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読書記録2003年9月


『広告都市・東京−その誕生と死』
北田暁大(広済堂出版)2002.11/★★★★

−要約ノート−

−感想−

森川嘉一郎著『趣都の誕生−萌える都市アキハバラ』の感想文で、
都市への求心力を図るための「商業資本の手法は、未だ一定の割合で有効
であるものの、これももう限界が露呈している」と僕は書いているが、
それはもう"全く通用しない、無効"なんだとこの本で教えられた。
消費によって記号群で身を飾れ、といったような広告代理店的言説には、
僕は全くリアリティを感じない。バッカじゃないのって感じだ。
だから著者の渋谷論の展開に個人的には深く納得したし、
まったく仰るとおりだ、しかし…。

東浩紀さんはHP上で、森川嘉一郎さんも北田暁大さんも、そして自身
も共に「渋谷的=セゾン的=広告代理店的なマーケティング」を仮想敵
の対象とし脱構築を図り、「渋谷をいかに克服するか(あるいは、すでに
克服されたことを証明するか)」という問題意識を共有している、
と前置きした後、次のように語っている。

「しかしひとつだけ気にかかることがある。それは、以上のモチーフが、
もしかしたら、きわめて世代的で地域的なものなのではないかという疑い
である。森川さんも北田氏も僕もともに同じ1971年生まれであり、しかも、
プロフィールなどから察するに、全員が東京郊外の出身のようだ。
だとしたら、ここで3人が共有している感覚は、ほんの10歳下の世代、
あるいは首都圏以外の人々にとってはまったく無意味な、きわめてマイナー
なものなのかもしれない。」

これはちょっとわからない。僕はいわゆる団塊ジュニアでやはり東京近郊の
育ちだもので、彼ら三人のモチーフや感覚というのは理解できているつもり
だが、地方の方や世代を違える方の広告代理店的言説に対する意識は想像
し難い。ひょっとして、それに対する反発的疑念や相対化してやろうとする
気概なんて、ない方のほうがマジョリティなのか?何故そんなことを?って。
確信はないが、う〜ん、やっぱりそんな気がする。

だいたいそれに六本木ヒルズはどう理解したらいいのだろう?あれも垢抜けた
都会という舞台性を意識した、露骨に商業資本主導で整備された一角だが、
大盛況のようだし…。所詮「話のネタ」を仕入れに足を運ぶに過ぎないのか?
必ずしもそうは考えにくいがなあ。

さて、本書で示される『アクロス』による2000年の調査では「渋谷と地元、
どちらが好きですか」との設問に、男女とも渋谷が9.4%で、
地元が男性63.8%、女性44.4%、という数字等が示され、若者に渋谷嫌いの
傾向が進んでいる、と語られる。2003年の現在はどうか?だって、確かに
広告=都市としての渋谷は死んだろう、しかし今、渋谷はアングラ化した
アナーキーな都市として、週刊誌の見出しでは「若者の聖地ならぬ"性"地
(笑)」として、違った象徴性を帯びて脚光を浴び、活気づいているよう
だから。上で「ちょっとわからない」と書いたのと関係するが、全国郊外化が
一通り進行しきったとはいえ、「都心や渋谷には地元にない魅力的な何か
がある」とか、けっこう素朴に煽られちゃってる若者が多数派、というのが実情
じゃないのかなあ、という気もするが、そこら辺の若者のリアリティ、僕自身も
一応若者だけれども(笑)わからないなあ。ちょっとマスコミに影響受けすぎて
いるだろうか?信頼に値する統計が欲しい。まあ、そうでないことを願う。

客観主義的にすぎるきらいがあったり、「結」のいささか唐突なアジテーション
はそこだけ"浮いている"感じで少々当惑したが、気合のこもった名著だった。

ああ、あと最後に個別的で私的なことになるが、ちょっぴり自分自身を褒めて
終わりにしたい。03/8/10日付けの日記で流行りモノに求められているのは
「ネアカで陰翳のないコミュニケーションの媒介」じゃないか、と書いている。
稚拙ではあるが、これは著者の見解と重なる考えで、ちょっぴり嬉しかった。


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