聴いた、観た、買った ---淡々と音喰らう日々。

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今回論評したディスクなど:
ユーミンの「丘の上の光」という曲 / Joao Bosco & Ivan Lins @ Blue Note Tokyo

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ユーミンの「丘の上の光」という曲。(『悲しいほどお天気』(1978)収録)

『悲しいほどお天気』は、かの渋谷陽一が賞揚してたので「通好み」てことになってるらしいが、実はタイトル曲とか'Destiny'とかいったメジャーなナンバーも入ってるので、そんなこともないのだろう。ただ、今や"Delight Slight Light Kiss"あたり以降のユーミンしか知らないリスナーが大半となってしまった以上、それ以前、特に80年頃までのユーミンは全てマイナーってな位置づけになってる感は否めないよなあ。

バラードベストが出たりしたのは、そんな中で過去の名曲を再評価する良い機会ではあったんだろうな。でも、こういう選集とか特集があるたびに思うのが、何で「丘の上の光」は必ずといっていいほど選から漏れるんだろう、ということ。

この曲には、ある意味ユーミンの全てが詰まっていると思うのだ。一つは歌詞。マーケティングに全面的に依拠して書かれるようになったミリオンセラー連発後とは違って、初期の彼女の歌詞にはある種の無常観が垣間見える。遠いシアワセな記憶への哀惜とか(「悲しいほどお天気」「雨に消えたジョガー」)、今この時のシアワセが失われないようにとか(「朝日の中でほほえんで」「丘の上の光」)。特にこの「丘の上の光」の「きれいな光ほど 移ろうのだから」という一節にはそのエッセンスが凝縮されている気がする。

加えて曲だが、これも初期の彼女らしいテンションコードを巧みに使った展開に、ダイナミックなメロディラインを載せていて、歌詞世界を絶妙に支えている。そして、私がめったに褒めない松任谷正隆のアレンジがここでは冴えまくっている。後奏直前のAメロのリフレインから入ってくるブラジル風パーカスが、それまで朗々と歌われた「思い」をフッと重力から解き放ち、今のシアワセをかみしめるかのような、それがあたかも永遠に続くかのようなエンディングへと持って行く。見事。

渋谷陽一とは違う観点からだけど、やっぱり『悲しいほどお天気』は名盤だと思うなあ。もっと広く聴かれますように。

Joao Bosco & Ivan Lins @ Blue Note Tokyo (2002.4.30)

ジョイントというようり2部構成。これはIvanがLeila Pinheiroと来たときも同じだが、IvanとBoscoが共演したのは二人の出番が交代する時のJobimナンバー(2曲くらいだったかな?)のみ。そこだけがちょっと残念。

Joao Boscoは全曲を弾き語りで。後からスタジオ盤をCDで聴いて思ったけど、彼の本領はむしろこの弾き語りというスタイルにある気がする。ギターと口パーカスやボーカルが一体となってはじき出すグルーヴが素晴らしい。様々なリズムを渡り歩きながらテンションを高めていき、'Odile Odila'での聴衆を巻き込んだコール&レスポンスで最高潮に達する。ナマで聴く彼の声は軽快なだけでなく、思ったよりずっと深く太い声もあり、そのダイナミックレンジがえも言われぬ味わいを醸し出している。声とヴィオラゥン(ガットギター)だけで如何に豊かな世界が紡ぎ出せるかの好例というべきライブだった。

Ivanはまず前半で新作"Jobiniando"からのナンバーを中心に。出だし'Samba Do Aviao'のイントロが決まると、しっとりとした雰囲気が出来上がる。この流れに乗って、Ivanが何とバラードで歌いながらメンバー紹介をする、その美しさと言ったら。歌は心だなんて言うのは簡単だしありふれてるけど、こんなに気持ちを歌に乗せられる人を見ると、本当にそうなんだなと思う。力強さではかつてほどではないかも知れないけれど、彼のボーカルはむしろ深みと繊細さを増していると思えた。それが彼自身、Jobimナンバーに挑もうと思った理由なのかも知れない。それくらい、ナマで聴く彼のJobimは、見事に自分のモノになっていた、というか、従来のIvanの世界とJobimとの間に、どちらでもない新しい音楽を再構築しているように思えた。

後半では、昨年とほぼ同じサンバ・メドレーをたっぷり聴かせてくれた。ドラムスのTeo Limaの叩き出すリズムが強靱にして豊かなものだから、昨年のバンドからパーカスとエレキギターが欠けてることをほとんど感じさせない見事なノリでの締めくくり。そしてアンコールに、これは滅多に聞けないだろう彼の出世作'Madalena'をバラードで! しかも聴衆にはla-la-laで'I Got Rhythm'を歌わせて掛け合いにするというお茶目な遊び付き。私らのようなIvan贔屓には最高の贈り物だった。



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