#035 しし座流星群狂騒曲

1998/11/19

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 1998年11月18日。この日はしし座流星群の極大日であった。

 流星とは科学的には、宇宙空間に漂う細かいチリが、地球の引力により引き寄せられ大気圏で燃え尽きる時に発光する現象である。地球の公転軌道上には、地球付近に回帰する彗星が撒き散らしたチリが数多く漂う部分があり、地球がその付近を通過する時には普段より数多くの流星が流れる。これを流星群と呼び、流星の飛んでくる方向の星座の名前をつけて「ペルセウス座流星群」とか「双子座流星群」という名前がついている。「しし座流星群」の場合、この流星群のもとになるチリをばら撒くテンペル・タットル彗星が、今年1月に33年ぶりに回帰してきたため、今年は33年ぶりの大流星群を見ることが出来る(かも)と報じられたのである。

 その日が近づくにつれてマスコミも一気に騒ぎはじめ、Web上でも情報を提供したライブ中継をやるというサイトも現われてきた(事前にそのサイトにアクセスしようとしたが、回線が混雑しているらしく全然つながらなかった)。私も元天文少年の血がうずうずと騒ぎ出し、これはやはり是非自分の目で見ておかなくてはと思いはじめた。とは言え車もないし、会社を休んで遠出をする程の根性もないから、家の近くで安易に観測しようかなどと思っていたところ、近所に住む同じ職場の人が車でどこかへ見にいくと聞いたので、図々しくも便乗させてもらい、急遽野外で観測することに決まったのだった。

 深夜2時過ぎに筑波山に向けて出発。職場の人の車で移動中、深夜ラジオでも流星群の話題が出ていた。リスナーの女の子のFAXが紹介される。
「今、流れ星が見えました。とても明るくて本当に綺麗でした。まさしくほうき星という感じでした。」
 細かいツッコミをさせてもらうと、俗にいう「ほうき星」とは彗星のことで、流星のことではないと思うのだが。

 筑波山は案の定すごい混雑であった。車を止めて、比較的暗くて人の少ないポイントを首尾よく見つけ、グランドシートを敷いた上で寝袋にくるまりながら、じっと静かに空を眺め始めた。野外での長時間の全天観望には、このスタイルが一番良いのである。

 そこまでは良かったのだが、我々が観望を始めて十分ほど過ぎた頃、若い男女15人くらいの集団が我々の観望ポイントの近くにどやどやとやってきた。やかましい話し声だけ聞いてると中学生くらいかとも思ったのだが、酒がどうの車がどうのなどと話している所を聞くとどうも大学のサークルか何かのグループらしい。

 この集団が、流星が流れる度に「キャー、流れたー、すごーい!」「え、どこどこどこ?チクショーまた見そびれたよー」などと殊更騒ぐものだからやかましくて仕方がない。どう見ても流星観測など今までしたことのない連中らしい。多少騒ぐのはともかくとしても、携帯電話で電話を始めたり、折角こっちの目が暗闇に馴れてきたところへフラッシュを焚いて記念撮影を始めたり、傍若無人な振る舞いに出てくる。

 やがて明け方近くなり気温も下がってきた。我々は防寒対策もしっかりしているのでじっと観測を続けているのだが、件の連中はこういう経験をしたことがないため防寒対策も手薄なのだろう。そのうち「うおー、寒いー」と騒ぎはじめた。体温を維持するために彼らの大騒ぎが益々活発化してくる。「押しくらまんじゅう」をやろうだの「花いちもんめ」をやろうだの、果ては、信じられないことだが、口で唄いながら「フォークダンス(オクラホマミキサー)」などをやりはじめた。どう考えても精神年齢は小学生並である。

 4時を過ぎ、夜明けも近くなると、地面近くに昇ってきた太陽の光に照らされた人工衛星が、最大2等級くらいの明るさで光りながら、夜空をゆっくりと動いていくのが見えてくる。私もそれらの人工衛星を10個近くは確認した。現代の空にはこんなにも沢山の人工衛星が飛んでいるのかということにも驚嘆する。さて、件の連中もそれに気づいたらしく、また騒ぎはじめる「あ、ねえねえねえ何アレ?もしかしてUFO?」「おー、すげー流れ星。なあなあ、あれに願い事してもいいのかなぁ?」願い事をするのは勝手だが、人工衛星に願いをかけても絶対に叶わないと思うぞ。

 流星群そのものは、多くの人が期待していた「流星雨」という程には流れなかったものの、一時間あたり50個くらいの流星を見ることができた。しかもその半分近くは「痕」と呼ばれる流星の流れた跡を夜空に残すような明るい流星であった。4時15分頃にはマイナス10等級くらいの大火球を目撃することもできた。私が過去に最も多く流星を見たのは、高校1年の際の部活の合宿でペルセウス座流星群を観測した時であるが、その時でも一時間に30個くらいで、しかも痕を残すような明るいものは一晩で数個だったから、今回の観測は個人的には大収穫であったと思う。件の連中さえいなければもっとよかったのだが。

 ところで今回はほとんど電脳とは関係ありませんでしたな。


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