m @ s t e r v i s i o n
1999年のピンク映画を総括する

はじめに個人的事情を説明させてもらうが、おれがピンク映画を見始めたのは1978年ぐらいからだ(なぜ中学生で観てるのかは訊かないよーに) 特に1984年から1989年までの5年間は日活ロマンポルノの他に新東宝東映セントラル(現在はピンク映画から撤退)、ミリオン(ジョイパック=現ヒューマックスのピンク系レーベル/現在はピンク映画から撤退)、エクセス(日活のピンク系別会社)各社のピンク映画を、かなり熱心に観ていた(その頃のスター監督は滝田洋二郎渡邊元嗣だ) もっとも、この頃でも大蔵映画と東活(松竹のピンク系別会社/現在は消滅)は観ていなかった。この2社の映画はどうしようもなく古臭かった。大蔵はどれを観ても三条まゆみが出てるのが嫌だったし、東活はシュールなタイトルだけで観る気が失せてしまうのだ。“四天王”で言えば、瀬々敬久のデビュー作「課外授業 暴行」、サトウトシキ(佐藤俊喜)の2作目「Eカップ本番II 豊熟」、佐藤寿保だと「姉妹連続レイプ」までを観ている(佐野和宏はまだ俳優だった) ● それから10年間のブランクが空く。この時期は今はなき文芸地下や亀有名画座での「ピンク映画傑作選」といった特集上映で1年遅れで話題作をパラパラと追いかけたり、アテネ・フランセやユーロスペースでの「四天王特集上映」で旧作を落穂拾いしていた。従ってフォローしていたのは新東宝(国映)中心ということになる。 ● 10年ぶりにピンク映画を封切で観る気になったのは亀有名画座が閉館したからだ。玉石混合の(しかも一般映画に較べて玉の割合が低い)ピンク映画の玉だけを選んで上映してくれる名画座がなくなってしまったのだ。自分でせっせと封切館に通うしかないではないか。 ● なぜそうまでしてピンク映画を観なければならんのかって? ピンク映画は後から観ることの出来ないメディアだからだ。ピンク映画のうちビデオ化されるのはごく僅か。もちろんテレビで放映されることもない。しかもピンク映画のフィルムはほとんど保存されていない。上映が終わったら廃棄処分される消耗品なのである。高橋伴明の「襲られた女」を、滝田洋二郎の「真昼の切り裂き魔」を、渡邊元嗣の「痴漢電車 気分は絶頂」を、佐藤寿保の「エキサイティング・エロ 熱い肌」を、瀬々敬久の「赫い情事」を、そしてサトウトシキの最新作を見逃すくらいなら石石石の3本立てにだって堪えてみせるさ。 ● というわけで1999年は、おれなりの俯瞰図を作るためにも玉石問わずで70本のピンク映画を観た(たぶん全封切作品の7割ほど) 現在、ピンク映画の製作(配給)を行なっているのは新東宝・エクセス・大蔵映画の3社。前述のように新東宝はぽつぽつと追いかけていたが、エクセスは10年ぶり、大蔵映画にいたってはきちんと接するのは初めて。 ● 嬉しい驚きだったのはピンク映画は確実に新しくなっているという事。各社とも監督の世代交代が進み、若い監督たちが意欲的でアップ・トゥ・デイトな傑作・佳作を果敢に送り出している。それは一般映画志向が顕著な作品ばかりではなく、ピンク映画の枠内でのエンタテインメントを模索するポルノグラフィ志向の作品についても同様であった。ピンク映画の女優たちも(ヌード業界全般の例に漏れず)10年前と較べたら驚くほど若くて可愛い娘さんたちばかりである事は言うまでもない。あとは小川欽也・小林悟・新田栄といった10年前とまったく変わらぬ古臭い映画を作り続ける「老害監督」の一刻も早い引退を願うばかり。 ● さて、前置きが長くなった。以下がおれの1999年ピンク映画ベスト20である[面倒くさいのでリンクは張っていない。各作品のレビュウはこちらから拾い読みされたい]

