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『父性の復権』関連リンクを見る。

 

1 その主張

読むのは大変、という方には、丁寧な紹介をしているサイトもあります。

・『父性の復権』の内容紹介

また、私もかなり詳細な読書メモを作ってみましたので、長いのですが宜しかったらご覧下さい。既に同著を読まれた方は、ご自身の読み取りと比較して頂ければ幸いです。

・『父性の復権』読書メモ (1999.11.26)

また、ごく簡単に紹介しているところとしては、こんなところも。

・「本のある風景」 (家族関連の書籍数点を紹介)

 

2 反響

オトナたちが「学級崩壊」「キレる子供たち」あるいは「ジベタリアン」などにどう対応すべきか呆然としていた矢先に現れたせいでしょうか。林道義氏の『父性の復権』は、まさに「時代が求めていた本」とでも言うような歓迎をされたようです。もっとも、歓迎したのは主に教育者か、教育熱心な親たちですが。

とはいえ、オルタカルチャー日本版に項目として載るくらいの反響だったとは...。

ところで、どんなところが「子供をどうしたらいいかわからないオトナたち」の拠り所として受けたのでしょうか。結構、多くの所に引用されているので---たとえばこんな具合に---、それを辿ってみると、その受け入れられかたが見えてくるように思えます。

・福岡の父親たちが読書会---悩みをぶつけ合う場こそ大切

・広島修道大学懸賞論文入選作 課題:「家族」(作者は教員) (ページ消滅)

これらのように『父性の復権』をテキストにしつつ、各自の現状に引き寄せて考えて独自の結論に達するのは、有益だし好ましいと思うのですが、しかし一方で「規範意識の教育」を飛び越して単なる「規範教育」に突っ走ってしまう例も目につきます。まあ、以下の2つ目などはそもそもそういう考え方を持った団体なんでしょうが...。

・父性を教育に、というレポート(現役の教師)

・日本の心を美しくする会(どんな団体?) (ページ消滅)

しかしこのような主張は、「分かり易いという利点と同時に、単純さという危険も同時に含まれている」という批判にズバリ当てはまるように思えます。子供はいつの時代も、社会全体によって育てられていたし、それゆえ大人の社会を敏感に反映してきた。そういう視点がすっぽりと抜け落ちて、子供は「どうにか矯正せねばならぬもの」という客体としてだけ立ち現れてくる。これは子供への新たな抑圧にならないとも限りません。

また他には、自身の実践に引きつけて、規範は「〈子供〉たちと,対話し合い,共有し合う中で見出していくほかない」と結論しながら、父性/母性という概念にはとらわれてしまっている例(国語教師)(ページ消失)も。規範意識だけを論ずるなら父性/母性といった概念が必ずしも必要とは思えないのですが、固定観念としては根強く定着しているようです。

専門家が好意的に取り上げる例も結構ありました。ただ、著者とほぼ同業と言っていい心理療法士はともかく、

・小児科医の図書紹介

・ベネッセの「進研ニュース」に載った書評

・歯科医のエッセー(仕事柄、親子連れを観察する機会が多い)

あたりでの鵜呑みの紹介には、ちょっと首を傾げたくなります。特に歯科医の先生、「母親が二人になっている。子どもの最初に接する他人がこれでいいのだろうか」っておっしゃいますが、それはせいぜい満1歳までのことですよ。4-5歳で父親が子育てに割り込んだからって、母子結合に影響が出るとは思えません。

[2000.2.1追加(ページ消滅)]
また、好意的な批評で最も丁寧なものの一つがこれだと思われますが...まだ若い社会学者の方がこういう読みをされるのは、ちょっといかがなものかと思いますがどうでしょう。確かに、彼の引用にあるように、一見魅力的な指摘が散りばめられてはいるのですが、それをきっちりと文脈に沿って位置づけた場合、本当に真に受けていいものなのかどうか。宜しければ私の分析と比較してみて頂きたいと思います。もっともこの方も、『主婦の復権』を読むに至っては、林氏の見解に対する判断を留保しているようですが。(2000.2.1)

最後に、驚いたのが若い人(ほとんど男性)の反響が意外とあったこと。ネット人口が若年層で多いというのもあるのでしょうが、あまりわかったような口きかれると、現役の親としては「ちょっと待てよ、おい」と言いたくなってしまいますね。カレル・ヴァン・ヴォルフレンまで持ち出して「自虐的」に書く人もいて、まあ冷静におなりよ、と思ったり。...いやいや、よく見ると他では「きっちり男性寄りの意見を吐いている」と鋭く突っ込む学生もいますね。

