m@stervision columns 'bout monkey business

★ ★ ★ ★ ★ =すばらしい
★ ★ ★ ★ =とてもおもしろい
★ ★ ★ =おもしろい
★ ★ =つまらない
=どうしようもない



★ ★ ★ ★ ★
夏休みなので立川の新館 CINEMA・TWO まで行ってみた。

外資系シネコンの侵略どころか、昨日までは仲間だったはずの東宝・松竹・東映の裏切りによって、次々と閉館を余儀なくされている地元の独立系映画館のなかで、攻撃は最大の防御なりとばかりに「シネコンが縄張(シマ)荒らしを仕掛けてくるってんなら、そっちよりグレードの高いシネコンを作ってやろうじゃねえか!」と反撃に打って出たのが(東京近郊では)川崎のチネチッタと立川のシネマシティである。その立川シネマシティが更なる一手として、2004年7月、従来のシネマシティの隣のブロックに5スクリーンのミニシネコン「CINEMA・TWO(シネマ・ツー)」をオープンした。これで従来からの6スクリーンとあわせて11スクリーンとなる。 ● さて、その CINEMA・TWO だが、これは一見の価値があるぞ。「シネコン」とは言ってもほかのどのシネコンにも似ていない。てゆーか、こんな映画館いままで見たことない。なにしろスクリーンが宙に浮いているのだ(!) えーと、ほら、よく地方で(白影さんが乗るみたいな)デッカイ凧をあげるとこ、あるでしょ。ああいったものを想像してくれ。ゆるやかに彎曲した鉄筋で作ったシネスコ比率の枠組に真っ白いスクリーンを張ったデッカイ凧が、壁面からアームで突き出してる状態なのだ(上から見るとこんな感じ) 前面スピーカーはスクリーンの裏側ではなく、スクリーンの左右とスクリーン直下に剥き出しで設置してあって、なにか「観客には直接音しか聴かせないぞ」という確固とした意思を感じる。当然、音圧は物凄くて、はらわたにビンビン響いてくる。凧スクリーンだからスクリーンマスク(=天地左右の黒いマスク布)は無く、ビスタサイズの映画を映写すると、左右のボケ足そのまんま出てしまう。じつは、後述するように場内が暗いので最初は凧スクリーンに気付かなかったんだけど、映画が始まって「あれ、なんでマスクが無いんだ!?」と思って、終映後に近寄ってみてタマげたぜ。 ● 場内照明がまた独特で、なんと天井と壁にはまったく照明がない(掃除とかメンテナンスのとき、どーすんだろ?) すべての座席の背と背の間に黒いポールが立っていて、その先端にキャンドル・ライトを模した豆灯が点いている。客席最後部から入場すると──傾斜のついた客席を見下ろすと──キャンドル・ライトが光の絨毯のよう。まるで聖夜の教会みたいな幻想的な雰囲気である。いや、聖夜の教会なんて行ったことねえけどさ。 問題は、その「光の絨毯」のせいで足元の階段がよく見えないことで、大人はいいとして、駆けこんで来るガキは絶対に転ぶね。最前列までコロコロコロと転げ落ちるね。劇場側もそれは心得ているようで、ガキの来そうな「ハリポタ」とか「ポケモン」は此処じゃなくて従来のシネマシティ館で上映していた。 ● 3つ目のオドロキは開場時間がえらい早いこと。シネマシティでは従来からそうなのかもしれないけど、前の回の場内清掃が終わり次第に開場してしまうのでタイムテーブルによっては上映45分前に開場なんてこともあるのだ。おれなんかチケット売場の兄ちゃんに「何時に開場ですか?」って訊いたら「もう開場してます」とか言うから「いや、そうじゃなくって、客席には何分前に入れるんですか?」と噛んで含めるように言ってやったら「いや、ですから、もうお入り頂けます」と噛んで含めるように言われちゃったよ(耳心) ただ、キャンドル・ライトだけだと雑誌や文庫本を読むにはちょっと暗いので、早めに入って荷物を置いたら、あとはロビーなり(半券さえ持ってれば外出自由なので)劇場の外で時間を潰すのが吉かも。嬉しいことに土日祝日レディースデイを問わず自由席定員制。一部に指定席があるけど、その区別は白いシートカバーとかではなく、座席にRESERVED」と印刷した紙袋を置くことによって行う。なんかもう一から十までやることがオシャレでげすな。 ● 場内アナウンスやエチケットCMは無くて、代わりに係員がスクリーン前に出てきて肉声でアナウンスする。「まもなく上映開始となりますのでケータイ電話など音や光の出るものは電源からお切りくださいますようお願いします」<この言いまわし、シンプルで判りやすいよな。企業CMも公共CMも無しで、予告が2、3本のみ。光量も音量も十分でしごく快適な映画体験。もう少し近ければ通っちゃうとこだ。いや、新宿から立川まで中央線 特別快速で27分/快速電車で35分という距離は許容できても、ほら、なにせJRだから運賃が往復で900円てのがなあ……。

附記:立川 いま・むかし

立川(たちかわ)は長きにわたって基地の町だった。東京の米軍基地というと大抵は、横田基地を擁する福生(ふっさ)の名前がまず挙がるだろうが、立川もかつては米軍基地の町だった。だが米軍が最初じゃない。始まりは大正11年(1922)に陸軍航空隊の基地が出来たときからだ。すこし遅れて昭和5年(1930)には石川島播磨の飛行機製作所(後の立川飛行機)が工場を構え、戦時中に使用されたハヤブサ戦闘機のおよそ半分を立川で生産した。敗戦後は米軍基地となり、朝鮮戦争では航空機の出撃拠点ともなった。1977年に米軍が去り、相前後して1972年からは陸上自衛隊の駐屯地となり、1983年には米軍基地跡が昭和記念公園となった。公園は近隣市民の憩いの場となり、花火大会やロック・フェスが開かれたりしてるけど、自衛隊はまだ居るし、立川飛行機は(もう飛行機は作ってないけど)倉庫・貸しビル業として存続してる。 ● で、かつての基地と立川駅のあいだをぜんぶ更地にしてゼロから作り直したのが、現在のJR立川駅北口から多摩モノレール立川北駅にいたる一帯である。広い道と無機質な町並みが、どことなくお台場の埋立地を思わせるのはそういう理由だ。現在、シネマシティがあるところにはかつて立川セントラル/立川中央/立川松竹という3館並びの映画館があった。天井の高い平屋建ての かまぼこ形の建物の、入口ロビー部分だけ2層になってて、2階部分に映写室があるという往年のスタンダードな設計の映画館。飯田橋佳作座や亀有名画座を覚えている人は、ああいう形である。考えてみたらもうこのスタイルの映画館て、東京近郊では絶滅しちゃったのだなあ。ギンレイホールはビルの中の半地下で天井が低いし、三軒茶屋中央や上野オークラには2階席がある。ガランとした体育館のような、客席から後ろを振り返ると高い壁面の上のほうの窓から映写機の光がさしている……という光景が見られる映画館はもう無いんだねえ。 ● 閑話休題。立川では3館のちょうど扇のカナメに当たる位置に3館共通の宝くじ売場のようなチケット・ブースがあった。入口のロビーは狭かったけど、そもそも当時は「次の回を待つ」という習慣が無かったので、よーするにそこはタバコを吸いに出てきた人のためのスペースである。映画の途中から入場すると場内は真っ暗で、しばらく最後列で立ち見して目を慣らさないといけない。ガキの頃に なんかの本で「事前に片目だけ瞑っておいて、入場したらそっちの目で見れば暗闇でもバッチリ」と書いてあるのを読んで、おおなんという天才的なアイディアだ!と感心してさっそく試してみるんだけど(まだガキだから)ついつい途中で目を開けちゃったり、途中で右を瞑ってんだか左を瞑ってんだかゴッチャになっちゃったりして、結局いちども成功したことはなかった。バカですね。客席にはとうぜん段差などなく前に座高の高い人が座ると字幕は読めなかった。てゆーか、そもそも視界良好でもすべての漢字が読めたわけじゃなかったし。 ● 北口にはこの3館のほかにも、駅前から競輪場へと向かう(当時の)メインストリートに接して「立川シネマ通り」というのがあり、そこにはかつて立川シネマがあった。とうぜん駅ビルなど無かった頃だから南口へ行くには近くの歩行者用ガードをくぐるわけだが、そのガードの出口のすぐ脇には立川名画座があり、その通りには、立川錦座(ピンク映画)、立川大映(後に日活ロマンポルノ封切)、すこし離れて、立川東宝、立川東映南座、そして立川日活と6館もの映画館が並んでいた。もちろんいまはすべて無い。てゆーか区画整理で町そのものが無くなってしまった。 ● かつて立川には10のコヤがあり、それが一時ゼロになり、そして今また(数の上では)11スクリーンに戻ったわけだ。コヤがスクリーンと名前を変えたように、立川という街は1982年の駅ビルのオープンを手始めに、北口も南口もここ20年で完全に作り直された。いまでも北口の競輪場はあるし、南口には新しく場外馬券売場までできたけれど、かつての猥雑な街の面影はほとんど無い。西新宿や幕張、あるいはお台場や汐留のように、なにもなかった所に街を作るのではなく、もともと栄えていた街をぜんぶブッ壊して作り直すなんて荒っぽいことを(1区画とか通り単位ではなく)街全体でやってしまったのは移り変わりの激しい東京でも立川ぐらいじゃないだろうか。

立川セントラル劇場株式会社 社長 山上公隆 氏 > 戦後いち早く復興したのは映画だとも言われています。昭和20年(1945年)10月には松竹が「そよ風」を完成させました。主演は、主題歌「りんごの歌」を歌った並木路子でした。食べ物に飢え、着るものに乏しく、住む家さえままならなかった時代に彼女の爽やかな歌声は日本中にあふれ、人々に安らぎと希望を与えたのです。翌年からは各社も映画製作を再開し、劇場建設も各地で始まりました。娯楽に乏しかった人々は映画に楽しみと希望、潤いや安らぎを映画に求め、映画館の有る街は賑やかさを増してきたのです。その頃、立川北口には大正14年(1925年)に開館した「シネマ立川」があっただけでした。そこで、街の活性化を模索していた商店主たちの間から、駅周辺に外国映画専門の近代的な映画館建設の話が持ち上がりました。「いなげや」の初代社長・猿渡源一郎氏が中心となり商店主たちに働きかけ出資金を募り、「立川セントラル劇場株式会社」を設立。昭和26年(1951年)10月には「立川セントラル劇場」が完成したのです。川手健吉氏が劇場を借り受け営業を開始、封切り作品は西部劇の名作「駅馬車」でした。昭和28年(1953年)1月、氏は「タツミ興業株式会社」を興し、立川セントラル劇場株式会社と協力し街の振興に努めることとなりました。以後、三多摩地区を代表する映画館として多くの方に親しまれたのです。時は流れ、平成4年(1992年)8月、北口再開発に伴い「立川セントラル劇場」は惜しまれつつも、41年の歴史に幕を閉じました。立川セントラル劇場株式会社 前社長・川口功氏、タツミ興業株式会社(現・シネマシティ株式会社)・川手弘太郎氏は設立時の趣旨を継承するベく、新たな映画館建設を決意。多くの方々のご賛同とご協力を得、平成6年(1994年)10月、「立川シネマシティ」として蘇ったのです。立川セントラル劇場株式会社は建物の所有者として名を残しましたが、多くの方々に愛された「立川セントラル劇場」の名前と、その趣旨は人々の記憶から消えつつあります。 ※ここより転載

★ ★ ★ ★ ★
いかにも舶来感ただよう「ユナイテッド・シネマ」というブランドと
庶民的な家族連れ遊園地の「としまえん」という名前のミスマッチが
この新しく出来たシネコンの性格を端的にあらわしている。

……つまり、およそ練馬区の住宅地には似つかわしくない、六本木ヒルズにあったらピッタリくるような落ち着いたデザインのシネコンなのである。サティとかイオンとかのショッピングセンターに併設されているわけではなく、映画館だけの独立した建築物なのでスペースにも余裕があり、ロビーの広さなど「あと3スクリーンぐらい作れるんじゃないか?」というぐらいゆとりがある。建物の外見もモノトーンのシックなもので、もちろん絵看板などなく「タイトル垂れ幕」がかかってるわけでもなく、ただ英語で「UnitedCinemas」と出てるだけなので、近寄ってみないと映画館とはわからない。もっとも、自然光あふれる1Fロビーには31アイスクリームが入っていることもあり、オープン当初の物珍しさから(映画じゃなくて)映画館を見に来た近所の奥さん方や夏休み中の子どもたちであふれ、すっかり近所のマクドナルド状態となっていたが。 ● 2階建てで、ホワイト&木目調デザインの1階に前述の椅子&テーブル付のロビーとチケット売場、売店、そして1〜4のシアターがあり、エスカレーターを上がった2階は一転して照明を抑えたブラック基調で、やはり椅子&テーブル付のロビーと5〜9のシアターが位置している。1・2階とも喫煙者の皆さんのためのガラス張りの隔離室 喫煙室を完備。トイレはロビーにもあるし、チケットをモギった向こうの通路側にもあるので3時間もある映画を観てるときにトイレに行きたくなってもワーナーマイカルシネマズ板橋みたいに通路を出てはるばるロビー横切って往復5分もかけて歩かなくて済むのでとっても便利。男性用トイレにも幼児用の椅子がついてる個室(=お父さんが幼児連れでうんこしたくなっても大丈夫)があって感心した。 ● 場内は各シアターともかなりスクリーンが大きめで「前のほうの席派」のおれとしては中央通路前後がベストポジションになるのでとても嬉しい。ただ小さいシアターでは「場内の右側に入口通路、左側に階段」というレイアウトになっていて、入り口通路から入るとスクリーン直下に出るので(2列目以降に座りたければ)スクリーンの前を横切らないと階段に行けないという構造はどうか。あれじゃ上映中のトイレ出入りが目立ってしょうがないぞ(普通、階段は客席の両側に作るか、片側だけだったら入口通路の側に作るでしょ) ● 椅子は布張り&ドリンクホルダー付の標準的なもの。肘掛けは上がらない。つまり六本木みたいに「どこでもペアシート」にはならない。でも、なぜか場内最後列のワンペアだけ「ペアシート」と称していて、そこだけ肘掛けがあがるようになっている。最後列ってことはその席はセックス可ってこと?(ちがいます) キッズシートと称する子供用座布団も完備。一部のミニシアターで女性客に好評な「ヒザ掛けの貸し出し」もやってる(もちろん無料) ● 最大キャパ(465席)の8番シアターのみTHX認定(ドアが二重ドアではないTHXシアターは初めて見たよ) ここはシネスコ上映時 20.00m x 7.88mという都内第2位のスクリーンサイズを誇るのだが、都内最大のヴァージンシネマズ六本木ヒルズの7番[20.20m x 8.40m]の、無理してる感の強いヨコ長客席と違って、マトモな客席レイアウトになっているので、比較的どの席からでも観易いだろう。 ● ちなみに3位以下は新宿プラザ[17.70m×7.50m]、新宿ミラノ座[17.40m x 7.40m]、シネマメディアージュ1[16.80m x 7.00m]、テアトル・タイムズスクエア[16.00m x 6.80m]、日劇1[15.80m x 6.60m]、新宿ピカデリー1[15.35m x 7.10m]、浅草東宝[13.50m x 6.10m]、渋東シネタワー2[12.4m x 5.37m]など(すべてシネスコ上映時のサイズ。出典は「TOKTO 1週間」2002年5/9増刊号に掲載の「完全データ ロードショー公開446スクリーン丸わかりガイド」) ● さて、ここまで肯ける評価ばかりの当館だが、唯一最大の謎が8番シアター全席に導入されているウィンブル・シートである(オンにするには200円の追加料金が必要) これ、よーするに、今から20年ぐらい前に東京テアトルの映画館に一斉に鳴り物入りで導入されたものの「背中がコソバユイ」「尻が痺れる」「気持ち悪いだけ」と不評の嵐でアッという間に撤去されたボディソニック・チェアなのだ。ボディソニックなんてホーム・オーディオの世界でももう無いでしょ? なんでいまさら!? ● おれはとりあえず1番・3番・4番・6番・8番を制覇したが(火暴)、音に関しては普通に出てはいるものの、それほどはらわたにズンズン響く音圧は感じなかった(音量の問題なのか、アンプ/スピーカーがショボいのかは不明) これだと爆音派の皆さんにはちょっと物足りないかも。特に「スチームボーイ」がやや音が小さいように感じられたんだけど、ひょっとして子ども向き(と劇場が考える)映画は音量を下げてる? ● 劇場の人に確認したわけではないので推測だが、DLP映写機も入ってないようだ。ちょっと驚いたのが音響設備がドルビー・デジタル&ドルビーSRのみで、ソニー系のSDDSが無いのはわかるとして、ユニバーサル系のDTSが入ってないこと。ユナイテッド・シネマってユニバーサルとパラマウントの合弁会社のはずなのに!? グループ会社から見放されたってことは、いよいよDTSはホームシアターのDVD用規格に事業をフォーカスして、劇場用としては消えゆく運命なのか……。 ● 上映時刻の10分前からプロジェクターCMがスタート(いまんとこは「ヴァン・ヘルシング」ワールド・プレミア・レポートとか映画関連だけ) そして通常のCM・予告篇が15分ぐらい。まあ平均的ですな。そのなかでユナイテッド・シネマ オリジナルのエチケットCMもやるんだけど、ラストの「誰かが迷惑しています……」という字幕に添えられた英文が「Everyone is bothered by your behavior.」って、それじゃ「あなたの振舞いに誰もが迷惑しています」って意味じゃんか。ガイジンにケンカ売ってる? ● ポイントカードを発行していて、年会費(入会金)が1000円かかるんだけどデフォルトで無料鑑賞1回分のポイントが付いて来る。つまりポイントカード取得で漏れなく1000円で1回 映画が観られるわけですね(ただしポイント利用は次回から) 上映時刻一覧のところに一緒に、電車とバスの時刻表も貼り出してあるのは細かい気配りですな。 あと、なにが気に入ったって土日祝日水曜日以外つまり月曜火曜木曜金曜は自由席なのが気に入った。おれんちからだと大江戸線で行けばドア・トゥ・ドアで30分という最短距離にあるシネコンなので(なにしろ大江戸線「豊島園」駅・豊島園出口の真上なのだ)これからちょくちょく来ようかという気になってるところ。


東京テアトルは心から映画よりもCMを愛してる

「パッション」を観るために久々に新宿のテアトル・タイムズスクエアに行ったら[予告篇→CM→本篇]の順で上映していた。なんで「パッション」の直前に球蹴り選手風情に選挙に行けと怒鳴られにゃならんのだ! これ、同じく東京テアトル経営のシネセゾン渋谷で以前からやってる、予告篇で徐々に高まった気持ち(さあ、これから映画が始まるぞ!)がCMでイッキに醒めてしまう悪名高き編集方法である。なんでこんな変則的な繋ぎをするかというと(以前、シネセゾン渋谷の従業員に優しくお尋ねしたんだけど)朝1の回とか夜の最終回にタイムテーブルの都合で予告篇をカットしたいんだけど、CMは契約があって切れないので、予告篇だけを外せるように[予告篇]+[CM→本篇]の順で繋いどくんだとさ。契約厳守。信義に足る御立派な経営方針じゃないか。なんだったら一銭にもならない予告篇なんぞ止めちまってCMだけ20分でも30分でも流したらどうよ。だってそうだろ。予告篇は平気でカットしてもCMはカットしないんだから東京テアトルは予告篇なんかクソの役にも立たないと思ってるんだろ? そうじゃなきゃ映画を楽しもうとしてるお客さんの気持ちに水を差す[予告篇→CM→本篇]なんて編集は絶対にしないはずだから。 ● [テアトル池袋閉館に際しての追記]前段を書いてから2年が経った。その後も何度か抗議してはいるのだが、答えはいつも「本社からの指示なので」の一点張り。「本社指示なんだから現場に言われてもねえ……」という雰囲気がアリアリである。現場の社員だかアルバイトたちはこんな最低の映画館で働くことになんの痛痒も感じていないようで、こないだなんかついに「CMはお金を頂いているのだから大事にするよう(本社から)言われてまして」などとヌカしおった。ちょっと待てそれってつまり、ロハで上映してやってる予告篇なんかより「お金をいただいている」CMのほうが大事だから本篇直前にやるってことか。フザけんな! ● いまどきお客さんに1,800円払って映画館に足をはこんでもらうことがどれだけ大変か。そのために配給会社や宣伝会社がどれほど智恵と汗をしぼっていることか。そして、わざわざ映画館まで映画を観に来てくれたお客さんに対して、予告篇がどれほど貴重で効果的な宣伝チャンスであることか。──羽田に行くのに京急を使うかなんてことより、それが映画館の存続にとってどれだけ大事なことかも、わからないような東京テアトルが経営していたテアトル池袋は、だから潰れて当然なのである。 ● いや、テアトル池袋だけじゃないぞ。東宝からロクな作品をまわしてもらえず同じ作品を何ヶ月も上映しているテアトルダイヤに、2週で打ち切り&系列館からのムーブオーバー/拡大上映が続く銀座テアトルシネマだって危ない危ない。新宿文化シネマ改めシネマート新宿1・2@SPO経営と新宿ガーデンシネマ1・2@角川ヘラルド経営という競合館が真横にオープンするテアトル新宿と、ミニシアター激戦地のシネセゾン渋谷だって決して安泰とは言えないはず。あと、新宿ピカデリーを失った松竹はぜひとも大画面のテアトルタイムズスクエアを買収しちゃえ!(てゆーか、東京テアトルは売るぞ。ゼニになるなら喜んで売るぞ) ● あ、そうそう、最後にシネセゾン渋谷と予告篇交換をしてる映画館に言うといちゃるけど、シネセゾンは(CMはカットしないけど)予告篇はしょっちゅうカットしてるらしいから、おたくらもシネセゾンの予告篇なんか真面目に上映するこたぁないぞ。配給会社の皆さんも次回上映の予告篇さえ平気でカットする東京テアトルの映画館なんかよしといたほうがいいよ、ほんと。 ※東京テアトル 意見受付

★ ★ ★
ブロックブッキングの終焉?

