△ 「背中のイジン(再演)」シーン13


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このシーンのみ、キャストが入れ替わり立ち代わりナレーション。ナレーションの位置は
上手、下手交互に変わり、照明も変わる。(『』内はナレーション。)

周人 『この日から文字通り、周作の第二の人生が始まった。外出をしばらく控える代わりに、パソコンやスマホをずっといじりまくっている。』写真
周作 「しかし百年でここまで科学が進歩するなんて…頭が追い付きません…」
花音 『なんて言いながら、直ぐに使い方マスターしちゃうし。今じゃマンガもスマホで読んでるし。』
周作 「いや〜中々共感できそうな面白い設定ですねこれ。…でもこのパリピって何でしょうね?」
森島 『そして毎晩のようにみんなが集まり、彼の話に聞き入った。』
舞台上には周作、周人、花音、森島、おじい、満、あきほが出て来る。
周人 「え?タクシーの事は『円タク』って言うんじゃなかったっけ?」
森島 「それは昭和初期の話だよ。」
周作 「僕の時代は『辻待ち自動車』と言いました。でも中には営業許可のない『朦朧自動車』ってのがいまして。一度そいつに乗ってしまい、こりゃ法外な料金を取られるかとヒヤヒヤしてたんですが、その車、速度の出し過ぎでまんまと赤バイに捕まってくれたんで助かりました。」
花音 「赤バイ?」
森島 「白バイの元祖は赤いバイクだったそうです。」
周人 「なんだ。大正時代は郵便配達が警察もやってんのかと思った。」
周作 「さすがにそれはないです。」
おじい 『我々が彼の話にのめり込んだ様に、彼もまた我々の話にのめり込みました。』
周作 「あの野口先生がお札の肖像画になってるなんて驚きです。」
周人 「もしかして会った事あるとか?」
周作 「アメリカの研究所で何度か。しかも新しいお札には渋沢さんも。」
あきほ 「え?渋沢栄一にも会った事が?」
周作 「いえいえ。ですがまだ現役で活躍されていたので、お札になってるってのが、妙な感覚です。」
「周作さんだって顔写真が残っていれば、きっとお札になっていましたよ。」
周人 「俺はお札になるよりお札そのものがほしい。」
森島 「ブレない奴だな。」
花音 『不思議な感覚でした。歴史上の偉人とこんな形で話ができるなんて、まるで夢の様なひと時でした。そして彼も、百年後の未来人との会話をとても楽しんでいるようでした。』
周作 「しかしこのスマホのカラクリは実に凄い。電話、写真機、辞書、新聞、活動写真まで何から何まで入っている。」
あきほ 「そうだ、みんなで写真撮りません?」
周作 「いいですね。撮りましょう撮りましょう。」
おじい 「ワシので撮ろう。はい、並んだ並んだ。」
周人 「周作さん、そんなに硬くなるなよ。リラックスリラックス。」
周作 「なんか久しぶりで緊張しますね。」写真
おじい 「撮るぞ〜。ハイ、チーズ!」

みんなピース等のポーズをとって写る。パシャ!

周人 「チーズは古いよ爺ちゃん。」
周作 「はて?なぜチーズと?」
「チーズのチーで撮ると笑顔になるんです。」
周作 「チーーー。あ、本当だ。では、この2っていうのは?」
花音 「あ、これは2じゃなくでピースです。」
周作 「ピース?」
おじい 「確かイギリスのチャーチルがやったんじゃなかったか?」
周作 「チャーチルって、あの英国海軍大臣の?」
おじい 「第二次世界大戦で首相になってね。彼の勝利のサインがピース。」
森島 「いや、チャーチルのはヴィクトリーのブイです。写真を撮る時のピースサインが定着したのは、確かベトナム戦争で反戦運動をしていた若者からじゃなかったかな?」
周作 「森島君、博学ですねえ。孔明のようだ。」
森島 「孔明?」
あきほ 『最初はいいネタになると思って近づいたけど、親しくなるにつれ、周作さんの魅力にどんどんのまれて行きました。この魅力を世界じゅうに知ってもらいたいと思う反面、独り占めしたいという気持ちも湧いてきて…え?…この気持ちって…まさか…こ……こ……』
周作 「好奇心ですかね?」
あきほ 「こうきし…ん?」
森島 『勤め先の医学研究所の仲間に彼の話をした。もちろん瀬名周作としてではなく、知り合いとしてだ。みんな彼に興味を持ち、彼にもそのことを話すと…』
周作 「是非、お伺いして現代医学の最先端を見せて頂きたい。」
森島 『との事。彼が早死にしなければ、医学界は変わっていただろうと言われている。が、彼が蘇った今、今度こそ医学界の未来を変えてしまうかもしれない。』
『彼は僕と同じく、強い霊の姿を見る事ができる。こんな突拍子もないはずの事を公表しても、みんなはすんなり受け入れた。百年も経って蘇った人間を目の前にして、最早どんな事にも驚かないと言った所か?』
「えぇ。あなたにも霊媒能力や悪霊払いの力があるはずです。」
周作 「悪霊払い…」
「万が一悪霊が迫って来たら(悪霊払いのポーズ)こうして「悪霊退散」と念じて下さい。」
周作 「(ポーズ)こうですか?」
「(ポーズ)いや、こうです。」
周人 『そして二週間が経ち、いよいよ周作が初外出することになった。』
おじい 「どこか行きたい所ありますか?ピューロランドとか。どこでもお付き合いしますよ。ピューロランドとか。」
周人 「結局自分が行きたいだけだろ。」
周作 「そのうちみんなで行きましょう。」
おじい 「はい!是非みんなで!」
周作 「今日はとりあえずご近所と、それから銀座方面へ。」
おじい 「行きましょ行きましょ。いい店知ってるんだこれが。」
森島 「先生はダメですよ。」
おじい 「え?なんでよ。」
森島 「実験装置の修理、今日明日じゅうに終わらせないと。さ、行きましょう。」
おじい 「え〜え〜え〜え〜…」

森島、おじいを押しながらハケる。花音が入って来る。

花音 「お待たせ〜。(周作の腕を取る)」
周人 「花音?」
花音 「いいでしょ?今日は周作さんとデートって事で。」
周作 「デート?」
周人 「いや、別にいいけど…」

典子が入って来る。

典子 「お待たせ〜。(満の腕を取る)」写真
周人 「待ってねーよ!つか何で姉ちゃんも来んだよ!」
典子 「いいじゃん。いいよね〜、みっちゃん。」
「え?…ええまぁ…」
典子 「ダブルデート、ダブルデート。さ、行きましょう!」

周作、花音、典子、満、ハケる。

周人 「何がダブルデートだよ…ん?…余ってんじゃん俺。…ちょっと待ってくれよ!」

周人、追うようにハケる。

(作:松本じんや/写真:はらでぃ)

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