△ 「A1-PANICS!」第10回


トップページ > ページシアター > A1-PANICS! > 第10回 【公演データ

<前一覧次>

と、男が一人、入ってくる。

「ヨオ!」舞台写真

一同、息を飲む

「相変らず、汚ねえ小屋、使ってんなー」
小田嶋 「柳井さん!?」
岸野 「どうしてここに…」
柳井 「よう。久しぶり」
桑田 「よく…わかりましたね、ここが」
柳井 「そう思うだろーダイレクト・メールも来ないのに、な!?」
小田嶋 「…」
小川 「とりあえず、どうぞ、こちらに…」
柳井 「おう。いやー疲れたわ、何せけい古のあとでさァ…。やっぱ、プロは違うよ、ホント!」
大須 「…誰です?アレ…」
敦子 「…柳井さんって言って、劇団の、創立メンバーなの。でも、旗上げのあとやめて、そのあとプロ劇団の研究生になったの」
柳井 「よう美咲。相変らずでけぇ胸だな」
美咲 「…ごぶさたしてます」
大須 「…ヤな奴、ですねー…」
敦子 「そうなのよー、でも先輩だし一応実力もある人だから…さすがの小田嶋さんも頭が上がらなくて…」
大須 「ヘェー…ますますヤな奴…」
柳井 「ところで、何、その変なサボテン。また岸野がバカバカしいこと、考えたの?」
小田嶋 「いや、これは…」
岸野 「ちょっと、ワケありで…」
柳井 「よう、愛、元気か」
安永 「あ、こんにちは!!」

ぶんっ!サボテン振る。

柳井 「どわっ!危ねえ!おい、何も制作のお前まで、こんなモンかぶることないんじゃねーの」
安永 「それは、その…」
柳井 「また、でっけーなァ。いいじゃんこんなの先っぽ折っちゃえば…」
敦子 「あ」
有川 「あ」
越智 「あ」
大須 「…触るな」舞台写真
岸野 「円蔵!」
柳井 「なんだお前…」
大須 「僕の…僕の特大ちゃんに、触るなァッー!!!」

O・K!!

桑田 「頼む…やめてくれ!!」
大須 「クッ…出るなッー!!」

間。F.O.で戻っていくO・Kダンサーズの皆さん。

柳井 「な…何だったんだ、今の…」
有川 「ね、ねェ?」
小田嶋 「さ、さあ、みんな仕事に戻ってくれ。すみませんが柳井さん、何せ明日初日だもんで、あんまりお相手が…」
柳井 「何言ってんだよ、手伝うよォ俺も」
小田嶋 「え!?いや、いいですよ、そんな…」
柳井 「仕込みにきて、ボッーとしてるバカもいねーだろ。それとも、何か俺に手伝ってほしくない訳でもあるの?」
小田嶋 「…そんなことは…」
柳井 「よーしじゃ手伝うかな。桑田、今、何やってンの?」
桑田 「ハケ板の固定を…」
柳井 「オッケー、ウワッ!」

柳井、陰にいた母に驚く。

「よろしくお願いいたします」
柳井 「び、びっくりしたー…なァお前らいくら人手が足りないからってシルバー人材センターから借りるのは、さすがに…」
「んまっ!?」
桑田 「なにィ!?」
小田嶋 「ち、違いますよ!あの人は、越智のお母さんです」
柳井 「えっ!?サルの母?なんでまた…」
小田嶋 「ちょっといろいろありまして…ちなみにアソコの祭壇にまつられてるのが越智の父親です」
「(チーンとならし)享年61才でした」
柳井 「いや…気にはなってたんだけどサ…なんか聞いちゃいけない世界の気がして…」
桑田 「よし江…お母さんは、これでけっこう優秀なんですよ。このパネルも彼女が立てたんです」
「桑田さんのご指導の賜ですわ」
柳井 「どれどれ…あ〜だめだよ、こんな立て方しちゃあ」
桑田 「え?なんで…」
柳井 「こーいう風にすると、ここに力が加わった時、危いだろ。普通パネルはウマ作ってかませるもんだぜ」
桑田 「でもウチはずっとこうやってきたし…」
柳井 「そうかもしんないけどね、他の劇団はそんなこと、しないよ。大体、合理的じゃないだろ」
桑田 「…」
柳井 「何年装置やってるんだ。少しは進歩しろよ桑田!」
桑田 「…」
「桑田さん…」
有川 「おっと」

有川、手にしていたコードを誤っておとす。
柳井のヨコ2mにおちる。

柳井 「うわっ!あぶねーな、有川!」
有川 「すみません」
柳井 「下に人がいる時、コード落とすなよ!基本だろ!」
有川 「落としたんじゃなく、手がすべって…」
柳井 「だったら軍手くらいしろよ!ったくもうコレだからシロートの照明は…」
有川 「え?」
柳井 「なんでもない、なァンでもない!ホラ、コード!気をつけろよ、ホントに」
有川 「…ハイ」

