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読書記録2003年3月
(2003年9月に再読しての感想)


『「心」はあるのか(シリーズ・人間学1)』
橋爪大三郎(ちくま新書)2003.3/★★★★

−紹介−

世相を眺めるに、「心」に対する関心は増す一方のようだ。
その「心」に関して、ヴィトゲンシュタインの言語ゲームを手掛かりに、
「「心」があるのかどうか。「心」があることが自明でないとするなら、
人々は何故「心」があると信じるようになるのか。…p.27」という、
常識を揺るがす問いに向き合い、分析する。

−要約−

「「心」とは何かというと、他者が存在して、私と同じように精神活動を
しているという確信…p.38」だが、それが在る、というのはやはり確信に
すぎず、証明することはできない。確実に在るのは他者の言動だけ、
ということは「言葉があって、あるいは行動があって、その結果「心」
というものがある…(中略)…行動(行為や言葉)が確かに存在するので
あって、「心」とはその背後にある「仮説構成体」のようなもの…p.42」
である。このように「心」は在るのかないのかわからないが在るとされて
いる、それは何故か。

人間は言葉を使うが、一人で独占する言葉は言葉ではない、皆で共有できる
同じ言葉を使う。他人の心は見えないしわからないが、誰か何かを言葉で
表現したらコミュニケーションを進めるうえで便宜上、権利上それを認める、
このように言葉は社会性、平等性を作り出す。振る舞いや言葉での表現など
によって「心」がある、また、「心」の中身、感情や愛情を誰しもが持って
いる、という確信が成り立つ。「心」という言葉がありそれが使われるから、
また、それを前提にコミュニケーションが為されるから、世界は「心」とそ
うでないものでできていると信じるようになり、実体化される。

「心は、「心」そのものとしてはありえない。他のものと切り離してしまう
と、「心」は「心」でなくなってしまう。「心」が表出される場所は、
言葉や行為です。言葉や行為というその表れにおいて、「心」があるのでは
ないか…p.180」、これが、「心」に対する、言語ゲーム的な理解である。

−感想−

僕は心理学や精神分析を嫌悪、軽視しているのに、自分自身をコントロール
できないがゆえに、他者に怯えきっているがゆえに、「心」にとっても関心
がある。いつも相手の心の揺れ動きに異常なまでに気を遣って、慌しくそれ
に一喜一憂し、自分の心を掻き乱している。著者の仰るとおり、「社会的文脈
から切り離して、「心」だけを単独で取りだし、考えようとしても、空回り
してしまう…p.69」わけで、それを自覚しよい方向へと心掛けてはいるもの
の、なかなかうまくはいかない。

言葉や制度や文化を習い覚え、それを通じて様々な行動や表現をする、
そうしたなかで「心」という仮像が結ばれる…。外部の制度を内面化し、
それが実体として在ることを前提に振る舞える、それは人間の条件でもあるが、
それに振り回されてしまうと生き辛い。僕は「心」に振り回され、空回りして
現に生き辛いわけで、著者の意見のように心底考えられるようになれば、
どれほど解放されるだろう!

全くそのとおりであって、これはよく肝に銘じておかなくてはと思ったのが、
自分の気持ちは他人には見えないのだから、思いは言葉や態度で示さなくて
はならない、ということだ。「言葉を話すことの外側に出来事があるのでは
なく、言葉を話すことそれ自体が、世界の中に出来事を作り出している
…p.139」ということで、表現、行動しなければ、僕の前に望ましい現実は
何も開けてこないだろう、引っ込み思案は得することが何もない、
欠点でしかない。僕にはそれを実行するにも解消しきれない自意識過剰と
いう難関があるけれど(だいたいこれも「心」の問題なわけだ)、覚えておいて
損はあるまい。

結局、ココロココロと鳴いてみたところで、何の益もない。後書きで、
日本人は心を手掛かりにものを考える傾向があり、それは日本人独特の
イデオロギーである、ココロイズムという言葉まである、と記されてあって、
『日本教の社会学』じゃないが、僕も典型的な日本教徒かあ!?
と少々落胆。なんにせよとにかく、僕には「心」の相対化が重要な必須事項、
ということで。

最後の方の、心の問題、問いはそれ自体のみを考えても解決しませんよ、
幅広い関心の中で考え、理解を深める必要がありますよ、と強調する意見、
これは正論であるとともに社会学へのお誘いであって、
思わず微笑んでしまった。


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