画像補正トライアル(3) -シャッター幕トラブルからの救済-

2017.6.18

■せっかく好条件で撮れた写真だったのに

「ひと味違う画像を目指して」の第3回は第2回までに使っているテクニックを使いながら、それだけでは解決できない写真を救っていきます。第2回から既に12年が経過していますが、今回のサンプルは四国で1989年に行われたイベント「ジョイフルトレイン大集合」撮影行の際、予讃線で「トマムサホロEXP」を待っているときに来た列車です。当時はまだ電化されていませんでした。

使用ソフトについて

既に絶版となっていますが、アドビ社のPhotoshop LE(以下PSL)を今も使用しています。機能限定版はPhotoshop Elementsというソフトになっていますが、バージョンが上がるごとにPSLでは使えていた有用な機能が廃止され、私の使い勝手上は無用な機能ばかりが増えるという改悪が行われているのは残念です。

(1)スキャナーから取り込んだ原画

スキャナーから取り込んだ原画

スキャナーから取り込んだ原画です。本命、「トマムサホロEXP」の前に来たのがこの列車。先頭はキハ525です。1989年(平成元年)当時、四国では一般形気動車もクリームに空色の新塗装への塗り替えが進み、タラコ色は珍しくなっていました。前面強化の補強工事も未施工で、すっきりした好ましい車です。
 ネガで撮ったものですが、ラボから仕上がってきた写真を見てがっかりしました。左右で濃さが違うのです。
 これは、デジカメでは起こらないフイルムカメラ特有のトラブルです。このカメラはシャッターを切ると幕が左右に走り、幕に設けられたスリットからフイルムに露光させる仕組みですが、幕の速さが均一でないと露光時間に差が生じてしまいます。明るさが意図しない「グラデーション」になってしまったのです。


(2)失敗作(焼き込み、覆い焼きによる補正)

明るさのグラデーション

スキャンしたときからこの写真を何とか救えないかと思っていました。暗室におけるプリント作業ならば「覆い焼き」や「焼き込み」という手法を使います。PSLでもその機能があるため、迷わず試してみました。「ブラシ」を使って画面をなぞると薄くなったり(覆い焼き)濃くなったり(焼き込み)しますが、ブラシの効果を最低値にしても「まだら」ができてしまいました。背景が樹木やモクモクとした雲であれば目立たずにできそうですが、「快晴」の空は難しいのです。これではとても満足できるものではありません。


(3)グラデーションのトラブルは「グラデーション」で

明るさのグラデーション

グラデーションを作る機能があることは、このソフトを使い始めて17年にしてやっと気づきました。その時思ったのが、この方法ならば「キハ525」を救えるかも知れない・・・でした。
 ソフトの解説ではないので以下、詳しい方法は省きます。
 まず、原画(背景)をコピーしてそのまま新しいレイヤを作ります。写真は新しいレイヤの画像について明るさのグラデーション処理をしたものです。モードは「描画色から透明へ」を選んでいます。普通は黒〜白ですが、左側の空が若干黄ばんでいるため、「描画色」は真っ黒ではなく、青を少し足してあります。
 明るすぎる左側を濃くしてありますが、濃さが逆転するくらい極端なものになっています。


(4)「通常」モードによるレイヤの合成

明るさをプラス


グラデーション処理を行ったレイヤが上にあり、原画は下にあります。上のレイヤの不透明度を下げると下のレイヤが透けて見えるようになります。不透明度を下げるほど処理した絵の影響が下がります。不透明度を49%にしたところで空の左右のバランスがよくなりました。
 右側の暗い空に合わせているため、暗くて眠い画像ですが、その修正はレイヤを合成してから行います。