[訂正(1999.10.31)]『東大新報』を「東大の学生新聞」と紹介していましたが、正確さを欠くとのご指摘を頂きました。あえて言うなら、「学内新聞の一つ」とすべきところのようです。お詫びして訂正申し上げます。

 

3 反論など

話題になった上に、内容が内容ですから、反論も豊富で多彩です。最も有名なのは、やはりユング心理学者の河合隼雄氏による「父性の創造」論でしょう。かつて日本に父性のあった時代などない、今の時代に求められているのは父性の「創造」だ、と言うのですが、私としては何故そんなに「父性」という言葉にこだわるのかが、今一つ理解できません。ユングをやっている人には普通の用語なのだろうとは思いますが。

その点で、もっとラディカルな批判を行っているのが、兵庫教育大学図書館発行「私のすすめる本」に載っているこの書評です。林氏の議論の矛盾(あるいはカムフラージュ)を巧く突いていると思います。

また、「理想など求めるからおかしなことになる」と、そもそも父性の「理想」を語ること自体に疑問を投げかけるのが富山商船高専助教授の金川欣二氏です。これは講演録ですが、思わず頷きながら読みました。しかし、彼も改めて書き起こした別のエッセイでは「父性」「母性」を無条件でないながらも了解された概念として扱い、河合隼雄氏の父性創造論になぞらえた議論を展開しています。父性/母性イメージというものは多分に制度的に作られた幻想に過ぎないと思うのですが(有斐閣選書『「母性」を解読する』(絶版の模様)など参照)、その呪縛の強さに驚かされます。

しかし、一番ラディカルなのは、何と言っても著者の実弟によるこの大論文でしょう。マルクス=エンゲルスそのままかと思うような左翼用語満載の文体や、人格攻撃てんこ盛りの内容に一瞬たじろぎますが、理屈の芯の部分は結構真っ当なことを言っているように思います。

[2000.2.1追加]
以上は多かれ少なかれ、論壇にコミットしていると思われる方々の反論でしたが、『父性の復権』は他にも様々な違和感を引き起こしているようです。例えばこの方は、幸か不幸かバダンテールの『母性という神話』の後に読んでしまった(ページ消滅)ので、かなり呆れている様子です。また、こうした特性を「『父性』という言葉で表現するのは政治的に正しくない」とするメモも。もっとも、それなのに「好著である」としているのがよく解せませんが...。この視点を徹底させると、読書メモでもご紹介したこの方の秀逸な書評になりますね。(2000.2.1)

最後にこれを一つ。先の歯科医の方ですが、子育てが済んだ我々団塊を今頃批判しても遅い、というコメント。これはごもっとも!

(1999.10.24)

 

4 反論など(2) 〜精神分析医からの反論 [2000.2.1追加]

林氏同様、心の治療に携わる方の批判的な論考で、優れたものがいくつか見つかったので、ご紹介します。

田村毅氏(東京学芸大学助教授)は、執筆中の著書『父親不在と家族療法』(既刊かどうかは未確認)の第1章を丸ごとサイト上で公開されています。事例を豊富に引用した、3万字余りという長文なのですが、もしお時間があれば通読されることをお薦めします。お時間がなければ、ページ内検索で「父性を復権すること」という節をまず読まれるとよいでしょう。
興味深いというか感嘆するのは、林氏と同様の精神医学的な分析手法に基づきながら、全く違う結論に到達しているのみならず、林氏の主張の無効性をきっぱりと指摘している点です。「個人の役割でなく、家族の成員同士の関係性の中で捉える」「各人がその関係性から抜け出すことは非常に困難。そこで個人の役割を強調したところで無効化されてしまう」との主張には頷かされるものがあります。また、父性役割は社会的変数であると規定し、それが戦前の国家統制システムの末端機能を担っていたことを指摘するあたりは、『「母性」を解読する』(有斐閣選書)所収「"父制"のたそがれ」(手元にないため執筆者失念)の議論を踏まえてのことかも知れません。

また、家族機能研究所の斉藤学(さとる)氏も同様に、父性復活論の粗雑さを指摘します。氏の場合、父性復活論者の用いる父親イメージは輸入品の借り物であり、それは明治政府の政策と密接な関連があることを示唆します。その上で、「戻るべき父親像というのがあるとすれば、それは、地縁・血縁の中でかつかつの貧乏暮らしをしながら片手間に子育てしていた時代の父であろう」と考えます。またスウェーデンの例などを引き合いに、今後の家族像が従来とは違ったものになるであろうと予測します。

(2000.2.1)

 

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