●ねらわれた学園 / 眉村卓
2003年にまたリバイバルするとはねえ(講談社青い鳥シリーズ)。イラスト緒方剛志というのは、ある意味狙い過ぎ、でもいい感じ。
とはいえ、初めてこの物語が世に出たのは何年だったかな。私は25年ぶりくらいの再読です。最初に読んだのは、薬師丸ひろ子主演で映画化された当時のことだから。
それにしても古びないなあ。
時代を特定させるようなツールが何も出て来ないせいもあるけど、制服の形に関する描写が一切ないのも影響している気がする。スカートのプリーツがはためいて、とか、ブレザーのポケットから何か取り出した、とか、そういう描写すら見当たらない。
ちなみに薬師丸ひろ子はセーラー服でしたが、緒方剛志のイラストではブレザー、女子制服が今どきなミニスカ(書かれた当時は、長い方が流行だったはず…だよね)。
SFは、近未来を描こうとしても時代を表すイコンがどっかしら紛れ込んでしまうのが宿命みたいなトコがある、と思う。
一昔前の描く「未来」といえば、都市の空にチューブが巡って空飛ぶ自動車がビューンとか、コンピュータは全て音声コントロールで、しかも無から有を作り出すようなワザが平然とまかり通るし、通信手段は胸のバッチまたは腕時計、って感じが「定番」だった気がするのですが、それは今の時代になっては、実現するはずの未来の図というよりは古くさい郷愁にカテゴライズされちゃってるようなもんで。
でも……最低25年以上前に描かれているこの物語の阿倍野六中は、今現在存在する中学校という場所と、そんなに大きなズレを感じることなく「理解」出来るんじゃないかと思う。学校という場そのものに古くささは感じない。まあ、そこに出て来る登場人物の人間像は些か、今時の子に比べたら真っ直ぐ過ぎるかも知れないけど、でも、ADVゲームなんかに描かれる象徴としての学生像は今でもこんな感じなんじゃないかな。
少なくともノスタルジーに分類するほどは古くない。
それは、ストーリーテラーとして、すごいことだ、と思うのです。時代を超えて普遍的な「学校」を描いている、ということだから。
なんてことをつい考えてしまった感慨の再読。
●ねじれた町 / 眉村卓
●なぞの転校生 / 眉村卓
●まぼろしのペンフレンド / 眉村卓
すぐマイブーム化するのが私の悪いクセで(笑)。
というか「原点」な感じ。全ての道はローマに通ずじゃなくて、全てのSFは眉村卓に通じてしまうんじゃないかくらいの勢いで。最早古典ですねえ。職人の域だなあ、これは。
やっぱり、学校というモノの描き方がすごくソリッドで好き。
それと、物語それ自体も。この無駄のなさは美しいなあ。
……昔のものを再評価してしまうのは、年を取って来た証拠なのだな。恐らく。
●ライトジーンの遺産 / 神林長平
目指すは火星三部作なのですが、とりあえず入り易そうな所から。気のせいか、SF作家さんとは、文体の相性が徹底的に合わない人が時々いるので。なんていうか、文体とお見合いをしてみよう、というチョイスで。
生粋のファンさんにはこれがホームドラマに見えるらしい……と言われて、読んでる間は半信半疑だったのですが、終わってみれば、ああそうかも、と。
かなり人間描写がwetですね、この人の文体は。この手の話にしては意外だ、と思えるほどに。
あと。人工生命体であるサイファの持つ「超能力」の描写がかなり面白かった。いいなあ。「いくら視力がいい目を持っていても、芸術が正しく解釈出来るとは限らない」とか、目からウロコ。超能力(っぽいもの)が原始の能力であり、進化することで人間がそれを「捨てた」のだという世界観とか、かなりぞくぞくする。脳ではなく肉体自体に記憶が宿る話とか、もう、辛抱たまらんっす。大好物っす。
他の出していらっしゃる本のネットレビューをつらつらと色々眺めてても、作家として、書こうとしていることが…骨格になるテーマというか、芯がしっかり1つ在るのだろうな、と思わせてくれますね。
