投票日間近になり、台湾でただ一人のノーベル化学賞受賞者である中央研究院の李遠哲名誉院長、李登輝元総統が民進党の謝長廷候補支持を表明。 その結果、僅差の争いになる可能性が出てきたと報じられたこともあり、国民党の馬英九総統候補は小型トラックの荷台に乗り、台湾国内各地を駆けめぐった。 台北市の住宅地として人口が増加する中和市で、馬候補の到着を待つ国民党支持者たち。 多くは自主的に集まってきたというより、動員をかけられた家庭の主婦の姿が目立ったが、配られた小旗を振って熱狂的に出迎えた。 台北の地下鉄(捷運)中和線の南勢角駅から徒歩10分ほどの地域には、ビルマ(ミャンマー)からの華僑(緬華)が多く住む。彼らの大半は、国民党を強烈に支持する。 なぜ、国民党を支持するのかという問に、ビルマで民主化運動に参加していたという青年は、「ビルマ政府を中国共産党は支援している。その共産党に対抗できるのは国民党しかない。国民党が力を付け、いずれはビルマを台湾のように民主化の道に向かわせたい」と答えた。 台北駅前の新光三越前で、国民党への投票を呼びかける女性。 国民党のキャッチフレーズの一つは「台湾向前行」。経済の専門家とされる蕭万長を副総統候補として、低迷する台湾経済の立て直しに本腰を入れる国民党の姿勢を訴えた。 車上で太鼓を連打し、国民党支持を訴える選挙カー。 だがそれでも以前と比べれば、はるかに静かな選挙戦となった。4年に一度、台湾国民が自らの政治姿勢を明確にするのが台湾総統選挙の特徴だ。 中国大陸にルーツを持つという共通の認識を確認しあえる集いとして位置づける国民支持者が集まった、総統選挙投票日前日の国民党集会。 蒋介石の長寿を願って名付けられたかつての「介寿路」。それを、台北市長時代の陳水扁総統が「凱達格蘭(ケタガラン)大道」と改称。そして、現在の市長は国民党となり、大道の街路灯には「反貪腐、民主広場」という看板が掲げられた。総統府につながるその大通りで集会は開催された。 民進党の腐敗、陳水扁総統の独善的政策手法を、ここで断ち切ろうという演説に、強い支持を示す国民党支持者たち。 「再び苦しい暮らしを過ごすことはできない」として、陳政権の経済政策を批判する人の声は大きかった。 馬候補は、選挙公約として「年平均経済成長率6%」を掲げ、支持者からの支援を訴えた。 台湾メディアは連日、総統選挙の模様を報道し続けた。台湾ではケーブルテレビが普及し、80チャンネルほどに達している。 国境なき記者団は、台湾は報道の自由においてアジアで第1位と評価する。 日本のように、うわべだけの不偏不党や横並びの自主規制が行われることはほとんどない。政党色を明確にするチャンネルが多いのが特徴だ。 3月22日、夜、馬候補の圧倒的勝利を伝えるニュース番組。 事前の世論調査でも国民党勝利が予測されて、さらに開票が進むにつれて票差を広げていった選挙戦だけに、開票終了までどちらが勝つか不明だった前回2004年の総統選挙のような慌ただしさはなく、テレビ局もたんたんと結果を伝えた。 8年ぶりに政権を奪回し、「涙を流す呉伯雄」と伝えるTVBSのニュース番組。 同氏は国民党主席で、最高幹部として今選挙の実務責任者であった。 馬候補は安倍晋三と同様に、ひ弱で実行力に欠けるため、党最高幹部に相談しなければ何事もできない総統になる危険性があると、台湾ではささやかれている。 この話を裏付けるように、当選決定後の報道では、呉党主席らの姿を映し出す場面が何度もあった。 総統選挙の結果を大きく報じる投票日翌日23日の台湾各紙。 選挙後には大きな混乱や暴動もなく、台北市内においてもいつものような静かな日曜日となった。民主主義が浸透し選挙後に大きなしこりを残さない台湾社会の成熟度を感じさせた。 ●第12任総統副総統選挙結果(中央選挙管理員会発表) 国民党・馬英九、蕭萬長=得票数765万9014票。 得票率58.45% 民進党・謝長廷、蘇貞昌=得票数544万4949票。 得票率41.55% 有権者=1732万1622人。 投票数1322万1609人。 投票率76.33% 2直轄市(台北市、高雄市)、5省轄市(基隆市、新竹市、台中市、嘉義市、台南市)、18県の行政区分のうち、今回の選挙で民進党が勝利したのは雲林県、嘉義県、台南県、高雄県、屏東県の南部5県だけであった。 ◆ 君在前哨/中国現場情報 ◆ | ▲ このページの最初へ