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ハース版とノヴァーク版の比較


 戦前の国際ブルックナー協会が作品全集(旧全集/第1次批判全集)を編纂する際に、ロベルト・ハース等は、交響曲第4番のウィーンでの初演(1881年)で使われたであろうオーストリア国立図書館蔵の自筆稿を底本として校訂を行い、「ハース版」を出版しました。この自筆稿というのは、1874年の第1稿を1878年に改訂したのち、さらに第4楽章については1880年に再改訂した「第2稿(1878/80)」と呼ばれるものです。
アントン・ザイドル
 ところが、ハース版が出た後の1940年代になって、ニューヨークのコロムビア大学の図書館でウィーン初演稿とは細部で異なっている楽譜が発見されたのです。この楽譜は、指揮者アントン・ザイドルの要請で1886年のニューヨーク初演のために送られたものです。この時ザイドルは、アメリカで出版してやっても良いみたいなことをにおわせたので、ウィーンでの出版がなかなか実現しないことに失望していたブルックナーはすっかり有頂天になって、より望ましい形にするために、張り切って手を加えていたのです。
 このアメリカでの出版という話は結局空手形に終わってしまいましたが、戦後の新全集の刊行にあたっては、レオポルド・ノヴァークは、この1886年に小さな手直しがほどこされたニューヨーク初演稿がブルックナーの最終的な意志を伝えるものとの判断から、この稿をもとにハース版に細部の修正を加え「ノヴァーク版」としました。

 修正のポイントとしては、
1. 弦パートには手を加えない。したがって全体の構成にかかわるような修正は行わない。
2. 管のパートで、若干音を厚くしたり(譜例1)楽器を入れ換えたり(譜例2)する。
ハース版とノヴァーク版の譜例
3. 表情記号や拍子記号を付け加える。(譜例3)
ハース版とノヴァーク版の譜例
4. 第4楽章のエンディングで、第1楽章の第1主題の回想がはっきり判るように、TpとHrの音形を変える。(譜例4)
ハース版とノヴァーク版の譜例
などがあげられます。
 と、エラそうなことを言ってますが、校訂報告を繙くというような本格的な調査を行ったわけではないので、いい加減なところが多々あるのではないかと、内心は不安でいます。お気付きの点が有れば、ご指摘下さい。

(22/5/20追記)
第3楽章のトリオの管楽器については、ハース版の初版ではノヴァーク版と同じだったことが分かりました。詳細はこちらで。

(22/10/2追記)
最近刊行が始まった「アントン・ブルックナー原典版全集(Anton Bruckner Urtext Gesamtausgabe/ABUGA)」によれば、第2稿の初演の前後に多少の変更が加えられた写筆稿は1881年に作られたことが特定されています。したがって、そこでの「第2稿」は「1878/81年稿」と呼ばれています。さらにそこでは、ハースたちが無視したカットも採用されています。詳細はこちらで。

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