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〔096〕 2008年 台湾 第12任総統副総統選挙戦(1/2) 民進党
【2008/04/07】

 住民の直接投票による台湾の総統選は1996年に初めて実施され、今回が4度目。有権者が以前に比べ冷めていたという日本メディアの報道があるが、必ずしも有権者は冷めていたわけではない。

 かつての派手な選挙戦を台湾国民が嫌い、政治家もそれを認識しはじめている。台湾国民の成熟した政治意識、民度の高さが、静かな選挙戦を行わさせたと受け取るのが妥当だ。

 これまでの4度の総統選挙戦を現場で取材してきて、独立か統一かといった外交政策が選挙の争点になったことは一度もない。それよりも、黒金政治と言われる、政治家の汚職、腐敗、反社会的集団とのつながりを断ち切るクリーンな政治を台湾国民は求めてきたというのが、率直な印象だ。

 とりわけ今回の選挙戦で強く感じられたのは、台湾国民の総意だ。独立か統一か、この対立的な二元論とはすでに大きくかけ離れ、現実の台湾国民はまったく別次元の、新たな華人国家としての歩みを推し進めていると認識させた。

 台湾は中国と経済的な結びつきを強めながらも、とっくに独自の歩を進めていることは、日本よりはるかに礼儀正しい公共マナーや穏やかな生活習慣、そして個々人の明確な政治意識などから強く感じられた。

 現在の台湾人意識から考え、今後、現在の中国と歩調を合わせることなどもはや不可能だろう。今回、国民党が勝利したとはいえ、それは台湾国民が中国との統一に賛成票を投じたわけではなく、民進党の政策にノーを突き付け、しばらくは国民党に任せようとする二大政党制のシステムを活用したという事実だ。

 民主主義国家として、中国とはかけ離れた次元への道を確かな足どりで歩み始めている台湾の現状は、中国共産党に対応の仕方をゼロから改めなければならない事実を見せつけた。

 中国へ留学する台湾の若者が増加しているが、民進党は国民党が主張する中国の大学卒業などの学歴承認を批判している。

 中国政府は、台湾人留学生の学費を中国国内の学生と同額にするなどの優遇策をとり、教育分野でも中台の攻防が続いている。

 国民党が主張する「一中市場」となれば、医師が大量に台湾へ進出する。だが、「台湾と中国とでは大学教育のレベルや質が違うと」として、民進党は強く反対している。


 総統選挙投票日が近づくにつれ、民進党、国民党の両党の選挙運動が活発化。

 民進党は自転車、スクーターを活用し、のぼりや旗を使って、地道に訴える行動が目立った。

 謝長廷候補の選挙候補番号である1番にひっかけ、「一定贏」(必ず勝利する)のスローガンを民進党は掲げた。




 投票日前夜、台北市のMRT「国父紀念館」駅近く、かつての松山煙草工場跡地(1937年、日本が建設した台湾総督府専売局松山煙草工場)で開催された民進党集会。

 支持者の多くは地下鉄を乗り継いで集まり、動員をかけているようには見受けられなかった。ただ、前回の2004年の総統選挙と比較すると、集まった人の数は少ないように見えた。




 民進党集会には、早急な台湾独立をめざす台湾建国聯盟といった政治団体など、さまざまな主義主張を展開するグループも集まってきた。

 現在、台湾には民進党、国民党以外にも台湾団結連盟、台湾独立建国連盟、建国党、台湾労働党、親民党、新党など、多数の政党や団体が存在する。





 国民党の馬英九候補の「グリーンカード(米国永住権)取得問題」について、民進党は厳しく追及。

 彼の妻、周美青はもちろん、国民党の立法委員(国会議員)や幹部の多くもグリーンカードを保持していると、テレビで批判キャンペーンを展開。

 馬候補は「私と妻はアメリカ国籍やその他の国籍も保有していない。過去にグリーンカードを持っていたが、すでに放棄した」と反論した。(画面はTVBS)

 3月22日、総統選の投票が台湾全土で朝8時から、約1万4000カ所ほどの投票所で始まった。

 投票は午後4時に締め切られ、即刻開票され、同日夜には結果が判明した。

 中央選挙委員会の発表では、有権者は1732万1622万人。過去2回の投票率は80%を超えていたが、今回は76.33%。これまでの4回の選挙のうち3番目の投票率となった。



 投票が締め切られた午後4時以降、台北市林森北路沿いの民進党選挙対策本部前には、多数の支持者が集まり開票結果を見守った

 民進党のシンボルカラーである緑色の小旗を振る支持者で目立ったのは若者たちだった。

 「台湾青年逆転本部」といった組織が、選対本部で精力的に動き、自分たちの未来を自分たちで切り開こうとする情熱が感じられた。


 民進党やその支持者は、国民党の馬候補は中国と経済交流や和平協定などを図っていることから、中国共産党と結託している疑念があると非難する。

 馬候補の苗字にひっかけ、「中国馬滾」(中国馬はころぶ)と批判するTシャツを着て、開票を見守る若者たち。






 民進党集会に、支持者が掲げてひるがえる大旗。

 緑は民進党を意味し、党旗は「緑の島」とも呼ばれる台湾全図が描かれている。

 その党旗に「台湾魂」の文字を明記することで、旗を掲げる支持者は「独立する台湾人の心をにじませた」と述べた。





 「台湾民主国」「建国」「独立」の文字を描いたTシャツを着て集会に表れた若者。

 「この文字に描かれた思いは、私の率直な主張だ」と、青年は言った。









 「私は台湾人ではない。ドイツ人だ」
 「私もチベットと台湾の独立を支持する」

 中国共産党の強権的な姿勢に対するチベット人の決起に対し、明確に支持表明する台湾人は多くなかったが、中国政府の暴力的な対応に話題が及ぶと、チベット人を支持する人が少なくなかった。






