2025年6月のミステリ
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さらば、愛しき鉤爪
Anonymous Rex
1999年 エリック・ガルシア著 酒井昭伸訳 ヴィレッジブックス 511頁
あらすじ
隕石雨を生き残ったTレックス、トリケラトプス、コンピー、ラプトル、イグアノドンなど16種類の恐竜は小型に進化し、今の分布は人類88%、恐竜12%ほど。恐竜はG系統の留め金をいくつも使って尾っぽをとじ込み、、鉤爪を引っ込ませ人間型の革を着て人類に化け暮らしている。視覚は劣るが嗅覚はすぐれもの。恐竜を嗅ぎ分けられる。
ラプトルのヴィンセント・ルビオはロサンジェルスの私立探偵。半年前に相棒のアーニーを亡くしただいま絶賛自暴自棄中
感想
「タイタン・ノワール」
の後書きに「恐竜が探偵というゲテ物を訳したことがある」と訳者が書いてはったので、そのゲテモノを読んでみた。
面白い(^^♪
尾羽打ち枯らす寸前でも、武士は食わねど高楊枝の私立探偵もの。作者は映画「マッチスティック・メン」「レポゼッション・メン」の原作者だそうです。
訳者曰く、恐竜は「”例の大ヒットした映画”以降、自前の神話なき国アメリカの新しい神話として”究極の荒ぶる存在”の地位を確立した感がある」らしい。
なるほど
。
「HERE 時を越えて」
の恐竜はアメリカの神話やってんね。
↑の絵は本作には関係なく、米国の画家エドワード・ホッパーの作品『ナイトホークス』(1942)。 都会の孤独らしいねんけど、ノワールやんハードボイルドやんと感じるので載せてみました!
本作はこの絵の様なノワールやなくて、シニカルでコミカル
「この邦題はなんやの」と読んでいる最中は思ってたけど、浅はかだったことを懺悔いたします。おみごと。おみそれしました。
★★★★1/2
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さかさ星
2024年 貴志祐介著 角川書店 603頁
あらすじ
戦国時代に
山崎崇晴
やまざきたかはる
に仕えた
福森弾正
ふくもりだんじょう
を祖とする福森家の屋敷で大大事件が起こる。
感想
「代々積み上げられた宿業は、いつの日か必ず、この家を破滅へと導いていたでしょう」
・・・こわいー
旧家に生まれなくてよかった。
呪物の曰く因縁が綴られ、禍々しい物も人も敵か味方か
わからない
というハラハラの展開、加えて
怖いから早く読んでしまいたいっ
と3日で読んだ。
鏡が出てこなかったのはなんでかな。扱いが難しいのかな。
生きている人間の被愛妄想者も恐ろしい。そういえば昔、某有名歌手の恋人と言い張る女の人いたな。歌手のお母さん苦にして亡くなってしまいはった。
★★★★
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まず牛を球とします。
2022年 柞刈湯葉(いすかりゆば)著 河出書房新社 285頁
あらすじ
15編の短編集
感想
以前読んだ
『人間たちの話』
の「宇宙ラーメン重油味』と同じガテン系の『タマネギが嫌い』がノリよく面白い。
未知のものに表面がならされウサギが消えて月はのっぺらぼうとなり、次に地球の東京がならされはじめているという不条理物の「まず牛を球とします。』もいい。
それとミステリなのかホラーなのか『家に帰ると妻が必ず人間のふりをしています。』(星新一の様)とせつないお話の『石油玉になりたい』が好み。
笑ったのが、高一女子が苦手の数学の授業で「2乗するとマイナス1になる数、
虚数
を導入します」「ない数を新たに作りました」にとうとう「詭弁じゃあ」とブチ切れたところ、級友から
「それじゃ、数を見たことあるの?(実数ってゆうけど)」
と返される『数を食べる』。
なんでツボにはまったかというと「金文が少しでもわかるといいな」と思い立ちごく初心者向けの「漢字の成り立ち 図解」(落合淳思)を睡眠薬代わりに読んでいるところやったから。
そうやんなあ、漢数字の「一」は
象形文字
(物体の形を
象った
かたどった
(まねた)文字)ちゃうもんなあ。
魚とか鳥とかの象形やなくて
横線記号―で表していて、そういう風に〇とか―とか記号を使う文字を
指示文字
(しじもじ)というらしい。
上とか下とかも
指示文字
(ちなみに峠という字は日本独自の文字で国字っていうんやって。訓読みしかない場合が多いとか)
他には象形文字を組み合わせた
会意文字
(かいいもじ)とか形と音を組み合わせた
形声文字
(けいせいもじ)って分類もあるらしい。
形声文字
である「姉」は、「女性の中でシ(市)という発音のもの」とか。わかったようなわからないような。図解やから見てて楽しいけど。
「象形文字」刀
象形文字の手がふたつ並んだ
「会意文字」友
★★★★
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タイタン・ノワール
TAITANIUM NOIR
2023年 ニック・ハーカウェイ著 酒井昭伸訳 早川書房 488頁
あらすじ
T7療法が発明され、ひとは若返り寿命はのび療法を繰り返すと始皇帝が渇望した不死さえ手に入れられる世になる。
が、巨額の費用がかかり受けられるのはひと握りだけ。ステファン・トンファミスカを頂点とするファミリーとその他ごく一部。数はおよそ二千。
薬剤を投与されると成長期がふたたび訪れ体が1.5倍ほどでかくなりタイタンと呼ばれる。
トンファミスカ・ファミリーのひとりが元カノの偏屈探偵キャル・サウンダー。
その特殊な経歴からタイタンが絡んだもめごとには警察のコンサルタントとなり仕事を丸投げされる。
感想
くだけた訳でユーモアもあり、とってもいい。訳者で本を選ぶのもありかもと思う。
ヤメ刑事ではなく、アルコール依存者でもなく、結構勤勉な探偵さん(でも元カノのことは引きずっている)が相手にするのは、ちまたの権力者セレブを遥かに越えたタイタン。これが特色の王道探偵物語。
これでいいん? という結末であり、マルクス兄弟の謎はううううーんやったけど、探偵がパンくずを拾いながらてくてく歩く道で遭遇する輩が個性的。面白い。
あっちに寄りこっちに寄りと長い旅なもんで「どこで拾ったパンくずだっけ?」と二度読む。読みでがあった。
到底かないそうもない相手との捨て身の格闘も迫力がある。
作者はジョン・ル・カレの息子さんだそうです。
★★★★
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