#323 アナログ放送が終わり

2011/08/16

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 何年も前から言われていた通りに、2011年7月24日正午をもって、テレビのアナログ放送は終了してしまった。あんな地震もあったことであり、土壇場になってもうちょっと先に延ばすのではないかとも思ったりしたが、実際には地震の被害が大きい岩手・宮城・福島の各県を除いて予定どおりに完全地デジ化を実施したのであった。

 我が家に関して言えば、アナログ放送終了の2年前に、テレビよりも先にHDDレコーダを地デジ対応のものを購入し、次いでテレビの方も1年半前に地デジ対応のものに更新したので、このXデーを心静かに迎えることができた。

 アナログ放送の方は、終了日が近付くにつれ、上下に常にテロップが流れたり、最後の月にはアナログ放送終了まであと何日と言った、どう考えても嫌がらせとしか思えないような案内まで出てくるようになった。さすがにそういった状況では、地上デジタル放送を見ることができる環境だったら録画番組も含めて地上デジタル放送に切り替えざるを得ない。

 皮肉なことに、我が家の環境では、7月24日を過ぎてもアナログ放送を見続けることができるようである。これは、昨年秋ごろに我が家のある集合住宅に入るアンテナがケーブルテレビ経由のものに切り替わり、このケーブルテレビ会社により地上デジタルをアナログに変換して送波し続けてくれているためである。2015年まではこの措置により引き続きアナログ放送をご覧いただけますとテロップが流れているが、そういったことは事前に全然アナウンスされていなかったから、そうと知っていれば慌ててテレビやレコーダを更新しなかったのにと思う人もいたかもしれない。

 これのおかげで、アナログ放送しか受信できない7年前に購入したHDDレコーダも、お役御免にならずに、まだ現役で3つほどの番組を録画し続けている。新しい放送があるたびに古い録画を削除(上書き)してくれるという機能がこの古いレコーダにしかないため、この目的のために使い続けている次第である。もっとも、ケーブルテレビ経由のアナログ放送はEPG(電子番組ガイド)や時報放送による時計あわせに対応していないので、その機能は使えなくなって不便なのであるが。

 最近は以前に比べると、近所を徘徊する廃品回収車の数が増えているようで、見るとブラウン管のテレビが山ほど積まれていたりする。アナログ放送しか受信できないブラウン管テレビは意外と間際まで現役で使われていたのだなあと思うが、こうした「まだ使えるはずの」テレビが大量に廃棄されるという状況は、エコロジー的に見てもあまり感心しない。

 何より悲しいのは、前にも言ったように、既存の地上波放送が、相変わらず視聴者不在の下らない番組作りに終始していることで、こんな調子では、地デジ化を契機にテレビ、特に地上波放送はどんどんその存在意義を自ら危うくしていくのではないかと思われる。実際、例えば妻がよく見る史跡や紀行の番組などでも、BSなどの、お金をかけていないプログラムの方が、ナレーションも落ちついていて見ごたえがある一方、地上波で放送している同種の番組は、タレントがキャーキャー言うばかりで見る気にならないという。

 とはいえ、テレビに価値がないかと言えばそういうことはなく、東日本大震災の被害状況をいち早く国民に映像として伝えることができたのは、テレビの功績が大きいのも事実である。

 価値観が多様化し、地上波放送に加えBSやケーブルテレビなど、多くの番組が競争している中、地上波放送の番組に広告を打って知名度をはかり商品を売り、またその広告収入により湯水のように金を使って番組を作るというビジネスモデルは、限界を迎えつつあるのではないか。アナログ放送終了を機に、各テレビ局は、マスメディアとしての使命と責任を再認識し、本当に国民が求めている報道や娯楽とは何であるのかということを真摯に考え直す時期に来ているのだと思う。


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