△ 「時空の異邦人」シーン3


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暗闇に子供の声でナレーション。

子供の声 「むかしむかし、あるところに」

ぼんやりした灯りがともり、舞台中央に吉山が寝ている。傍らにはおじいさんとおばあさんが座っている。

子供の声 「おじいさんとおばあさんが住んでいました。おばあさんは川へ洗濯に。おじいさんは山へ芝刈りに…行こうとしたら家の裏山で雷の様な大きな音がして、辺り一面煙だらけ。するとどうでしょう。煙の中から見た事も無い着物をまとった男達が出て来たではありませんか。おじいさんはたいそう驚き…」

照明が明るくなる。吉山、うめき出す。

吉山 「ううう…」写真

おじいさんとおばあさん、吉山の顔を覗き込む。

おばあ 「もし。もし。大事ないか?」
吉山 「…頭が…少し…」
おじい 「おお、気付きなさった。」
吉山 「…僕は…どうなって…」

吉山、ガバッと半身を起こす。

吉山 「こ、ここは?!あなたたちは?!」
おばあ 「大事なさそうじゃ。」
おじい 「あぁ、よかったのぉ。」
吉山 「いったい、どうなったんだ?!」
おばあ 「落ち着きなされ、吉山殿。」
吉山 「いや、しかし…ちょ、ちょっと待って、なんで僕の名前を?!」
おばあ 「そりゃのぉ…」

大林、出て来る。おわんと箸を持っている。

大林 「俺が教えたんだ。」
吉山 「大林さん!無事だったんですね!」
大林 「ああ、なんとか。おばあさん、ごちそうさま。」
おばあ 「まだ、おかわりたんとありますぞ。」
大林 「私はもう。それよりこいつに。」
おばあ 「あぁ、そじゃな。」

おばあ、一度はける。

大林 「不時着したのがこの家の裏山でな。たまたまこのおじいさんが近くにいて、ここに連れて来てくれたんだ。」写真
吉山 「しかし、(小声で)こっちの時代の人間との接触はまずいんじゃ…」
大林 「この程度は想定内だ。それに、この人達は我々を雷様だと思っている。」
吉山 「雷様?」
大林 「ああ、いきなり拝まれた。」
吉山 「えっ…」

吉山、おじいと目が合い、お互い愛想笑い。

吉山 「そうだ、瀬名さんは?」
大林 「無事だ。今、交代でタイムマシンのシステムチェックしている。」
吉山 「朝倉さんと津田さんは?」

大林、首を横に振り

大林 「…残念だが。」
吉山 「そんな…」
大林 「生身で時空間に出たら、3秒ともたない。」
吉山 「くっそぉ…」

おばあ、おわんと箸を持って、吉山のところへ戻って来る。

おばあ 「さあさあ、たんとたんとあがんなせぇ。」
吉山 「…」
大林 「吉山。」
吉山 「…いただきます…」

吉山、汁にがっつく。

おじい 「おお、ええ食いっぷりじゃ。」
おばあ 「ほんに。桃太郎とええ勝負じゃ。」
吉山 「桃太郎?」

大林、インカムに反応。

大林 「瀬名さんからだ。こちら大林。はい。…やっぱり…。あ、吉山は大丈夫です。今、目を覚ましました。はい、戻る時連絡します。」

大林、ため息をつく。

吉山 「瀬名さん、なんて?」
大林 「我々も深刻な状態だ。」
吉山 「ドライブシステムですか?」
大林 「確かにそれも破損はひどいが、俺なら修繕できる。」
吉山 「それじゃ何が?」
大林 「帰りの分の『次元エネルギー電池』がおしゃかだそうだ。」
吉山 「えっ?!」
大林 「ミッション通り、『ボックス』を回収して電池を手に入れる以外、帰れる手立てはないってことだ。」

吉山、立ち上がり

吉山 「すぐにさがしに!」
大林 「落ち着け。それもそう簡単な話じゃなくなった。」
吉山 「不時着の影響ですか?」
大林 「ああ。目標地の誤差だ。土地の座標は運良く10キロの誤差ですんだが、問題は時間の誤差だ。」
吉山 「どのくらい?」
大林 「我々の目標は西暦1208年。ところがタイムマシンの到着座標は1222年。」
吉山 「14年も後の時間に来てしまった?」
大林 「『次元エネルギー電池』の消費期限は?」
吉山 「15年…」
大林 「かろうじてまだ一年あるが、余裕とは言えない。」
吉山 「それじゃ尚更急がなきゃ!」
大林 「勿論だ。だが、俺と瀬名さんはこう考えた。もし我々が帰還できなかったとすれば、恐らくもう『サルベージ・ツー』が迎えに来ているんじゃないかって。」
吉山 「え?」
大林 「迎えに来ていないってことは。見捨てられたか、あるいは無事に帰れたからだ。彼らが我々を見捨てると思うか?」
吉山 「深町達がぼくらを見捨てるわけがない。」
大林 「だったら、我々は必ず帰れる。」
吉山 「…はい。」

