猫だ。かわいい(?)猫が歩いている。
大きくて、誰に着せられたのか、赤いチュニックをつけている。
大きさは1m近くあろうか。お化け猫だ。
[選択1-1]
(ねえきみ、名前はなんていうの?)
大猫はニャニャニャと鳴いている。
○○「…さすがに言葉はしゃべれないか。」
大猫は顔を洗っている。
[選択1-2]
(で…でかい…。)
ブータは、半眼でこちらを見ている。
当然だといわんばかりだ。
○○「あー、もう朝?」
そう思って明け方の空を見たら、ブータが、屋根の上にえっちらおっちら登っている。
ブータが、屋根の上で、東の方を見た。
どこからか集まってきたのか、次々と、猫達が集まってくる。
猫達が、並んで朝日を見ている。
祈るように、あるいは、何かを見守るように。
長いひげが、風に揺れた。
それは、幻想的な風景だった。
地平線から離れた朝日に、猫達が黙ってその光景を眺めている。
なぜだか、涙が出た。
なぜだか知らなかったが、ありがたい気になったのだ。
ブータはあくびをした後、眠そうな目でこちらを見た。
ブータはヒゲを風に揺らしている。
[選択1]
(なにか悲しいことあったの?) / (かわいいね。)
「ニャー。ニャァー、ニャァー!」
まるで言葉が分かるように、ブータは鳴いた。
そして、顔を洗った。
ブータは古そうな赤い短衣を大切そうに着ている。
服が汚れないように水溜まりを避けている。
[選択1]
(前のご主人が着せてくれたの?) / (君の宝物?)
「ニャー。」
まるで言葉が分かるように、ブータは鳴いた。
じぃっとこちらを見ている。
[選択2]
(そうなんだ。) / (きっといいひとがくれたのね。)
「ニャー。」
ブータは、じぃっとこっちを見た後、頭を下げた。
そして、走っていった。
ブータは四つ葉のクローバーをくわえている。
そして、くれた。
[選択1]
(ありがとう。) / (気にしないでよ。)
ブータは目をうるうるさせている。
「…人でありながら、人以上になろうとするか。
気をつけよ。
今、お前は人と伝説の境界線におる。
それ以上殺しつづければ、人として生をまっとうすること、かなわぬぞ。
…。
強すぎる者は、いつの世も、人として生きることを許されず、伝説となる。
…人外の、伝説に。
人よ。友として忠告する。
こちらには、来るな。
限りある生を、まっとうせよ。
永遠に生きるということは永遠に戦うこと。
それは悲しみと苦しみ以外の何物でもない。
我らは生を離れれど、心は不死ではないのだ。
だから友よ。心より忠告する。
あしきゆめを殺す手を休め、人として生きよ。」
ブータは、二本足で立つと、こちらを見てうやうやしく挨拶した。
「ようこそ、絢爛舞踏。世界で最も新しい伝説。
新しい神。英雄の妖精。あしきゆめと戦う者。
人類の守護者。我と我らは戦友を歓迎する。
我はブータニアス・ヌマ・ブフリコラ。
長靴の国より来る客人神(まれひとがみ)。
猫神族の英雄にして、最後の戦神だ。
…不思議そうな顔をするな。
本来戦神は毛がふかふかで、ニャーとなくもの。
ニャ、ニャニャ?