東宝が(1階に日比谷映画を、地下にみゆき座を有する)日比谷の本社ビルの改築を決め、跡地に建つビルには映画館を作らないという決定を下した。ひとつ確実に言えるのは、これで最後に残った自由に座れる映画館が消えてしまったら、おれはもう日比谷/有楽町地区にロードショーを観に行くことはないだろうということ。 ● この東宝の公式発表はしかし(行間に)ひとつの重大な「宣言」を含んでいる。東宝が「もう日比谷/有楽町地区に新しい映画館は作りません」と発表したということは、つまり「従来のブロックブッキングを廃止します」と(遠回しに)宣言したということなのだ。日比谷映画とみゆき座の消滅に伴い、現行の「日比谷映画チェーン」と「みゆき座チェーン」の「旗艦」は(形の上では)ニュー東宝シネマと有楽町スバル座あたりに禅譲されることになるだろう。あれ?そうすると「名探偵コナン」とかを公開している「ニュー東宝チェーン」はどうなっちゃうの? そう、そこがポイントだ。おれが思うに、もう東宝は「有楽町/日比谷地区の映画館を旗艦に配したV字隊形の艦隊(チェーン)」というものが機能しなくなっていることに(内心では)気付いているのだ。理由は言うまでもなく全入場料収入に占めるシネコン比率の増大と有楽町/日比谷地区の凋落だ。 ● 都内で映画を観ている人たちなら「都心の映画館の求心力の低下」にとっくにお気付きのことだろう。たとえば新宿プラザの先行オールナイト。昔は……といってもほんの10年前ぐらいまでは「スター・ウォーズ」クラスの大作の先行オールナイトといえば新宿プラザの1000人超の客席は超満員になったものだった。開場を待つ列はコマ会館の通路を突き抜けて楽屋口のほうまで延々と伸びていた。上映間際に行こうものなら通路に座って観ることを覚悟しなければならなかった。それが今ではどんな大作が来ても上映5分前でラクラクだ。映画が入らなくなっているのではない。10年前には考えられなかった興収100億超の作品が次から次へと生まれてるのだから。何が起こっているかといえば新規シネコンの大量出現で観客が分散してるのだ。いままでは各沿線から新宿プラザに集結していた観客たちが地元の立川シネシティやワーナーマイカルシネマズ新百合ヶ丘やT・ジョイ大泉やTOHOシネマズ南大沢で先行オールナイトを観てるのだ。 ● その分散/地元志向の影響をモロに被ったのが有楽町/日比谷の映画街なのである。有楽町の動線は主に南北と東だ(西には新宿・渋谷・池袋がある) 南北と東──つまり神奈川と埼玉、そして千葉県の観客が有楽町/日比谷地区の映画館を支えていたのだ。そして言うまでもなく神奈川と埼玉・千葉はシネコンの最激戦区である。いままで会社帰りに有楽町/日比谷で映画を観ていた通勤客は地元に帰ってから1200円のレイトショーを観るようになり、休日に銀座まで遠出をしてくる主婦たちは、しかし映画は水曜日のレディース・デイに地元のシネコンで済ませるようになってしまった。結果として(旗艦である)有楽町/日比谷の映画館がいちばん空いてるなんて事態が頻繁に起こることと相成った(平日の夜なんてほんとに閑散としてるぜ) ● 中心の空洞化と並行して起こっているのがシブヤ系チェーンの興行的成功である。「シブヤ系チェーン」という言葉はいま おれが作ったのだが、よーするに渋谷/恵比寿のミニシアターで従来なら独占公開した作品を、シネコンや一部のロードショー館で拡大公開して大ヒットした「ピンポン」「ボウリング・フォー・コロンバイン」「木更津キャッツアイ 日本シリーズ」「ロスト・イン・トランスレーション」「パッション」などのケースを指す。東宝の「下妻物語」も(日比谷のシャンテ・シネでもやってるが)旗艦劇場は渋谷シネクイントと見るべきだろう。まあ、東宝/松竹/東急系の全国チェーンに較べればヒットの度合いも中規模だが、少なくとも東宝/松竹/東急編成室の力を借りずともヒットを生み出せることを実証したわけだ。シブヤ系チェーンの成立を可能にしたのが全国津々浦々にいたるシネコンの隆盛にあることはこれまた言うまでもない。 ● つまり、東宝・松竹・東急の3社(あるいは東映を加えた4社)が全国の系列の映画館に一斉にブロックブッキングすることによって……言葉を変えれば「編成権」を握ることによって配給会社に対してイニシアチブを持つ時代は、もう終わりを告げたということなのだ。これからは東宝はTOHOシネマズを(同様に松竹はMOVIXを、東急は109シネマズを、東映はT・ジョイを)経営する会社として、他のワーナーマイカルシネマズやユナイテッド・シネマやAMCなどと同様に「受け手」のひとつとして配給会社と個別に交渉する自由競争の時代がやって来るということだ。 ● そうした自由競争の時代において、配給会社は今までは東宝か松竹どちらかの編成室(=問屋、あるいは取次)と話をすれば自動的に自社の映画(=商品)を全国の映画館にブッキングすることができたが、これからは各興行会社(=小売店チェーン)と個別に交渉しなければならない。映画館にとっても今までは単に「日劇の作品だから」という理由でブッキングしていた/されていたものを、これからは自分の嗅覚でヒットしそうな作品を嗅ぎわける必要が出てくるだろう。だが、それこそ健全な商売の姿ではないか。 ● 話を戻そう。これからは有楽町/日比谷地区は「チェーンの旗艦」という意味合いは失われ、単なる「若者のいない年齢層の高い一都市」という位置づけになるだろう。東宝の全国公開作品であっても向かない作品は有楽町/日比谷では公開されないというケースが出てくる(じつは東宝はすでに「嗤う伊右衛門」でこれを試みている) だから今後はひょっとしたら「ドラえもん」が有楽町/日比谷では公開されないなんてこともあるかもしれない。逆に言えば、恵比寿ガーデンシネマで大当たりしたなら日劇で「華氏911」だってやりますよということだ。……いや知らんけど(この稿、すべて状況証拠のみによる おれの妄想 考察である)

★ ★ ★ ★ ★
先取りスクープ! これが「エピソード3」の全貌だ!

2005年5月の公開を控えて すでに実写部分の撮影は終了。CG作業も佳境に入っている「スター・ウォーズ エピソード3」だが、先ごろルーカス・フィルムから、門外不出のはずの撮影台本が流出して、海外のファン・サイトで話題になっている。以下、複数サイトからの情報を総合して「EP3」の内容をかいつまんでお伝えしよう(多少のネタバレを含みます) ● ワーキング・タイトルの可能性もあるが、撮影用台本の表紙にはEPISODE III: THE FORCE FROM THE BENEATHと印刷されている。直訳すれば「下からの力」。やはりダークサイドからの侵略を暗示しているのだろうか。旧3部作の1本目(EP4)と「EP1:ファントム・メナス」、そして「EP5:帝国の逆襲」と「EP2:クローンの攻撃」のストーリーが密接に対応しているのはよく知られるところだが、となれば「EP3」は当然「EP6:ジェダイの復讐」に対応する物語となる。つまり「小っこくてふわふわした生き物が大活躍する話」というわけだ。なんと「EP3」は長いあいだ謎とされてきたヨーダの一族──ここでは仮にマペット・クランと呼称する──の母星(ホーム・システム)を舞台としているのだ。 ● ながびくクローン大戦での苦戦に起死回生となるべく、特命を受けてヨーダ師父の故郷である惑星ヘンソンに向かったアナキン・スカイウォーカーだったが、帝国軍の追撃を受けて沼地に不時着。そこでかれは、手足のひょろっとしたミドリ色のカエルに似た生き物に助けられ、以後、行動を共にする。酒場でひと息つく2人。ここでシリーズ初のファム・ファタルが登場。アナキン・スカイウォーカーをダークサイドへと誘惑するのは肉感的な紐ビキニ姿の(地球の豚という生物に似た)ミス・ピギーという歌姫である。こうして物語の序盤はもっぱらアナキン=パドメ=ミス・ピギーの三角関係を中心に展開する。だが、ついにミス・ピギーの魅力に負け、パドメを裏切り、ダークサイドへと堕ちていくアナキン…。傷心のパドメはヨーダに助けを求めるが、そういう時に限ってヨーダは居ない。「師父、なぜマスター・ヨーダとミス・ピギーは同一の場面に登場しないのですか?」「大人の事情というやつじゃよ」 ● 愛する人を悪の淵に奪われ悲嘆にくれるパドメを、帝国軍の刺客──危険を何よりも愛する ならず者の賞金稼ぎグレード・ゴンゾが襲う。そこへ間一髪、お馴染みのテーマに乗って現れるのがミレニアム・ファルコン号! 名コンビのハン・ソロとフォジー・ベアがここで初登場する。一方、帝国軍では新たなるシスの暗黒卿 カウント伯爵が一斉攻勢の準備を整えていたが、いちいちストーム・トゥルーパー全員に点呼させるので出撃に時間がかかって、その間にマペット・クランの助けを借りた反乱軍が快勝。宇宙にはひとときの平和が訪れ、空にはお祝いの花火が打ち上げられる中、登場人物全員によるテーマ曲の合唱を、クワイ=ガン・ジンとオビ=ワン・ケノビとジム・ヘンソンのホログラムがニコヤカに見守るのであった…。 ● 「ロード・オブ・ザ・リング」3部作を観て危機感を強めたジョージ・ルーカスは、このシリーズ最終作において、大胆な改革をいくつか実行している。まず、CGではとてもゴラムに勝てないとみたルーカスの英断で、SFXは全面的にジム・ヘンソン・スタジオに委ねられた。さらに、「シカゴ」のヒットにあやかり、ミュージカルと呼んで差し支えないほどの劇中曲がキャラクターたちによって歌われる。また、C-3POとかR2-D2などという無味乾燥な名前ではピクサーに勝てないという判断から、この2体のロボットにはそれぞれ「アーニー」「バート」というニックネームが付けられた。こうして、まったく新しく生まれ変わった「スター・ウォーズ」。2005年5月の公開がいよいよ楽しみである。なお、それに先だって2004年9月にリリースされる旧3部作のDVDボックスでは、チューバッカの出演シーンをすべてフォジー・ベアに差し替えるなど「EP3」の設定に合わせた全面的な手直しが施されるようだ。


NO MUSIC, NO LIFE(石井龍)[ビデオ上映]のチラシ

いや観てないよ。本篇は観てないが、チラシを見て(ある意味)感心したのでご紹介する。タワレコのコーポレート・コピーがタイトルになってることからも明らかなようにタワーレコードがスポンサー。企画・プロデュースは博報堂の秋原正俊…って野郎東芝のウェプサイト用に製作したインターネット短篇ドラマ・シリーズの総集篇である(当然ビデオ上映) 金を持ってるとこから、あたかもそこにニーズがあるかのごとく騙くらかして金を引っ張って、品質お構いなしで見た目だけキレイに整えてイベントを成立させて、莫大なカスリを盗っていく──じつに典型的な代理店商売である。恥ずかしくないのかアンタら? ● では早速、博報堂の見積りによる法外なデザイン料とコピー料と製作費と、もちろん博報堂の営業手数料が支払われてるに違いない最先端クリエイターの皆さんによるチラシをご紹介しよう。裏面を見るとまずいちばん大きな字で[コンセプトはコラボレーション。]と書かれている。[企業間コラボレート構想の下、タワーレコードとの大型タイアップが実現。]なんて観客にはまったく関係ないと思うが、内容をひとことで言うと[現代の迷える若者に贈る、サクセス with ピュア in ラブ系ストーリー。]なんだそうだ。恥ずかしくないスか、ほんとに? 東芝のジジイどもを騙くらかすための企画書の文書をそのままチラシに流用するのはやめるよーに>博報堂(…あ、博報堂あたりじゃチラシじゃなくてフライヤーって言うのかな?) ● あらすじ紹介を全文引用する>[日本で最も熱く、最も多くの若者を魅了する街、渋谷。その中でも、音楽情報発信として中心的存在であるタワーレコード渋谷店。井本要(高野八誠)はまさにその渋谷店のPOP/ROCKフロアーで、フロアチーフ 山田勝郎(宇梶剛士)や飯塚美鈴(石井美奈子)らに囲まれながら働く26歳。目標は洋楽トップバイヤー。だが夢は音楽プロデューサー。夢と現実の狭間で、仕事とデモテープ制作に全情熱を燃やしている。ある日、要は業界でもトップクラスの音楽ディレクター 五月女京子(岡まゆみ)の存在を知り、自分のデモテープを渡す事に成功するが…。天才ボーカル 香坂舞(桃生亜希子)、敏腕エンジニア 佐伯雅人(クリヤ・マコト)をはじめ、音楽に熱い人々が次々と現れ要の運命を大きく変えていく。将来への夢、現実との葛藤…。要は自分の夢を実現させることができるのか。突然に憧れは葛藤する…。] ● 言っとくけどおれはいっさい脚色してないかんな。すべてこのママ、印刷物として一般に配布されておるのだ。これに較べたらエイベックス松浦の「ドリームメーカー」のほうが、まだしも真面目に作ってたような気がするぞ(観てないけど) このあとにも[新進+ベテラン+初出演のコラボレーション]だの[音楽もオール ジャンル コラボレーション]だの[メディアミックスコラボレーションによるブロードバンド配信]だのといったタワゴトが延々と並べられ(タワレコのレコード袋を模したイエロー地に赤文字のデザインの)オモテ面のメイン・コピーは[マジでコクるケツイとケツダン。]、タイトル下のフォローで[ウィーッス、オレ、音楽すきっス!]だって。監督の石井龍はもちろん[若手のCMディレクター]だそうだ。ねえ、ほんとにマジで恥ずかしくないスか? アンタら、ほんとにこれを自分の過去仕事見本帖に入れて新規クライアントに堂々と見せられる? ● これにはちゃんと笑っちゃうオチがあって、タワーレコード渋谷店が舞台になってるのに、レイトショー公開するのがテアトル池袋なのだ。ダメじゃん。渋谷には同じテアトル系のシネセゾン渋谷のほかにも、渋谷シネ・ラ・セット、渋谷シネパレス、そしてタワレコの先のアップリンク・ファクトリーとビデオ上映のレイトショーが可能な映画館が少なくとも4つはあるというのに! てゆーか、そもそもこんなの(どの店が舞台だろうと)渋谷でやらなきゃ意味ないじゃん。おれがタワレコのマーケティング部長だったら、そんな無能な代理店のAEは出入り禁止にするけどね。


クソ東宝は「サービス」という言葉の意味を今スグ考えなおせ

アッタマ来た。いや、東宝の経営する日比谷シャンテ・シネのことなんだけど、なんか今度、ビデオプロジェクターを導入して休憩時間のスクリーンにまでインフォメーションやら注意書きやらを(BGM付きで)映すようになってて、おおかた将来的には休憩時間もCMで埋め尽くそうって魂胆なんだろうが、とりあえずそれに付いては措く。今日のところは是非は問わない。で、問題は前々から苦々しく思っていた場内アナウンスなのだ。いや、アナウンスったって「丸の内警察署からの掏摸・置引・痴漢の注意」だけならまだしもシャンテ・シネ3館で上映中の作品やら近日上映予定の作品やらを事細かに次から次へと解説してくれて、それでまたシャンテでやるような映画は監督も舌を噛みそうな名前が多いもんだから低脳大学生バイトがつっかえつっかえ(ときには読み間違えてクスクス笑いながら)読み上げる稚拙な場内アナウンスは、それを無理やり聞かされる観客にとっては苦痛以外の何ものでもなかったのだが──そもそも何のために予告篇というものがあると思ってるのだ?──信じられないことにビデオプロジェクターを導入した現在でも、場内アナウンスを止めるどころかプロジェクターの再生中に同時に場内アナウンスを読み上げるのである! つまりスクリーンにはさまざまなPRや注意書きが映し出されスクリーン裏のスピーカーからはBGM。そして同時に場内スピーカーからは画面とは別内容のたどたどしいアナウンスが一緒くたになって観客を襲うのである。拷問かよ! ● テメーら自分で席について映画 観たことないんだろ? だからへーきでそんなこと出来るんだよな。パカ社員がな〜んも考えずに作ったマニュアルに低脳大学生バイトがな〜んも考えずに従ってるわけだ。アンタら新聞 読みながらラジオのニュース聞けるか? パソコンで仕事しながら電話の応対が出来るか? アンタらがお客さんに強制してんのはそーゆーことなんだよ。フザけるな! どうしたら観客に気持ちよく映画(を観る時間)を楽しんでもらえるかを考えるのが映画館のサービスってもんだろ。客を酷い目に遭わせてどーすんだよ! それでよくサービス業で御座居ってツラが出来るもんだ。帰りに文句 言ってやろうとしたら、入口のエレベータんとこにもパンフ売ってる受付にも、居んのはユニフォーム着た低脳大学生バイトばっかりで(背広姿の)東宝社員は1人もいねーでやんの。バッカヤロー! テメーらは事務所に籠もって金勘定専門で、客あしらいはバイトに任せっきりかい! 休憩時間ぐらい出てきて「いらっしゃいませ」「ありがとうございました」のひとつも言えってんだこの腐れ外道が! ● [追記]この文章をアップしてすぐに、なんとシャンテ・シネの支配人から当サイトのBBSに書き込みがあり、場内アナウンス問題については善処しますとのことだった。で、先日、シャンテ・シネ3に「グッド・ガール」を観に行ったところ、ほんとうに約束を守って煩わしい場内アナウンスはほぼ全廃(!)されていた。休憩時間は、DLPプロジェクターの映像&音楽が静かに流れる(アート系ミニシアターに相応しい)ラグジュアリーな空間に変貌していた。偉いぞ!>シャンテ・シネ。ちゃんと改善されたので(本文は削除しないが)タイトルだけは撤回しておく。…もっとも東宝本社のお偉いさんは将来的には「休憩時間もCMで埋め尽くそう」って腹に違いないんだが。