コヤ中に険悪なムードが漂う。
見かねて小田嶋。

小田嶋 「あの、柳井さん、良かったら俺の方、手伝ってもらえませんか」
柳井 「おう、いーよ。せっかく来たんだからさー使ってやってちょうだいよ」

柳井、小田嶋の元へ。

小田嶋 「今、キャパの作り方、考えてたんです。最低でも80は作らないと…」
柳井 「80!その位しか入らねーの?!」
小田嶋 「初日だし…平日だから」
柳井 「なんだよ。旗上げのあと倍々ゲームで客が減ってるってのは、ホントだったのかよー」
小田嶋 「(ムシして)まずサジキを作って、そのあとベンチシート、これを何列おくか…」
柳井 「確かにな。これじゃお前が辞めたくなるのもわかる気がするよ」

間。

小田嶋 「(ゆっくりと)そんなこと、思ってもいませんよ」舞台写真
柳井 「嘘つけ。こないだ飲んだ時、散々劇団の悪口、言ってたろうが」
小田嶋 「あれは…酔っぱらってただけで、別に本心から…」
柳井 「いいっていいって、言いわけしなくても。いや実はさ、今日俺が来たのもあン時の話の続きなんだよ」
小田嶋 「は?」
柳井 「オダ。俺は今の劇団を辞めようと思ってる」
小田嶋 「…辞めるって…辞めて、どうするんです?」
柳井 「劇団で知り合った連中と、新しい劇団を旗上げするつもりだ」
小田嶋 「それは…良かったじゃないですか。でも、それとこれと、どう…」
柳井 「まァ聞け。旗上げする劇団は、役者にかけちゃプロはだしの奴ばっかで、レベルが高いんだが、何せスタッフが足りない。で、相談なんだ…お前、寒気をやめて、ウチに来る気はないか」

間。

小田嶋 「…」
柳井 「確かにこの劇団はスカばっかりだ。作品も非道けりゃ演出もひどい。役者にもロクなのがいねえし、スタッフもシロート…でもな、たった1つ、取り柄がある。それが、お前だ」
小田嶋 「…」
柳井 「お前は…はっきりいってそんじょそこらのプロの舞台屋より、よっぽど才能がある。どこがどうとははっきり言えないんだが…そうだな、強いて言えば…輝きがあるんだな」
小田嶋 「輝き?」
柳井 「カリスマ性、といってもいい。お前には、他人が信じてついていこうとする、いや、ついて行きたいと思わせる、そんな何かがあるんだ。それがなきゃ、芝居の舞監なんてできやしねえ」
小田嶋 「そんな大げさな」
柳井 「大げさなもんか!何度も言わせるなよ、お前にはそれだけの能力がある、お前にはそれだけの価値があるんだよ。だから…ウチへ、来い」
小田嶋 「…え」
柳井 「ウチならば、お前を活かしてやれる。いや、ウチでなきゃお前は、駄目なんだ」
小田嶋 「…」
柳井 「…お前だって、わかってるはずだ。…そうだろ?」

柳井と小田嶋見詰め合う間。小田嶋、ゆっくり首肯する。

小田嶋 「ええ」
柳井 「小田嶋!」
小田嶋 「(呟くように)ここしか、俺の居場所はないってこと」
柳井 「へ?」
小田嶋 「すンません柳井さん。そこまで俺のこと買ってくれるのは嬉しいですけど…やっぱ俺は、ここの人間ですから。ここをやめて、どっか行くことはできません」
柳井 「そ、そんな…だってお前、さんざ言ってたじゃねーか、"もうやめてやる"とか"今度で最後だ"とか…」
小田嶋 「酔っぱらってたから…それに俺、芝居が近づくと必ず一度は言うんですよ、"芝居なんてもう二度とやらねぇ!"ってね」
柳井 「…」
小田嶋 「でも気づくと打上げの席で次の芝居の相談をしてる。…芝居やってる連中なんて、皆な、そんなもんじゃないスか?」
柳井 「…」
小田嶋 「それに…ヘタクソはヘタクソなりに…けっこうこれで、良いところもありますから…。本当にすみません。今の話、なかったことにして下さい」

ペコリと頭を下げる小田嶋。

柳井 「…じゃ、お前は、こないだの話は全部嘘っぱちだったと言うんだな?」
小田嶋 「いやだから、嘘っぱちだったわけじゃないです。あの時しゃべったことは、みんな本当に思ってたことですよ。ただちょっと、酒が入って話が大きくなってただけで…」
柳井 「常日頃、思っては、いたと」
小田嶋 「まァ…(ハッとして)柳井さん!何を考えているんです!?」
柳井 「(ニヤッと笑い)悪いな。俺はどうしても、舞監が必要なんだ」
小田嶋 「え…」

柳井、スタスタと岸野の元へ。

柳井 「おい優作!椅子、わらってくれ!」
岸野 「だーっはっはっっは!!」
有川 「馬鹿。どかすことよ」
柳井 「ったく、そんな基本用語もマスターしてねえのかよ。相変わらずシロートくせえな」
岸野 「すんません、今すぐ…」
柳井 「こんな情けねえ演出の下で芝居やってるヤツは可哀想だよ、ほんと」

