さっそく主なゲームを振り返りましょう。さまざまなルールに沿って室内を歩く『ウォーキング』。松陰コモンズの大広間に来たのは今日がはじめてという方もいます。ぜひこの機会に観察を。歩きながらヒジとヒジを合わせたり。ゲンコツとゲンコツを合わせたり。あのルールはアドリブです。ふと思いついて試してみた。「え。右なの左なの、どっち?」みたいな感じで、妙な間合いが相手との間に生まれたり生まれなかったり。おもしろかったです。
この会場にBGMはなくてもいいかなとも思ったけど、用意したのはルイ・アームストロング。いまCDの歌詞(訳詞)カードを眺めています。なるほどな。ハロー、サッチモ! 君はこんなことを歌っていたんだね。
木々は緑 バラは紅 花開く 君と僕のため♪
そして独り 思いに浸る この素晴らしき世界よ♪
青い空 白い雲 輝かしき幸せの日 暗き聖夜よ♪
そして独り 思いに浸る この素晴らしき世界よ♪
七色の虹が空に映え 行く人々の顔を照らす♪
友だち同士は手をとりあい交わす ご機嫌よう♪
それは「アイ・ラブ・ユー」の代わり…♪
じつは23日の演劇倶楽部でもこれをやっています。そのとき挙がったのは「ふだん着の温泉」(←私!)、「探偵!ナイトスクープ」、「笑っていいとも!増刊号」、「オーラの泉」、「あいのり」、「ひとつ屋根の下」、「電車男」でした(あとひとつが思い出せん。ごめん)。番組もいろいろ。参加者もいろいろですね。好きな番組について語るのって、なかなかいいアイデアだな。人となりが、よく伝わってきますものね。番組紹介が、イコール自己紹介なんだな。
もうひとつ地理っぽいものを。「この5年間に行った場所で、この場所からいちばん遠い場所はどこですか」。それの遠い順に、相談ナシで一列に並びます。もっとも遠い人が地球の裏側。もっとも近かった人は山口県の下関、だったっけ。これもアドリブでしたが、ヒントがありました。橋口譲二の写真集です。私は彼の写真集が大好き。「Father」とか「17歳」とか「Couple」とか。もう穴の開くほどじっくりと眺めたものでした。橋口さんは被写体の人に質問をするんですよね。全員におなじ質問を。そのQ&Aと写真とがセットで1ページです。その質問のなかに、似たようなのがあった気がします。
ここまであっという間に時間が経って、気づくと午後3時。なんと。もう2時間もやっているのだ。歩いて投げて並んで2時間。残りは3時間しかない。ぬぬぬ。予定していた11個のゲームのうち、まだ3個しかやっていないのに…。
ひとりひとり、動物のなまえの書かれた紙を胸の前に掲げる。書かれているなまえは自分には読めない(見てはいけない)。自分が何ものなのかわからない状態を作ります。そして自分探しの旅がはじまるのだ。ここは深夜の上野だ。私たちは動物園のアニマルズ。たまたま今夜は檻のカギが開いている。私たちは深夜のマチにランナウェイ。はじめて見る、檻の外の世界だ。
と、まぁ状況はそんな具合。出会った人ごとに、私たちは自分の正体を尋ねます。それは「はい/いいえ」で答えられる質問であること。1対1のやりとりでお互いに質問をひとつずつ交わす。そしてまた次の人をつかまえる。そうやって質問を積み重ねることで、だんだんと自分の正体を見つけていきます。
いち早く自分の正体を見定め、モラトリアムを脱する人がいる。いつまでもうろうろと、悩み多き青年時代をすごす人もいる。不正確な情報に翻弄され、自分を見失う人がいる。自分を見誤っていながら、自信満々の人もいる。さいごまで自分がわからないような人もいる。多くのいろいろな人と出会い、すれちがい、わかれ、それの繰り返しのなかから、自分を見つけていく。前回の『神様』といい、この『ZOO』といい、なんとまぁ人生(仁成ではない)を感じさせるゲームなことよ。
ちなみに私の正体は「フラミンゴ」でした。でしたが、皆目見当がつかず終い。結局、自分の正体がわからぬまま生涯を閉じる。くそぉ、フラミンゴだったのかぁ。もういちどチャンスがあれば。でも人生は二度はないのだ。ぐぅぅぅ。ちなみに辻仁成の「ZOO」の歌詞にもフラミンゴが登場しますね。いわく「失恋しても片脚でふんばるフラミンゴ〜♪」。もうちょっとひねろうよ。ねぇ?