1.愛欲温泉 美肌のぬめり(サトウトシキ)国映=新東宝

2.OLの愛汁 ラブジュース(田尻裕司)国映=新東宝

3.人妻発情期 不倫まみれ(工藤雅典)エクセス

4.義母覗き 爪先に舌絡ませて(国沢実)大蔵映画

5.アナーキー・イン・じゃぱんすけ 見られてイク女(瀬々敬久)国映=新東宝

6.したがる兄嫁2 淫らな戯れ(上野俊哉)国映=新東宝

7.新 団地妻 不倫は蜜の味[今宵かぎりは…](サトウトシキ)国映=新東宝

8.エロスのしたたり(サトウトシキ)国映=新東宝

9.叔父と姪 ふしだらな欲情(荒木太郎)大蔵映画

10.鍵穴 和服妻飼育覗き(深町章)国映=新東宝

11.美人取立て屋 恥ずかしい行為(工藤雅典)エクセス

12.主婦の性 淫らな野外エッチ(荒木太郎)大蔵映画

13.ぐしょ濡れ人妻教師 制服で抱いて(今岡信治)国映=新東宝

14.痴漢電車 指が止まらない(中村和愛)エクセス

15.とろける新妻 絶倫義父の下半身(深町章)新東宝

16.ザ・痴漢教師3 制服の匂い(池島ゆたか)新東宝

17.喪服未亡人 いやらしいわき毛(木村純)エクセス

18.痴漢電車 いじわるな視線(渡邊元嗣)大蔵映画

19.痴漢の指2 不倫妻みだらな挑発(神野太)JHV=新東宝

20.女修道院 バイブ折檻(浜野佐知)エクセス

ベスト主演女優

○葉月螢「愛欲温泉 美肌のぬめり」「したがる兄嫁2 淫らな戯れ」「新 団地妻 不倫は蜜の味」「鍵穴 和服妻飼育覗き」ほか
○佐々木麻由子「義母覗き 爪先に舌絡ませて」「痴漢の指2 不倫妻みだらな挑発」ほか
○里見瑤子「ザ・痴漢教師3 制服の匂い」「したがる兄嫁2 淫らな戯れ」「鍵穴 和服妻飼育覗き」ほか

1本の映画を支えるだけの魅力を備えたヒロインにだけ「主演女優」を名乗る資格がある。新陳代謝の激しい業界ゆえ、葉月螢のように「居残っている人」が際立つのは当然の結果。テント系アングラ劇団「水族館劇場」所属の女優さんゆえ台詞まわしが独特で、ほとんど棒読みと言ってもいいほどなのだが、変に器用に巧くなることなく、凄みすら感じさせる存在感を身にまとってしまった。いまや浅丘ルリ子や緑魔子といった伝説的な女優と肩を並べる地平に到達している。 佐々木麻由子は、まだ2年目の女優さんとは思えないほどの「大人の魅力」に満ちている。実年令いくつぐらいの人なんだか知らないが、宮下順子や片桐夕子といった1970年代の日活女優を彷彿とさせる艶っぽさを持っている。言いかえれば、じつにピンク映画向きの女優さんなのだ。監督たちよ、何をうかうかしておるのだ。もっと彼女を使いたまえ。やはり2年目の里見瑤子の「一途な存在感」も素晴らしい。演技という面ではまだ「レパートリーが1つしかない」段階だが、しばらくはピンク映画を続けてくれそうなので今後に大いに期待。 ● お腹にいれたバラの刺青がトレードマークの姐御肌、佐々木ユメカ(「アナーキー・イン・じゃぱんすけ 見られてイク女」「美人取立て屋 恥ずかしい行為」)が僅差の次点。ほかにも、瀬々敬久の一般映画「雷魚」の主演女優で、1999年からピンク映画に足を踏み入れた、気だるい存在感が得がたい佐倉萌(「不倫女医の舌技カルテ」「痴漢タクシー エクスタシードライバー」)、変わらぬ「天使の微笑」で今年もおれの胸をキュンと(走召火暴)させてくれた西藤尚(「痴漢海水浴 ビキニ泥棒」「女痴漢捜査官2 バストで御用」)、もっともっと映画に出てほしいベテラン、伊藤清美(「主婦の性 淫らな野外エッチ」「母娘ONANIE いんらん大狂宴」)、岸加奈子(「女ピアノ教師 ゆび誘い乱されて」「好色夫婦 すすって欲しい」)が印象に残った。

