△ 「A1-PANICS!」第8回


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袖からアッコ。

敦子 「美咲さん、最後の衣装あとスソ調節するだけなんですけど、ちょっと当ててもらえます?」
美咲 「いいよ」

アッコ、当ててスソ計る。

有川 「わーかわいい」
美咲 「そう?」
有川 「うん、すっごくかわいい。上手じゃんアッコ」
敦子 「ありがとうございます」
有川 「でも、いいよね美咲は。美人だから何着ても似合うし」
美咲 「そんなことないよ」
有川 「スタイルだっていいしさ。うらやましいよ」
美咲 「うそ、足なんかすっごい太いんだよ」
有川 「太いうちに入んないって」舞台写真
美咲 「あのねーももはそんなでもないんだけど、足首がねー太くって…」
有川 「えーそんなこと…」
敦子 「おっと」

アッコ、採寸していてバランスを崩し、変なカッコに。
思わず有川にふれる。

有川 「くびれてないもんね。サリーちゃんみたいよ」
敦子 「エッ!?」
美咲 「なに?」
敦子 「言い得て妙、ですよ、さすが有川さん!」
有川 「は?」

美咲を指し。

敦子 「サリーちゃんの足!」

美咲、アッコにケリ。

有川 「な、何言ってんの!?言ってないわよ、そんなこと!」
美咲 「郁巳…あんたそんな風に、思ってたの…」
有川 「だから言ってないって、そんなこと!アッコ、変なこと言わないでよ!」
敦子 「変だなァ…ききまちがいかなァ…」
有川 「当り前よ!」
美咲 「で?もういいわけ、採寸は」
敦子 「あ、ハイ」
美咲 「じゃあ向こうに言ってるわ、サリーちゃんは」

美咲去る。

有川 「どーすんの、怒っちゃったじゃない。アンタのせいよ」
敦子 「スミマセン…おっかしーなァ…」

アッコ、服を持って去りかける。
クギをふみそうになる。

小田嶋 「アッコ!足許!」舞台写真
敦子 「あ!」

よけようとして、ヨロケ、変なカッコで桑田にぶつかる。

桑田 「好きだ!好きだ!好きだ!よし江さん!好きだ!好きだ!好きだ!よし江さん!」
敦子 「ゲゲッー!ま、まずいですよ桑田さん!」
桑田 「?何が?」
敦子 「だ、だって相手は仮にも未亡人で、しかもサルの母…」
「は?」
桑田 「お、お前何を…」
敦子 「だって今、絶叫してたじゃないですか、好きだ、よし江さんって…」
「ま!」
岸野 「げっ!」
有川 「エッ?!」
越智 「父?!」

桑田、がっとアッコを抱えて走る。

敦子 「い、いたいいたいよ桑田さん…」
桑田 「いいか、敦子、今度いいかげんなことを言ったら…」
敦子 「何言ってるの!桑田さんが自分で…」
桑田 「言っとらん!!とにかく、今度変なこと言ったらいくらお前でも容赦しないからな!」
敦子 「そ、そんな…」
桑田 「わかったな!」

