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〔094〕 「高価な農薬をふんだんに使えない」という中国農民の言い分
【2008/02/10】

 農薬が付着した冷凍餃子による中毒事件。この事件について、中国の農業生産者はどのように考えているのか? 上海近郊で代々、農業を営んでいる高さんに聞いてみた。

「日本の検査で、甲や敵敵畏が冷凍餃子から検出されたという話は友人から聞いているが、詳しくは知らない」
(写真=四川省の農村)

 甲(チアアンリン)とは有機リン系農薬成分のメタミドホス、敵敵畏(ティテヒウェイ)はジクロルボスの中国名。この2種類は農民の間ではよく知られていて、頻繁に使われてきたという。高さんも以前、使用したことがある。

「敵敵畏は農薬として使用する以外に、食堂や市場などでもハエとか虫除けを目的に使われ、簡単に手に入った。それに、農業以外の使われ方でも、知っている人は知っている」

 農業以外でとは、殺人や自殺での使用だという。調べてみると、中国国内ではメタミドホスで食中毒のほか、人が殺されたり服用して自殺といったニュースがしばしば伝えられていた。

 ただし、2007年1月からはメタミドホスの使用が全面的に禁止、2008年1月からは生産さえ禁止となった。とはいえ、今も購入しようとすれば、可能だといわれている。取り締まりはあるが、闇で購入でき、使おうと思えば数年間はだいじょうぶではないかと推測する別の農民もいる。

「農薬は即効性があり、使えば農作業は軽減化される。中国の農民が農薬に依存しがちな気持ちはじゅうぶんに理解できる。ただし、農民が農薬を際限なく使っていると考えるのは、農業を知らない人たちの一方的な思い込みだ」と、高さんは言う。

「農民にとって、農薬は高価だ。楽をしたいと考えても、そんなに使えるものではない。農産物の買い取り価格は低めに抑えられているが、物価は上がっている。それだけに農薬も価格が上昇し、収支を考えたら頻繁に農薬を使うわけにはいかない」

 農薬は高いものではないと否定する人もいる。小瓶に入った農薬は、1本10元前後(約150円)で売られている。しかしこの10元を高価だとする農民は少なくない。これが中国の農民にとっての現実感であり、さらに農薬を使えない根本的な理由もあるという。

「農薬をしょっちゅう使っていたら、その一部は土に残留し続けるだけに、やがて土がダメになってしまう。農民にとって土は自分たちの命そのもの。それに自分の土地で作った農作物は自分たちも食べているだけに、危ない農業など続けられない」

 高さんの圃場周辺には豪華な建売住宅が建ち、年々、上海市中心部から移り住んできた富裕層が増加してきている。彼らの多くは自家用車を乗り回し、広々とした新築の家に住む。昔ながらの家屋に住み続ける高さんの目には、転居してきた人たちの生活ぶりは優雅そのものに見える。

「生産規模を拡大して収益を上げ、彼らのような生活がしたいという思いを持つ農民は多い。とはいえ、中国では農業でかんたんに金儲けはできない。農薬を大量に使って、その弊害に悩まされるのは自分たちだということを農民は知っている。餃子中毒事件で、農民が原因だとする見方だけはやめてほしい」

 原因究明にさまざま見解が出され、一時は原材料の野菜が問題視された。日本に野菜が輸出できなくなり、その結果、中国国内でだぶつき破棄処分となり、自分たちの生活が圧迫されるのではという不安が出始めているという。そういえば、日本でもこの問題について訳知り顔で語る中国人が一人いる。最後に、高さんはこう言った。

「警察以外に誰が犯人を突き止められるというのか」

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