを、譜例をまじえながら見てみたいと思います。乞うご期待。

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