桑田去る。
ボーゼンとするアッコ。

敦子 「…なんなの…なんなのよ、これ…」

ハッとして。

敦子 「そうか!もしかしたら…」

アッコ、大須のそばにかけてゆき、深呼吸。
そっと胸に手を当てる。

大須 「?な、何かご用ですか?」
敦子 「…」
大須 「ちょっと、アッコさん…」
敦子 「…」
大須 「こ、困ったな」

処置に困った大須、アッコの胸の下に手を。
しばし、そうやって佇む二人。

岸野 「…なんか、どんどん壊れてないか?うちの劇団…」
小田嶋 「俺はもう、見て見ぬふりに決めたんだ」
敦子 「(手を離し)ダメだ。何もきこえないや」
大須 「ど、どうしたんですか」
敦子 「うん、あの…さっき有川さんと桑田さんに触れた時に、二人の声がきこえたの。でも。二人とも、そんなこと言ってないって…」
大須 「あ!そ、それでアッコさん…」
敦子 「そう。二人の心の声だったんじゃないかと思って。でも今、大須さんからは何もきこえてこなかった」
大須 「な、成る程。アッコさん、さっき、声がきこえたときに、何か変わったコトをしませんでしたか?」
敦子 「変わったこと?」
大須 「ええ。読心能力は読心能力かもしれませんが、何か一定の条件下でないと働かない、という可能性も考えられます」
敦子 「そうか!エート、衣装もって…」
大須 「それは違うでしょう。今も持っていた」
敦子 「歩いて…そうだクギをよけようとしてバランスを崩して…さっきもよろけて、変なカッコで有川さんにさわったんだ!」
大須 「それ!それですよカギは!」
敦子 「それって…変なカッコのこと?」
大須 「ええ!さあ、変なカッコウして、僕にさわってみて下さい!!」
敦子 「急に、そんなこと言われても…」舞台写真
大須 「何言ってるんですか!役者でしょ?!さあ!!」
敦子 「う、うん…」

アッコ、変なカッコして大須にふれる。
コーコツとしている大須。

岸野 「…小田嶋。もう、うちの劇団、だめかもしんない」
小田嶋 「見るな。見てはいけない、岸野」
大須 「どうです?!」
敦子 「うん、きこえた!きこえたよ!!」
大須 「僕はなんて?なんて考えてました?」
敦子 「あのね、東京特許許可局きょくきょうきょ…」
大須 「エッ?」
敦子 「だから東京特許キョキャキョクキョクキョ…」
大須 「なんだって?」
敦子 「東京キョッキョキョカキョクキョキョ…」
大須 「じれったい、もう1回!」

ふれる。

大須 「ハイ!」
敦子 「新人シャンソン歌手シンシュンシャンションショー…」
大須 「おかしいなァ、僕はスラスラ考えてるのに…」
敦子 「アンタ嫌がらせ!?」
大須 「まあいいや、とにかく、これでまた一人、能力が現れたってワケだ。オーイ、みんな…」
敦子 「待って!言わないでみんなには」
大須 「なぜです?」
敦子 「だって…嫌じゃない、心の中、のぞかれるかもしれないなんて。私だったら、そんな人のそばにはいたくない…」
大須 「そりゃ…心のやましい人にとってはそうでしょうが…でも僕みたいに裏表のない人間にとっては…」

アッコ、手を当てる。

大須 「全くもうグダグダうるさい女だな。パンピーはパンピーらしく天才の言うことに黙って従えばいいんだよ、タコ!」
敦子 「…私、人間不信になりそう…」

大須の元から走り去るアッコ。
サルとぶつかる。

越智 「イテェ!ちょっとー気ィつけて下さいよアッコさーん!」
敦子 「ご、ごめん…」

当てる。

越智 「ちょっとー気ィつけて下さいよアッコさーん!」
敦子 「も、もしかしてアンタ…」
越智 「なンか用すかァ?忙しいンすよこれでも」
越智 「なンか用すかァ?忙しいンすよこれでも」

アッコ、サルをギュッと抱きしめ。

敦子 「サル…あんたってすっげぇいい奴かもしんない…」
越智 「エッ!?何を、今ごろ…ホレた?ホレた?!ラッキーヤレる?!」
越智 「エッ!?何を、今ごろ…ホレた?ホレた?!ラッキーヤレる?!」
敦子 「違う…ただのバカだった…」

アッコ、サルから離れる。隅でいじけている。

小川 「太郎、そろそろ荷物、片付けはじめた方が良かねーか?」
小田嶋 「そうだな。手の空いた奴から要らないもん、運んでくれ」
小川 「じゃ俺、車とってくる」
小田嶋 「頼む!」

全員、荷物を外へ出しはじめる。
その合い間をぬって、安永、アッコの元へ。

安永 「アッコさん…アッコさん」
敦子 「わかってる、荷物、出すんでしょ。今、やるよ」
安永 「違うんです。あの、あの…ごめんなさい」
敦子 「は?」
安永 「私、聞いちゃいました。さっきの、大須さんとの話」
敦子 「えっ!?じゃあ…」
安永 「アッコさん。実は、お願いが…」
敦子 「言っとくけど、イヤだからね、他人の心の中にズカズカ踏み込むのは」
安永 「わかってます、でもそこを何とか…」舞台写真
敦子 「何とかって…誰よ。誰の心を知りたいわけ?」
安永 「…岸野さん」
敦子 「岸野さん?岸野さんの何を?」

