オーディオ日記 第32章 夢の通り道(その6) 2013年2月28日


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美音追求を半ば執念で続けている。世の美音系スピーカーと我が家のシステムとの違い、聴き応えの差異などについて考察を行ってみた。中域から高域に関しては我が家のユニット達はとても頑張っており、S/Nも申し分なく透明度やリアリティに関しては幾分ながら勝っているように思う。反面低域に関しては先の DG-48試聴 のところで計測結果を掲載したように、かなり重要な帯域である80~100Hz辺りに落ち込みがあり、このままでは音楽の充実感が得られにくいという欠点がある。加えて、15インチウーファーの反応の遅さも小口径ウーファーをパラで使用するような構成に比すれば明確に差があると思う。これを補うためにデジタルイコライザでの苦闘を行ってみてはいるが、パラメトリックイコライザでの補正を行ってみても帯域バランスは整うのであるが、むしろ高域の透明感が損なわれるいう感触が拭い切れず、イコライザを使うべきか、使わざるべきか少し悶々としていた。また、DEQ2496という廉価なデジイコを使用していることにより、心理的に「音が悪いんじゃないか」という猜疑心も加わって来た。もちろんDG-48のような民生用ハイエンド(と思われる)イコライザとも比較試聴して来た訳で、イコライザとしての能力に遜色がないことも分かっているのではあるが。

我が家のユニット達のこの中域から高域の良さを活かしながら、低域をしっかりとさせるにはどうしたら良いのか。どうもこの辺りが我が家での美音追求のための本質課題であるように思われながらも、具体的な対応が打てないでいた。理論的に考えてみても、デジタル領域でのイコライジング以外で解決すべきなのは重々承知なのであるが、天井の高さや設置スペースから来る制限など、物理的な制約から逃れることは難しい状況である。この制約の中で取り急ぎできる対策を考えれば、やはりイコライザ補正を適切に行うことが次善の選択肢となる。デジタルイコライザを使用する場合の欠点をしっかりと補えれば問題は解決できるのではないか、と10日間あまり旅行にて音楽を聴けない時間があったので、あれやこれやと堂々巡りの愚考をしていた(旅に出てもオーディオのことが頭から離れない)。ふと思いついたのは補正の方法である。今までは多少落ち込みのある低域を補おうと考えて、当該の周波数をブーストし、その結果としてデジタルクリッピングが起きないように、全体のゲインを低域のブースト分に合わせる形で落としていた。結果として、本来はいじる必要のない中域から高域の領域をマイナス方向へ一律に補正してしまっていることになる。デジチャンではリアリティの確保のために極力デジタル領域での減衰をさせないように留意していたにも係わらず、である。実際の音楽の高域のエネルギーは存外に小さく、このレベルを落としてしまうことはデジタルデータのbit数の制限からも、音に対して良い結果を生まないと頭では理解していたのに。

さて、そうは云ってもデジタル領域で補正を行うとなると、クリッピングを起こさないための工夫・対応が必須である。要は、これをどこでどのように行うのか、というのがポイントであると大変遅まきながら改めて気付いた次第。そこで考えついた方法であるが、デジイコではウーファー領域全体をブーストが必要となる最大量と同じだけ(該当するdB分)をレベルを低くする設定にする。その上で、補正・増強したい領域のみを0dBに近づけるように補正する。少し分かりにくいので、実際の数字で説明すると、ブーストしたい量が最大で+3.0dBであれば、デジイコではウーファーのクロスオーバー周波数以下をいったんすべて-3.0dBとしてしまうのである。その上で、最大ブーストしたい周波数を0dBまで上げる。その他の周波数での補正が必要であれば0dBを越えない範囲で調整する。

当然ながら、低域はブーストを行うような補正をしたい訳であるが、結局はブーストしないその他の周波数領域のレベルを下げているだけなのである。上記のようにすれば、デジタルクリッピングを避けるために(中域、高域を必然的に含んでしまう)全体のゲインをデジイコで落とす必要が無くなる。低域のクロスオーバー周波数が500Hzとすれば、500Hz以下の低域は当然ながら、実際にはブーストしている訳ではない(最大値は0dB)ので、デジタルクリッピングの問題も当然ながら起きない。また、この周波数領域であれば、音楽のエネルギー成分が大きく、数dBの絞込みであれば、問題も小さいのではないかと考えた。あれこれ思い出してみると、イコライザの秘訣というのはレベルを上げるのではなく落として補正するのだというなコメントを、レコーディングエンジニアから聞いたような記憶がどこかに残っていたのかもしれない。

このようにすると、デジイコでは中域、高域にまたがるゲイン調整によってレベルを落とす必要が無くなるのであるが、全体の出力バランスで見れば、そのままでは中域、高域の出力レベルが相対的に上がってしまうことになるので、中域、高域のユニットのレベルは相対的な分(このケースでは-3.0dB)だけ落としてやる必要が出てくる。この方法はいくつかあり、もっとも望ましいのはパワーアンプでゲイン調整するかあるいは出力を下げることである。もちろんアナログ信号領域でアッテネーションする方法もある。一番簡易なのは、デジチャンで出力レベルを落とす方式なのであるが、理論的にはこの方法ではデジタル領域での操作になるので、元の木阿弥になってしまうとも考えられる。

我が家のパワーアンプは(古いものなので)ゲイン調節の機能はついておらず、インプットレベルを絞るタイプのものである。デジチャンとパワーアンプの間に6chボリュームが入っていることもあり、二重の音量絞込みはちょっと避けたいところである。実験であるので、まずは デジチャンの出力レベルを絞る方法で行ってみた。元々、デジチャンでの中域、高域のレベル設定はそれぞれ中域-14.7dB(そのうち-10dB分はDF-55でのアナログアッテネーション)、高域-0.7dBと音量の絞りが入っているのであるが、これを両方とも-3.0dB下げる設定としてみた。(なお、低域のうち80Hz近辺だけはデジイコで0dBを越えて+1.0dBとしてみた。ここが一番補強したい周波数なので敢えて実験的に)

さて、この構成での音楽再生である。再生専用PCのAudioGateにて24bit/96Kへアップサンプリングして X-DDC 経由の送り出し。ちょっとドキドキ。

およよっ!!??