大林、瀬名に通信。

大林 「大林です。そろそろ吉山を連れて戻ります。(吉山に)行こう。」
吉山 「はい。」
大林 「おじいさん、おばあさん、ありがとうございました。そろそろ戻ります。」
おじい 「まだすぐには天に戻れんのじゃろ?」
おばあ 「それまで、ここにおられてはいかがじゃろか?」
大林 「困ったらまた寄らせて頂きます。」

おじい、おばあ、二人を止める。

おじい 「まあそう言わず、もそっとゆるりと。」
吉山 「いや、あの…」
おばあ 「ほれ、もうすぐ芋も煮えるでのぉ」。
大林 「いやいや、もう、ほんとに…」
おじい 「いやいやいや」
全員 「いやいやいやいやいやいや…」写真

桃太郎登場。刀を吉山の喉元に向ける。場が一瞬凍り付く。

吉山 「え?」
桃太郎 「動くな。首が飛ぶぞ。」

大林が銃を抜いた瞬間、おきじが登場。大林の喉元に刀を向ける。

おきじ 「言葉を知らぬのか?」

大林銃を戻す。

桃太郎 「うちには宝などない!うせろ、くせ者め!」
おばあ 「ち、違うんじゃ桃太郎!おきじ!」
大林 「桃太郎?」
おじい 「こん方々は、盗賊じゃねえ。」
桃太郎 「じゃ、なに奴じゃ!」
おじい 「雷様じゃ!」
桃太郎 「雷様?!」
おばあ 「裏の山に落ちて来たとこを、おじいが拾って来たんじゃ。」
桃太郎 「…まことか?」
吉山 「ま、まことです。」
おきじ 「確かに身なりは妙じゃが、オニの姿ではないではないか。」
大林 「雷にもいろんなのがいるんです。」
桃太郎 「ならば、そのまことを見せてみよ。」
吉山 「え?」

大林、銃をもちあげ吉山に促す。吉山うなずく。

吉山 「で、では少し後ろへ。」
桃太郎 「何をする気じゃ。」
大林 「イカズチを放つ。」
おきじ 「イカズチを?」
桃太郎 「偽りであったら容赦はせぬぞ!」

大林、天井に向けて一発銃を撃つ。

みんな 「うわあ!!」写真

おじいさん、おばあさん腰を抜かす。みんな相当驚いている。

大林 「いかがです?」

桃太郎、おきじ、目を合わせうなづき、刀を納め。膝をつく。大林に瀬名から通信。

大林 「こちら大林。大丈夫、イカヅチのデモンストレーションです。はい。」
桃太郎 「失礼つかまつった。」
おじい 「ご無礼、どうかお許し下され。」
おばあ 「うちら、何度も賊に襲われてるもんで…」
おきじ 「ひらにご容赦を。」
吉山 「わかって頂ければ良いですよ。」
桃太郎 「我が名は桃太郎と申す。剣術の修行をしております。」
おきじ 「我が名はおきじ。桃太郎に修行をつけております。」
吉山 「桃太郎って…」
おじい 「桃から生まれたので、桃太郎ですじゃ。」
吉山 「桃から生まれた?!」
桃太郎 「はい。」
大林 「まさかな。」
吉山 「ありえないです。桃から生まれる桃太郎の話しができたのは明治時代です。それ以前は桃を食べて若返ったお爺さんとお婆さんが生んだ子供って話しが主流でしたから。」
大林 「でも、確かモデルがいなかったか?」
吉山 「有力説がある彦五十狭芹彦命(ひこいさせりびこのみこと)も稚武彦命(わかたけひこのみこと)も古墳時代の人間です。ここは鎌倉時代。年代がまるで違います。第一、伝説はあちこちありますが、八王子にそんな話しは残ってませんし。」
大林 「だよな。」
吉山 「しかし、桃太郎って…」
桃太郎 「名前は自分でつけたでござる。」
吉山 「え?自分で?」
おばあ 「桃から生まれた次の日には、もう言葉をしゃべったんじゃ。」
おじい 「で「我の名は桃太郎じゃ!」って。」
おばあ 「ああ、もう、腰を抜かすとこじゃった。」
吉山 「(愛想笑いしながら)そ、そりゃ凄いですね。」