愛、アッコを見つめて。

安永 「…今でも、美咲さんのことを、好きかどうか」
敦子 「…。ウワサ、きいたの?」
安永 「(首肯して)つい最近。はじめはすごいびっくりしました、まさかあの二人が別れるなんて…」
敦子 「何だかんだ言いながらもけっこう仲、良かったしねー。それに…知ってると思うけど…」

大須、きき耳。

安永 「…一緒に、暮らしてるんですよね、美咲さんと岸野さん」
敦子 「そう。美咲さんのマンションでね」
安永 「夫婦同然、って感じでしたよね…」
敦子 「そうよ。だからこそ…」

大須、岸野の元へ。

大須 「やだなー水くさいったら、優作ちゃん!」
岸野 「?何のこと?」
大須 「美咲さんと同せいしてるならしてるって、言ってくれれば良かったのに!」

全員の間。
が、すぐ何もきこえなかったモードに。

岸野 「別に、言う程の事じゃ、ないからな」
大須 「エー何でェーすっごいラッキーじゃない!あんな美人と…」
岸野 「…」
小田嶋 「大須さん、悪いけどコレ、向うへ持ってってくれないか」
大須 「ハ、ハイ。あ、そうだ、今度は美咲さんに聞いちゃお!美咲さーん!」

大須、止める周囲をすりぬけ美咲のところへ。

大須 「ね、美咲さんは、優作ちゃんのどこが好きなの?」
美咲 「――そうね、全部、かしらね」舞台写真
大須 「えっ!?全部!?優作ちゃんの全部が、」
美咲 「そう。――大嫌い」

再び間。
そして再びきこえなかったモード。

大須 「アハハ!いいんですよ、ムリしなくても。いいじゃないですか、好きなら好きとハッキリ言えば…」
美咲 「だからハッキリ言ってるじゃないの。私はあの人が嫌い、あの人は私が嫌い。――ね、岸野君」
大須 「え?」
小田嶋 「オイ、いいかげんにしろよ、痴話ゲンカなら芝居が終わってからにしてくれ」
岸野 「聞きゃあしねぇよ。そんな理屈が通る女じゃないってこと位、わかってるだろ」
美咲 「えらそうなこと言わないでよ!逃げてばっかりいて、話もしないくせに!」
岸野 「話す必要がないから話さないだけだ」
美咲 「話す必要が、ない?」
岸野 「お前には、俺の気持ちはわからない。――絶対に、理解できない。理解できない人間に、話しても意味はない」
美咲 「…話しても、意味はない?」
岸野 「…ああ」
美咲 「だから、出ていったの?何も言わずに」
岸野 「…ああ」
美咲 「――勝手ねぇ…すっごい、勝手」
岸野 「…」

岸野、去りかける。

美咲 「どこへ行くのよ」
岸野 「仕事に戻るんだよ。今は仕込みなんだ」
美咲 「話は終わってないわ」
岸野 「話なんて初めからない」
美咲 「そっちになくたって、こっちにはあるのよ!」

美咲、岸野の腕をつかむ。

岸野 「離せよ…離せったら!」

岸野、腕をふりほどこうとする。勢い余って美咲の口元を強打。
思わずうずくまる美咲。

安永 「美咲さん!」
敦子 「大丈夫!?血が出てるよ!」
小田嶋 「バカかお前!?役者にケガさせてどうする!?」
岸野 「済まない、手がすべって…」

そこへ小川。

小川 「どうしたんだ、一体…」
敦子 「岸野さんの手が、美咲さんに…」
小川 「何!?岸野…てめぇ!」

小川、岸野を殴り倒す。
悲鳴。とっくみあう二人。

美咲 「ケンカを止めて!二人を止めて!私の為に争わないで!!」
敦子・美咲 「もうこれ以上!」
小田嶋 「まりやかっ!?」

小川優勢に。トドメをさそうとした瞬間、

安永 「イヤー!」

愛、サボテンで小川を強打。すみません強打が多い芝居で。
倒れる小川。

敦子 「雅史さん!しっかり!!」
有川 「どうしたのよ!?」

どやどやと戻って来る人達。
愛、ゆっくりくずれおちる。曲"時かけ"。
岸野、愛を支える。

岸野 「愛!目をあけるんだアイッー!」

F.O.

(作:中澤日菜子/写真:広安正敬)

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