恥を知らぬやつら、あるいは歴史の改竄

ゴダールの「気狂いピエロ」(念のために補足しておくと「キチガイぴえろ」である「キグルイぴえろ」ではない)が、今日ではテレビ放映の際に、局が勝手に「ピエロ・ル・フォー」などとタイトルを変えてしまうことは比較的周知であろうが、最近、同様のケースを発見した。映画ではないのだがユニバーサル・ミュージックから出たキング・クリムゾンの紙ジャケ再発シリーズにおいて、ロックに栄光の歴史を刻んだ必殺の名曲「21世紀の精神異常者」がすべて「21世紀のスキッツォイド・マン」と表記されているのだ。「スキッツォイド・マン」たあ何だよ!? これ、驚くべきことに歌詞カードの訳詞もそのままなのだ。そいじゃ訳詞になってねーじゃんかよ! 映画や曲の邦題ってのは人々の記憶に刷り込まれている大切な固有名詞なんだよ。それをテメーらの保身の都合で勝手に変えんじゃねーよ。 ● 事情は異なるが、こないだ発売された旧・角川映画のDVDから「角川春樹事務所 作品」のロゴとクレジットをすべて削除した角川大映映画の角川歴彦も同罪である。このDVDはいきなりタイトルから始まり、アタマに製作関係のクレジットやロゴは一切、出ない。ジャケットやライナーノーツからは「製作」のクレジットだけが意図的に省かれている。「製作:角川春樹」のクレジットは本篇のエンドロールと、特典映像として収録された特報/予告篇に残っているが、これは映像に載っているので切れないから。 ● 最も悪質なのはライナーノーツの監督インタビューで「角川春樹」の「春樹」だけをカットしたこと。「あの映画は角川さんから頼まれて…」 いや、そりゃ崔洋一はたしかに「角川さん」と言ったかもしれない。だが、かれがここでいう「角川さん」が「角川春樹」という個人を指しているのは明白ではないか。角川春樹事務所や角川書店という「会社」ではないし、いわんや角川歴彦であるはずもない。いいか、あの一連の映画は角川春樹という1人の男がプロデューサーとなって会社を興し、企画し、女優を発掘し、育て、配給会社に売り込み、宣伝までした作品群なんだよ。それは角川春樹が前科者になったことやアンタの兄貴であることとはまったく関係のないことだ。今回、角川歴彦がやったことは、勝新太郎や市川雷蔵の映画から大映のロゴと永田雅一の名前をカットして、あたかも「自分で作った映画」であるがごとく売るのと同じことだ。今じゃアンタも映画製作者の端くれじゃないか。映画を作って公開するのは、そしてそれを当てるのはどれほど大変なことか、身に染みて解ってるはずじゃないか。恥を知れ、恥を。


ヴァージンシネマズがTOHOシネマズになる日

すでに公式サイトのほうは2003年9月の「TOHOシネマズ川崎」オープンに合わせて「VIRGIN CINEMAS ONLINE」から「TOHO CINEMAS ONLINE」へと改称されていたわけだが、ついに既存のヴァージンシネマズのうち、まず「ヴァージンシネマズ浜松」が11月15日をもって「TOHOシネマズ浜松」と改称されることになった。おれの予言どおり残りの劇場も順次「TOHOシネマズ○○」へと改称されるらしい(六本木ヒルズだけは大家の森ビルが「TOHOシネマズなんてお洒落じゃないからイヤ」とダダをこねたので←当サイト推測、ヴァージンシネマズの名称が残るらしい) 改称と言ったって「今日から名前が変わります」と宣言すりゃ済むってもんじゃなくて館内のヴァージン・ネオンからロゴ入り絨毯から何から何まで取っ替えなきゃいかんわけで、改装費用だけでもバカにならんと思うんだが、ともあれ、あと数ヶ月うちには六本木を残して日本からヴァージンシネマズという名称は消滅する。これからは名実ともにTOHOカラーのシネコン・チェーンとなるわけである(館内のヴァージンメガストアは宝塚ショップに変身? フルハムロード・カフェはカフェ「花の道」に改称?) 常連の皆さん、阪急ペルソナ・カードへの加入はお済みですか? [追記]2004年の2月末までに六本木以外のすべての劇場がTOHOシネマズに改称された。[追記2]六本木も2004年の9月に「VIRGIN TOHO CINEMAS 六本木ヒルズ」と改称された。[追記3]さらに2006年の4月には「TOHOシネマズ六本木ヒルズ」となり、日本から「ヴァージンシネマズ」の名称は完全消滅した。 ● 唯一、ヴァージンシネマズの名称が残る六本木ヒルズとて「東宝化」の洗礼と無縁ではいられない。実際ここにはすでに明確な東宝化の兆候が現れているのである。ヴァージンシネマズ六本木ヒルズには六本木でしか観られないアート系作品を上映する場として「アートスクリーン」なる劇場が1館、設けられている。事実、オープニングの「アルマーニ」「CUBE2」から「シティ・オブ・ゴッド」「くたばれ!ハリウッド」まで、六本木という街のイメージに合った少しトンがった作品が慎重にブッキングされてきた。ところがオープンから半年を経ずして、この〈六本木独占上映〉という形態はなし崩しにされてしまった。現在 上映している「死ぬまでにしたい10のこと」(松竹配給)などは新宿ジョイシネマ3、シネ・リーブル池袋、ワーナーマイカルシネマズ板橋と同時公開なので、これはもうミニ・チェーンと呼んでもいいだろう。そもそも(おそらく座席数が丁度よいという理由だけで)アートスクリーンで「座頭市」を上映したあたりから原則は無視されていたのだ。 ● 人気の六本木ヒルズだ。ミニシアター系の配給会社からは引く手あまたのはずなのに〈独占公開〉というステータスをみずから放棄してしまうのは(ヴァージンシネマズから劇場運営を引き継いだ)TOHOシネマズのスタッフに「アートスクリーン」という劇場を育てる意識が欠けているからに他ならない。つまりこれが「東宝化」するということだ。東宝という会社のミニシアターに対する意識の低さは日比谷シャンテ・シネや日比谷スカラ座2の運用を見れば一目瞭然である。テレビCMを流すほど宣伝費はかけられないが良質の作品を細く長く上映するのがミニシアター本来の姿ではないのか。「ミニシアター」とは決して日劇やスカラ座のロードショー落ちの作品を1週代わりで上映する「キャパの小さい劇場」の意味ではないはずだ。こうした場当たり的な劇場経営が、長い目で見ればどれほど自分たちの財産価値を喰い潰しているか、どうして気が付かないのだろう。 ● 東宝の話ついでに書いておくと、先日、新宿東映の跡地に建つビルにT・ジョイ(東映)と東宝が合同でシネコンを出店するという発表があったのだが(新宿東映会館はどうやら2004年1月16日で閉館。建築期間中、東映作品は新宿スカラにて上映)──おいおい、此処ってたしか東映と松竹が相乗りするはずじゃなかったのか!?(キネマ旬報かなんかで読んだ覚えがあるぞ) すでに決まってた物件まで横からかっ浚っていく東宝の豪腕おそるべし、である。新しく出現する8スクリーン(予定)のうち、東映は現行の4スクリーンをそのまま引き継ぐとして、東宝(系)は4スクリーンの増。すぐ向かいにある新宿スカラ1・2・3&新宿文化シネマ1・2・3・4と合わせると、新宿の東側だけで11スクリーンを有することになる。それにひきかえ不甲斐なさの目立つのが松竹。おそらく新宿ピカデリー会館を自前で建て替える腹なんだろうが、建て替えてる間の代替劇場をどうするつもりなのだ???

★ ★ ★ ★ ★
さようなら新宿武蔵野館

というわけで「サハラに舞う羽根」は、かなりトホホな出来なのだが、やっぱあれでしょうな。そんな映画であっても一応は「文芸ロマンス超大作」だし、新宿武蔵野館としても「ファム・ファタール」では終わりたくなかったってことでしょうな(火暴) なにしろ武蔵野館といえば大正9年(1920)オープンという由緒ある映画館である。浅草六区の──いまはROXの向かいの区営グラウンドになっている──日本で最初の映画館・浅草電気館の開業が明治36年(1903)だから、その13年後。おそらく東京に現存する中では最も古くからある映画館ではないか。「ロードショー発祥の地」と威張ってる有楽町スバル座なんざ戦後のオープンだからぜんぜん後発組なのだ。…てゆーか、おお!、今年は日本の「映画館100年」だったんじゃないか! なんで記念行事とか記念割引とかやんないのよ?>全国興行組合。 ● たぶん世の中の人にとって武蔵野館といえば「三愛の上にある映画館」というイメージだろう。三愛がテナントとして入っている現在の建物は三代目で、武蔵野館のHPに載ってるこれがたぶん初代。二代目はたぶんこれ。おれはもちろん当代しか知らんのだが当時はすでに東宝の「みゆき座」チェーンだったので、武蔵野館といえば文芸映画/女性映画のイメージがある。たまに日劇チェーンと拡大で「スター・ウォーズ」とかやったりしてたけど、武蔵野館で「スター・ウォーズ」ってのはしっくり来なかった。逆に文芸映画/女性映画の場合は、歌舞伎町で観たほうが前後のハシゴに都合が良くても「これはやっぱカブキ町じゃなくてムサシノだろ」ってことで武蔵野館まで足を伸ばしていた。ここは新宿駅と直結していて、東口/中央口の地下から直接エレベーターで昇っていけるんだけど、地階からエレベーターに乗るには三愛のランジェリー売り場を通り抜けなきゃならなくって、あれがちょっと恥ずかしいんだよな。 ● でも、この2003年の9月30日かぎりでそんな恥ずかしい思いともさよならだ。3Fにも映画館があるけど、それは入口脇のエスカレーターから行けるのでフロアを横切る必要がないのだ。えーと、なんの話だっけ。そう、武蔵野館。さようなら武蔵野館。83年間お疲れさまでした。 ● さて、以下、蛇足だが、3階の同じく武蔵野興業が経営するシネマ・カリテ1・2・3は去年、新宿武蔵野館2・3・4と改名、この10月からはさらに新宿武蔵野館1・2・3として営業を続けるようだが、7Fの武蔵野館1がある間ならその子分として「2・3・4」を名乗るのも異存はないが、7Fがなくなった以上は「シネマ・カリテ」に名前を戻すべきだろう。本家・武蔵野館の美しさに較べたら戦後のバラックのような粗雑な作りの、ロビーを潰して武蔵野興業の事務所にしてしまったのでロクに座る場所すらない、唯一あるのが喫煙所なのでトイレに行くのすらもうもうと紫煙のたちこめる中を通り抜けなければならないような映画館が「武蔵野館」を名乗っては栄光の名跡が泣くってもんだ。そりゃまるでニュー東宝シネマ1が「日劇」を名乗るようなもんだぜ。あるいは林家こぶ平が「正藏」を名乗るような…あっ。


「二重スパイ」の背後にあるもの。※南北問題とは関係ありません。

「で? 6月の番組はまだ決まんないのか?」「それが坊ちゃんなかなか」「だから坊ちゃんはやめろって。社長と呼べ社長と。だいたいお前ら独創性が足りんのだ。おれがプロデューサーだった頃には『公園通りの猫たち』とか『北京原人』とか世間をアッと言わせるよーな…」「お言葉ですが社長、自慢話をしてる場合では」「よしケンタに言って『バトロワ』をひと月アゲさせろ」「そりゃ無理です。いま編集の現場が『画が繋がらない!』って悲鳴をあげてる最中なんですから」「じゃあクロマンになんかテキトーに作らせりゃいいだろ」「いくら黒沢満さんでも今からじゃ6月には間に合いませんて」「なら東宝に電話してなんか1本わけてもらえ」「そんなムチャな」「だいたいなんでこんな切羽詰まるまで放っといたんだ!?」「(アンタが言うか!)」 プープープー。「なんだ?」「あ、社長。ギャガの藤村社長からお電話です」「哲っちゃんから? なんの用だろ」 ● という次第で(←推定)、ラインアップを埋めそこなった東映と、ブッキングを嵌めそこなったギャガの思惑が合致して、東映の邦画番線にギャガ配給の韓国映画が登場した。ここに洋画がかかるのって、たぶんジャッキー・チェンの○拳ものやサモ・ハンの○福星シリーズ以来だと思うけど、あの頃はまだ2本立てだったから併映にはかならず東映の日本映画が付いていたわけで、洋画単独ってのは初めてだと思う。おそらく5年後に振り返ったならば、この日は東映 邦画番線「消滅」の第一歩として記録されることになるだろう。 ● いま「崩壊」と書かなかったのは、これが岡田裕介 東映社長 兼 T・ジョイ社長のあるていど積極的な意思によるものだと思うからだ。自社系列の映画館に自社製作の映画を年間を通して供給する…というのは、今となっては非常にリスキーなビジネスだ。それに対して岡田裕介が出した解答が○○東映の切り捨てとT・ジョイへの移行なのだ。シネコンにしてしまえば「○番スクリーンでは常に東映の映画をかけなければならない」などという制約はなくなる。作品が無ければ出さなければ良いのだ(その分、洋画をやればよい。あるいは極端な話、1スクリーン遊ばせといたっていいのだ) 東京を例にとれば、最後まで残っていた浅草が閉館。新宿はすでにT・ジョイへの建て替えが決まっているから、○○東映と名のつく単独館は丸の内東映と渋谷東映のみ。これとて、割り切ってしまえば自社作品が無い月はルーブル/エルミタージュ系の作品を拡大上映してれば済む話だ。現に今月など「二重スパイ」をやるよりは「マトリックス リローデッド」を上映したほうが儲かるに決まってる。 ● 近い将来──おそらくはT・ジョイ新宿のオープンと機を一にして──丸の内東映/シャンゼリゼはT・ジョイ銀座1・2に、渋谷東映/エルミタージュはT・ジョイ渋谷1・2に館名変更するに違いない…と、今から予言しておくぞ。それがすなわち東映邦画番線が消滅する日だ。[追記]これを書いた1年半後の2004年10月、丸の内東映とシャンゼリゼが「丸の内TOEI(1)(2)」、渋谷東映とエルミタージュが「渋谷TOEI(1)(2)」と館名変更された。これによって東京都内から「○○東映」という映画館は消滅した(近場では、まだ横浜の伊勢佐木町東映が残っている) [追記2]伊勢佐木町東映は2006年8月4日に閉館となった。


英語タイトルの時代へようこそ

みなさんお気付きかしらんが今年、2003年は「初のトーキー上映」や「カラー映画の公開」「デジタルサウンドの上陸」などと並んで日本の映画史上に後世まで記録されるべき年である──すなわち「洋画の配給会社が邦題をつけるのを放棄した年」として。5月に20世紀フォックスが日劇チェーンで「X-MEN 2」を、UIPがスカラ座チェーンで「8 Mile」を公開。夏にはワーナー・ブラザースがミラノ座チェーンで「HERO」を公開する(「HERO」には「英雄」という文字がデザインとしてあしらわれているが、映画のタイトルはあくまで「HERO」であり「えいゆう」ではなく「ひーろー」と発音する) ● なにを言うか英語のタイトルなんて今までにも腐るほどあったぞ…と思われるか? たしかにミニシアター系の映画を中心にポスターに英語を大きくデザインした作品はいくらもある。だがよく見てくれ給へ。それらのポスターのタイトルロゴの下やチラシ裏の解説文には必ず「読みがな」が振ってあるはず。ところが上掲の3作品においてはただ英語のタイトルのみが記されて読みがなはどこにも付かないのだ。 ● 近年に大手チェーンで公開された「RONIN」「Yamakashi」「WASABI」といったローマ字読みの作品においてすら、どこかしらに読みがなはあった。無いのは「A.I.」とか「JSA」とか「K-19」などのアルファベット・タイトル作品で、それでも「K-19」をかなりの人が「ケー・じゅーく」と発音する。読みがなを一切 振らなかったチェーン公開作品はヘラルドの「TAXi (2)」ぐらいだと思うが、まあ「タクシー」なら大概の日本人が読めるものな。でも、あなたのお子さんは「X-MEN 2」て読めます? 渋谷の街行くジョシコーセーが「8 Mile」読めると思います? ● おそらく各社の宣伝部は「今はもうそういう時代なんだ」と言うだろう。「HERO」ぐらい誰だって読めますよ。読みがななんか付かないほうがオシャレじゃないですか…と。だが、おれはそうは思わない。タイトルロゴの下に小さくカタカナを入れることがどれだけ宣伝にマイナスになるというのだろう。それをしないのはお客さんに不親切だし、宣伝部の努力の放棄でしかない…と、おれは思う。 ● ま、おれがどう思おうが関係なく今後は(特にワン・ワードのタイトルは)英語のまま公開される作品が増えるのだろう。だけど、それで「8 Mile」がコケたからって「いやあ、やっぱ日本人にはラップは難しいよねえ」とか、責任転嫁の言い訳すんじゃねえぞ>UIP宣伝部。

