#037 エレベータにはよく裏切られる

1998/11/28

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 例えばデパートなどで、4台くらい同じエレベータが並んでいるとする。それぞれ階数表示と上下の方向が出ており、その様子から、このエレベータが早く来そうだな、なんて予想をつけて、そのエレベータの前で到着を待っていたりする。しかし実際は、別のエレベータの方ががすいすいすいとやってきて、結局そちらの方が早く着いてしまったりすることがよくある。そもそもデパートのエレベータは、複数動いているにもかかわらずだいたいどれも同じタイミングで上にいたり下にいたりするのである。なぜだろう。

 また、ようやくエレベータが1階について、やれやれようやく乗ったさて5階へ行くかと思ってボタンを押そうとしたらあれ、点かない。なんて思っている内に地下の客に呼ばれてそのまま下に下ろされてしまい、バツが悪そうに乗り続けていると、あとから入ってくる客に怪訝な顔で見られたりする。

 そうは言っても高い階層へ行かねばならない時、やはりエレベータなしで昇るのはきつい。エスカレータがあったとしても、それで順繰りに昇って行くのもかなり煩わしい。やはりエレベータは高層建築物にはなくてはならない道具である。

 子供の頃、2回ほどエレベータのあるマンションに住んでいたことがあった。子供の頃なので行儀も悪くて、閉まりかけのエレベータを開けさせるのに、足で安全バー(エレベータの扉のポケットに挟まれ防止のためについているバー)を蹴飛ばして開けさせることをよくやっていた。今でも時々エレベータの扉を開ける時にボタンを押すより先に足が出てしまったりする。いかんいかん。

 また、17階という高いビルの最上階が職場だったこともあった。当時私はそこで地震の観測の仕事をしていたのだが、いざ大きい地震があったときにはエレベータが動いているとは限らない。その時に職場にたどり着けないことのないよう、普段から鍛えてその時に備えておこうと思い、エレベータが動いているのにあえて階段で17階まで上がって通勤していた時期があった。16階層も上がるには一気にかけあがると必ず途中で息切れする。一歩一歩休まずに歩いて上がって行く方が結局は早くたどり着く。1階から17階まで、約200段の階段を昇りきるのに当時は約3分かかっていた。もっとも途中で膝を痛めてから、階段を昇るのはやめてしまったのだが。

 そのうちに私はその職場から異動してしまったのだが、それから1年も経たない4年前、阪神大震災が起きてしまった。この時地震の観測のためにかけつけたかつての同僚は、まさにエレベータの動かない中、17階まで歩いてたどり着かなくてはならない破目に陥ったそうである。

 ちなみに今の職場には、高層気象観測用の鉄塔(高さ213m)というものが敷地内にある。上からの眺めは結構いいので、たまにお客さんが来た時、高所恐怖症の人でなければてっぺんまで案内するのだが、上まで運んでくれるエレベータは3人乗りの手動開閉式のかご型エレベータで、200m上がるのに15分もかかったりする。加速減速装置もないので上昇下降停止の際には衝撃がかかり、乗り心地もあまり良くない。しかもこいつが故障した時には傍らの非常梯子をつたって昇り降りしなくてはならないので結構おっかない。

 何かで読んだ話であるが、仮に100階建てのビルを建てたとすると、各階に行く客を捌くために必要なエレベータを用意するためには、建て面積の半分以上のスペースをエレベータに使わなくてはならないそうである。そうなってしまっては建物の利用効率としてはとても悪くなってしまう。そこでどうしているかと言うと、ある程度高い建物の場合、エレベータは目的の階層毎に行き先を分けたものを数種類用意しているのである。例えばAグループのエレベータは2階から10階まで、Bグループのエレベータは11階から20階まで、というように、ある程度ひとまとまりの階層毎に行き先を限定したエレベータを用意して客をまとめて輸送するのである。

 更に最近の高層ビルのエレベータの場合は、回数表示を表につけていなかったりする場合も多い。このようなタイプのエレベータの場合は、次に来そうなエレベータがどれであるかを点灯して知らせるのみで、そのエレベータがどこにいるのか外の客には分からないようになっている。エレベータがどこにいるのかを表示すると、階層の離れたところにいてなかなか来そうにない場合は、待っている客がかえってイライラするからというのが理由らしい。

 考えてみると複数が連動しているエレベータの場合は、空いているエレベータをどのように動かせば待っている客を効率良く捌けるか、結構複雑なアルゴリズムによって動いているように思える。待っている客の位置、空いているエレベータの位置、上へ行く客と下へ行く客のどちらを優先させるか、これらが非常に難しい要素となり時々刻々と変わる状況の中で動いているから、結構複雑な問題である。

 なかなか御しがたい乗り物ではあるが、なくてはならぬものに変わりはない。あまりイライラしないで気を長くしてつきあってやれば案外いい奴なのかも知れない。


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