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〔088〕 正義は皇帝に!?−なぜ中国人は「上訪」を選択するのか (3 / 3)
【2006/10/15】

 「年々、非常に多くのしかも大規模な直訴があり、北京に来た人は八方手を尽くして上部機関に冤罪を訴えようとしている。これは法治を求める国において確かに非常に不正常な状況であり、または真の法治国家においては、こうした状況はあるべきではなく、また現れることもないだろう。その原因は、中国の司法制度に大きな問題があるからではないかと考えている」

 北京への上訪(直訴)増加の実状について、北京大学教授の賀衛方氏は法学者の立場から、「北京週報」の取材に対しこう述べている。

 しかし2005年5月に「国務院信訪条例」が改正されたにもかかわらず直訴の受理拒否、門前払いに等しい強権的対応が続く。まれに受理されても大半は敗訴となり、直訴の効果はほとんどないのが実状だ。それでも農民の中央機関が置かれる北京への直訴は増え続ける。

 「法律の整備だけでは、問題の解決にいたらないのは明白だ。だがあいかわらず多くの農民は北京へと向かい続ける。彼らの行動を理解するためには、まずは彼らの考え方、意識を認識すべきだ」

 こう語るのは、農民への取材を続ける北京紙の記者。長年、農民たちと直に接してきたが、当初は彼らの考え方にとまどいを感じたと振り返る。農民は都市住民とはすべてにおいて厳格に区分けされ、まともな教育さえ受けられない。それだけに彼らの意識は前時代的だと指摘する。

 「そもそも彼ら農民は、中国共産党がマルクス・レーニン主義や毛沢東主義を指導指針とする政党だという、共産党が公言する党の認識にはいたっていない」

 都市で生まれ育った記者は、初めのうち農民と話がまったくかみ合わなかった。党や政府、司法の無責任といった話を向けても、農民たちは関心さえ示さなかったという。

 「皇帝に話を聞いてもらいたい」
 北京へ向かおうとする農民のこの一言が、記者には強く印象に残っている。

 「新中国建国57年を祝う国慶節が開催された現在であっても、農民は今も封建的な時代状況の中で生き続けている。そんな彼らが考える中国共産党とは清朝を打倒し中国を新たに支配した王朝だということ。毛沢東以来、江沢民、胡錦涛などの指導者を皇帝だととらえている」

  中国の歴史を振り返ってみると、中国人は天の命をうける偉大なる皇帝に正義を託し、皇帝は民衆の訴えを公正に裁いてくれる存在とみなしてきた歴史がある。それだけに執拗な妨害にもめげず、農民は皇帝が住む北京へと押しかける。例え目的が達せられず北京で犬死したとしても、皇帝が住む北京であれば本望だという意識が根強い。

 一方、地方における党支部あるいは政府の末端機関は、農民にとっては敵、日本で言えば地主や悪代官として認識されているとその記者は指摘する。

 「日々、直接的に接する党や政府の末端組織は自分たちを苦しめるだけであり、味方あるいは理解者ではない。確執が常にあり、敵対的存在だととらえている」

 そして記者は、こう続ける。

 「農民を時代遅れのまぬけな連中だと軽蔑する党員や政府職員が大勢いるが、本来もっとも恥ずべきはその党員や政府職員だ。社会主義の優越性を口にし、中国の経済発展を党や政府の功績として誇るが、実は前時代的な王朝の役人意識からまったく抜け出せないでいる。党員や政府職員は批判されて当然だ」

 実際、農地の強制収容、抗議活動に対する武力鎮圧など、農民と地方の末端機関は直接的に対決してきた。記者も、何度か武力衝突を目撃したという。

 「農民へのぞんざいな扱い方をなくすためには、党や政府の意識改革が急務だ」 」と理解するようになったという。

 かつてささいな出来事を原因として農民と政府職員がぶつかる現場に居あわせたことがある。権力を盾に、政府職員は犬や猫を追い払うように農民を蹴散らしていた。

 一方、今や都市住民が直訴へと動く事態は極端に少なくなった。これまでの取材を通しても、都市住民の政治意識の希薄さを感じさせる発言は多い。

 「党や政府に頼らなくても、じゅうぶんにやっていける。政治と距離を置いても不利益はない」

 こう語ったのは、大連で不動産投資を手がける40代のビジネスマン。農民とはまったく別世界で生きるほど意識の違いがある。

 「私たちは党や政府から施しを受ける存在ではない。資産を増やすことで、自分たちの未来の道筋を付けることが可能だ。都市には自分で自分たちの未来を切り開けるチャンスがある」

 北京紙の記者はこの発言を受け、「都市住民と農民との決定的な違いは土地にある」と指摘する。

 「農民が土地を無くせば、たちまち仕事を無くし、収入の道を閉ざされる。中国において自明の理であることを党や政府は知っていながら農地の強制収容を平然と行い、その後は無視を決め込んでいる。農民を直訴に駆り立てる原因を自ら作りながら、直訴をつぶしている以上、上訪の解決へはいたらない」


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