★ ★ ★ ★
「エルミタージュ幻想」のハイビジョン上映

エルミタージュ幻想」はHDビデオ撮影された後に35mmフィルムにレコーディングされており、オリジナルはあくまで[フィルム版]なのだが、NHKと日本ビクターの技術協力のもと、渋谷ユーロスペースに高性能ビデオ・プロジェクターを設置して2003年4月の13日(日)・14日(月)の2日間だけビデオ上映が行われた。 ● 今回、特設されたビデオ・プロジェクターは日本ビクター製のI-DLAプロジェクターDLA-QX1」。場内に掲示してあったカタログから意味も解からず丸写しするが、QXGA(2048 x 1536 ドット)の表示性能と、1,000:1 のコントラスト 7,000 ANSIルーメンの明るさを誇る最新鋭機である。価格も数千万は下らないはず。映写室の窓から覗いたかぎりでは、2台のフィルム映写機のまん中にドデンと置かれた本体の大きさはタタミ半畳ほどもあり、厚さも40〜50cmはある。おそらく大の男2人では持てないであろう、1990年にパルコのスペース・パート3で「リプチンスキーの オーケストラ」をNHKハイビジョン上映したときのソニー製RGB三灯式ビデオ・プロジェクターに匹敵する巨大さである。ハイビジョン上映自体は、昨2002年の東京フィルメックスでも行われたのだが、その時はハードディスクからの直接出力で、画面の明るさ等にかなり問題があった由。今回は公開用にきちんとカラー修正されたHDビデオテープでの上映となる。 ● さて呪文はこのくらいにして肝腎の画質だが、素人目には「すばらしい」のひと言である。映写室からスクリーンまで座席が9列しかないユーロスペース2ではきっとオーバースペックなのだと思うが、冒頭の黒画面に白文字のクレジットのシャープさには感動した。フィルム映写機と同じキセノン・ランプを光源とするDLPシネマ・プロジェクターと違って(=光源が同じなら色温度も同一なので、フィルムの色味に近づけることが容易になる)、本機は通常のビデオ・プロジェクターなのだが、にもかかわわらずビデオにありがちな下品な発色にならず品良く抑えめで、フィルムのルックにかなり近い。素材の関係か「黒」の締まりが甘いのだが「燕尾服の黒」と「黒っぽい臙脂のビロード」の見分けもはっきりつく。「蝋燭の明かり」とか「花火の火花」などが、どうしてもビデオビデオしてしまうのと、屋外に積もる雪の「白」に「青」がカブってしまってること。それとなぜかエンドロールがチカチカして見難いことを除けば(ビデオ・プロジェクターとしては)ほぼ満足のいく品質である。 ● もっとも今回の上映が土日の2日間ではなく月曜日が含まれているということは、業界向けのプレゼンテーションも兼ねてるのだろうし、逆に言えば、このクラスのビデオ・プロジェクターはまだそれほど普及には遠いということなんだが。

★ ★ ★ ★ ★
永遠の、レスリー・チャン

レスリー・チャン(張國榮)が2003年4月1日、マンダリン・オリエンタル・ホテルから飛び降り自殺した。鬱を苦にしてのことらしい。レスリーというと、おれはいつも1つのシーンを思い出す。あれは1993年の東京国際映画祭でのことだった。通常、飛行機でも遅れないかぎり、ゲストの舞台挨拶は映画の上映前に行われる。ところがその日にかぎっては「レスリー・チャンの意向により舞台挨拶は上映後に行われる」と場内アナウンスがあった。作品はレスリー渾身の演技をみせた「さらば、わが愛 覇王別姫」だ。悲痛きわまりないラスト。エンドロール。暗闇。静寂。呆然と感動にひたる観客たち。その流れ出る涙が乾くいとまもなく、オーチャード・ホールの舞台にひと筋のピンスポットが当たる。レスリー・チャンがしずしずと歩み出て観客に恭しく頭を下げる。なんという劇的な効果! もちろん場内(文字どおりに)割れんばかりの大拍手である。3階席までをも埋め尽くした観客席を見上げるレスリーの、うっとりとして嬉しそうだったこと。みんながぼくを愛してくれている──そう実感する瞬間がレスリーにとっては何より幸せだったのだろう。そう、わたしたちは、あなたを心から愛していた。あなたには、まだまだこれから主演すべき何十本もの映画と、年取ってなお助演すべき何十本もの映画があったはずじゃないか。香港映画は──そして、わたしたちは、あなたを必要としていた。あなたに注がれるはずだった幾千幾万もの「愛」が行き場を失って途方にくれている。人が、愛を喰ろうて生きられるなら、あなたには永遠の命があったはずなのに。

★ ★
興行戦争・仁義なき戦い 東京大血戦

深作欣二の追悼上映で「仁義なき戦い」を再見した直後だった所為かもしらんが「東宝がヴァージン・シネマズを買収した」というニュースを聞いて思ったのは「やくざ映画の集団抗争劇みたいな見事な幕切れだな」ということだった。 ● (以下、酒井哲のナレーションで──)1999年、ワーナーマイカルシネマズの横浜みなとみらい地区進出に端を発した興行戦争は、相次ぐ外資系シネコンの日本上陸に対抗する東宝・松竹・東映・東急といった従来からの映画(館)会社といった図式を超え、ときには外国人同士あるいは日本人同士の激突も誘発、日本中を巻き込んだ血で血を洗うまさしく「仁義なき戦い」と化したのである。 ※当時の経緯は、このページを下から順に参照のこと。 ● 指をくわえて縄張り(シマ)を奪われるのを見ているよりは…と日本サイドも──それを行えば地元の、テメエんとこの盃を受けて今まで何十年と上納金を納めてきた系列の映画館が潰れるのを承知で──直営のシネコンを建設して対抗。日本中の野っ原にシネコンが建ちならび、駅前商店街には昔からの映画館や名画座が死屍累々という光景を現出させた。 ● それから3年あまり。外資系のトップを走っていたワーナーマイカルシネマズは、日本側親会社が潰れるという憂き目に遭い失速。関東の雄・東急レクリエーションは親会社の都合で巨艦・渋谷パンテオンを擁する東急文化会館が取り壊しと決定、本拠地・渋谷における牙城を失うこととなり、ときを同じくして渋谷の隣り町・六本木に大英帝国の武闘派 ヴァージン・シネマズが最新型シネコンを鳴物入りでオープンさせて関東の本丸に乗り込む…という矢先の、今回の買収劇だった。近いうちに、ヴァージン・シネマズ市川コルトン・プラザはTOHOプレックス市川コルトン・プラザと、ヴァージン・シネマズ南大沢はTOHOプレックス南大沢と名前を改め、コーラのカップはひとまわり小さく、ポップコーンは袋入り400円となり、マイレージ・サービスを受けるためには阪急ペルソナ・カードへの加入が必須条件となるだろう。 ● ほんとは松竹MOVIXか東映T・ジョイがワーナーマイカルシネマズあたりを買収して反撃に出たりすると話としては面白いんだが、東宝のようにポンと100億の金を出すような体力は到底、両社に望むべくもない。大山鳴動して結果を見れば、古くなった系列館を軒並み潰して収益率の良い直営のシネコンを大きく増やした東宝の焼け太りである。いや、支配力/独占率が増した分だけ事態は前より悪くなったのかもしれない(これが入場料2,000円時代の幕開けでないことを祈るばかりである…) こうした東宝の姿はまさしく やくざ映画で描かれた、中小の組を吸収して巨大化してゆくとある広域暴力団を思わせる。ま、どことは言わんが、そーいえば東宝も親は関西(=阪急電鉄)なんだよな。

− − − − −
まだ観ぬ 姉御 ANEGO(一倉治雄)
…あるいは さまよえる映画館

「極妻」シリーズとどう違うのか ようわからん高島礼子主演の東映Vシネマやくざ映画。東京地区は東映東撮のお膝元 T・ジョイ大泉にてロードショーってなんだよ今回 新宿トーアじゃないのかよ。やくざ映画ってのは歌舞伎町あたりでやってるから「おい、また高島礼子の極妻、コマの前の映画館でやっとるらしいで」と業界関係者の口コミで客が入ったりするわけで、やくざはわざわざ大泉くんだりまで映画 観に行かんだろフツー。なに考えとるんだ東映は。しかも上映時間が朝10時と、夜6時15分にレイトショー10時の3回って、おどれ勤め人をナメとんのか!というタイムテーブルである。まあ文句 言っててもしょーがないので夜10時の回を観ることにして、仕事終わってからなんとか時間つぶしをして、えーとたしか有楽町線1本で行けたんだよなあ…と地下鉄に乗ったら席が空いてて座ったはいいがアルコールが入ってた所為で眠ってしまったのが運の尽き。ここからは東京圏在住者じゃないとピンと来ないかも知らんが、気が付いたら「終点、和光市。和光市でございます」との車掌アナウンス。ワワワ、ワコーシィ!? 和光市つったら埼玉県じゃねーかまいったなあ乗り過ごしたか、と とぼとぼ階段下りて階段上がって反対側のホームに行って池袋行きの電車に乗ってドアの上の路線図を見ながらT・ジョイって何処だったっけなあ…としばしの思案。上板橋? 違うってそれ上板東映だってそういえば深作死んじゃったなあと寝起きの頭でぼんやり考えてたら見覚えのある駅が。あーそうだ東武練馬、東武練馬だった、なんだまだ時間まにあうじゃねえか、やはり天はおれの味方よのおふっふっふ…と、東武練馬の駅で降りてみたら、そこにあったのはT・ジョイ大泉じゃなくてワーナーマイカルシネマズ板橋だった。呆然と立ちつくすおれの体に冷たい夜風がひゅうぅぅぅぅぅぅぅぅ。なぜだ! いったい何処にあるんだ!?>T・ジョイ大泉。ロプノール湖か。

★ ★ ★ ★ ★
特別レビュウ:私立探偵 濱マイク 第13話「最後の男」(黒沢清)

[テレビ観賞]林海象 監督による映画版3部作のキャラクター設定を引き継いで、気鋭の監督13人によってリメイクされたテレビ・シリーズの最終回。関東地方では12話に引き続き深夜2時というイレギュラーな時間に放映されたので気付かない人も多かったのではないか。 ● 脚本・監督を手掛けた鬼才・黒沢清はまたもやとんでもない掟破りを仕掛ける。なんとこの最終話において濱マイクを演じるのは哀川翔なのである。もちろん周囲のレギュラー陣は、やたらと激高もせず、決して台詞を怒鳴ることのないマイクに、えも言われぬ違和感を感じ取るのたが、その違和感の正体については理解できない。同じ横浜日劇の、同じ事務所の、同じ服装をして、同じタバコを吸っている、あなたの目の前にいる、昔から良く知っている人間が、昨日までのかれとは違っているのではないか?という強烈な違和感。そうした不条理を黒沢清はヘボ役者を1人取り替えただけで表現してみせる。 ● 全篇にわたり陰気な雨しとしとと降り続ける。「回路」の撮影・林淳一郎は本作を明らかに「ホラー」として撮っていて、虚飾とノスタルジーを剥ぎ取られた横浜黄金町の路地裏からは饐えた臭いが漂う。ロマン・ポランスキーの「ローズマリーの赤ちゃん」と「マクベス」の2本立てを上映中の場内には禍々しい空気が充満し、モギリの井川遥の顔は前髪に隠れてよく見えない。横浜日劇の薄暗い廊下の奥に市川実和子がぼんやりと浮かび上がったときにはマジで腰ぬかしそうになったぜ。 ● 今回いわゆる「依頼人」に相当するのは、黒沢清の映画においてはつねに「世界の終わりを見届ける男」の役割を負わせられる役所広司。かれは横浜光音座を根城とする女装おかまで、マイクの事務所に毎日のようにやって来てはむにゃむにゃと意味不明の言葉をつぶやき、哀川翔はまるで目に見えぬ運命に突き動かされるかのように自分が何をしてるかもよく判らぬまま時間の停まった町を右往左往する。妹の茜(中島美嘉)は、呼びかけても答えてくれぬ兄に絶望し、覚醒剤に溺れ、バスに乗って橋の向こうの町へと去っていく。1人また1人と町から人の姿が消えていき、白昼の黄金町はゴーストタウンのようになり、やがて時間が消失する。そうして、ラストシーンでついに哀川翔は見つけることになる──大岡川のゴミになかば埋もれて腐りかけている濱マイク=永瀬正敏の死体を。最終回に相応しいみごとな幕切れである。 ● なお、来週は番外篇として満を持しての山本政志の脚本・監督による、濱マイクの登場しない、黄金町の人々をメインにした「てなもんやコネクション2」が放映予定。なんでもほんまもんのちょんの間のタイ娘を主演に起用して、強引に仲通りで派手なロケをしたらしく、地元のやくざ&横浜入管とひと悶着あったらしい。

★ ★ ★ ★ ★
新宿昭和館のこと

新宿で「悪場所」というと大抵の人は歌舞伎町を挙げると思うが、かつては新宿駅中央口から南口にかけての界隈も女コドモには近寄り難い空気がたちこめていた。そこには中央競馬会の場外馬券売場があり、一泊千円のベットハウスがあり、何軒ものパチンコ屋とファッション・マッサージ、テレクラ、レンタル・ルーム、個室ビデオ、ピンク映画館などの風俗店が軒を連ね、安い定食屋と立食いそば屋とラーメン屋と牛丼屋とまんがの森と・・・新宿昭和館があった。 ● 新宿昭和館。昭和7年(1932年)に開館。太平洋戦争で焼失(?)するが、戦後の昭和26年(1951年)に再建され、新東宝の封切館として再オープン。新東宝がなくなった昭和30年代後半からは東映の二番館に。時まさに東映仁侠映画の勃興時である。仁侠映画路線の嚆矢とされる沢島忠・監督「人生劇場 飛車角」の公開が昭和38年(1963年)3月16日だ。新宿追分に居を構える本家・新宿東映とともに、連日満員の客席からは高倉健の雄姿にエールが送られ、鶴田浩二の背中にむせび泣き、藤純子の艶姿に陶酔し、若山富三郎に爆笑した。仁侠映画は実録やくざ映画へと移り、菅原文太がスターとなり、やがてそれも途絶えた。東映が女性やヤング向けの映画に悪戦苦闘するかたわらで、昭和館は時の歩みを止めた。「昭和」の名を冠した映画館は、昭和の時代に作られた何百本という仁侠映画・やくざ映画・アクション映画をエンドレスにリピートするようになった。 ● 映画館の外ではバブルの時代が来て、中央競馬会はアルファベット3文字に、場外馬券売場は洒落たカタカナ名前になり、南口の大規模な再開発でベットハウスは巨大なタカシマヤ・タイムズスクエアとなり、新宿東口から新南口にかけては幸せそうなカップルやファミリーの闊歩するエリアになった。店は次々に代替わりしてファッショナブルに改装され、街の景色は一変した。裏通りにかろうじて生き残っている「競馬のテレビ中継目当ての客たちの紫煙たちこめる喫茶店」が全席禁煙のスターバックスになるのもそう遠い日のことではないだろう。 ● そんな時代にあって新宿昭和館は居場所のなくなった男どもの避難所として機能していた。全席自由、入れ換えなし。飲み食い睡眠いびき可。ここでは喫煙さえ大目に見られる。スクリーンに映し出されるのは、まだ野蛮で元気がよかった頃の日本の姿。明治から昭和初期を舞台とする仁侠映画で描かれるのは義理人情礼節。失われた価値観。ところどころ居眠りをしながらスクリーンを眺めて観客たちは、少しばかりの幸福と安心を胸に、家路に着く。 ● その昭和館が2002年4月30日を持って半世紀余の歴史の幕を閉じた。閉館の原因は建物の老朽化。世間にはまた「これで名画座の灯がまたひとつ消えた」という類の言説が溢れた。 冗談じゃない。 「名画座」なんてものはとっくに日本から絶滅してるのだ。いま生き残ってるのは名画座じゃなくて「ミニシアター二番館」だ。今の時代は女性客やカップルが来なければ名画座(二番館)といえども生き残れないから。 ● 思えばつい最近までは映画館そのものが「悪場所」だった。かつてスクリーンでは暴力刑事がマグナムをぶっ放したり、マスクの怪人が若者の首をちょん切ったり、まだ胸がシリコン製じゃなかった金髪のネエちゃんがヨガったり、でぶのコメディアンが顔面でパイを受け止めたりしていた。いつの間にかそうしたものはレンタルビデオ屋の棚に押し込められ、番号順に入場させられる飲み食い禁止の映画館ではデートムービーや女性映画ばかりが上映される。いまはそういう時代だ。 ● 閉館後は建て替えられてビルになるという。映画館がテナントとして入る可能性もあるようだが、そこで健さんの「唐獅子牡丹」が流れることはもう決してない。──さらば、新宿昭和館。
※「サイゾー」2002年6月号 所載分に加筆。

★ ★
堤義明が新しく始めた殿様商売

2002年4月25日にオープンした品川プリンスシネマに行った。品川プリンスホテルの裏に新しく建てたエグゼクティブ・タワーにオープンした10スクリーンのシネコン。外資系でも東宝でも松竹でも東映でもなくプリンスホテルの自社運営。立地は品川駅前だけど敷地の奥のほうなので、電車を降りてから映画館までは歩いて10分ほどかかる。改札をくぐって横断歩道を渡って(専用の歩く舗道とかは無いのだ)ウィング高輪という商店街を抜けると目の前にそびえるエグゼクティブ・タワー。だがビルに入ってはいけない。右手の(案内板とか一切ないけど)だんだら坂をてくてくてくてく登ったところが映画館の入口である。 ● 入替制の全回全席指定。チケット・カウンタで「お席はどのあたりがよろしいですか」と座席表を見せてくれたので間髪を入れず「X-00」と座席を指定すると、やや間があってから、チケットを発券して、カウンタ嬢がチケットを おれに手渡しながら「当劇場では、お客様に ご自由に席をお選びいただけない場合がございますのでお気を付けください」とひと言。むかーっ! なんだよそれ!? どうやら客は「真ん中へん」とか「後ろのほう」ぐらいしか言っちゃいけなくて、あくまで座席はカウンタ嬢が決めるというシステムらしいが、座席表 見せてくれたのはそっちじゃんかよ。てゆーか、客に向かって何その口のききかたは? ● 「パニック・ルーム」はスクリーン5での上映。傾斜の付いた219席。スクリーン前にちゃんと「ステージ」が付いてるのはシネコンには珍しい? カップホルダーは「肘置きの突端」ではなく「肘置きの下」に付いている。ちょうど膝の横あたり。つまり「映画を観ながら横目で」置いたりするとコボしちゃいそうな位置にあるのでお気を付けください。変わってるのは場内の左右両端にそれぞれ1行1脚ずつラブシートが設けられていること。これ、背もたれは別々だけど座面がベンチシート式に1枚なのだ。サウンドはまあ標準的(充分に良い音だけど「おおスゲェ!」ってほどではない) ● 間違いなく現存の映画館 随一なのがトイレ。小便器20基&個室7というスケールは他にもあろうが、男性トイレで洗面台12基にエアータオル機6台をズラリと並べてるのはココだけだろう。内装全般もホテルが運営してるだけあってシック。ただしゴテゴテしてない代わりに案内の類が少ない。たとえば場内を出て、長ぁーい廊下の「どっちが出口?」と迷う。まあ、左右を見比べて「あっちが番号が少ないから出口かな?」と解かるけど。 ● この劇場を語るうえで欠かすことが出来ないのが10スクリーン中4つを占める〈プレミアム館〉の存在である。この4スクリーンで上映してる映画はレディースデーやシニア割引一切なし2,500円均一しかも、なんと1,300円の前売券を持ってる客からは1,200円の差額料金を徴収するんだそうである! って、そりゃ変だろ。どー考えたって[2,500−1,800]で差額は700円だろ。※ちなみに普通の映画館では前売券から指定席へのお直り料金は(前売券の価格に関係なく)[指定席料金−当日料金]で計算される。 ● しかもしかも、たとえばヴァージンシネマズでは、プレミア・スクリーンで上映してる映画はたいがい通常料金のとこでも同時にやっていて、客は「どちらで観るか」を選択できるのだが(…だよね?)、ここ品川プリンスシネマではプレミアム館でかかる映画はそこでしか上映してないので否応なく2,500円を支払わにゃならんのだ。いや、百歩譲って「スパイダーマン」や「ロード・オブ・ザ・リング」や「ブラックホーク・ダウン」に2,500円 払うのは納得してもいいよ。だけど、「ローラーボール」や「光の旅人」や石原裕次郎2本立に2,500円払えってのは気が狂ってるとしか思えんだろ。てゆーか、観たやついるのか?>2,500円払って「ローラーボール」を。おれがアレに2,500円 払わされたら劇場に火をつけてるね絶対。 ● で、2,500円払って何の特典があるのかというと(HPとかで見ると)いちおう全席ペアシートらしいけど、それだけで、ほかには何の特典もないのだ。専用ロビーがあるじゃなし、ポップコーンも付かんしドリンク飲み放題でもない。もちろん喫煙可ってわけでもない。それともアレか? ひょっとして隣駅・五反田の駅裏で働くオネーサンが個人的なサービスしてくれたりとかすんのか?「ローラーボール」だけに花びら大回転とか?…いやなんでもないです忘れてください。そうかソレ込みで2,500円なら安いかも(火暴) ● ま、よーするにこれは、おれがプリンスホテル・グループマーケティング・ターゲットから外れてるってだけで、入口脇には親切にも託児施設(1時間2,000円)まで併設されているので、赤ちゃんのいるヤング・コンシューマー・カップルなら、子どもを預けて2人でプレミアム館で映画をラグジュアリーに楽しんでも1万円でお釣りが来るし、また言うまでもなくエグゼクティブ・タワーの上層階はプリンスホテルの客室なわけで、映画のあとはホテルレストランディナーを楽しんであとは部屋でイッパ…あ、いや2人だけの夜を演出するのも可。というわけでリッチアーバンな皆さんにはファースト・チョイスですね。…けっ。


ぐだぐだ言ってねえで はよ見せろ!

