アカペラコーラスの夢と野望 (2) 死闘篇 (2001.08.02)


(前回はこちらでも一応簡単に前回までのあらすじ...
《キャンプの夜、酒が回ったせいもあってか気をよくした私たち4人は、出だし2小節の試しが上手く行ったというだけの動機でアカペラコーラスの難曲に挑戦する決意をする。しかし行く手に立ちはだかっていたのは採譜という難事業であった...(効果音: 悲鳴)...》
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そんなわけでThe Manhattan Transferの『バークリー・スクエアのナイチンゲール A Nightingale Sang In Berkeley Square』("Mecca For Moderns" Atlantic, 1982に収録) の採譜をすることになったのだが(その作業風景はこちら)、これは良く言えば「勉強になった」が、正直に告白すれば「ちょっと能力の限界を越えていた」。

採譜を始める前からわかっていたハードルはいくつかある。

  1. 事細かに施されたテンションコード
  2. 密集し声部が錯綜する部分のパート分け
  3. ブリッジ部の無調進行

確かにこれだけでも尻込みしてしまいそうなのだが、でも最後の仕上げでは少しずつCDを止めながらキーボードで確認すれば何とかなるだろうと思っていたのだ。

全然甘かった。

ピアノ含めキーボードは平均律で調律されている。平たく言えば、どんな和音を叩いても、整数倍の倍音関係から微妙に少しずつズレているということだ。しかしコーラス、それもアカペラとなると合わせの基本は倍音関係だ。だから例えばこんな和音:

E3-G#3-D4-A4

なんて言うのは、キーボードで鳴らしても濁った据わりの悪い和音でしかない。何しろG#3とA4が1オクターブ+半音でぶつかっている上に、それを増4度+5度で割っている(協和音的には逆の5度+増4度であるべき)。だが、聞き取りではどうしてもこう聞こえるのだ。で、ギブアップしてとりあえずこれで歌ってみたら、結構すんなりと合ってしまうのだ。もちろんテンションだから三和音のように整然とはしていないが、しかしほどよい緊張感をはらんだ良い響きと言えるものになっている。

しょせんピアノ耳である自分の限界を知り、和声の奥の深さに感じ入った瞬間であった。またまた大袈裟なこと言ってますが。

だが後日、改めてマン・トラのライブビデオを見て拍子抜けした。当人たちも結構音程がヨタってるではありませんか、よーく聴くと。しかしそれでも一応それなりに聞こえてしまう、ってことは、この微妙な音程は実は案外どうでもいいのか? 自分の必死の聞き取り作業は何であったのか、と一瞬不安が頭をよぎる私ではあった...。

次回は、この譜で歌ってどうなっていったか、というお話を。

(end of memorandum)



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ただおん

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