岸野、椅子を取り落とす。

小田嶋 「や、柳井さん」
柳井 「脚本は相変らずつまらねーし、演出は陳腐だし…。おまけに、女とデキた、もめた、取られた、取ったっていう半径1メートルの世界しか、芝居にできねえっていうじゃねえか。女呼んで揉んで抱いていい気持ちも分かるけどサ、もちーっと大切なこともあるんじゃないの、優作チャン!」
岸野 「だれが…そんなことを…」
柳井 「アレ?違うの?俺、ついこないだ、オダにきいたんだけどなー」
小田嶋 「柳井さん!」
岸野 「…小田嶋…お前…」
美咲 「ちょっと待ってよ、なにもこんな時にそんな話…」
柳井 「美咲ちゃ〜ん!(なれなれしくもたれかかりながら)エライね〜、まだこんな男、かばうつもりなのぉ。あんなに酷い目にあってんのに…。ああ、でも、そういえば前にも一度、泣きながら俺んちに来たことあったね。真夜中、終電も終わったあと…岸野のあまりの身勝手さに、可哀想に泣きじゃくりながら…そんでそのまんま一晩ってこれは言わない約束だっけ、特にこの男の前では!」
岸野 「美咲!てめえ…」
美咲 「いい加減なこと言わないで!違うの、岸野君、あれは…」
柳井 「いい加減、ねェ。いい加減と言えば、オダがしきりと言ってたっけ。ウチの役者もスタッフも、いい加減なヤツばっかりだ。本気で芝居やる気もなけりゃ、それで食ってく気もない。ぬるま湯のようなナマ暖かな関係の中で、進歩もせず、向上もせず…。特にアッコ!お前だお前!顔もよくなきゃ、カラダもよくねぇ。声がいいわけでも、踊りが上手いわけでもねえ。なんでこんなヤツが役者やれてんだって、ホント不思議がってたよ、オダも」
敦子 「…ひどい」舞台写真
小田嶋 「そ、そこまで言ってない!それに俺の言いたかったことは…」
岸野 「――つまり、言ったことは言ったんだな、小田嶋」
小田嶋 「…」
大須 「ゆ、優作ちゃん…」
岸野 「見そこなったよ、小田嶋!言いたいことがあれば、直接言えばいいじゃねぇか!それを陰でコソコソと…ヨソの人間に…」
小田嶋 「すまん、岸野、俺は、ただ…」
岸野 「ただなんだ!?悪口を言いたかったのか!?陰で、俺たちのことを、アザ笑いたかったのか!?」
小田嶋 「…そんなつもりは…」
柳井 「ないよな。何せ今日限りでサヨナラする劇団だ」
安永 「え!?」
小川 「ウソだろ、オイ!」
桑田 「小田嶋!」
小田嶋 「違う!だからアレは…」
柳井 「お前、ハッキリ言ったよな。"今度で最後だ"って」
小田嶋 「…それは…」
岸野 「――出てけよ」
小田嶋 「岸野…」
岸野 「遠慮するこたァない。――出てけ。今すぐ出て行けっ!!」
小田嶋 「…」
有川 「岸ちゃん…」
美咲 「おちついてよ、二人とも」
柳井 「オヤオヤ、とうとう仲間割れかい。でも、ま、ちょうど潮時だったんじゃねーの。もうすぐ、俺らの劇団が立ち上がるし…」
鴨志田 「…え?」
美咲 「何、それ。どういうこと?」
柳井 「アレー言ってなかったっけ!今度、俺たち劇団旗上げすンのよ。それがメンバーがスゲー奴ばっかりでさァ。みんなVシネやCMで実績つんでて、おかげでフジや日テレのプロデューサー連中とも飲み仲間になれてさァ…ホラ、オダも一度会ってるだろ、もと文学座の戸田、あいつなんか次回のCX月9に決まったって」
安永 「ホント?ね、ホントなんですか小田嶋さん!」
小田嶋 「…俺は…」
柳井 「とにかく!そういう訳で、俺もオダがいつこっちに辞めることを切り出すか、気にはしてたの。で、今日、様子見に寄ったんだけど…。ま、結果としては良かったんじゃないのスッパリやめられて。…さ、いこうぜオダ!」
有川 「待って!本当に?本当にこのままやめちゃう気なの?!」
小川 「初日は明日だぞ!お前、自分でそう言ってたじゃねーか!」
小田嶋 「雅史、だから…」
岸野 「ほっとけ!陰で何やってるかわからん奴のことなんか気にするな!あんな奴などいなくても芝居はできるさ!」
柳井 「そうそう。この程度の仕込みなら高校生でもできらァ」舞台写真
桑田 「何を…」
「桑田さん!」
柳井 「おおコワ。血ィ見ないうちに早いとこサヨナラしようぜ、オダ」
小田嶋 「…岸野、俺…」

柳井、去りかける。小田嶋、岸野をじっと見つめる。
そして、その目が、敦子の目と合う。

敦子 「…小田嶋さん…」
小田嶋 「すまない。アッコ」
柳井 「行くぞ、オダ!」

二人、出ていきかけたその時。

(作:中澤日菜子/写真:広安正敬)

<前一覧次>


トップページ > ページシアター > A1-PANICS! > 第10回 【公演データ