 「民主と表現の自由が保障されている台湾がうらやましい」

 「台湾では選挙のたびに喧嘩や賄賂が行われているという報道が中国国内でなされているが、現実はまったく違った」

 主義主張こそ違っても、台湾人一人ひとりがはっきりと自分の意思表示ができる台湾の政治状況に対し、総統選挙を自分の目で見た大陸からやって来た中国人は、こう感想を述べた。


 刻々と開票状況を伝える、民進党選挙対策本部前に設置された街頭テレビ。

 開票1時間後の午後5時7分時点で、謝候補が201万4197票、馬候補が283万1676票。
 その後、票差はますます開き、2時間後には200万票差近くにまで拡大。馬候補が最初からリードしていた。

 テレビを見守る民進党支持者から、今回は一度も歓声が発せられなかった。


 民進党敗北が決定し、泣き出す支持者を映し出した東森新聞台 ETTVのニュース。

 集会現場のステージ脇にいたこの女性には、テレビ局を始めさまざまなメディアが取材に押し寄せていた。








 選挙結果が確定し、敗北を認めた謝候補が22日夜、選挙対策本部脇に設けられた壇上に登場。

 謝氏の演説は感情豊かで、聴く者を魅了させてきたが、さすがにこの日はいつもの力強さはなかった。(画面は東森新聞台 ETTV)

 だが、その演説内容には説得力があった。以下は、謝候補の「接受敗選事実、聚集我們的力量、継続熱愛台湾」(敗北の事実を受け入れるとともに、党内の団結を強め、台湾を愛し続けよう)の要約。

 「接受敗選事実,聚集我們的力量,継続熱愛台湾」
 台湾人民已経用選票做出決定、我們接受敗選的事実。我們在這裡、要恭喜馬英九先生跟蕭萬長先生。

 我們選挙失敗、但是我們還有更重要的任務、就是祖先留下來的民主的火種、不能熄滅、我們要轉失望為動力、守護台湾的民主。

 這是我個人的挫折、不是台湾主体性的倒退、是民主的結果、不是民主的失敗。

 我要感謝這次選挙過程中辛苦的同志、幹部、還有志工、這段時間的付出跟辛苦。我不会忘記316撃掌毎一雙温暖的手、我們心中的感動、我們將永遠保留這樣的熱愛、愛我們的台湾、愛我們的土地、愛我們的国家。

 我再次重申 選挙是我個人的失敗、不是台湾的失敗、今天不要為我哭泣、聚集我們的力量、継続熱愛台湾。

 台湾的発展従来就不是順風而行、風愈大我們愈要走、我們要永遠跟人民站在一起、衷心地為台湾祝福、我們相信人民、也相信台湾。

 再一次、我代表所有競選団隊的幹部、為我們辜負大家的期待、為這一次的敗選、深深地向大家表示我的歉意。


「敗北の事実を受け入れるとともに、党内の団結を強め、台湾を愛し続けよう」(日本語要約)
 「本日、台湾人は投票により結果を示した。私たちは選挙敗北の事実を受け入れる。そして、私たちは当選した馬英九、蕭萬長両氏を祝福する。

 私たちは今回の選挙で失敗した。しかし私たちにはさらに重要な任務が残っている。それは祖先から伝えられた民主主義の火種を絶やしてはならないということであり、失望を原動力として台湾の民主主義を守ってゆかなければならない。

 今回の結果は私個人の挫折であり、台湾の主体性の後退につながるものではない、また民主主義の結果であって、民主主義の失敗ではない。

 選挙中における同志、幹部、ボランティアの方々の努力に感謝を申し上げたい。私は3月16日の、「316 挺台湾救民主 百萬撃掌逆転勝」行動でハイタッチをした人々の暖かい手のひら、そして心に感じた感動を忘れることはない。私たちは永遠にこのような熱愛、台湾に対する愛情、さらに土地や国家に対する愛を忘れることはない。

 ここで再度申し上げたい。選挙は私個人の失敗であって、台湾の失敗ではない。今日は私のために泣かないでいただきたい。私たちは力を結集し、台湾をさらに愛し続けなければならない。

 台湾の発展は、順風満帆なものではなかった。風が強いほど、私たち歩いてゆかなければならない。私たちは永遠に民衆と同じ側に立ち、そして心より台湾を祝福し、民衆を信じ、台湾を信じてゆきたい。

 最後にもう一度、私はすべての選挙チームの幹部を代表し、私たちに対する皆様方の期待に沿えず、敗北したことに対し陳謝したい」


 この演説の模様は、民進党ホームページに掲載されている「持続守護民主 守護台湾」で観ることができる。

 前回の総統選挙で敗退したものの、投票日翌日から選挙無効を主張し続けた国民党の連戦候補とはまったく対照的な姿勢を、謝候補は示した。


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