DVDのメニュー画面が嫌いである。いや、あの、アクセスするたんびにいちいち絵がしゃかしゃか動いたり喋ったりするやつ。われわれはパソコン用のCD-ROMでさんざんこーゆーのは懲りたはずではなかったのか。そーゆーことがしたけりゃ最初からゲームを買うんだよ。映画のDVDを買うのは映画を観るためだ。メニュー画面にアクセスするのは特典映像を観るためだ。客はやくたいもないお遊びが見たいんじゃなくて一刻も早く目的の映像に切り替えたいからメニューを使うのだ。いったいDVDメーカーはユーザー・インターフェイスとゆーものをどー考えておるのだ!? 考えるべき〈デザイン〉は「どんな趣向にするか」じゃなくて「いかにエンターキーを押す回数を減らして明解かつ平易なアクセスを実現するか」だろ。メーカーみずからユーザーのアクセシビリティを阻害してどーする!? ● そうした愚かな風潮の極めつけがこんど発売された「ハリー・ポッターと賢者の石」のDVDである。なんとこのDVDでは特典ディスクに収録された未公開映像を観るためには、まずメニュー画面の中を探してお宝アイテムをゲットして、さらにクイズとゲームをクリアしないといけないのだ。テメーらいーかげんにしろよ。なんでおれが大した才能があるわけでもないクリエーターの自己満足に付き合わされなきゃいかんのだ。ぐだぐだ言ってねえで はよ見せろ! ● というわけで>「ハリー・ポッターと賢者の石」DVDの未公開映像を労せずして観る方法


東宝モーガン・フリーマンまつり@みゆき座

モーガン・フリーマンはお好きか? ミステリ小説を愛読してる? じつはそんな貴方に打ってつけの企画がある。5月・6月に日比谷みゆき座でモーガン・フリーマン主演のミステリ映画が連続上映されるのだ。まずは5月11日からモニカ・ポッターを共演に迎えてモーガン・フリーマンが「コレクター」と同じ刑事を演じるシリーズ最新作「スパイダー」(東宝東和配給)が公開。続いて6月からは「コレクター」の相手役アシュレイ・ジャッドと再び共演した「ハイ・クライムズ」(20世紀フォックス配給) アメリカでは去年の4月に公開済の「スパイダー」を今の今まで取っておいて、最新作の「ハイ・クライムズ」と2本続けて同じ俳優の同じミステリ・サスペンス映画を同じ劇場にブッキングするなんざ「さすがは東宝編成室」としか言いようがないな。こんな独創的な作戦 だれも考えつかんだろ。だってほら、全国数百万人のモーガン・フリーマン ファンのみんなはモチ 2ヶ月続けて映画館に通っちゃうし、「スパイダー」を観たお客さんは「ハイ・クライムズ」の予告篇を観て「ぜったいコレも観よう」って思うに決まってるジャン。これで2本とも大ヒットを約束されたようなもんだ・・・って、ンなわけねーだろ! ● 今、みゆき座チェーンの、つまり「友へ チング」を上映してる映画館じゃ次回作「スパイダー」と次々回作「ハイ・クライムズ」の予告篇が連続上映されてて、どっちもミステリ・サスペンス映画だから当然おんなじよーな予告篇で、なんかもうワケワカラン事態になっている。しかもまた両作品のポスターが、デザインといい色味といいソックリなんだわ(>比較画像) なにを考えてこーゆーブッキングをするかね? ひょっとしてバカか? 本物のバカなのか!?>東宝編成室。 ● ちなみに原作は、前者がジェイムズ・パタースンの「多重人格殺人者」、後者がジョセフ・フィンダーの「バーニング・ツリー」で、どちらも新潮文庫。ということで現在、新潮文庫では「モーガン・フリーマン Yonda?フェアを開催中。お買い上げの方にはもれなく「モーガン叔父さんのイラストしおり」をプレゼント中(嘘です) ● 最後にもうひとつ東宝編成室には、「スパイダー」の公開をワザと「スパイダーマン」と同じ5月11日にぶつけて、「スパイダーマン」を観に来た頭の足りない客が「えーとぉ…スパイダー2枚」とか間違えることをひそかに期待してるんじゃないか疑惑が囁かれているらしい(嘘だってば)

★ ★
2002年の正月早々、T・ジョイ大泉まで行ってきた。

東映・岡田茂 会長(当時)のドラ息子・岡田裕介が陣頭指揮を執り、練馬区大泉にある東映東京撮影所の敷地を削り取って建設したシネコンである。つまり東映が(ある意味)社運を賭けて東映城の本丸に築いた劇場…のはず。 ● まず駅からちょっと遠いな。西武池袋線・大泉学園駅から徒歩15分弱で、距離としちゃ桜木町→WMCみなとみらいとたいして変わらんし、駅前には親切な案内看板も出てるんだけど、途中の道筋が普通の市街地で劇場の姿が見えないので不安になる。OZスタジオ・シティというショッピンク・センター(?)の4F。スクリーン数は9。エレベータを降りると正面にロビーとチケットカウンター。左右に各劇場への通路が延びている。チケットはロビー/通路の境でモギる方式。自由席入替制(混んでる映画は指定席制になる?) まだ2001年の12月15日にオープンしたばかりとあって、客もシネコン形式に慣れてないらしく、入替え時には1枚のチケットで別の映画に入場しようとして係員に制止されるおばはん、「ハム太郎」だけもう一度観たいんですけど とゴネるお母さん…と大変な騒ぎになっていた。ね、練馬区って…。 ● DLPシネマ映写機が常設されてるのはシアター4。入ってみると250席の劇場とは思えないほど空間がたっぷり取ってあって好印象。客席のスロープもなだらか。後ろを向くと映写窓が2つ。DLPシネマ映写機と普通の35ミリ映写機が仲良く並んでる。座席はやや硬めで座り心地良好。前席の背もたれにハンドバッグ掛け(?)のフックが設置してあるのは初めて見た。スライドはなし。上映前の注意事は録音テープで。素っ気ない東宝と違って親しみやすいもの(アニメ系の声優さんか?) 細かいことだけど「ゴミはお帰りの際に出口で私たちが回収しています」という言葉遣いに感心した(普通は「係員が」と言うだろ?) 映写効果については(ちょっと作品に問題があって)保留とするが、音については各チャンネルの分離が驚くほど明確で、つまり左チャンネルの音が左のスピーカーから出てるのがはっきりと認識できる。これは必ずしも褒めてるわけではなくて、おれは個人的にはデジタル臭くて嫌。 ● トイレはロビーに1箇所。ビデみたいなサイズの子ども用便器を設置した個室があるのは偉い。だけどその個室の横幅が他のシネコン比70%で狭苦しいのはちょっと。こういうとこでゴージャス感に差が出るんだけどねえ。 あと売店でパンフの見本がマガジンラックに挿してあって、手にとって見られるようになってるのは偉いぞ。 ● さて東映東撮敷地内に作ったシネコンということで、ロビーには東撮ゆかりの展示がいくつか。いちばん目立つところにあるカラーパネル展示は松田優作(常設ではないかも) ちょっと奥まったところに(こちらはたぶん常設の)高倉健吉永小百合の写真パネル&右腕のブロンズ像。「ホタル」までの出演作203本中136本が東映東撮作品だという健さんは文句ないとしても、吉永小百合はいくら近年、東映に出てるといってもやっぱ日活女優だろよ。 劇場通路脇には「東映東撮貢献者」と題された6人の写真と手形が。ここで「はぐれ刑事純情派」を撮りつづけてる藤田まことと、深作欣二・降旗康男・佐藤純彌の3監督はわかるとして、あとの2人がなんと(「トラック野郎」の菅原文太でも「ビー・バップ・ハイスクール」の仲村トオルでも「極道の妻たち」の岩下志麻でもなく)東映会長(当時)の岡田茂社長(当時)の高岩淡なのだ。アホか。企業の経営者の(もっと言えば監督の)手形なんて飾ってお客さんが喜ぶと思ってんのか!? てゆーか嬉々としててめえの父ちゃんの手形 飾るたぁ、どーゆー了見だよ!>岡田裕介@T・ジョイ社長。


恐怖学園(山口誠)[キネコ作品]

開映前の場内アナウンス>[まもなく9時10分より、予告篇に引き続き本篇を上映いたします。なお「恐怖学園」はソフトフォーカスで撮られました作品でございます] …な、なんだぁ!? そんな上映アナウンス聞いたことねえぞ。で、数本の予告篇に続いて「恐怖学園」が始まった・・・バ、バカヤロー! こりゃソフトフォーカスじゃなくて、近頃じゃお目にかかれんほど品質の劣悪なキネコなんじゃねーか! なぜそんな見え透いた嘘をつく!?>テアトル池袋(ちなみにおれは事前にチラシに「35mm/ビスタサイズ」とあるのを確認して観に行ってる) 頭に血がのぼって3分で退出。金は返してもらった。ま、さすがにこれは「映画を観た」うちに入らないケースであり、作品レビュウは不可能なので星も付けないが、今回はどうしても書きたいことがあるのでこの作品の成立事情について書く。 ● 「恐怖学園」は「ビデオ撮りの美少女ホラー・オムニバス」であり、有名直前のアイドルたちが大挙して出演している(チラシには15人の小学生〜高校生の女の子たちの顔写真が載っている) おそらく同じパル企画が5月に新宿ジョイシネマで公開した「悪魔が棲む家2001」の第2弾という位置づけになると思われる。当初「HOUSE 2001」というタイトルで撮影され──勝手にタイトルを使ってオリジナル版の関係者からクレームが付いたのであろう──あとから「悪魔が棲む家2001」と改題されたこの作品は「レイトショー/連日イベントあり/料金2,500円という、あからさまにアイドルおたく/カメラ小僧にターゲットを絞った異色な興行をおこなった。その後のビデオ/DVDも含めて結構な儲けになったのだろう、味をしめて今度はテアトル池袋を騙くらかして第2弾「恐怖学園」とあいなったわけだ。今回は舞台挨拶のある毎週土曜日のみ2,500円で、日曜から金曜は通常料金…ということでおれも観に行ったのだが。 ● いやアイドル映画を作るな、と言ってるんじゃないよ。アイドル映画は映画の王道だ。ある種のアニメ映画のように特定のファン層に向けたマーケティングも、もちろんアリだと思う。だが、おれがこいつらを許せないのは、こいつら映画の出来なんてちっとも気にしちゃいねえんだよ。自分たちが売り出そうとしてるアイドルたちを、なんでいちばんキレイに写そうとしてやらない? アイドルおたく/カメラ小僧なんざ舞台挨拶がありゃ何だって金払うんだから映画は粗悪品だって何だっていい…と思ってるに違いねえんだよ。ザケんなよ。はっきり言おう、パル企画は映画の敵である ● そして、あんなアナウンスをするぐらいだからきっと観客から何度もクレームが付いたのだろう、素直に「ビデオ撮影された作品でございます」と認めりゃいいものを姑息な嘘までついて誤魔化そうとしたテアトル池袋も、もちろん同罪である。だいたい夜がこの「恐怖学園」で、昼間がやっぱりパル企画 製作・配給のビデオ撮り「Star Light」(←こちらはライジング・プロの宣伝映画なので、製作総指揮としてクレジットされている平社長が魔法のように捻出した製作費をたんまりもらったらしく通常料金での興行。きっとライジング・プロの出入り業者や芸能学校の生徒たちは山のように前売券を買わされてることだろう)で、さらに「恐怖学園」に続いて27日からのレイトショーはこれもパル企画のビデオ撮りのVシネマ「パチスロひとり旅」(坂上忍 主演)・・・って、おまーら いったい「アジア映画専門館」て括りはどーなったんだよ! 渋谷や新宿と違って経営が苦しいのはわかるけどさあ。金になりゃ何でもいいのか!? 保証興行なら何でも受けるのか!? 最低限、嘘アナウンスは今すぐ止めろよ。な? ※「Star Light」と「パチスロひとり旅」がビデオ撮りというのは予告篇がキネコだったことからの判断。ちなみに「恐怖学園」は事前に予告篇でチェック出来なかったのだ。

★ ★ ★ ★ ★
ヴァージンシネマズ市川コルトンプラザに行った。

先行オールナイトにも公開初日にも行かなかったからって、おれが「ドリヴン」に期待してない…などと思ってもらっては困る(困ると言われても…) 最大の期待作はぜひ最高の環境で楽しみたいと思って、わざわざ本八幡の「ヴァージンシネマズ市川コントンプラザ」まで川を越えて越境してきたのだ。まだ全国に5サイトという堅実な展開をしているヴァージンシネマズ・チェーンの旗艦。9スクリーンすべてがTHXなどというキチガイじみた仕様は全国でもここだけ() おれは普段、近場のシネコンのTHXスクリーンで上映されるような映画は、新宿や渋谷の大劇場で観てしまうので、じつは今回がTHX初体験である。うーむ、ドキドキするなあ。場所がヴァージンだけに…最初はやっぱり痛いのかしら? あ、すいませんすいませんごめんなさいもうしませんから今の発言は撤回しますごめんなさい。 えーと、通路と場内は休憩時間中でも薄暗い。場内の内装も黒っぽくてスクリーンの反射を防ぐようになっている。さて、実際に上映が始まって実感するのはスピーカーの音圧である。コンサートに行ったときにステージ脇に積み上げてある巨大スピーカー群から感じる類の、音がこちらにぐぉんと押し出してくるようなアレである。サウンドが下腹にズンと響いてアタシったら思わずジュンって濡れちゃっ…あ、いや。 えー、スクリーンの明るさも申し分なく、おかげで「ドリヴン」も、いつもの新宿東急で観るよりは3割ほど印象がアップしてるのではないかと思う。 ● せっかくの遠征なので、ついでに「千と千尋の神隠し」「A.I.」「ジュラシック・パークIII」もハシゴして来た(←キチガイ) 本篇上映の前には(ドルビーデジタルとかDTSロゴに続いて)THXのロゴが誇らしげに上映されるんだけど、このTHXロゴのアニメーションが4つのスクリーンですべて違うのにはビックリした(全部で何パターンあるんだろうか!?) そーゆー、意味のないとこに金をかけるのがおたくの証拠ですな>ルーカス。 ● 「千と千尋…」はいちばん大きいスクリーン1(369席)での上映。これくらいのキャパだと同じスタジアム形式の劇場で比較しても、新宿ジョイシネマ2(305席)や渋谷ジョイシネマ(232席)あたりよりはふた回りくらいデカい感じ。見た目はそれこそ日比谷スカラ座(654席)と大して変わらない印象なのである。つまりスクリーンの大きさも都心のロードショー館と遜色ないということだ。 日比谷スカラ座でのデジタル上映と比較すると、色合いはデジタルでもフィルムでも ほぼイコールなのだが、意外なことに暗い場面の表現力はDLPのほうが上だった気がする。 ● あと気付いたところをバババッと列記する。劇場全体の配色はヴァージンのコーポレート・カラーである「赤&紫&濃黄」という派手なもので、照明も全体に暗めで大人の雰囲気。だけどトイレの内装が「赤と黒」ってのはやり過ぎだと思うが。 チケットカウンターは(ヴァージン航空のイメージなのか)客とを隔てるガラスのない空港のカウンター・スタイルで、チケットはいつでもどの映画でも全席指定。ワーナーマイカルシネマズと違ってここではある程度 希望の席を選ばせてくれる。 ロビー&劇場間通路はすべてオープンスペースで劇場入口でスタッフがモギる方式。つまり上映が始まってしまえば(チケットの有無に関わらず出入り自由ということである。 場内にはサントラではなくヴァージン・メガストア提供の洋楽が流れている。 9スクリーンのうち1つは「プレミア・スクリーン」。飛行機のファーストクラスをイメージしてるようで、ここだけは「通常の映画館の指定席料金程度」の割高料金だが、その代わり専用のラウンジ&バーが付いていて(案内チラシの写真を見るかぎりでは)椅子とかも豪華みたい。希望すれば席まで飲みものとかを持ってきてくれて、男性客には金髪ギャルのマッサージも…すいません嘘です。 売店では、昔デパートの地下によくあった「キャンディの量り売り」とか「たこ焼き」とかちょっと毛色の変わったものを売っている。飲みものはもちろんヴァージン・コーラ。ポップコーンには塩味とキャラメル味があって、ロビーにはカラメルシロップの甘ったる〜い香りが充満していた。 ただロビーはあるけどタダで座れる椅子は無い。「座りたければ併設されてるカフェへどうぞ」ってことらしい。しかしカフェの名前が「フルハム・ロード」って…三浦さんの店!? ● それと現地のチラシで知ったんだが、ここんちって名画座らしきこともやってるのな。例えば9月からは「ギャラクシー・クエスト」「17歳のカルテ」「あの頃ペニー・レインと」「アメリカン・サイコ」「ドラゴン 怒りの鉄拳」「ユリョン」「連弾」「あの子を探して」「初恋の来た道」…といったミニシアター系作品をなんと当日1,000円でしかも豪華なプレミア・スクリーンで上映するのだ。ま、もともと全席指定なので割高のプレミア・スクリーンは休みの時期以外は客が入らないせいだと思うけど、それにしても…偉いぞ!>ヴァージンシネマズ。 ● これでワーナーマイカルシネマズ新百合ヶ丘・板橋・市川妙典、東宝=ソニーのシネマメディアージュ、AMCイクスピアリ16、東急系の109シネマズ木場、ヴァージンシネマズ市川コルトンプラザと体験してきたわけだが、今回のヴァージンは設備・接客ともトップクラスだと思う。シネマイレージってやつで6本観ると1本タダになるらしいし、汐留か六本木の再開発地区あたりに入らねえかなあ>ヴァージンシネマズ。 まだ行ったことないシネコンで、松竹系のムービックスと東映系のT・ジョイは近場にないので除外するとして、ユナイテッドシネマが埼玉県の入間(いるま)にあるんだよなあ。うーん、入間かあ…。