奥から声。

犬吉・大猿 「桃太郎さ〜ん!」
おばあ 「おお、あやつらも帰って来おったか。」

犬吉、大猿、家に飛び込んで来る。が、津田と朝倉にそっくり。

犬吉 「良かった、ご無事でござったか。」写真
大猿 「こちらの方で雷の様な大きな音がしたもんで、急ぎ戻って来たんじゃ。」
吉山 「朝倉隊長?!津田さん?!」
大猿 「なんじゃ、ぬしらは?」
大林 「待て吉山。」
吉山 「でも…」
大林 「ありえない。時空間に飛び出した人間は過去に落ちる事は絶対にない。俺も目を疑うくらいそっくりだが。」
吉山 「じゃあ…ふたりの先祖?」
大林 「それは十分ありえる。」

そこへお菊も入って来る。息を切らしている。

お菊 「桃太郎さん。良かった、ご無事で。」
桃太郎 「お菊さん?!どうしてここに?!」
お菊 「市場で大猿さんと犬吉さんにお会いしたものでご一緒に。」
桃太郎 「村長(むらおさ)に知れたらまた騒ぎになります。」
犬吉 「そう、言うたんじゃが。ついてくるって聞かんのじゃ。」
お菊 「悪いのは父上じゃ。桃太郎さん達をこんな村外れに追いやるなど。…あの、こん人たちは?」
桃太郎 「こん方々は雷様じゃ。」
大猿 「雷様?」
犬吉 「鬼の姿ではないではないか。」
おきじ 「ぬしは雷様を見た事あるのか?」
犬吉 「ん?…ないな。」
お菊 「わちも初めてじゃ。」
大猿 「では、先程のあの大きな音は?」
桃太郎 「こん方が放ったイカズチじゃ。」
大猿 「なんと…」

大猿、顔は残して体を後ろにひねる。

犬吉 「なんじゃ大猿?」
大猿 「いや、へそを…」
犬吉 「へそ?」写真

みんな、吉山と大林を見てハッとして、大猿と同じポーズになる。

吉山 「いや、取りませんよ、おへそ。」
桃太郎 「まことでござるか?」
吉山 「まことでござる。」

みんなホッとして元のポーズに戻る。

桃太郎 「この二人はわたしの弟子でごさる。」
犬吉 「犬吉と申す。」
大猿 「大猿と申す。」
大林 「おい、これは…」
吉山 「犬吉、大猿、おきじ…」
大林 「偶然にしては出来過ぎじゃないか?」
吉山 「いや、そんなことって…」
桃太郎 「こやつらの名も我がつけたのでござる。」
吉山 「え?この人達の名もって…」
犬吉 「我ら各々、訳あって追われる身でござった。」
大猿 「身に覚えのない罪を課せられ、獄門寸前の所を桃太郎さんに救われたのじゃ。」
おきじ 「我もじゃ。三人は元の名を捨て、桃太郎に名をもらったのじゃ。」
大林 「桃太郎さん。どうして犬吉、大猿、おきじと名前を?」
桃太郎 「猿、鳥、犬、は牛寅に反する獣でござろう。」
大林 「牛寅?」
吉山 「鬼の事です。風水の方位では北東。鬼門です。確かに向かい合っている動物ですね。ほら、干支の十二支の。」
大林 「子、牛、寅…猿、鳥、犬…あ…」
吉山 「桃の木自体も、魔除けとして牛寅の鬼門の方角に植える木ですが、なんで桃太郎さん自身が名前を…」
桃太郎 「ちょうど鬼退治の前じゃったものでの。」
吉山 「お、鬼退治?!」

吉山、大林、顔を見合わせる。

桃太郎 「鬼と申しても、雷様の様な良い鬼ではのおて、村々を襲った悪いオニでござる。」
犬吉 「雷様とちごうてに言葉も通じんかったしの。」
大猿 「体も大きゅうて、天狗の様に鼻もたこうて。」
おきじ 「中々手強かったの。」
大林 「それって…」
吉山 「多分外国から流れ着いた海賊か何かでしょうね。」
お菊 「わちの村も救うてもらいましたじゃ。」
吉山 「あなたは?」
お菊 「わちはお菊と申します。」
おばあ 「むらおさの娘さんじゃ。」
吉山 「確か先程の話しでは…」
お菊 「うちの父上が、桃太郎さんをもののけ扱いして、こんな村外れに追いやったんじゃ。」
吉山 「もののけ?」
お菊 「桃から生まれた桃の化身じゃって。」
吉山 「化身?」