ベスト助演女優

○桜居加奈(夢乃)「義母覗き 爪先に舌絡ませて」「痴漢電車 指が止まらない」「高校教師 保健室の情事」ほか
○風間今日子「巨乳三姉妹 肉あさり」「平成版・阿部定 あんたがほしい」「美容師三姉妹 乱れ髪くねり腰」ほか
○佐々木基子「叔父と姪 ふしだらな欲情」「人妻同窓会 密漁乱行」「発禁本 緊縛肉襦袢」ほか

「女房と畳の法則」に準拠して、主演に新人女優が起用されるケースの多いピンク映画において、その商品性を保証するのは「達者な脇の女優さん」である。「アクション場面だけが面白いアクション映画」や「特撮だけがよく出来たSF映画」があるように、彼女たちの濡れ場があるから救われたピンク映画のいかに多いことか! ● 桜居加奈(別名:夢乃)の「自然さ」はいったい何なのだろう。学生役をふられる事の多い彼女だが、いとも簡単にその役になってしまう。かと言って演技派というわけでもなく、大してやる気があるようにも見えないってとこが凄い(個人的にもタイプだったりして…) 1999年の「ピンク映画の女王」の称号は文句なく風間今日子のものである。どんなつまらない作品でも彼女のおっぱいが見られたというだけでオトーサンは満足なのだ(含む>おれ) そういう意味では佐々木基子の貢献度もデカい。落ちついた雰囲気のせいで「熟女濡れ場要員」として便利に使われがちだが、「叔父と姪 ふしだらな欲情」で垣間見せたように、新劇仕込みのたしかな演技力に裏打ちされた女優さんなのである。 ● このカテゴリーの次点は当然、林由美香(「痴漢電車 奥までたっぷり」「主婦の性 淫らな野外エッチ」)と村上ゆう(旧名:青木こずえ)(「とろける新妻 絶倫義父の下半身」「和服婦人の身悶え ソフトSM編」)の両ベテランということになる。ご両人ともいつまでも新鮮さを失わないのは大したもの。てゆーか、林由美香はここへ来て若返ってる気もするぞ。個性的な七月もみじが「女子大生 朝まで抱いて」を限りに引退してしまったのは残念でならない。

ベスト新人女優

○諏訪光代「ぐしょ濡れ人妻教師 制服で抱いて」「愛欲みだれ妻」
○久保田あづみ「OLの愛汁 ラブジュース」「新 団地妻 不倫は蜜の味」
○河村栞「不倫女医の舌技カルテ」

1999年に「今岡信治の専属女優」として登場した諏訪光代の「不安定な存在感」には目をみはった。今にも壊れそうな繊細さを表現した巧さに異論はないが「客を勃たせるピンク映画女優」としてはちょっと問題あるかな。2000年は、ぜひ他の監督でも観てみたい。「OLの愛汁 ラブジュース」で20代後半OLをリアルに演じた久保田あづみは、以来 出演作がないが、あれっきりでやめてしまったのだろうか?(勿体ない…) 「不倫女医の舌技カルテ」でインパクトあるデビューを飾った河村栞の台詞まわしの上手さは特筆もの。いかにもアングラ小劇団風のクセがあるのだが、いっそのこと開き直って彼女主演で「ザ・クラフト」みたいなゴス少女ものとか、どうか?>池島ゆたか/渡邊元嗣で。 ● 次点として、デビューしていきなり大車輪の活躍となったさとう樹菜子(「女子大生 朝まで抱いて」「セックス・フレンド 濡れざかり」)、渡辺元嗣作品(「痴漢海水浴 ビキニ泥棒」「痴漢電車 いじわるな視線」)で天真爛漫な笑顔を魅せてくれた黒田詩織を挙げておく。ほかにも桐島貴子(「痴漢電車 指が止まらない」)、時任歩(「平成版・阿部定 あんたがほしい」)、青山美樹(「美人取立て屋 恥ずかしい行為」)、水原美々(「女子アナ 盗撮下半身」)の美貌&美裸身が印象に残った。

ベスト男優

○杉本まこと「ザ・痴漢教師3 制服の匂い」「平成版・阿部定 あんたがほしい」「鍵穴 和服妻飼育覗き」ほか
○かわささきひろゆき「魅惑の令嬢 Gの快感」「鍵穴 和服妻飼育覗き」ほか
○江端英久「したがる兄嫁2 淫らな戯れ」

