トップページ > ページシアター > 背中のイジン > シーン9|初演版 【公演データ】
ジャジャン!照明、クイズ番組の様に、周作と森島にスポット。みんなどよめく。
森島 「まずは初級編。あなたの生まれた年は?」
周作 「明治二十八年。」
森島 「干支は?」
周作 「ひつじ。」
森島 「あなたが作り出したワクチンは?」
周作 「『イタリア熱』と『エイベキスト病』。」
森島 「あなたが開発した医療器具は?」
周作 「瀬名式腹内鏡。」
森島 「全て正解。」
照明、戻る。
全員 「おぉ〜〜っ!!」
道子 「こんなの、詳しい人なら知ってて当然でしょ。」
森島 「続いて中級、歴史編。」
ジャジャン!照明、またクイズ番組に
森島 「明治44年、あなたが17歳の時に沈没したイギリスの客船は?」
周作 「タイタニック。」
森島 「好きな力士は?」
周作 「横綱大錦。」
森島 「大正三年、上野で開催された催し物は?」
周作 「東京大正博覧会。」
森島 「そこであなたが気に入って10回以上乗った乗り物は?」
周作 「エスカレーター。」
森島 「全問正解。」
照明、戻る。
全員 「スゲ〜!!」
森島 「では上級編。」
ジャジャン!照明、またクイズ番組に
森島 「あなたがアメリカで研究をしていた施設の名前は?」
周作 「ロックフェラー医学研究所。」
森島 「下宿屋のおばちゃんの名前は?」
周作 「ミス・ウィットマイヤー。」
森島 「そのおばちゃんが飼っていた猫の名前は?」
周作 「え〜っと…グ…グ…そうだ!グリフィスだ!」
森島 「今何問目?」
周作 「12問目。」
森島 「全問正解。」
照明、戻る。
全員 「すっげぇ〜〜〜っ!!」
森島 「スペシャルクイ〜〜ズ!!」
周人 「え?まだあんの?」
典子 「あんた意地になってない?」
ジャジャン!照明、またクイズ番組に
森島 「大正十一年六月、死の直前にあなたが突然アメリカから帰国した理由は?」
周作 「えっ…それは…」
森島 「それは?」
周作 「ハナに…」
森島 「ハナに?」
周作 「…ハナ…(ハッとして)ハナ!…ハナはどうなったんです?!僕が死んだ後ハナは…!!」
照明戻る
森島 「落ち着いて下さい…」
道子 「認めるわ。」
典子 「母さん?」
道子 「あなたが森島君以上の瀬名周作オタクって事はね。」
森島 「いえ、恐らく彼はホンモノだと思います。」
道子 「だって今のスペシャルクイズ、答えらんなかったじゃない。」
森島 「普通は答えられません。」
道子 「え?」
森島 「死の直前、彼がなぜ急に帰国したのかはどこにも記録が残っていない。つまり謎なんです。でも今彼は 「ハナ」という名前を出しました。」
典子 「ハナって?」
おじい 「周作の奥さん、ワシの婆ちゃんの名前だ。」
道子 「だからって…」
周人 「俺、信じる。」
典子 「は?」
周人 「何かわかんないけど、この人ホンモノって気がしてきた。」
道子 「ちょっとしっかりしなさいよ周人。これから医者になろうって人間が。」
おじい 「あぁ、こんな時爺さんの顔写真でも残っていれば…」
周作 「残っていないんですか?」
おじい 「はい。」
周作 「え?何枚か撮りましたけどね…」
周人 「そう言えば何で爺ちゃん周作さんの顔知ってんの?」
おじい 「実はワシが子供の頃、蔵で遊んでて偶然写真をみつけてな。」
森島 「え?あったんですか?」
おじい 「ああ、でもその後火事で蔵が焼けちまって…」
森島・周人 「え〜っ…?!」
後藤が顔を出す。
後藤 「あの、すみません。」
典子 「てめ、いいかげん帰れよ!」
後藤 「でもまた患者さんが…」
あきほが入って来る。
あきほ 「すみません。」
道子 「どうされました?」
あきほ 「いえ、私じゃなくてこの人たちです。」
満と花音が入って来る。
典子 「みっちゃん!」
周人 「花音?」
満 「私は大丈夫。それより花音さんを…」
花音 「私ももう大丈夫です。」
典子 「ちょっと、みっちゃん何をしたの?」
満 「酷い目に遭わせてしまった…」
典子 「酷い目って…嫌!そんなの嫌!」
あきほ 「二人ともホントに大丈夫なんですか?」
満 「ええ。」
花音 「なんとか。」
典子 「ってかあんた誰?みっちゃんの何?(ハッとして)まさか二人を相手に?!みっちゃんのケダモノ!!」
あきほ 「(典子に名刺を渡し)『月刊レムリア』の花村秋星です。」
典子 「え?…レムリアって…ああ、みちゃんの小説載せてる雑誌の?」