吉山、大林、顔を見合わせて首をかしげる。

おじい 「桃太郎だけのせいではない。わしらがこの辺りの化身達と仲ようしとるのも気にくわんのじゃ。」
お菊 「父上はただの恩知らずの臆病者じゃ。雷様にこらしめてほしいくらいじゃ。」
桃太郎 「お菊さん。」
おばあ 「雷様、うちらはこれでいいんですじゃ。こらしめるなんてやめてくだせぇ。」
桃太郎 「そう、むらおさもきっといつかわかってくれるはずじゃ。」
お菊 「桃太郎さん…ああ、わたし雷様になんて話しを…」
吉山 「あ、いえいえ。僕らはそんなあれじゃ…」
おばあ 「そうそう、こちらが吉山殿。こちらが大林殿じゃ。」
おじい 「あと一人、裏山のお社に瀬名殿という方がいらっしゃる。」
桃太郎 「もう一方おられるのか?」
犬吉 「裏山にお社なんてあったか?」
おじい 「雷様のじゃ。お社ごと落ちて来られたんじゃ。」
大猿 「お社ごと?」
吉山 「お社って…」
大林 「タイムマシンだな。」
桃太郎 「じゃが、いかなる沙汰で雷様がここへ?」

吉山、大林、顔を見合わせ大林がうなづく。

大林 「実は、探し物をしに参った。」
犬吉 「探し物とな。」
桃太郎 「何を探しに?」
大林 「何年か前、この辺りで同じ様に雷様の社が降って来たという事はなかったか?」
おばあ 「どのくらい前じゃ?」
大林 「十(とお)と、五つ程前です。」
桃太郎 「十と五つ前じゃ、まだ生まれとらん。」
吉山 「え?今、いくつ?」
桃太郎 「三つじゃ。」
吉山 「みっつ…三つって、三歳?!」
おばあ 「桃から生まれて半月で今くらいに育ったんじゃよ。」
大林 「どうとる?」
吉山 「いくらなんでもそれはホラ話でしょう。」
おじい 「う〜ん、わしらでも知らんなぁ。」
吉山 「それじゃ、これぐらいの大きさの箱しりませんか?」
桃太郎 「箱?」写真
吉山 「銀色で、こことここに取っ手がついていて…」
犬吉 「その箱の中身は何ぞや?」
大林 「それは…雷たちの…」
大猿 「雷達の?」
大林 「…酒じゃ…」

吉山、え?って顔。

桃太郎 「酒?」
大林 「そ、そう、酒じゃ!だが、間違って人間が飲んでしまうと死んでしまう強〜い酒なんじゃ!」
大猿 「なんと!」
犬吉 「いったい何と言う酒じゃ?!」
大林 「それは…お…鬼ころし…」
大猿 「お、鬼ころしとな?!」
犬吉 「強そうな名じゃ!!」

吉山、大林に「それ本当にある酒だろ!」的なリアクション。大林「すまん!とっさに出ちゃったんだ!」的なリアクション。

おじい 「ここ何年もの間に、拾うた酒飲んでおっちんだもんの話しなんぞ聞かぬが」
おばあ 「そりゃ早くみつけんと、えらいことになりそうじゃ。」
お菊 「父上なら何か知っとるかもしれん。」
吉山 「そうか!ではお父上の所に連れて行ってくれませんか?」
お菊 「そりゃ無理じゃ。雷様なんぞに会ったら、驚いて死んでしまいますじゃ。」
桃太郎 「う〜ん、むらおさなら、知ってそうなのじゃが…」
お菊 「わちが聞き出して来ますじゃ。」
桃太郎 「頼んでもよいか?お菊さん。」
お菊 「急ぎ戻りますじゃ。待ってて下され!」
大林 「かたじけない。」

お菊の去り際に

桃太郎 「おきじ。お菊さんの後を。」
おきじ 「承知。」

お菊とおきじ去る。

吉山 「この家の者がついて行って平気なのか?」
桃太郎 「おきじは忍びの血を引いてるんじゃ。見つからずに村に入れる。」
吉山 「忍び…」
おじい 「あん子たちが戻って来るまで、ここで待っとった方がええですじゃ。」
大林 「闇雲よりは賢明かもな。」
吉山 「そうですね。」写真
おばあ 「裏山の瀬名殿も呼んできて、しばらくゆるりとな。」
大林 「ええ。」

裏山の方から銃声が聞こえる。

おばあ 「なんじゃ?」
桃太郎 「裏山の方で、イカズチの音じゃ。」
大林 「(通信)瀬名さん、聞こえますか?瀬名さん?…応答しない!」
吉山 「まさか…」
大林 「行こう!」
桃太郎 「お供するでござる!」

吉山、大林、桃太郎、大猿、犬吉、走り去る。照明が変わり、おじいさんおばあさんもはける。

(作:松本仁也/写真:はらでぃ)

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