#036 よくばりな腕時計

1998/11/25

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 初めて腕時計を持ったのは小学校4年生の時であった。誕生日のプレゼントとして親からトムとジェリーの腕時計を贈ってもらったのだった。文字版に描かれたカナヅチを持ったトムが、秒針にくっついて回っているジェリーを殴り倒そうとしているという図柄のネジ巻き式アナログ時計であった。

 その後社会人となった現在にいたるまで、腕時計についてはいくつか買い直したが、それらを振り返って見ると、私はやはりクオーツ式のデジタル時計が好みらしい。デジタル時計は時刻を、アナログ時計は時間を知るのに適していると言う大雑把な比較論があるが、私の場合は、現在の正確な時刻を一目で知ることが出来ると言うことが大事だと思うようである。だから腕時計も1分以上ずれるのはなんとなく気持ちが悪かったりする。

 これはどうも親譲りらしく、実際実家に戻ると、家中の時計が親父の手によって、ビデオなどの内蔵時計に至るまで正確に合わせられており、テレビの時報と共に方々から時計の告時音が「ポーン」「ピッピッ」「ビー」と一斉に鳴り出す。時計はもちろん正確であるに越したことはないとはいえ、ここまでくるとちょっと異様である。退職して年中暇をもてあましているのだから、時計屋にでもなればよいかも知れない。

 話を戻して、私がデジタル時計を好むもう一つの理由は、時計表示以外にも、オプションとして様々な機能がついているものが多いことである。アラーム、ストップウオッチなどのついたものはかなり昔からあるが、そのほかにも例えば、電卓、世界時計、心拍計、気圧計、高度計、方位時針、温度計などがついているものがある。それらが実用に耐えるものかどうかはともかく、こういう遊び心のある機能がなんとも電脳好きの心をくすぐるのである。

 私が現在使っているデジタル時計には、アラーム、ストップウオッチ、タイマー、世界時計機能のほか、合計80件までの電話番号とスケジュールを記憶する機能がついている。文字はアルファベットと数字しか使えないのであるが、腕時計はどんなときでも常に身につけているものであるから、咄嗟の情報検索には結構役に立つのである。

 スケジュール機能が割合役に立つのは、出張や旅行の時などである。特に海外出張など、国際線も含め合計で6〜10回もフライトスケジュールがある時には、次のフライト時刻などを参照したい場面が何度もある。だからスケジュールのところに前もって便名と出発時刻を入れておくと、「次の便は何時だっけ」という時に、ボタン一つで瞬時に検索出来る。

 電話番号の方は、かける頻度の高い劇団関係の電話番号などを入力してある。こういうものを使うようになると、昔は諳んじることのできた電話番号もどんどん忘れていってしまう。最近は更に携帯電話を持つようになり、そちらの方にすでに330件以上のデータを入力しているので、腕時計のメモリの方はあまり出番がなくなってしまった。それでも携帯電話ではなく公衆電話からかける時などには、腕時計で番号検索する方が早い場合もある。

 ただし所詮は腕時計であるから、キーボードなどというものがあるわけではなく、文字入力は3つのボタンだけで入力しなければならないので結構面倒臭い。電話番号のように、あんまり変更のないデータはともかく、スケジュールのように日々更新されていくデータはいくら私でも頻繁に入力更新する気があまりしない。だから使うのは出張など特別な用事の時くらいで、通常のスケジュールについては、パソコンで記録し、それと同期してデータが更新される携帯端末で管理している。

 携帯電話に入力したデータについては、メモリ編集ソフトを使って、パソコンの住所録と同期させることができるようにはなったが、腕時計のデータはやはり自分がちまちま入力しなくてはならない。そのためついつい更新が遅れがちになるし、データ消失に備えてのバックアップもできない。

 と思っていたら、パソコンとデータ交換のできる腕時計が今年(1998年)の6月になって相次いで2種類発表された。パソコンで編集した電話番号やスケジュールデータなどを、赤外線や専用線で腕時計に転送できるというもので、入力の手間にわずらわされずに最新のデータを参照出来るので便利そうではある。とは言え、SIIのラピュータの方は、大きさ、デザイン、駆動時間の上であまり食指が動かないし、もう片方のCASIOの(またかいHBX-100Jも、機能的には厳選されているものの、94gというのは今の私の携帯電話よりも重いから腕が鍛えられそうで、腕時計としてはやはりつらいものがある。とは言え、腕時計はついにここまで進化したかと思うと感慨深いものがある。

 先の長野五輪では腕時計型のPHSも試作試用されたと言うし、なんだかすごい世の中になってきたようだ。そのうち昔の戦隊モノのドラマみたいに、腕時計でヒーローを呼ぶことが出来る日も来るのかもしれない。来てもらっても困るが。


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