10年ぶりにピンク映画を1年通して追いかけてみて、最大の収穫は杉本まことという役者と出会えたことだ。「絡みの相手役」として便利に使われながら、時おり見せる凄みにシビれた。「ザ・痴漢教師」シリーズは最近では数少ない“男優で魅せる”映画だった。かわささきひろゆきはコメディ映画に欠かせない「お人よしのデブ」キャラの一典型を見せた。江端英久はピンク映画が主戦場ではないようで1999年は「したがる兄嫁2 淫らな戯れ」1本きりだが、ここで見せたバカ弟のコメデイ演技はサイコーだった。 ● 男優部門の新人賞は「OLの愛汁 ラブジュース」「ぐしょ濡れ人妻教師 制服で抱いて」でイマドキの若者像を自然に演じた佐藤幹雄。「愛欲温泉 美肌のぬめり」「新妻痴漢 たまらず求めて」の飯島大介はさしずめカムバック賞か。ピンク←→Vシネマ←→一般映画を自在に行き来する貴重なバイプレーヤーである。田嶋謙一が「叔父と姪 ふしだらな欲情」「主婦の性 淫らな野外エッチ」で見せた中年の苦渋は胸に染みた(火暴) ● 以下「殿堂コーナー」は作品名略で。じつを言うとかつては、港雄一久須美欽一が出てくるような映画は嫌いだったのだが、老境をむかえて(港雄一は臭みが取れて、久須美欽一は臭みを味にして)すごく良くなった。本多菊雄伊藤猛川瀬陽太の「国映三人衆」はすでに、かつての下元史朗や山路和弘、佐野和宏の域に達していると思う。

ベスト監督

○サトウトシキ「愛欲温泉 美肌のぬめり」「新 団地妻 不倫は蜜の味」「エロスのしたたり」
ベストテンに3本。随一の実力のある監督にこれほど量産されては他の監督がかなうはずがない。次点はかつての自主映画タッチの作風から急速に普遍性を獲得しつつある荒木太郎(「叔父と姪 ふしだらな欲情」「主婦の性 淫らな野外エッチ」)

ベスト脚本家

○小林政広「愛欲温泉 美肌のぬめり」「したがる兄嫁2 淫らな戯れ」「新 団地妻 不倫は蜜の味」「エロスのしたたり」
文句なし。範囲を1999年の日本映画全体に広げても、一番すぐれた脚本を書いたのは小林政広だ(これだけエンタテインメント精神にあふれた人が、自身の監督作になると途端に趣味に淫した“自主映画”を撮ってしまうのがなんとも解せない) 次点は“ベッドの上の男と女を描く”という、ポルノ映画が本来いちばん得意とする正攻法のドラマで実力を示した「OLの愛汁 ラブジュース」の武田浩介に。

ベスト カメラマン

○清水正二「叔父と姪 ふしだらな欲情」「鍵穴 和服妻飼育覗き」「とろける新妻 絶倫義父の下半身」ほか
サトウトシキの3作を撮った広中康人や「アナーキー・イン・じゃぱんすけ 見られてイク女」の斉藤幸一が素晴らしいのは論をまたない。だが、年間を通じてもっとも優秀なカメラマンは、作品毎に異なる監督の要求に的確に応えられる技術の蓄積と、実験的な創造力をかねそなえたベテラン 清水正二(志賀葉一)をおいてない。同様の理由で次点は小山田勝治(「義母覗き 爪先に舌絡ませて」「痴漢電車 指が止まらない」「女修道院 バイブ折檻」)に。

ベスト新人監督

○工藤雅典「人妻発情期 不倫まみれ」「美人取立て屋 恥ずかしい行為」
工藤雅典はロマンポルノの助監督経験がある“遅れてきた”日活生え抜きの監督だ。娯楽映画の撮り方を肌で覚えている得がたい資質は、遅かれ早かれ一般映画のフィールドに進出して行くことになろう。次点は、官能的なポルノグラフィを撮ってやるんだ、という「喪服未亡人 いやらしいわき毛」の木村純の意欲を買う。

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