トップページ > ページシアター > 背中のイジン > シーン10|初演版 【公演データ】
照明が変わると南浅草署前。浜崎渉(はまさきわたる)警部がうろうろ。そこに後藤が入って来る。
後藤 「浜崎警部。」
浜崎 「遅い!」
後藤 「勘弁して下さいよ。午前休潰して来たんですから。」
浜崎 「早く乗れ!」
二人、車に乗り込み走り出す。
後藤 「また例の天星会ですか?」
浜崎 「ああ、かなり被害が広がって来た。早いとこ本庁に腰上げてもらわねえと大変な事になるぞ。」
後藤 「厄介ですよね。被害者から被害届が出ないってパターンは。」
浜崎 「やくざでも宗教団体でもない。新種の悪徳霊感商法の中でも奴らの手口は巧妙だ。」
後藤 「あ、そうだ、霊感商法って言えば、さっき面白い事があったんですよ、かかりつけの病院で。」
浜崎 「病院?心霊治療かなんかか?」
後藤 「いやいや、普通の町医者なんですけどね。そこで自分はその家のご先祖様だって言い張る男がいて。」
浜崎 「ふん。くだらねぇ。」
後藤 「でしょ?なのに、そこにいたほとんどの人たちが、それを信じちゃってんですよ。」
浜崎 「は?新手の詐欺師か?」
後藤 「しかもその男、自分はあの瀬名周作だって言うんですよ、笑っちゃいますよね?」
浜崎 「瀬名周作?!!!」
後藤 「警部、前!前!」
浜崎 「おぉっと…」
後藤 「あっぶなっ…なんすか今のリアクション?」
浜崎 「で、そいつ他に何か言ってたか?」
後藤 「え?他に?…えっと…ああ、そこにいた女の子を自分の奥さんと間違えたり…スマホの着信音を虫の声とか言ってたり…」
浜崎 「他には?」
後藤 「いや、その辺で呼び出されちゃったので。」
浜崎 「(ため息をつき)そうか…」
後藤 「なんすか?」
浜崎 「いや…とにかく今はこっちのヤマだ。」
後藤 「はい。」
暗転。
(作:松本じんや/写真:はらでぃ)