THX:ジョージ・ルーカスが提唱する「原音/原画の忠実な再生を目的とする規格」で、まあ映画に関するJISマークみたいなものである。ドルビーデジタルとかDTSみたいにフィルムに「THXサウンド」が記録されているわけではない。たまにエンドロールにTHXロゴが入っている映画があるが、あれは「THX仕様に基づいてマスタリングされました」という意味である。映画館の場合の「THX仕様」とは、場内のレイアウト/スピーカー/アンプの設定から防音性/反響/明るさといった細部にいたるまでTHX社の定めた厳しい基準にパスした劇場にのみ与えられるタイトルである。とうぜん劇場の建設費がかなり割高になるので、普通のシネコンはいちばんキャパの大きいスクリーン1館のみをTHXにすればいいほうである。ちなみに「THX」という名称はルーカスの商業映画デビュー作「THX1138」に由来する…のは言わずもがなですな。

★ ★ ★ ★ ★
特別レビュウ:真・極道の妻たち 組長の亡霊(深作欣二)

岩下志摩が1998年の「決着」以来、3年ぶりに「極妻」に帰ってきた。本作とは別に、東映ビデオ製作による高島礼子 主演の新作も進められていて、今後は高島バージョンと岩下の「真・極妻」シリーズを並行して製作していく方針のようだ。冒頭の絢爛たる襲名披露のシーンに高島がゲスト出演するというお楽しみもあったりして、「バトル・ロワイアル」で当てた東映&深作、もうイケイケである。 ● タイトルからおわかりのように、なんと「ハムレット」の翻案である。「亡霊の出てくるやくざ映画」ってのは前代未聞ではないか。日大英文科でシェイクスピアを専攻したという笠原和夫の脚色。2時間20分。堂々の大作である。ストーリーは大筋「ハムレット」のとおりで「優柔不断な先代組長の実子(じっし)が、いつ根性きめて侠(おとこ)になれるか」を軸に進んでいく。笠原和夫が見事に大阪弁に移し変えたシェイクスピアのダイアローグの魅力と、初めて「極妻」のメガホンをとる深作欣二ならではのダイナミックな群像演出で、グングンと観客を惹きつけて放さない。で、また「ラース・フォン・トリアーがなんぼのもんじゃい」って勢いでカメラが揺れる揺れる! ● キャストも豪華で、関西随一の広域暴力団「伝馬組」の急逝した先代組長に、長門裕之。その「姐」にもちろん、岩下志摩。姐と再婚して2代目組長となった先代の弟「黒田靖男」に、津川雅彦。先代が年とってからの一粒種である実子に、村上淳。村上を「ぼん」と呼ぶ、津川の懐刀である若頭(かしら)、通称"ぼろ安"に、綿引勝彦。広島で修行中の かしらの息子に、的場広司。その妹で村上の恋人に、柴咲コウ(どしゃぶりの中での壮絶なレイプシーンあり) 村上と固い信頼で結ばれた若衆頭「蓬来四朗」に、哀川翔。実子の首をつけ狙うブラジル人2世のヒットマン・コンビ「ローゼン倉津とギルデン須田」に、大杉漣と田口トモロヲ。終盤にちょろっと出てくる火葬場の係員に(特別出演の)ビートたけし と泉谷しげる。最後の最後に神戸の屋敷に乗り込んでくる「関東乗栄会」の本部長に、竹内力(ラストカットは哀川翔との睨みあい!) ただ、成田三樹夫が存命なら黒田の役に適任だったのにと、それだけが残念だ。 ● 「どないせえちゅうねん」が口癖だった村上淳が、震える手で拳銃に弾丸を詰めながら「こないなったら、こまいこと気にしとってもしゃあないわ。雀がおっ死ぬのもお天道さんの決めるこっちゃ。やらなあかんことはいまやりゃあ、もうやらんでええし。あとで言うとってもいつか来るこっちゃ。いまやらんでも、いつかやらなあかんねん。覚悟決めるこっちゃ。命がなんぼのもんじゃっちゅうねん。ええい、捨てたろやないかい。…構へんわい」と独白する場面。これにはグッと来た。そして、ここからが原作戯曲と違うところで、壮絶な銃撃戦の末、村上淳は的場広司に殺されてしまう。ここに至ってついに津川の卑劣な悪だくみを悟った志摩姐さんが長ドスを抜いて的場を一太刀で斬り殺す。そして「夫」の津川にも刃を向ける「お、お、おどれ亭主にドス向けるんか!それでも極道の女房か!」「極道? …そんなもん知らんわ。わては(村上淳の冷たい骸(むくろ)をアゴで指して)その子の母親や」 くぅ〜っ、カッコイイぜ姐さん!(「『総長賭博』の二番煎じやんか」ってツッコミは禁止な。あと、岩下志摩で「極妻マクベス」もいけそうな気が。てゆーか、大阪弁と広島弁の区別がついてないぞ>おれ)


109シネマズ木場に映画を観に行って映画を観ないで帰ってきた。

新宿ミラノ座とか渋谷パンテオンを経営する東急レクリエーションが横浜の港北に続いてオープンしたシネコンである109シネマズ木場に映画を観に行って映画を観ないで帰ってきた。 ● 木場は日本橋から東西線で3駅。アッという間に着いてしまう。「へえ、意外に近いじゃん」とか思ってると地下鉄の出口案内板に109シネマズの表示がない。とりあえず改札口は2つ。右か、左か?「えーと、なんかのスーパーの中に入ってるんだよなあ、マイカルじゃないしえーと…」とか思って案内板を端から端まで読むが、どっちにしても大型スーパーマーケットの名前は記載されてなかったり。しようがないから手近のエスカレーターを昇って「嫌だなあ、おれってまるっきり田舎者じゃん」とか思いながら改札口の駅員さんに「すいません映画館はこっちの出口でしょうか?」と訊ねると「イトーヨーカドーですね。その先の出口を出て左です」とかアッサリ言われて「あ、やっぱおれのこと田舎者だと馬鹿にしてる」とか被害妄想を膨らませつつ地上へ。ところがそこは何処も同じ東京の街並。え、駅前じゃないのかよ!>ヨーカドー。寒風吹きすさぶなかを「やっぱ、ぴあとか持ってくれば良かった」とか被害妄想を後悔へと変換しつつうろつくことしばし。あったあったありましたよイトーヨーカドーのネオンが(けっきょく遠いほうの出口から出たみたい) あれはなに川なのだろうか屋形船とかが接岸してるすぐ隣のだだっ広い敷地に建っていた。 ● ヨーカドー店内を抜ける。広れえなあ。あんまり広くて置く商品がないのか通路とかに付き添いのお父さんが休めるベンチがやたらと沢山ならんでるぞ(でも館内は全面禁煙) ● 映画館は3階。平日の夜なので全自由席。いいぞ。目当ての映画がかかってるのは席数94のシアター6。ちぇ(後でぴあで確認すると2番目に小さい劇場だった) 入り口からスタジアム形式の客席横をぐるりと回りこんでスクリーン下に出る仕組み(銀座のテアトルシネマみたいな感じ) 入ってビックリ。客席の段差が新宿東映パラス2級の急傾斜だ。これではスタジアム形式ってよりアルプス・スタンドでは? 椅子のサイズはシネコン標準。カップホルダー付き。ただ背もたれのちょうど首があたる処が凸っていて、なんか首の後に枕を当ててるみたいで、こーゆー「座る姿勢を規定してしまう椅子」ってのはかえって座りにくいんだけどなあ。背の小さい女性など後頭部に凸が当たっちゃうんじゃ? ● ヘンテコな「非常口クン」キャラの諸注意説明アニメ、予告篇に続いて、さあいよいよ本篇。オープニング・クレジットの黒画面に。…あれ? 黒いスクリーンの真ん中より左上にあるあの四角い光は何???(>図1を参照) えっ、と思って後を振り向くと、後の席の金髪女のミニスカートの中に白いパンツ、…じゃなくって畳一畳分ぐらいあるバカデカい映写窓の向こうから、映写室の天井の蛍光灯が煌煌と…。「バカ!消せよ」と心の中で毒づきつつ、ロビーへ出て係員に映写室の天井灯の消灯を紳士的に依頼。数分して(この頃はドラマが始まってるので光の四角も気にならない)ふと脇の通路を見ると係員が2、3人で映写室を見上げてなにやらゴニョゴニョ。なになに?と思って再び振り向くと、蛍光灯は依然として煌煌と灯ったまんま。この時点で観る気を失くしたおれは係員たち(うち1人は背広なのでたぶん東急の社員)をロビーへ連れ出すと「なんで映写室の天井灯を消灯しないのか」と紳士的に詰問。すると社員氏「こういう仕様なんです。あれでも暗幕とかで遮ってはいるんですが」だと。「仕様です」って、テメーはマイクロソフトか! ● さて諸君、解説しよう。つまり「映写室の天井灯の光」なんて普通なら映写窓の直前にしか及ばないもんなんだけど、ここは無理な傾斜で客席を作っちまったもんだからスクリーンまでストレートに光が届いちゃうわけだ(>図2を参照) 1)シネコンてのは「1つの細長い映写室に各劇場の映写機がズラリと並んでいて小人数の映写技師でそれらを運営する」という仕組みだから、このシアター6だけ映写室の位置を下げるわけにはいかない。2)割り当てられた面積は決まってる・・・というわけで、この無理な傾斜になったんだろう。東急レクリエーションの社員氏は「設計ミスなのでどうしようもない」と言いたいのかしらんが、そーゆーことは「バカデカい映写窓の不必要な部分に黒紙を貼る」「天井灯の周囲に暗幕を垂らす」といった基本的な対策を施してから言えよ。そもそも、あんな明るい蛍光灯を点けっぱなしにしておく必要がどこにあるのだ。「作業中や休憩中は点けて、映写中は消す/光量を絞る」とか「青光や緑光に変更する」とか考えつかんか? 今のままじゃ「(黒画面の)エンドロールのあいだじゅう四角い光がスクリーンに映ったまんま」ってことだぞ。サイテーの映画館だな。…というわけで、わざわざ木場まで映画を観に行って映画を観ないで帰ってきたのだった。 ● 公正を期すために書き添えておくと、同じ109シネマズ木場でもキャパの大きい(=床面積の広い)劇場では、1)傾斜がゆるやか、2)スクリーンまでの距離がある…ので、こうした問題は起きないと思う(最後列の客は頭上がまぶしいと思うけど) …てゆーか、小ネタでこんな長文書く間に溜まってるレビュウを書けよレビュウを>おれ。まあ、怒りは最良のガソリンてことで。


レビュウについての(ささやかなマニフェストと)いつもの悪口

自分でこんなサイトをやっといてナンだが、おれは雑誌やネットの映画レビュウは(チラシと予告篇だけでは観賞/非観賞の判断がつかない作品を除いては)観賞前には読まないことにしている。それで観た後で他の人のレビュウを読んで「ああ、なるほどそういう観方があったのか」と感心したり、「ふむ、あれはそういう背景があったか」と納得したりするのを愉しみにしている。つまりおれが−−少なくともプロのライターの−−レビュウに求めているものは、自分では気がつかなかった観点を示してくれるものだったり、その作品への理解を深めてくれるものだったりする。拙いながらも、このサイトが目標とするのもそういうものだ。なかには淀川長治や山田宏一のように文章それ自体が映画以上の輝きをはなつものもあるが、それは稀有な例だし、自分にそんな文章が書けるとは端から思っちゃいない。 ● ところが、世の中には「プロのライター」としてギャラを貰って文章を書いていながら[僕と素人の違いはありません。違いがないことが大事だと思います]恥ずかしげもなく公言し、[プロとアマチュアの違いは「知識」や「経験」ではなく、原稿を書くにあたって締め切りが守れるかなんですよ。締め切りを守る、指定された文字数を守る、さらに校正で直しを入れずに済む間違いのない原稿を作るのが、プロとしての腕の見せ所]などと、まともな社会人なら誰でも普通にこなしていることを殊更凄いことであるかのように錯覚し、しかもそこにはクォリティの問題が介在していないことに何の自覚もないというバカが堂々と「プロ」を名乗って生活していて、しかもそんなバカを便利に使ってるクズ編集者が何人もいるってんだから嫌になるぜ。 ● [僕なんて「X-ファイル」の初期シリーズを見てないけど、LD-BOXの解説書を書いてるもんなぁ…。でもわりと評判がよかったりするんだよね]などと、どうやら自慢のつもりで書いてるらしいが、これは「自分はそのシリーズに関する知識が欠けているのを承知で仕事を引き受けた」ということだよな。しかも「観ようと思えばメーカーからサンプル盤を借りられる立場に居ながら[プロの時間は有限]なので、そうしなかった」と。プロとしての資質以前にこれは職業的良心の問題だろう。人の心を動かすのはいつだって経済的効率を超えた部分である。少なくともおれは「ラーメン屋と暖簾を出しているだけで、ありものの既製品をテキトーに使ってチャチャッと茹でたインスタントと大して変わらんラーメン」よりは「誰に強制されたわけでもないのに毎朝5時から出汁を取り、儲けが薄くなるのを承知で良い材料にこだわって作られたラーメン」を食いたいと思うし、そう思ってるのはおれだけじゃないはずだ。 ● まあ、居眠りしながら観た映画について、ものによっては10分か20分で書き殴ったものです。それについてゴチャゴチャ言われても意味ないよ]などと、みずからの名前を貶めて平気な人間にこんなこと言っても意味ないんだが。…せめてスタッフ&キャストを併記してくれると少しは利用価値があるんだけどねえ>ハットリ君。


AMCイクスピアリ16の謎のスライド

ディズニーランドの前にオープンしたAMCイクスピアリ16まで「パーフェクト・ストーム」を観に行った。平日の夜のレイトショー(1000円だし)に行ったんだけど、大きい劇場(つっても360席だけど)は「M:I-2」かなんかをやってるらしく「…ストーム」は200席の劇場でがっかり。いくらシネコンはスクリーンがデカいってもせいぜい天地4mぐらいで、これなら渋谷パンテオン/新宿ミラノ座で観りゃ良かったかなあ(楽しみにしてた「パール・ハーバー」の予告篇もかからなかったし) 「…ストーム」の売りもののSDDS8chミックス(←エンドロールに、そうロゴが出る)もなんかやたらと不安定で、すぐアナログに切り替わっちゃうんだよなあ(>ブツッと言うからわかる) おまけにピントもやたらと甘いし。うーん…。 ● 劇場の作りはいかにもアメリカのシネコンという感じでシンプルかつ合理的。自由席なのも(おれは)大歓迎。ここが変わってるのは座席の「カップホルダー付きの肘置き」がデフォルトでは上げられていて、つまり全席ラブシート状態なのだ。ワーナーマイカルシネマズとかでやってる(禁煙とかゴミ捨てとかの)「お願いCM」がない代わりにテレビCMが7本も8本もかかる<それじゃ東宝とか松竹と一緒じゃん。エンドロールの途中で薄明かりを点けちゃうのもなんだかなあ。 ● …って、それより謎のスライド上映についてである。WMCなんかでも「ホットドッグを買え」とか「マイカルカード会員になれ」とかそーゆースライドを上映前に流してるよな。で、ここんちは愚にもつかない映画豆知識ってやつをいろいろとウンチクたれてくれるわけだが、アメリカのやつを直訳して使ってるらしく日本未公開の作品がバンバン出てくるのは、まあご愛嬌としよう。だがテメエの無知を棚に上げて「『CRADLE WILL ROCK』はキューザック姉弟の7本目の共演作品ですが日本公開は未定です」などと決めつけるのはアスミック・エースに対する営業妨害だろよ。〈映画の中の名台詞〉が、「プリティ・ブライド」のリチャード・ギア「うわー、すごい田舎!」だって。なんじゃそりゃ? このへんはまだ序の口。たとえば「ローレンス・オリヴィエは1948年の自作自演『ハムレット』でアカデミー賞主演男優賞を受賞した史上唯一の人間である」 おそらく原文では「史上唯一」ってのは「自作自演」にかかってるのだろうが、翻訳がムチャクチャだ。英語のわからない人間が担当してるのか。〈映画用語解説〉として出てくるのが「クロスカッティングとは・・・映画の中でストーリーまたはコンセプトが展開していく中で、それらを中断しながら進行していくこと」<"中断しながら進行"って何? あるいは「トリートメントとは・・・ストーリーのドラマチックな流れを表現するために使用される映画の作品解説」<そもそも語の選択が間違ってるというか「トリートメント」なんて言葉は日本じゃ髪に栄養を与えるものとしてしか認識されてないと思うが、"映画の作品解説"ぅ!? 中国製花火の"せつぬい文"か、お前は! 英語だけじゃなくて日本語がわからない人間が担当してるのか。まだあるぞ。今度は〈映画クイズ〉だ。「アラン・パーカー監督の2番目の映画ANGELA'S ASHES』はアイルランドで撮影されていますが、では最初の映画はなんでしょう?」って、じゃあ「コミットメンツ」はアラン・パーカーの処女作かい! それって英語と日本語だけじゃなく映画を知らないウスラバカが担当してるってことじゃん>AMC。

★ ★ ★ ★ ★
朝倉大介は日本一 偉いプロデューサーである

――いま1本のスタンダードな予算は?
「350万」
――お金は国映が用意するの?
「製作を先にして、新東宝に350万で売る」
――儲け、ないじゃない。
儲けはないよ(笑) それは原価であって、その前に打ち合わせや、打ち上げや、現場保険の費用とか何十万か出ていく」
――じゃあ赤字じゃない。
「バジェットが小さいからね。ビデオ、BS、CSと長い目で見ると、やっていけてるんだよ」

映画芸術」392号に朝倉大介の貴重なインタビューが掲載されている。いきなり「朝倉大介」ったって、あなたご存知ないでしょう。朝倉大介というのは「国映」というピンク映画の会社のプロデューサー職に与えられる(たぶん「朝から大好き」からこじつけた)仮名で、国映の映画にはすべて「企画:朝倉大介」とクレジットされる。国映はいまのピンク映画界で(日本映画界で、と言ってもいい)もっとも作家性のつよい映画を作る会社で、たとえば1999年のおれのピンク映画の上位10本のうち7本がこの国映=新東宝の映画だった。そして、この映画をすべて製作しているのが当代の"朝倉大介"、…イコール「国映のおねえ」こと佐藤啓子なのである(そう、女性なのだ) ピンク映画のイベントや上映会に行ったことがある人なら、マニッシュなスーツに身を包んだ小柄なショートカットの50、60がらみの女性を見かけたことがあるだろう。1965年に梅沢薫の監督デビュー作でプロデューサーとして一本立ちして以来、若松孝二・高橋伴明・瀬々敬久らの過度に政治的な映画に製作の場を提供してきた。今の日本映画界に1960年代からバリバリ一線で活躍しつづけているプロデューサーが何人いる? おれが「プロデューサーは(こんな)商品とはいえない自主映画にOKを出すべきじゃない」とまで酷評した女池充の「不倫妻 情炎」に関するコメントを同誌から引用する――

