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読書記録2003年9月


『若者の心のSOS』
斎藤環(日本放送出版協会)2003.8/★★★

−紹介−

本書は2003年8,9月放送、NHK人間講座のテキスト。若者論。

「人生の中でもっとも不安定な一時期(思春期、青年期)は、
人間の様々な本質が、一番純粋な形で現れやすい時期でもあります。
また、社会や文化の影響を真っ先に、もっとも鋭い形で被るのも、
この時期の特徴の一つです。…はじめに」

こういったいわゆる若者をまず、「ひきこもり系」と「自分探し系」の
ふたつのタイプに分ける。その基準として「コミュニケーション能力」
「自己イメージ」のふたつが挙げられる。その後中盤は「自分探し系」
を中心に、後半は「ひきこもり系」を中心に、平易な語り口で、
システム論的見地から整理された簡潔な見取り図を与えてくれる。

「システム理論のメリットは、システムが活動するための条件と、システム
を構成する要素を理解すれば、その活動を説明することが可能になるという
点に極まります。…p.98」とのこと。何かに問題があれば犯人を槍玉に挙げて
糾弾、矯正するというのではなく、その問題あるシステムの構成要素、
作動要因を取り除き、より望ましいシステムにしよう、というスタンス。

−感想−

著者の若者の分類は単純なようでいて、若者の二極分解の実態をよく捕らえた、
的を射た区分けの仕方だ。「コミュニケーション能力」があるかないか、
コミュニケーションを求めるか求めないかで、そのあり方は全く変わってくる。
しかし自分探し系というのは名付け方が悪い、そういうのは理念的にも実態
としても、もう無効だろう。あと、自己イメージに関して言えば、著者は
安定か不安定かで両者を分けているが、どちらも確固としたそれは持って
いないと感じられるし、むしろ自己評価が低いか低くないかで分類したほう
がいいように思う。ひきこもり系は低く、自分探し系は高い、あるいは
少なくとも低くない。

まあそんな瑣末事はともかく、その後の分析も巧みで説得力がある。
一般向けの簡単な若者論としては見事な良書であろう。
先月、同じ精神科医である香山リカ著『若者の法則』
に非常に失望させられたので、個人的にとても有意義だった。

以下はひきこもりについての講義を聴いての、
私的な取り留めのない雑感となる。

厚生労働省による、いわゆるホンモノのひきこもりの定義は、
「様々な要因によって社会的な参加の場面が狭まり、自宅以外での生活の場
が長期にわたって失われている状態」だそうだ。そして「ひきこもり状態
には、様々な精神症状が伴います。こうした状態が出てくると、引きこもり
から抜け出すことはいっそう困難になります。…p.89」というわけで、
まあ僕が傍目にはどう映るか知らないが、とにかく異常に内向的な僕の、
主観的な心理状態のことである。

ここでああそうか、と納得したのは、異常があるからひきこもりになる
のではなく、むしろひきこもるから病的に、精神に異常をきたしてくる、
という発想だ。一般的な考え方は順序が逆というわけだ。これは僕にも
当てはまるように思う。思春期の頃から若干内向的だったのは確かだが、
ここまで病的でなかった。他者への不信感で満たされた心理状態の生活を
始めてだらだら続けているから、ますます自意識の泥沼にはまり込み、
著者の仰るように悪循環へと陥っていく。

その悪循環を断ち切るための他者との関係性に関しては、著者と同じく僕も
重要だと思うし求めてもいる。ただ、著者の指摘する「現代の若者たちが
持つ独特の孤独感や疎外感、あるいは、誰かとつながりたいのだけれど、
親密になりすぎるのはちょっと困る、といった矛盾した欲望…p.28」を僕は
強く抱えているし、また親密になったらなったで今度は解離性同一障害の
ような傾向が強く出てくるし。なかなかうまくいかない。

自分が愛着する対象=自己対象、それを単純な自己愛に取り込むことによって、
複雑で精密な構造を備えた形へと自我を変えていく過程、これが人間の心の
成長には欠かせないと仰る。そしてひきこもりが病的な傾向を帯びるのは、
自己対象との出会いが止まるから、という見解は、まったくもって正しい。
僕は自己卑下から自己対象を持たないように、抑圧してしまっているという
わけだ。

こうした対人恐怖症や妄想様観念は「内向的で引っ込み思案だが、頑固で
ゆずらないところもある、といった性格傾向を持つ…p.66」人間に多いって、
これまた僕に当てはまる。対人恐怖症が日本に特有の問題というのは、
橋爪大三郎著『「心」はあるのか』の後書きにあった、日本人は「心」中心
の特有の発想をする、という指摘と重なる…ああ、こんなことを幾度も
考えるのは面倒くさい。

ひきこもりシステムを支える要因を取り除くという観点から、「個人、
家族、社会の相互のコミュニケーションを活発にすることを目指す…p.99」
具体的対応を読み進めていて、なんだか情けなく惨めな気分になってしまった。
まったくここまで手をかけてもらわねばひきこもり(要するに僕自身と考えて
差し支えない)は救われないとは、なんと言おうか、悲惨だなあ…と感じて。
愚かしい辛さを図々しくも親や人様に理解してもらって、他者との関係性を
形作れる居場所まで他人の手で与えてもらって…痛々しいし、端的にウザイ!
まわりも大変だが、一番惨めで滑稽で哀れなのは当人だ。

それにしても、僕が心療内科か精神科に行ったら、ずいぶんたくさんの診断
が下りそうだ。精神症状…対人恐怖症、妄想様観念、脅迫症状、心気症状、
退行、抑うつ気分、希死念慮…等。精神疾患…統合失調症、退却神経症、
回避性人格障害、境界性人格障害、思春期妄想症、うつ病、分裂病質人格障害、
循環性気分障害、社会恐怖、スキゾイド人格障害、強迫性障害、
アイデンティティ拡散症候群…等。まったく、妙に可笑しくなってくるよ。


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