アカペラコーラスの夢と野望 (3) 熱血篇 (2001.08.26)


(前回はこちらでも一応簡単に前回までのあらすじ...
《アカペラコーラスの難曲への挑戦を決めたはいいが、採譜は思っていた以上の難題だった。ピアノで身についた平均律的な和音感覚では、微妙なテンションコードを拾い切れないことに気付かされ、打ちのめさせる私であった...(効果音: 溜息)...》
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何とか難関の採譜は終わった。というか、採譜が半分くらい済んだところで第1回の合わせはやってみたのだが、これは感動的な瞬間だった。何故かと考えるに、コーラスとかハモりの体験として「一人1パートで」「4声部で」「無伴奏で」しかも「単純な3和音以外の音を」歌うというのは初めての経験だったことが理由じゃないだろうか。4声部と言えば合唱コンクールだし、それも複雑なテンションコードを歌うなんてまずないし、一人1パートのハモりと言ったらカラオケくらいだし(笑)。無伴奏で歌うことに至っては、鼻歌のほかに許されもしない訳だし。だがこの4要素、とりあえ採譜した音が正しくてその通りに歌えば、4つの声でこんなことが...と驚くような響きをもたらすのだった。

しかし。技術的ハードルが高すぎることに変わりはない。主旋律以外の音程は「メロディ」として覚えるのには複雑すぎるし、かと言って他のパートとの音程関係を頭に叩き込むのも、テンションコードの連続ゆえ一筋縄では行かない(音源サンプル: The Manhattan Transfer 'A Nightingale Sang In Berkeley Square' (途中まで)はここ)本当ならソルフェージュの練習、和声理論の学習といった基礎訓練をみっちりこなした上でやらなければならないような課題なのだ。だが、まあ、趣味として、使える時間が限られた中では、そこまでは無理。

そこで銘々思いつくままに工夫をしてみるのだが、これがなかなか。私の連れ合いは移動ドを楽譜に書き込んで覚えようとしている。だが厄介なことに、転調して別のキーへ移るブリッジ部については、どの音をドと見なすかの判断が付きにくい。加えて無調的な部分では、どんな移動ドを記入したところで、耳で聴く響きとどうにもしっくり来ない。色々試行錯誤してみたが、そういう部分は結局のところ和声の流れと、そのパートの音の動きを丸覚えするのが一番ということになる。普段から耳で聴いてコピーする訓練をしていない身には、これは雲を掴むような話だが、それでも地道に何度も聴き、合わせて感じを覚えていくのが、遠回りに見えて一番の近道のようだった。

技術的ハードルは和声面以外にもある。これだけ複雑に転調を繰り返すと、キー音程のキープが難しい。キー音はただでさえ歌っているうちに落ちてくる傾向があるものなのに、音の動きに気を取られてしまうので、優に半音以上下がってしまうことはザラ。これを解決するには、キーの基準となる人を一人決めておいて、必ずその人を聴くというのが一番なのだが、各人とも頼られるには心許ない上に、音の動きが複雑すぎて主旋律以外に適当な基準パートを選べないという事情もある。この点は結局今に至るまで、有効な解決策を見つけられずにいる。
もう一つのハードルは発声そのもの。十分響く豊かな声質と、安定して息切れしないブレス。本当はこれがないと様にはならないのだが、これはコツだけでできるものではなく、やはり一定時間をトレーニングに割かなければならないので、やはり今に至るまで効果的な改善方法は見つかっていない。

これだけ面倒な試みにもかかわらず、とりあえず続けていられたのはやはり、最初に合わせたときの驚きと興奮があったからだろうか。この後も、クリスマス曲を何か、とか、オリジナルアレンジをしよう、とか新しいレパートリーの話が出ては、そこまで手が回らないため消えていったが(苦笑)、そういう話が出るということ自体、楽しい証拠ではある。

次回は、いよいよその成果を発表。だがしかし...。

(end of memorandum)



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ただおん

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