(5)「スクリーン」モードによるレイヤの合成

ハイライト部の青味を強く

レイヤの合成にはいろいろなモードが用意されています。今回、それぞれのモードを使うとどうなるかを試してみました。プルダウンメニューから選ぶだけなので、意図しない結果になればいくらでもやり直しができます。
 今回注目したのは「スクリーン」というモードです。このモードは映像をスクリーンに投影するところからこのように呼ばれているようですが、イメージすることが難しいです。「スクリーン」よりも「光の合成」としたほうが理解できました。
 絵の具のような「色」は3原色を混ぜると黒くなっていきますが、「光」は混ぜると白くなっていきます。たとえば、青、黄色、赤のフィルターを通した光をスクリーンに同時に投影すると白くなります。(こう考えると「スクリーン」の意味がわかりますね。)
 グラデーションの明るい部分はより白く、黒い部分は何も起こらない(変化がない)ため、右側の暗い空が明るくなることによってバランスが取れるようになります。
 レイヤの不透明度は「100」が最良の結果となりました。



(6)ヒストグラムで明るさの分布を確認する

原画のヒストグラム

ここで画像のヒストグラムを見ておきましょう。ヒストグラムは明るさの分布を表し、左側が暗い部分。右側が明るい部分です。原画は真っ黒、真っ白に近い画素が少なく、中間部分が幅広く分布しています。もともと被写体のコントラストが低いため、その影響はあまり現れていないようです。明るすぎる画面左側と暗すぎる右側の間の「明るさ」が満遍なく分布していることが読み取れます。


通常モードによる合成画像のヒストグラム

次は通常モードによって合成した画像です。不透明度を調整してレイヤを統合して1つのレイヤにした後の結果です。
 中間の明るさに3つの鋭い山が立ち上がりました。明るい部分、暗い部分が少ないため、締まりのない眠い画像になっています。さらに、明るい側1/4くらいの画素がほとんどありません。このような状態でコントラストを調整すると、明るさの変化の度合いが大きくなるため、階調の滑らかさが損なわれる原因にもなりそうです。
 原画の右側の暗い空に合わせて補正したために全体が暗めになっているわけですが、原画のガンマ(→第1回参照)をあらかじめ上げておいたほうがよかったでしょうか。


スクリーンモードによる合成画像のヒストグラム

最後は「スクリーンモード」によって合成した画像です。全体的に明るいため、山が右側へ寄っているのがわかります。その分布を見ると、上の「通常モード」のように欠落している部分がなく、明るさが幅広く分布しています。したがって、明るさやコントラストの調整においてより小幅な調整で済むことになります。


(7)完成画像です

やっと完成


 明るさ、コントラスト、微妙な色の調整をして完成としましょう。ヒストグラムの説明では「スクリーン」合成が有利と書きましたが、ディスプレーで見る限りでは「こちらのほうが明らかに良い」というほどの差は出なかったと思います。画像クリックで別ウインドーが開きますので、移動させて原画と比べてみてください。


古いネガのスキャンはもうずいぶん長い間進めてきました。しかし、気に入らなくなってやり直したり、気乗りしなくて進められなかったりで、気づけば初めてスキャナーを買ってから17年も経過してしまいました。その当時撮影したネガも劣化が気になる状態になっています。さらに古いネガについては言わずもがなです。
 部分によって変色の度合いが異なる画像は切り抜いてレイヤを分けるという方法を第2回で説明しました。しかし、それだけではうまくいかない場合があります
 今回使った「グラデーション」は左と右でゼロから100という変化量です。実際の画像でそのような補正をすることはまずありません。このような極端な補正結果と原画を重ね合わせ、補正画像の影響度を「不透明度」によって調整するところが「ミソ」といえましょう。
 スキャン画像にはたとえば画面の中央だけが黄変し、上下はその度合いが軽いという不均質変色を生じたものがあります。今回の方法はこのような画像の補正にも応用できそうです。
 正直なところ、ここまでうまくいくとは思っていませんでした。もともとが「不具合画像」であったと言われなければ、気づかないくらいまで救済できたと思います。掲載した以外にも何とおりも補正を行いましたが、最終画像を眺めていると、当時の現地へ吸い込まれて行くような感覚になります。

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