さいごの『クレヨン』では絵を描きました。美術ですね。クラフト・エヴィング商会の「じつは、わたくしこういうものです」という本をテキストに使います。以前もこの本をワークショップで取り上げました。なつかしいですね(第9回とか10回とか11回のレポートをご覧くださいね)。この本では架空の職業がいくつも紹介されています。架空の職人が自らの仕事について語っている。今回はそのなかの「時間管理人」と「地暦測量士」を選び、そのページを資料として配布します。
以前やったときは、新卒大学生たちを相手に就職のガイダンスをやりました。自分がリクルーターになってね。今回はお客さんになります。クライアント。この松陰コモンズが、その職人のお店なのだとイメージしましょう。今日、私たちは「時間管理人」(または「地暦測量士」)のお店にやってきました。自分の人生のなかの、ある「時間」(またはある「場所」)をひとつ選ぶ。それを職人さんに管理してもらったり測量してもらったりします。職人さんに問われるまま、アタマに思い浮かべた「時間」なり「場所」なりを大きな画用紙に自由に描いてみる。それが今回の『クレヨン』です。
自分の人生を検索するっていう作業を、今回はいろいろやりましたね。好きなテレビ番組を選んだり。引っ越しの回数を数えたり。当たり前だけど、みなさんがそれぞれ自分の人生を生きている。それが垣間見えたり、ちょっと交差したり、混ざったりするのって、いいなぁと思います。あまり踏み込むとヘビーですけどね。
今回やれなかったゲームのひとつに『響き(ひびき)』というのがあります。これはジャンルでいうと音楽と国語かな。そのゲームのなかで、渋沢孝輔の「みな響あり」という詩を朗読するつもりでした。私の好きな詩です。いまから9年前の11月下旬。札幌の駅のちかくの本屋さんで、たまたま手にとった詩集で見つけたのです。一読して、いい詩だなぁと思った。そのときの私の境遇や気分と、詩とが私のなかでいまも結びついています。私がクライアントだったら、そのときの情景を絵に描いたかなぁ。おなじ11下旬、ちょうどいまごろのことでしたしね。絵を掲げて、どうして自分が札幌にいたのか、みたいなことを語ったろうな。『響き(ひびき)』はいつかまた。たぶん来年2月に、また松陰コモンズで。
ご参加くださったみなさん。ありがとうございました。終わったのが午後7時すぎ。6時間以上もお付き合いいただいて、恐縮です。そのくせやれなかったゲームがいくつもあり…。体育というか、身体を大きく使うゲームがなかったですね。反省。ま、畳敷きの部屋ですし、こういう日もあってもいいのかな。「いつみても波乱万丈」というテレビ番組がありますね。ワークショップはさながら「いつみても発展途上」です。今後もますます精進します。どうぞまた遊びにいらしてください。アシスタントは松陰コモンズの横山紀子さんです。お忙しいところ、お時間を作っていただいてありがとうございました。またご一緒しましょうね。
ワークショップは今回で33回目です。そのすべてに立ち会っているのは、私だけです。テレビに例えると「ニュースステーション」の久米宏のようなものだ。久米宏の周りの人たちはどんどん変わっていってね。10年以上もつづいたその「Nステ」も、去年で番組が終わってしまいました。このワークショップもいつか終わってしまうのかもしれない。ですね。ですけれど、まだまだ私は元気です。彼のように、やがて私も髪に白いものが混じり、老眼鏡をかけ、うさんくさい口ひげを生やすようになっても(?)、私はこのワークショップをつづけていきたいです。『ZOO』とおなじで、いろいろな参加者の方とご一緒することで、このワークショップの正体というか、その意義や役目がだんだん見えてくるんだろうと思います。楽しみです。楽しみになさってください。「え。あのワークショップ、まだつづいていたの?」と、みなさんにびっくりされるほどの、のんきな長寿番組をめざして。つづく。
不等辺△劇団 WS管理部 林 成彦
11月の松陰コモンズでのワークショップで、2回目のアシスタントをさせていただきました。アシスタントとは、リーダーをアシストしたり、参加者をサポートするはずの者であるのに、私はしばしば役割を忘れて、自らがワークショップに集中してしまいます。反省。なぜか? それは、このワークショップが楽しいから。明快。リーダーに頼りないアシスタントだと思われようとも、参加者にアシスタントだと認めてもらえなくとも、私は楽しんでしまいます。写真を撮り損ねたり、買出しのビールが足りなかったりのできそこないですが、私が楽しむこと=周りの人も楽しんでくれている、という勝手な思い込みを貫きたいと思います。また近いうちにお会いできるのを楽しみに。(横山紀子)
○「ライン・アップ」とか、すごくその人の情報が無理なく公開されるゲームはいいですね。距離が縮まる気がします。
○「ZOO」のゲームはよかったと思います。
○「ZOO」、おもしろかったです。
○「ZOO」では苦労しました。見当がつきませんでした。
○「響き(ひびき)」、ちょっとやってみたかったです。
○松陰コモンズのアットホームな雰囲気でみなさんがうちとけてよかったと思います。
○和やかだったし、畳なのは無条件で落ち着きます。いいですね。
○人数が少なかったせいか、じっくり取り組めた気がします。気分的には楽でした