映画がいいとか悪いとかはいいの。いいねと言われたら喜べばいいし、悪いねと言われたら悩めばいいし、そんなことはどうだっていいんだけど、プロデューサーと監督の関係となると"女池、この野郎、撮り続けろ"というような」「私が女池に言いたいのは"何だかんだ言われて怖じ気づいてるんじゃない。すぐ撮れ"ということ。それで逃げるかどうかは女池の問題でしょ。何百本撮って、たくさんの人といろんなことあったからいちいちは驚かない

…言えないぜ、こんな台詞。もちろん本人が言うようにパジェットが普通の映画の百分の一だから成り立つ世界だが(=これが3億5千万じゃカブれない)、それでも1本コケた途端に責任のなすりあいに終始するケツの穴の小さい野郎ばかりの日本映画界にあって、この"侠気"は泣けるじゃないか。いや、だってこれってプロデューサーにとって一番大切な資質だもの。ちなみに"何百本"というのは言葉の綾ではない。本当に何百本というピンク映画を作ってきたのである。だから断言する、朝倉大介(佐藤啓子)は日本一 偉いプロデューサーである。松田政男あたりがインタビューして単行本にしてくれないものか。面白くて貴重な本になると思うんだがなあ。

★ ★
「ミッション・トゥ・マーズ」のデジタル上映

まず新宿プラザでフィルム上映を観てから、あらためて「ミッション・トゥ・マーズ」のDLP上映(日劇プラザ)を観に行った(<物好きな奴) 「トイ・ストーリー2」のときに懸案したとおり、やはり実写作品についてはまだ従来のフィルム上映に一日の長がある。とは言っても、それと知らずにDLPで観たら素人目には区別がつかないだろう程度の差ではあるのだが。いちばん劣っているのは人間の肌の表現だ。すべてのビデオプロジェクターに共通する「人間の肌が鉛色になる」という致命的な欠点はDLPとて例外ではなかった。「ミッション・トゥ・マーズ」なんかは肌の露出が少ないからまだ気にならないが、ピンク映画なんかだとそーとー無残な結果になるはず(まあ、ピンク映画がDLP上映される事は永遠にないだろうけど) 画面が全般的に暗く感じるのは(やはり他のビデオプロジェクター同様)白のヌケが悪いのが原因。ドン・チードルの顔なんかまっ暗だ(てゆーか、まっ黒?) 今後しばらくは「トイ・ストーリー2」のようなCGはDLP上映館で、実写作品はフィルム上映館、と観る側で使いわけていくのがいいだろう。 ● DLP設置館は、2000年時点で東京・有楽町の日劇プラザと、舞浜のAMCイクスピアリ16のみ。フィールドテストを兼ねての試験的設置のようだ。2001年以降、DLP映写機が「商品」として販売されるそうなので2002年の「スター・ウォーズ エピソード2」に向けて、新築のシネコンなどに導入されていくだろう。

★ ★
シネマメディアージュに行ってみた。

「エニイ・ギブン・サンデー」を お台場にオープンしたシネマメディアージュまで観に行った。例の、ソニーの作ったハコで東宝が運営してるシネコンだ。なんでまたわざわざ新橋からゆりかもめ往復運賃620円也を払って「文化果つる埋立地」くんだりまで足をのばしたかと言うと、まあ、話のタネと(映画が映画だから)大迫力の音響効果に期待したんだけど、音はたいしたことなかったな。ほんとに「最新式の音響設備」なんだろうか? てゆーか、施設全体がワーナーマイカルシネマズなんかと比べても思ったより安普請でビックリしたんだけど。てゆーか、封切2日目の日曜日だってのに観客がたったの40人だぞ。大丈夫なのか経営?(知ったこっちゃないが) ● それより何よりこの劇場(「エニイ・ギブン・サンデー」は2番目に大きい劇場でかかってたのだが)ビスタサイズの予告篇が終わって、シネスコの本篇が始まると、左右が拡がるのではなく、なんと天地が縮まるのだ。どこまで客をバカにしたクソ外道なんだ!>東宝。スクリーンの横に非常口を作るようなタコな設計するから、そーゆーことになんだよ(側面じゃなくて前面だぞ。つまり並木座やBOX東中野と同じ位置だ。何を考えておるのだまったく) ● ワンフロアのだだっ広いロビーを13の劇場がズラリと取りかこむように配置されている。ロビーにある、遠近感が狂うほど奥行きが長いトイレは「シャイニング」みたいでちょっとカッコ良かったけど、喫煙所にしか椅子がないってのはどーゆーこと?(煙草を吸わない人間は立ってろってこと?) ● ロビーから劇場内への入口には自動改札機がズラッと並んでんだが、そこは「メディアージュでしか使えないプリペイドカード」専用らしく、当日チケットが磁気チケットじゃないので結局、客は端っこの"有人改札"からゾロゾロ入っていくのであった。あほか。 ● [2002年4月の追記]シネマメディアージュが変わった。チケット売場が映画館と同じフロアに移設され、わかりやすくなった。以前は、空いてるときでもいちいち迷路のようなガイドポール通路をイライラしながら通り抜けなければチケットカウンターに辿りつけなかったのが、ちゃんと近道通路が設けられてストレートに窓口に行けるようになった。だだっ広いロビーのそこここにはベンチが用意されきちんと分煙もなされている(←ココ重要) 左右2箇所ある入場口にはそれぞれデッカく[A][B]とネオンで明示され、チケット販売時に「Bゲートの13番スクリーンです」とアナウンスされる(近々にはチケットにもA/Bの別が印字されるようになる気がする) 入場口にあった誰も使わない自動改札機は撤去され、入口と出口がガイドポールでシンプルに区切られている。・・・つまり、おれが文句つけてた箇所のうち直せる部分はすべて改善されているのだ。きっと上のほうに「やる気のある人」が来たのだろう。とても好感を持った。

★ ★ ★ ★ ★
「トイ・ストーリー2」のデジタル上映

「トイ・ストーリー2」は東京・日劇プラザのみ、日本初の「DLPシネマ」での上映を行なっている。アメリカでの「スター・ウォーズ1」「ターザン」「TS2」デジタル上映に使用されたものと同じ、米国テキサス・インストルメンツ社製最新型プロトタイプのDLP(デジタル・ライト・プロセッシング)プロジェクターを設置しての本格的デジタル上映である。 ● 本作は周知のように、すべてコンピュータの画面上で製作され撮影され編集され完成されたフルCGアニメーションである。で、そのハードディスク内のデジタルデータを(フィルムに転写することなく)そのままプロジェクターに直結して、スクリーンに写している。つまり製作から上映にいたるプロセスで、フィルムもビデオテープも一切 使っていないわけだ(どのぐらいの容量のハードディスクなのかね?) ● そうして写し出されたDLPシネマのクォリティだが・・・いや、素晴らしいの一語。オモチャたちの質感…それが塩ビなのかプラスチックなのか金属なのか、はたまた陶器なのかが一目瞭然。CGの、というかピクサー社の質感生成ソフト RenderMan の得意とするツルツルピカピカの表面のものに関しては完全にフィルムの表現力を凌駕している。画面の明るさ&コントラスト&カラーの鮮やかさも、プロジェクターとは思えぬレベル。「コンピュータのディスプレイ(=テレビのブラウン管)でCGアニメを観るのと同等のクォリティ」を映画館のスクリーンで実現している。奇しくも今回「TS2」の冒頭には、ピクサー社の電気スタンド・ロゴの由来となった短篇CGアニメ「ルクソーJr.」が併映されるのだが、この作品をかつて(あれは QuickTime 1.0 だったか)コンピュータの画面上で見たときの驚き/感動がありありとよみがえった。断言する。「トイ・ストーリー2」は日劇プラザで観るべきだ(諸賢が東京圏にお住まいなら、だけど) ● …って、おれはべつにTI社の回し者ではないので懸案点も書いておくと、文句なしに素晴らしいのはあくまでもCGアニメの場合。実写作品がDLPでどう見えるのかは別の話。映画館で(フィルムで)観た映画をLDやDVDで観なおすと、やたらとハッキリ&クッキリと明るくて、なにか画面の情感が失われてしまったように感じるのは おれだけではあるまい。実写作品のDLP上映はそのように見えるのではないかな(プロジェクターとしての性能が上がれば上がるほど そうなるのでは?)


「ガンドレス/完全版」だってさ

上野スタームービーの2000年GW映画はなんと「ガンドレス/完全版」だそうだ>それって「完成版」の間違いじゃねえのか? てっきりお詫びの無料上映かと思ったらちゃんと1800円取るようだ。おれは被害に遭ってないから関係ないけど、去年の今頃、東映でまっ白けで絵と音も合ってないようなものを観せられた人たちは「ふざけんなっ!」って思うでしょうな。いい度胸してんじゃないの>日活。 ● 笑っちゃうのが宣伝コピーで「君はアニメ世紀末伝説を目撃する!」だと。そりゃたしかにこんな商売がまかり通るようじゃ世も末だわなあ。まだあるぞ。裏面コピーは「『シュリ』の大ヒットにより今 映画界で最もア・ツ・イ韓国と強力に手を組んだ!! 日韓共同による『ガンドレス/完全版』として新たな息吹が吹きこまれる!!」ときた。それって国内で完成させる目途が立たないから韓国に下請けに出したってことでは? とどめのコピーが「私たちは決して負けやしない!」って誰にじゃ! ● 参考リンク>鈴木力「緊急アピール:きみは『GUNDRESS』を見たか

★ ★ ★ ★
その後の仁義なき戦い 米軍横浜上陸篇

ワーナーマイカルシネマズみなとみらいに動きがあった。ぴあ最新号の番組表によると(2000年)2月5日から国際活動写真連合(略称UIP)が「ワールド・イズ・ノット・イナフ」を、廿世紀キツネ会(略称FOX)が「アンナと王様」を、WMCみなとみらいと横浜東宝会館の同時公開に踏み切り、続いて2月11日からはワーナー兄弟ギャング団が「ストーリー・オブ・ラブ」を松竹系の横浜シネマリンと同時公開するようだ。残る世界統一ネズミ教(別名ディズニー)も「トイ・ストーリー2」や「救命士」といった新作を間違いなくWMCみなとみらいで同時公開するだろう。これで先陣を切ったソニー侠道会系コロムビア興行とあわせて、アメリカ系の会社に関しては晴れて何でもありとなったわけだ。WMCみなとみらいだけでなく、AMCやヴァージンシネマズやユナイテッドシネマが、どれだけ東宝&松竹の既存館の近くにシネコンを作ろうが「おれらそんな事ぜぇーんぜぇーん気にしないで映画を出すもんね」と天下に公言したわけだ。東宝&松竹の既存館が生き残るためには、新しく出来たシネコンに負けないサービス&施設を充実させるしかない。それでこそまっとうな商売のあるべき姿ってもんじゃないかね。 ● あとは独立系の映画会社である大日本ヘラルド組が「スリーピー・ホロウ」や「マグノリア」をWMCみなとみらいに出すのか、ギャガ親睦会は「グリーンマイル」をどうするつもりなのか、そして全国東宝連合会東和会がどう動くのか。固唾を呑んで見守りたい。 ● これが単に「松竹&東宝vsシネコン」という図式では済まない問題だという事は承知している。シネコンの進出でまず潰れるのは大資本である東宝や松竹が経営する映画館ではなく、町の個人経営の映画館だからだ。「映画館の少なくなったこの町で、何十年も映画の灯を消さずに頑張ってきた私たちの映画館を見殺しにするのか」という良心的住民の声が聞こえてきそうだ。勘違いしちゃいけない。見殺しにしたのは、あんた(おれ)たち自身だ。あんたたちが映画を観に行かないから映画館は潰れるのだ。あんたたちが本を買わないから駅前の本屋は潰れるのだ。あんたたちがCDをタワーレコードで買うからレコード屋は潰れるのだ。実際、おれはそうして本屋をレコード屋を潰してきた。品数の少ない、サービスの劣る、商品知識に乏しい既存の店で買うメリットがないからだ。映画館とて同じこと。「長くやってる」って理由だけで生き残れる商売なんて、今どきどこにもありはしないのだ。

★ ★ ★ ★ ★
ハワード・ホークスにフィルムセンターは似合わない

東京は京橋の国立フィルムセンターで開催中のハワード・ホークス映画祭に何度か行った。で、思ったのは、ハワード・ホークスの描く男たちってのはマキノ雅弘のそれとソックリだって事。やくざな稼業にあっても やくざな生き方はしない、粋でいなせな男たち。そのくせ女にゃからきし弱くて、惚れた女の尻にたちまち敷かれちまう。やたらと歌が好きってのも一緒だな。 ● というわけで大いに楽しんだのだが、残念なのは会場が一般の映画館じゃなくて、飲食禁止のフィルムセンターだって事。だってこういう映画はポップコーンを口に放りこみながら、せんべいでも齧りながら観たいじゃないか。ハワード・ホークスの映画は楽しむものだ、研究するものじゃない。わざわざ各国のシネマテークからフィルムを取り寄せてきちんと(投影式の)字幕を添えて観せてくれたフィルムセンターには感謝するけれども、かかった手間を考えれば当日1,500円という(通常料金の4倍の)特別料金も正当なものだと思うけれども、やはり声を出して笑うのもはばかられる雰囲気はハワード・ホークスには似合わんよ。 ● だいたい客層が気に食わない。どういう客層かというとつまり、男性トイレのしょんべん待ちにフォーク並びをするような連中だ。銀行のATMなんかと違って何処に並んだって大して所要時間は変わりゃしない男性の小用トイレで、誰に言われるでもなく自主的にきちんとフォーク並びをするような女々しい奴ら(差別用法御免)に、ハワード・ホークスの良さがどうして理解できるものか。おれは岩波ホールや文化村ル・シネマに棲息するカルチャー講座ノリのおばはんたちも好きではないが、こうした研究者の諸君はハワード・ホークスの映画に何を求めてフィルムセンターに通ってるのかね? いや、まあ、もちろん映画の楽しみ方は人それぞれなんだけども(←女々しいフォロー) ● 次回はぜひ浅草六区は場外馬券前・浅草中映あたりで開催してもらいたいものである。

★ ★ ★ ★
東宝vsソニー その後の仁義なき戦い

WMCみなとみらい問題「ジャンヌ・ダルク」騒動より続く) ● 「ソニーがお台場に建設中のシネコンの運営を、東宝が請け負う事になった」そうだ(この場合のソニーってのは"映画会社"ソニー・ピクチャーズの親会社である"電機メーカー"ソニーのことね) 新聞記事からは"運営"が具体的に何を指すのか(「東宝は単なる雇われマネージャーでソニーから手間賃を貰うだけ」なのか「東宝が直接の経営者で、ソニーに家賃&上納金を払う」のか)がよく判らんが、それにしても、てことは、ソニー・ピクチャーズと東宝って和解したの? あわてて「ぴあ」をめくってみると、なるほどソニー・ピクチャーズの新作「ブルー・ストリーク」は何事もなかったかのようにワーナーマイカルシネマズみなとみらいで同時公開されている。 ● これってあれだよな。海外マフィア系の武闘派ソニー・ピクチャーズ興行が、地元の強大な全国東宝連合会に戦争を仕掛けたはいいが、親分筋にあたるソニー侠道本部が勝手に手打ちしちまったという図式か? いまごろソニー・ピクチャーズの若いもんの間では「兄貴ぃ、一旦抜いたドスを引けってんですかい!」「この世界じゃなあ、親が黒と言やあ白いもんも黒なんだよ」「アメ公とツルんだんじゃ筋が通りませんよぉ」「馬鹿野郎!筋じゃおまんま喰えねんだよ。いまどきのヤクザはなあシノギが第一よ」てな会話が交わされてるとみたね。東宝の重役の「そもそもソニーさんとのお付き合いは東宝の前進であるPCLの頃からのものでして…」ってコメントがまた、お前は金子信雄か小池朝雄か!という白々しさである。 ● お台場のシネコンでもう1つ見逃せないのは、スクリーン数が13もあるという事。てことは東宝系の洋画邦画だけじゃ埋まらない。すなわち国際活動写真連合(略称UIP)が宿敵・松竹系の映画館に出している映画や、普段は付き合いのないワーナー兄弟ギャング団の映画も上映する必要があるわけだ。強欲なユダヤ人にそんな事を頼もうもんなら「おどれ今まで、さんざんわしらの邪魔しくさって、今度はおどれの帳場にタマ寄越せじゃとお!?」などと言われて、東宝としてもバーターで、WMCみなとみらいでの同時公開を認めざるを得ないのじゃないか? ● そうなるとだな。もう一方の腐れ外道・松竹がどう出るかだ。松竹がUIPやワーナー映画に「お台場のシネコンに映画を出すなら、有楽町の松竹系映画館(ピカデリーとか)では上映しない」と突っぱねたら、各社はどうするのか。ふむふむ。これって実は松竹を潰すために東宝が描いた絵図だったりして。東宝の社長がじつはワーナーマイカルシネマズの大株主で、松竹が潰れた次の日に東宝AOLワーナーマイカルシネマズEMIと改称したりして(←映画の観過ぎ) どうやら映画界の「仁義なき戦い」は、これからが本番のようである…と週刊誌のようにワザとらしく締めてみた。 ● それにしても「メディアージュ」って館名はなんか駅ビルみたいでダサくない? あと全然関係ないけどロビン・ウィリアムスの「バンセンテニアル・マン」の公開タイトルが「アンドリューNDR114」たあ何だよ>ソニー・ピクチャーズ。


松竹&東宝は腐れ外道である

松竹系・丸の内ピカデリー1の「ジャンヌ・ダルク」が公開12日間で東劇へ追いやられた。東宝系・日比谷みゆき座の「ランダム・ハーツ」は わずか1週間でシャンテ・シネに格下げ。そりゃ両作品とも入りは悪いかもしらんが〈お正月映画〉をお正月前に打ち切るか、普通? 松竹と東宝のお偉いさんにはクリスマス精神ってものがないのかね。てゆーか、松竹&東宝とケンカでもしたのか?>ソニー・ピクチャーズ。・・・と巻頭言に書いたところタレコミメールをいただいた。 ● それによると、なんと本当にやくざ映画も真っ青の縄張(シマ)争いが勃発していたのだった。事のきっかけはワーナーマイカルシネマズみなとみらいでソニー・ピクチャーズが「ジャンヌ・ダルク」/「ランダム・ハーツ」を同時封切りした事。なるほどその問題だったか。つまり(横浜周辺にWMCみなとみらいのライバル館を経営している)松竹/東宝からの圧力を無視して、ソニーが「ジャンヌ・ダルク」/「ランダム・ハーツ」をWMCみなとみらいに出したので、松竹はその報復として横浜地区の松竹系映画館での「ジャンヌ・ダルク」上映を打ち切り、メイン劇場を丸の内ピカデリー1から徒歩10分の東劇に格下げした、と。ぴあで確認したところ、なるほど横浜シネマリンとマイカル松竹シネマズ本牧が「ジャンヌ・ダルク」の上映を打ち切っている。いっぽう東宝もソニーへの制裁として「ランダム・ハーツ」のメイン劇場をシャンテ・シネに格下げした。 ● つまりは松竹&東宝が既得権を守ろうとして躍起になってるわけだ。タレコミ氏に拠ると、たとえ松竹/東宝が直接経営していない独立系の映画館であっても(横浜なら相鉄ムービルとか川崎チネチッタとか)、松竹/東宝系の映画を上映している映画館はすべて松竹/東宝に「番組料」を納入する仕組みなんだと。つまりみかじめ料だな。ところがWMCを初めとするシネコンは松竹系でも東宝系でもないので、みかじめ料を払わない。同じ映画を上映されたら設備の良いシネコンに客を取られるのは明白。松竹/東宝は(映画館の)商売上がったり、だ。かと言って、シネコンに殴り込むわけにもいかんので、シネコンに映画を配給する会社に有形無形の嫌がらせを続けてる…という事らしい。まんまやくざだな。今度の"事件"で、ひとつだけはっきりしたのは、松竹&東宝は客のことなんかこれっぽっちも考えちゃいないって事だ。腐れ外道のような真似をする暇があったらテメエらの映画館をシネコンに負けない魅力的な映画館に改築したらどうなのだ?>松竹&東宝。 ● 「ジャンヌ・ダルク」の12月23日よりの東劇への劇場変更はぴあにも掲載されているのだが、12月25日現在、なぜかそのまま丸の内ピカデリー1(2?)で上映されていた。ソニーが松竹に詫びを入れたってことか? いずれにせよ、この配給会社vs興行会社の「仁義なき戦い」がどういう展開を見せるのか。2000年最初のソニー・ピクチャーズ作品「ブルー・ストリーク」「ビッグ・ダディ」(東宝系)が、WMCみなとみらいで公開されるかどうか、要注目である。