なんというか、ファンを裏切らないタイプの作家なのではないかしら。不思議なくらいどっしりした安定感。職人技、というか。
初読なので誤解しているかもですが。
しばらく追いかけてみよう。
●小指の先の天使 / 神林長平
うわ、某所のレビュー見て初めて気付いた。執筆順と違うんだ、これ。フツーにこの順に描かれているものだと思ってた。
あと、これはとんでもなく蛇足だから最初に言い捨てるけど、各話のタイトルセンスが微妙に私とは合わないらしい……です……。なんかむずがゆい。シンプル過ぎるのかも知れない。この人らしいと言えばこの人らしいのかも知れないけど、もちっとレトリックあってもいい気がする。というか、タイトルチューンである「小指の先の天使」だけが異様にレトリック効き過ぎ。
で、本編。美しい世界です。この一言に尽きる。
多分、石器という道具を発明した頃の人類にとって、石器とはものすごい科学だったはずで。技術だったはずで。進化だったはずで。革命だったはずで。でも、それらの道具が今となっては過去の産物になっているこの感触が、コンピュータという技術の上に降りかかった世界。
コンピュータ上の仮想現実という技術が既に過去の遺産になった世界。300年1000年とかいう単位の年月を軽く飛び越えてつながる世界。
全てを読み終えた後に「抱いて熱く」に戻って来ると、また全然味わいが変わりますね。ただ、執筆された1982年当時は「抱いて熱く」がこれらの作品と連鎖することを最初から目指していたわけではない気がするけど。
一編一編の主人公たちの言動は、実はどうでもいいかなり些細なこと。ただ、現実とは、その些細なことが積み重なって出来上がっているものだということは、ひしひしと感じさせられる。
何より。根底に流れている世界の作られ方がいいなあ。コンピュータの仮想現実という世界を通り抜けた後にやって来た「神殿」。神話の世界。その世界でも、あの世界でも、命は淡々と生きるのみ、ですね。
●ひとかた(フリーソフトADV)
追記 : 原作者のサイトは既に閉鎖。今遊べるのはテンクロスさんによるスマホ移植版のみ。興味があればこちらを是非。
今となっては全年齢版しか公開してないのでそれをやったわけですが、それでもやっぱり下ネタ系はサムいよ。ギャルゲ文法に慣れてない人にはきついよ。多分。
という所を乗り越えて。構成がステキ。これぞループ! これぞゲェム! というか、システム先行で出来上がった(らしい)というのはものすごく判る。物語の作り手である以前にシステムの作り手だったのでしょうね。もちろん、語り部としての才能もあると思いますが。
ゲェムでなければ表現することが出来ない物語、ではある、と思う。
……主人公の名前がある意味そのまんまなので(笑)、推理小説苦手な私でも彼の正体は結構すぐ行き当たったけど、それに彼自身が気付いて、自覚して、諦めて、受け入れて行く段階が、ループという装置を通じて徐々にステップアップする、そのカラクリが美しかったですねえ。
==================== ネタバレ結界スタート ====================
全員救済超絶ハッピーエンドが見てみたかった気もする。ある意味、終わりが綺麗過ぎて、切なくて泣けるけどカタルシスはなかったね。
ぶっちゃけ、日下部センセを救う道が実は欲しかった。というか、そういうタイプのドンデン返しがあると多分、かなり萌えたような気がします、個人的には。
最終ループ1つ手前で、破魔矢が彼の手から出て来た時は本気で叫びかけましたデスよ。もう、なんというか。その。味方につけちゃってくれと本気で願ってましたが何か! 敵のフリして実は味方でしたとかそういうの期待しちゃってましたゴメンナサイ!!
……結構、久々にダメダメなキャラ萌えだったかも。『本人』なんだから、もう少し色々知りたかったですねえ。日下部センセ。
固定リンク / 2006.7.31
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