ピー、ガガーガガッガー」
(ブータは顔をしかめた。)
「…心を騒がせるな。人でありながら人でなくなりし者。お前がすでに人の域を超えたように、我らもまた境界を越えたるもの。
限界を超えればその先にもまた、世界が広がるが道理。猫を超えれば猫でなく、鉄を超えれば鉄でない。そこにあるは伝説。伝説世界。
新しき者よ。昼が終れば夜が来るように、われらもまたあしきゆめと戦うために神話より戻ってきたのだ。
聞け。人類の敵が生まれようとしている。
なんじが幻獣と呼ぶあしきゆめ、その中で最も強力なる者だ。
絢爛舞踏よ。我らは戦わねばならぬ。
あしきゆめを撃滅するは、いつの世もわれら人外の伝説が役目。
探せ。絢爛舞踏よ。
敵は我らの近くにいる。探して、狩るのだ。
人の顔をしたあしきゆめを狩るのだ!」
「…とうとう、ここまで来たな。
友よ。いや、今や戦友となった者よ。
だがわしは、そなたが人として生をまっとうすることを、祈っておったぞ。…一柱の、友としてな。
まあよい。我ら神族すら、運命のくびきより逃れるはかなわぬ。
これも、火の国の宝剣が呼ぶ運命であろう。
…。」
「火の国の宝剣、マジックソード・オブ・ムルブスベイヘルム。
別名ドラグンバスターは、われら神族の最強最高の武器だ。人と神族と、共に押し流す運命をつむぐ品でもある。
そなた達が士魂号複座と呼ぶ、あの巨人が腕にある精霊手。あれと並ぶ、な。
今やそなたと契約し、その配下となった六千万の万物の精霊、その炎が告げている。
竜を許せと。この哀しみを終らせよと。
人の神族と、我ら猫の神族と、今また各地より小神族と、天地の神々があしきゆめと戦うために集まっている。
最後の戦いは、近い。」
「新しい人外の伝説よ。我らはひとのゆめ。
よきひとの素朴なるねがい。
よるがくれば太陽に替わって月が出るようにねがいが終るその時には神族が現われるが道理。祈りが我ら伝説を集めておる。
竜を許せと。哀しみを終らせよと。
新しい伝説よ。そなたもまた、誰かに呼ばれ、それに答える形で伝説となったのだ。
伝説は人のねがいより生まれるゆえに。
我らは…、
無垢なる子らが祈るその時に、あまりに強く、醜く生きるが故に、その守護者たる運命を火の国の宝剣より与えられし戦士。
あしきゆめを撃滅するは、いつの世もわれら人外の伝説が役目。
我らひとのゆめなれば、闇を払う銀の剣、火の国の宝剣として子らのために振るわれるが誇り。
誰にも見えぬとも伝説はそうして存在する。
やみにおびえる子を寝かすのは、やはりやみのなかで聞かされる英雄達よ。」
「竜は…おそらく、人の中におろう。
お前は竜を見つけ、その正体をあばかねばならぬ。
我ら伝説がひとのよきゆめであるように、幻獣は…あしきゆめは、ひとの暗い想念によって召喚される。
その暗い想念を探すのだ。」
ブータ「そなたは、歌が歌えるか。
歌えるのなら、歌ってくれぬか。」
[選択1-1]
(歌わない。)
ブータ「なんじゃ、軍楽技能を持っておらぬのか。
整備員詰め所で訓練をしたらどうだ。」
[選択1-2]
(歌う。)
ブータ「歌ってくれるか。
題は…がんぱれーど、なにがしだ。
ほれ、銀の剣という。」
○○「その心は闇を払う銀の剣
絶望と悲しみの海から生まれでて
戦友達の作った血の池で
涙で編んだ鎖を引き
悲しみで鍛えられた軍刀を振るう
どこかのだれかの未来のために
地に希望を 天に夢を取り戻そう
われらは そう 戦うために生まれてきた」
ブータ「…。
…なんだ、もう終りか?
良い歌だ。どうせなら、最後まで歌えばよかろうに…。
わしはな、その歌が好きだよ。
その歌を頭から信じて歌うひとが好きだ。
その歌を好ましく思うわしが好きだ。
我らひとのゆめなれば、闇を払う銀の剣、火の国の宝剣として子らのために振るわれるが、唯一にして無二の誇り。
永遠の命を賭けて戦うは、ただその誇りのため。
その歌は、我ら伝説をよくえがいておる。
願わくば、わしが運命から解き放たれて死ぬその祝福された時に、その歌通り雄々しく死ねるように…な。
さて…休みは終わりだ。また暗き想念持つ竜を探そうぞ。」
ブータは、長い間ヨーコを見た後、頭を下げて、走っていった。
なんだ?