あきほ 「はい。原稿取りに来たら、面白そうな事やるって言うんでご一緒させてもらったんですけど、急に二人とも頭が痛いって苦しみ出して…」
花音 「ホントにもう大丈夫です。お騒がせしてすみませんでした。」
周作 「ハナ…?(ハナの肩を掴み)ハナじゃないか!」
周人 「ちょっと何すんの。この子はハナじゃなくて花音だよ。三波花音。」
周作 「花音?…いやでも…(人違いに気づき)あ…これは大変失礼な事を…」
花音 「この方は?」
周人 「ひいひい爺ちゃん。」
満 「うわああああっ!!!」
典子 「何?どうしたのみっちゃん?!」
満 「だってこの人!この人!…皆さんこの人が見えるんですか?!」
周人 「見えるもなにも(周作に触る)触れるけど。」
満 「そんな…触れるわけ(周作に触る)えぇぇぇぇっ?!!!!」
典子 「何なのよもう!」
満 「だってこの人、強い霊気を発しているんです!死んだ人の。」
周人 「だってこの人死んでるもん。」
満 「え?」
周作 「瀬名周作と申します。」
満 「せ、瀬名周作って…?」
あきほ 「こりゃとんでもないネタ見つけちゃったかも。」
周人 「この人、隣に住んでる満さん。霊媒能力があるんだ。」
周作 「霊媒師の方ですか。」
満 「本業は小説家ですが。」
道子 「ちょっとやめてちょうだいよ、みっちゃんまで。」
満 「いやしかし…彼はホンモノの幽霊です。何で実体があるのかさっぱりわかりませんが…」
典子 「私もこの人本物だと思う。」
道子 「典子?」
典子 「みっちゃんが言うんだから間違いない。」
道子 「あんたまで何言ってんの?!」
花音 「あの、すみません。今、私のことハナって…」
周作 「失礼しました。妻のハナにあまりにも似ていたもので…」
花音 「ハナは私の曽祖母の名前です。」
周人 「え?花音のひいひい婆ちゃん?」
満 「今日、花音さんはそのハナさんの霊を呼び出す為に私の所に来たんです。」
典子 「じゃウチと花音ちゃんちは親戚だったの?」
道子 「待ってよ、ハナなんて名前、当時はいくらでも…」
おじい 「花音ちゃん、お母さんの旧姓は?」
花音 「上杉です。」
おじい 「ご実家は神田かな?」
花音 「はい。」
おじい 「間違いない。同一人物だ。」
道子 「どういう事?」
おじい 「ハナさん。つまりワシの婆さんは、周作が亡くなった後離縁したんだ。」
周作 「離縁…やはり…」
おじい 「当時7歳の息子、つまりワシの親父を瀬名家に残してすぐに再婚してるんです。」
周作 「再婚を?」
おじい 「その嫁ぎ先が神田の上杉家。」
周人 「花音はそこで生まれた子の孫って事か…」
花音 「あのすみません。私、いまいち話について行けないんですけど…」
携帯が鳴る。
周作 「あれ?何か虫が鳴いてませんか?」
周人 「虫?」
みんな自分のかと思って確かめるが、後藤のだった。
後藤 「あ、警部からだ。(電話に出る)お疲れ様です。」
森島 「電話機ですよ。」
周作 「電話機?あれが?」
みんなポケットからスマホを出して周作に見せる。
周作 「え?皆さん持っているんですか?!これは凄い!!」
後藤 「え?今からですか?…でも今凄く面白そうなとこなんで…(スマホから怒鳴り声)分かりましたよ!すぐに行きます!(電話を切り)という訳で、僕はここで失礼します。じゃ。」
後藤ハケる。
典子 「つか何でいたんだあいつ?」
満 「誰ですかあの人?」
典子 「患者の後藤さん。近所に住んでる刑事さん。」
周人 「刑事?」
森島 「にしては爆発の事とか何も聞かれなかったですね。」
典子 「ちょっと抜けてる感じだから。」
おじい 「抜けてて助かった。」
後藤、また顔を出す。
後藤 「あの。」
典子 「しつこいな!」
後藤 「また患者さんが…」
道子 「はいはいありがと。(部屋の全員に)あんたたち、何でもいいからその人連れてとっとと出てってちょうだい。うちには精神科はないんだからね。典子、行くよ。」
典子 「はい。」
道子ハケる。
典子 「私はみっちゃんを信じるからね。」
典子ハケる。
森島 「さてと…どうしましょう?ラボはめちゃくちゃだし…」
満 「とりあえずウチにでも来ますか?」
周作 「よろしいんですか?」
あきほ 「狭いですが。」
満 「(悲しい笑い)ハハハ…どぞ。」
全員ハケる。突然、鎧を着た武者が現れる。辺りを見回し、みんなを追うようにハケる。
(作:松本じんや/写真:はらでぃ)