いや、今までのデジタルイコライザで感じていた高域の違和感がまったく無い。高域にかけてのリアリティや透明感などがイコライザ経由しない場合と比較してほとんど遜色がない。低域に関しては不足していた領域の補正がしっかりと効いており、充実感・安定感がある。弦楽器系の音楽を聴くと何とも弦の震えが心地良いではないか。女性ボーカルを聴いてもやはりデジイコ介在の違和感はない。介入しているのかどうか音を聴いた限りでは定かではないくらいである。これは良い、、、いや、期待以上に良い。

う~む、この結果は感覚的にはともかくも理論的にはうまく説明がつかない。デジタル領域での出力レベル調整の演算処理においてDEQ2496とDF-55の違いがあるのだろうか? 基本的には同じアナログデバイス社のDSPチップを使用しているはずだし、DG-48を試聴用に借用した際はこのような設定を行っていなかったため、両者の音質については決定的な差がないと感じていた。しかし、DF-55は新しい機器なので、デジタル演算用のDSPチップに何らかの差あるいは進歩があるのだろうか? 残念ながら、これを然と説明が出来ないのがもどかしい。敢えて理屈をつければ、二重にデジタル絞りがかかることの弊害とも云えなくは無いのだが。

(注記)DEQ2496はかなりの多機能であるが、ここではイコライザ以外のすべてのDSP処理をBYPASS設定としている。また、DEQ2496はNOISE SHAPERやDITHERという機能もあるが、この二つとも機能をオンとすると音質を損なうことが経験上判っているので、いずれもオフとしている。今回はさらにゲイン設定を0dBにしているのであるが、これらのことがDSPチップに対して「極力余分な処理をさせない」ことに通じ、これが効果を生んでいるのかもしれないとも推察している。

この結果に気を良くして、さらにいろいろと実験を進めてみた。パワーアンプで入力を絞る方法はアナログ領域での二重絞りになってしまうことが災いしてか、我が家の現有機器ではどうもベストな感じとはならない。良質な固定抵抗による実験を行ってみたいと思うが、これには別途手配が必要なので次のステップで考えようと思う。究極的にはやはりパワーアンプをゲイン調整機能付きのものに変えるか、、、といっても4台ものパワーアンプを使用しているのでそれも簡単ではないのだが、中域、高域用の2台のアンプだけでもいずれは交換を視野に入れねばなるまい。

さて、うまく説明がつかないままなのであるが、この音を少し追い込んでみよう。低域を含む全体のバランスは非常に良くなったことは先に述べたが、次なる課題は反応の速度である。もとより小口径ウーファのスピードには敵わないかもしれないが、既にチャレンジ済みの デジタルディレイ でうまくこの速度感を調整できないか、と考えてみた。現在の設定は物理的なユニット間の相対位置をデジタルディレイで補正しているものである。しかし、理論通りが必ずしもベストではあるまい、とこれまでの勢いで気を大きくしてみた。つまるところ、ウーファーの位置とホーンドライバーの相対位置の再調整である。ボイスコイルの物理的な距離は27cm(ホーンドライバーが後ろ)であることは既に厳密に測ってある。現在はデジタルディレイによってホーンドライバーを23.5cm前に出しているのであるが、これをウーファのコーンの質量を考慮して徐々に後ろにずらしてみる。果たしてどうだろうか。18cm前(当初の設定より5.5cm後ろ)としたところでじっくりと聴く。これはかなり塩梅が宜しい様で、かりかりと弾けるベースの音やディンパニの皮の震えを聴いて改めてにこにこ顔となる。

気を更に良くして、この新しい設定で若干の微調整を入れつつ次々とお気に入りの音楽をかける。聴けば聴くほど、驚愕である。羽目をはずして云えば、真に狂喜乱舞かも(あまり自画自賛するのはいささか心苦しいのであるが)。 デジイコのマイナスファクターをほぼ感じさせないばかりでなく、音楽の愉悦をしっかりとした低域が味わせてくれる。それでいてホール感やエコー感は微塵も損なわれておらず、弦もボーカルも沁みわたる。ピアノの打鍵も音速が良く揃っているように感じる。設定を変えたといっても考えようによれば、それは僅かな差であるとも云える。これは勘違い、思い込みではないか、と何度も自問してみる。また、以前の設定とも聴き較べてもみる。いや、確かである。理論的には腑に落ちない点も無くはない。これでは真にオーディオとは魔物ではないか、とも疑ってみる。

この桃源郷が何時迄続くのやら解らぬ。しかし、自分にとって本当に納得できる音を求めて古今のスピーカー達の音を聴き回った。その結果として、我がスピーカーの欠点、利点を再認識し、それを新たな設定に役立てることができたようにも思える。今やっと、少し理想に手が届きそうだとも感じることが出来た。この細道を辿りその先をひたすら目指していけば良いのだと確信できた次第である。40年以上もオーディオをやってきたので、これを情けないことと思うか、素直にうれしいことと思うか、少し微妙なのは確かである。

従来のイコライザ設定:7ポイントのパラメトリックイコライザにて調整
PEQ Setting

新しいイコライザ設定:グラフィックイコライザにてなるべくシンプルに仮調整
GEQ Setting


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