渋谷シネフロントで「サービス」について考えた

渋谷の駅前、渋谷宝塚の跡地にQフロントという新しいビルが建った。テナントのほとんどはレンタル・ビデオのTSUTAYAが占めてるのだが、その中に東宝系の映画館が1館オープンした。せっかくなので、そのシネフロントという新しい映画館に「ターザン」を観に行った。 ● なんとこの映画館、全席指定なのだ。一部のシネコンとかでは既に実施されてるらしいが、都内のロードショー館では初めての試み。まあ、並ばず座れるサービスということで採用したのだろうが、目の悪いおれとしては、映画館に入って好きな席を選べない(=事前に1階のチケット売り場で席を決めなきゃならない)このシステムは煩わしくて嫌だ。てゆーか、おれは基本的に定員入替制とか整理番号チケットとか、そーゆーのってなんか窮屈でキライなのだ。 ● シネフロントでひとつ感心したのは、場内アナウンスが「プロの録音したテープ」だった事。アルバイトの大学生のつっかえつっかえの素人アナウンスほど不快なものはないからな。特にヒドイのは日比谷・有楽町界隈の東宝系映画館で、「丸の内警察署からの防犯のお願い」はしようがないとしても、やれ割引デイの案内だ、やれ前売り券発売のお知らせだ、やれ他の東宝系映画館で上映中の作品のご案内だ…と、放っとくと際限なくアナウンスを続けやがって、ウルサイッたらありゃしない。なんのために予告篇を上映してんだよ!あんたらが聞き苦しいアナウンスでご丁寧にもお知らせしてくれた事は、全部、宣伝のプロが智恵を絞った予告篇で、プロの声優がきちんと伝えてくれてんの! 映画の始まる前は、サントラを流して静かに本篇への期待を高めてくればよいのだ。なんかサービスってものを勘違いしてないか?

★ ★ ★ ★ ★
ドリームメーカー(菅原浩志)の予告篇

いつもいつも映画の悪口ばっかり言ってるのはいけない事だと反省しました。だから今日は素晴らしい映画を皆さんにご紹介します。それから「おれ」とか、汚い言葉づかいもよくないと思うので反省します。 ● 東映の映画館に「金融腐食列島 呪縛」という漢字ばかりのむずかしい映画を見に行きましたら、「ドリームメーカー」というカタカナの映画の予告篇をやっていたです。あまりに素晴らしい予告篇でしたので、映画館に置いてあったチラシからストーリーを一言一句たがわずにご紹介します>>>[ここから引用]高校生活最後の夏、マサト(辺土名一茶)は自ら編集したノンストップミュージック・テープを響かせながら、スピーカー搭載の改造バイクを気ままに走らせる日々を送っていた。ある日マサトは、バイク集団レッドビート麗香(宮本真希)と出会う。麗香からの意外な言葉「あんたのテープ、いいセンスしてるよ」。初めて誰かに認められた瞬間。 / 偶然通りがかった小さなレンタルレコード店・マジックランタンで、ウインドウのレコードジャケットに釘付けになるマサト。ためらいながら開けた店の扉は、自らの運命の扉でもあった。誰もいない店内。地下へと続く階段を降りたマサトは目を見張る。地下室をぎっしりと埋めるレコードの山々。無造作にダンボールに入れられた貴重盤。世界中の"本物の音楽"がそこにあった。驚きと感動で震える手で、次々とジャケットを取り出すマサト。「知ってる?そのレコード」興奮するマサトに声をかけたのは、息を呑むほどの美少女美希(上原多香子)だった。部屋いっぱいのレコードは、美希の亡くなった父親の形見なのだ。 / こいつをもっと聴きたい。ただそれだけの単純な理由が強い決意を生む。「この店で働きたいんです!ここじゃなきゃダメなんです!」渋る店長に何度も頭を下げ、マサトはついにアルバイトとして採用される。途方もなく安い時給だったが、美希と働く毎日にマサトは夢中になっていく。 / マサトの音楽の知識と情熱、そして親友の小森(袴田吉彦)、森(原田健二)を巻き込んだ精一杯の宣伝で、店の評判は次第に広まっていく。しかしこの忙しくも楽しい日々は突然の事態で急変する。マジックランタンの目と鼻の先にオープンした超大型CDレンタル店・グローバルサウンドが、執拗な妨害を始めたのだ。閉店を覚悟する店長。しかしマサトには"本物の音楽"の力で客を呼び戻す、斬新なアイディアが浮かんでいた。これが成功すれば、きっと−−。形勢逆転に向け団結するマサト達。しかし美希の体を病魔がむしばんでいたことには、誰一人気づいていなかった…。[引用ここまで。黄色い所は、ぼくが黄色くしたです]すごいです、すごいです! もうインド映画もビックリのドラマチックなお話です! ネーミングのセンスもイカしてるですし、このお話を考えた人は天才だと思います。ぼくは予告篇を見たので「斬新なアイディア」というのが何なのか知っておりますけれども、それはなんと「路上ディスコ・パーティ」なのです。尊敬する角川春樹監督が原田知世ちゃんでお撮りになられたミュージカル映画をほうふつさせる、思わず体が動き出しそうになる素晴らしいダンスシーンでございます。ぼくの頭には唐突に「公園通りの猫たち」という言葉が浮かびましたが特に意味はありません。マサトという主人公は、いつも友達と大声でお話する元気いっぱいのヤングボーイです。ぼくはとても好感を持ちました。レコードの知識もすごくて、お客さんの「70年代初期のストーンズのレコードでキースのボーカルが入ってるやつ」などという注文にサッと「メイン・ストリートのならず者」を差し出して、ついでに訊かれてもいないのにジャケ写のカメラマンまで教えてさしあげるとても親切な人です。「どれ買ったってキースは1曲や2曲歌ってらあ」なんて思ったぼくは反省しました。それにCDは"嘘の音楽"で、レコードが"本物の音楽"だという思想も目からウロコが落ちられましたです。でもこの映画を作ったのはライジング・プロの平さんというお方と、エイベックスのマックス松浦(100%日本人です)というお方で、お二人とも今までCDを売って大儲けしてきた人たちなのに、信念を捨てないなんて偉いなあと思いました。あとぼくより反省しているTBSもお金を出してるそうで、なんかフクザツなんだなあと思っていましたら、その後で観た「金融なんとか」という映画が癒着とか利権とかの映画だったのでとても良くわかりました。勉強になりました。だから皆さんも、なにか熱い気持ちが足りないと思ってるアナタ! 自分の夢に賭けてみたいキミ! 騙されたと思って「ドリームメーカー」を観に行ってみてはいかがでしょうか?(おれは観ないけど) 「噂の真相」誌によりますと、この映画のモデルはエイベックスの松浦さんで、松浦さんは池田大作先生の熱烈な信者であられて、池田先生の素晴らしさを脚本に盛り込むために監督とケンカまでされたそうです。もしかして「ドリームメーカー」は「TINA」以来の学会特薦映画であるかもしれませんから、信濃町方面の皆さんも映画館に足を運ばれてみてはいかがであられますか?(おれは行かないが) ● あとすいません上の星5つは嘘つきました。反省します。[反省ここまで]


ワーナーマイカルシネマズみなとみらいで思ったこと

まだオープンして1週間のワーナーマイカルシネマズみなとみらいまで「イエロー・サブマリン」を観に行った。わざわざ横浜くんだりまで足を伸ばしたのは、この映画が東京都内では観られないからだ(正確には恵比寿ガーデンシネマで2回だけ上映した) 偉いぞWMCみなとみらい!と言いたいところだが、どうもこれ劇場としては苦肉の策のようなのだ。この週の上映作品は他に「アイズ・ワイド・シャット」「ロック、ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ」「54」「プリンス・オブ・エジプト」「アルマゲドン」「8mm」「ディープ・インパクト」「石原裕次郎/俺は待ってるぜ」…もうお分かりだろう、親会社であるワーナー映画の「アイズ…」をやってるのは当然としても、8スクリーンもあるのに「スター・ウォーズ1」も「オースティン・パワーズ・デラックス」も「エリザベス」も「ノッティング・ヒルの恋人」もやってないのだ(ワーナーの「マトリックス」さえ2週遅れの25日スタート) どう考えても、WMCの支配人が横浜出身の元太陽族だから「SW」を断ってまで石原裕次郎の旧作を上映してる…ってわけじゃねえよな。近隣に系列洋画館を経営する東宝/松竹が配給会社に圧力をかけてるに違いないのだ。たとえば東宝は駅の反対側にその名も「横浜東宝会館」という老朽化した直営劇場をかかえていて、オシャレな劇場に建て直そうにも立地が「馬車道通り」という"かつての盛り場"なので、とても みなとみらい地区のような集客は見込めない。そこで東宝/松竹が各配給会社に取る手段はこうだ「WMCみなとみらいに映画を配給したら日劇/丸の内ピカデリーを始めとするウチの系列の映画館で、おたくの映画はやらないよ」 おなじWMCでも競合する劇場のない新百合ヶ丘ではちゃんと「SW」も「オースティン…」もやってるのだから、おれの推理は間違ってないはずだ。まことに腐った奴らである>東宝&松竹。梅毒で例えるなら松竹は鼻がもげた段階、東宝は脳が溶けた状態であろうか。まあ、おかげで横浜市民は「イエロー・サブマリン」を観られて、裕次郎に再会できるわけだが、それはもちろん別の話。[追記]「イエロー・サブマリン」はその後、渋谷シネパレスでレイトショー上映された。

★ ★ ★ ★
ピンク映画の現在

あまたある自己満足映画批評ページの中で、当サイトが多少なりとも特色があるとしたら、ピンク映画評を掲載しているという点だろう。ピンク映画の観客はとても少ない。ピンク映画を"映画として"観に来てる客はもっと少ない。そこでピンク映画初心者への啓蒙という意味で、おれなりの現状紹介をする。 ● まず言葉の定義から。かつて石原裕次郎や吉永小百合を生んだ大手映画会社の日活が、経営に息づまってポルノ映画のみを製作・配給していた時代があった。これを"日活ロマンポルノ"と称した。そして、その他の独立系映画会社のものを"ピンク映画"と呼んで区別していた。両者の間には製作費・製作日数・出演者などにかなりの開きがあったからである。現在では日活はもう(日活名義では)ポルノ映画を製作していないから、ピンク映画=和製ポルノ映画のことである。注意していただきたいのは、AVビデオやそれに準じるH系のVシネマは"ピンク映画"の範疇に入らない。ピンク映画は、あくまでも映画館での上映を前提とした"映画"なのである。 ● とはいえ、ピンク映画館に"映画"を見に来る客は少ない。主たる客層は自宅でAVビデオを観られない年寄りと、会社をサボったサラリーマン。彼らが求めているものはポルノグラフィ。当然である。誰がそれを責められようか。ピンク映画は何よりもまずポルノグラフィとして(細々と)存在する。 ● だが、AVにも"ヌケるだけのビデオ"と"ヌケて、なおかつ見応えがあるビデオ"があるように、ピンク映画にも"ヌケるだけの映画"と"ヌケて、なおかつ見応えがある映画"というものがある。さらに言えば"全然ヌケないんだけど秀れた映画"というのも存在する。当サイトが評価するのは"ヌケて、なおかつ見応えがある映画"と"全然ヌケないんだけど秀れた映画"である。 ★ ★ ★ ★ 以上をつけたピンク映画は一般映画と同一線上において年間ベストテン級の作品であると自信を持って断言する。どうか諸兄も一度、ピンク映画を観に行って欲しい。 ● ただし、女性が1人でピンク映画専門館に足を踏み入れるのはあまりお勧めしない。痴漢に遭う確率は一般の映画館より高いだろうし(おれも学生の頃はホモ痴漢に遭った事があるぞ)、少なくとも男性観客からの奇異な視線は覚悟しなくてはなるまい。女性には一般映画館での特集上映をお勧めする。東京ローカルで言えば、ユーロスペースなどで時おりレイトショー上映をしている。 ● あ、ちなみにおれは実際に映画館でヌクわけではないので誤解しないように。


松竹映画の終焉について思ったこと

松竹邦画番線が1999年の6月12日で消滅した。 ● 洋画系に衣替するということで、チェーン・マスターとなる丸の内松竹は「洋画系にふさわしい館名」を一般公募した。そして新しい館名は「厳正なる選考の結果、丸の内プラゼールに決定」した。「 プラゼール PRAZER とは、ポルトガル語で"喜び""楽しみ"を意味」するんだそうだ。だっせー。なにゆえポルトガル語??? しかも最終選考に残ったのが「丸の内プラゼール」「丸の内アクロス」「丸の内カレント」の3つだってんだから、やはり松竹の人間ってのは何か常人とは違う特殊なセンスをかね備えてるとしか思えん。考えたんだが、築地にあった本社ビルを取り壊した跡地に建てるビルには劇場は入らないらしいから、「松竹セントラル」っていう名跡は銀座地区では空いてるんだよな。「丸の内松竹セントラル」…いまからでもどうよ? プラゼールよりは良かんべ? ● さて、松竹は邦画番線がなくなっても映画製作は続けると言っているが、これはつまり松竹が他の専門映画館を持たない、大映や日活、はたまたポニーキャニオンや東北新社、KSSと同様の、単なる一映画製作会社に堕してしまったということだ。これで堂々と"映画会社"を名乗れるのは東映だけになってしまった。東宝はもう30年も前から興行会社=映画館主体の会社である。東宝とは別会社の東宝映画が製作する映画は「モスラ」とか「学校の怪談」など年間2〜3本程度しか東宝番線にはかかっていない。一流のハコだけを用意して、リスクの大きい"中身を作る"ことを放棄したことが今日の東宝の1人勝ちの原因だ。2流のハコゆえに外部から中身を集めることが出来ず、自分たちで中身を用意せざるを得なかったことが、松竹映画の壊滅を招いた。 ● この項で言いたいのは瀕死の東映番線を潰すな、ということである。日本映画をかけるチェーンが東宝番線ひとつきりというのでは、あまりに淋しいじゃないか。しょせん東宝はイの一番に大政翼賛会に参加するような体質の会社だし、明るく楽しい東宝映画だから、不良性感度の高い映画は絶対にかかることがないし、社会派の映画、右翼・朝鮮団体関係のトラブルになりそうな映画は絶対にかけないだろう。日本映画が全部「踊る大捜査線」になって楽しいか? ● そこで松竹は松竹映画の新作を東映番線に出してはどうだろうか? 若者向けの映画は(松竹にそんなものが作れたとしてだが)新しい洋画チェーンに出すのもいいだろう。だが「釣りバカ日誌」や山田洋次の映画を、昨日までケビン・コスナーのラブ・ストーリーをやってた映画館でかけて客が来ると思うか? そういう中高年向けの映画を年間2本程度、東映の映画館に出すようにすれば、客層も繋がるし、東映も番組編成の苦労が減って無理して「北京原人」とかを製作しなくてもいい訳だ。両者の首脳は面子を捨ててその事を話し合ってみてはどうか?(ってこんなとこで言っても何の効力もないんだが)


なぜ「ニュー・シネマ・パラダイス」に騙されるのか?

〈想い出の名画〉とか〈オールタイム・ベスト〉などで必ず上位にランクされるのがこの「ニュー・シネマ・パラダイス」である。HPのタイトルにしてるやつすらある。いや、ひとさまの趣味に文句をつけるつもりはない。どんな映画を好きになろうと勝手だ。だが気になるのは、この映画がよく「映画ファンなら好きにならずにはいられない」だとか「ラストのカットされたキスシーンの上映会では涙が止まらない」といった文脈で語られること。なぜ世の中の「ニュー・シネマ・パラダイス」を愛する人たちは、この映画の欺瞞に気づかないのか? 「ニュー・シネマ・パラダイス」はまさにあのラストシーンがあるからこそ映画ファンならば絶対に許してはいけない映画であるというのに! ● それはなぜか。単純なことだ。フィリップ・ノワレ演じる映写技師は戦時中の検閲でカットしたフィルムの断片を個人的に秘匿したりしてはいけないのである。映画というのは映写技師個人の、あるいは映画館の所有物ではない。フィルムは、ほかの町の映画館から送られてきてパラダイス座で上映され、また次の町へと送られていく。たとえパラダイス座ではキスシーンの上映がかなわなくとも、次の町には気骨のある映写技師がいて深夜にこっそりキスシーン付で上映してくれるかもしれない。たとえその時代がオリジナル版での上映を許さなくても、新しい時代になれば可能になるだろう。だが、カットしたフィルムを個人的に秘匿してしまっては、そのプリントを完全な形に復元することは永遠にかなわなくなってしまう。これを犯罪行為と呼ばずしてなんという。「ニュー・シネマ・パラダイス」のラストシーンで上映されるものは、無残に切り刻まれた美女たちの死体の山だ。おれは観ていて怒りに体が震えた。 ● 「たかがプリント1本ぐらい。ネガがあるじゃないか」と思われるか。だが「たかがプリント1本」の貴重さは過去の幾多の作品の保存状況を少しでも知るならば、決して口に出来ないはずである。ネガから何からすべてが失われて残っているのは戦時中の検閲を受けた不完全なプリントのみ。「ああ、せめてどこかにこの傑作の完全なるプリントが1本ぐらい残っていないものだろうか」と嘆息する映画のいかに多いことか。だからすべての映写技師にはどんなに面倒くさくても、カットした部分を丁寧に復元して次の町へ送る義務がある。 ● 念のために付け加えるが、これは戦時下のイタリアに限った話ではない。現在の日本においてさえ各地の教育委員会や県警の検閲(有害映画指定)といった類のものは存在するし、ファミリー映画のラブシーンを「子供に見せるべきではない」とカットして上映させるケースが現にある。この国でそういった社会的な締めつけが、この先どんどん厳しくなっていくであろうことぐらいは、どんな馬鹿にもわかるだろう。そのときに貴方はやはり、カットされたフィルムを個人的にしまいこむのか。はっきり言う「ニュー・シネマ・パラダイス」は映画の敵だ。