2022年6月のミステリ 戻る

アルテミス ARTEMIS
早川書房 アンディ・ウィアー著 小野田和子訳 20170年 上279頁 下270頁
あらすじ
5つのドームに暮らす月世界の住民は2000人。
月の主な産業は観光業。
感想
6才で月に移住した主人公ジャズ・バシャラの父親の職業は溶接工。(敬虔なイスラム教徒でもある。)
この溶接工という設定が全編に活きている。月では空気を確保するために常につないで穴を防いでしなくては生きていけない。
彼女は16才で家出して地球からの荷物を届けるポータとして働いている。
なるほど。ポータというのはそういう利点があるのかと最後に感心した。9才から続いている地球・ケニアの男の子との文通も面白い。
 
前半はSFアクションで後半は西部劇になっていく。
面白いねんけどね、読んでいて主人公のジャズになんか違和感を感じる。
「火星の人」「プロジェクト・ヘイル・メアリー」を書いた作者なので、「女の人を描くのもうひとつなのかな」と思っていたが違う気がする。
ジャズは天才肌なのに、16才の時にやんちゃが過ぎてやらかしてしまう「せっかくの才能を無駄にしている」残念な子。
10年後の26才になっても、その無謀さに変わりはない。26才の女性なのに分別を持つ事もなくジュブナイルみたいで。
男の人はともかく26才の女がこの命知らずでは単なるあほなん・・・とかちょっと思ってしまう。
(決めつけたらあかんけど、女は結構計算高い生き物と思うので)
このお話は10年くらいの様々な経験がなくては成り立たないし、一方向こう見ずでないと成り立たない。
そして溶接工の父との関係(不器用な職人の男親のとまどい、わからなさ)を描くには主人公を女性にするほかないわけで。
月の重力は地球の6分の1で長生きするっていうし、地球では19才くらいなのかもしれない。たぶん。
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ヨルガオ殺人事件 MOONFLOWER MURDERS
創元推理文庫 アンソニー・ホロヴィッツ著 山田蘭訳 2020年 上434頁 下420頁
あらすじ
カササギ殺人事件から2年、クレタ島で恋人とホテル経営に悪戦苦闘する主人公スーザンの元に、英国から年配の夫婦が訪ねてくる。
娘のセシリーが行方不明になっていて探して欲しいとの依頼だった。。
探偵でもない私に何故? と思うが、夫妻の話によると英国で営んでいるホテルで8年前に殺人事件があったとか。
犯人は捕まり刑務所に入っているが、娘のセシリーは作家アラン・コンウェイの「愚行の代償」を読んで真相を見つけたと電話してきた直後に
失踪したから。重箱の隅まで知っている元編集者、あなたに本の秘密を探って欲しいというのが理由だった。
感想
「カササギ殺人事件」の続編。根性曲がりの作家アラン・コンウェイが自作に埋めた地雷が8年の時を経て踏まれる。
クレタ島でのホテル経営に四苦八苦し、本に焦がれる気持ちが煮詰まっていたスーザンは、恋人の元を離れることに迷いながらも古巣英国に舞い戻る。
今回は真ん中に小説「愚行の代償」が挟まれていた。
スーザンは恋人アンドレアスのこと、お金のこと、家族のこと、そして肝心のセシリーの失踪の謎、あれもこれも悩み、その上アラン・コンウェイの亡霊につきまとわれうつうつと行ったり来たり。「愚行の代償」に取り組むまでが長い。後半はするする読み進める。
読み終わって思う事は、「愚行の代償」は「鏡は横にひび割れて」へのリスペクト、本作は「あのひとはそこにいなかった」と思い出す「予告殺人」にちょっと似ている。
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自由研究には向かない殺人 A GOOD GIRL'S GUIDE TO NMURDER
創元推理文庫 ホリー・ジャクソン著 服部京子訳 2019年 571頁
あらすじ
グラマースクール最終学年のピッパは、夏休みの自由研究に5年前に村で起こった美人女子生徒失踪事件を取り上げる。
ジャーナリスト志望のピッパは研究内容を「マスメディアとソーシャルメディアの事件への役割と報道についての考察」ともっともらしくしているが、
実は、事件の犯人とされている人物は冤罪と信じ真相を明かすつもりだ。
モース警部のテムズバレー署が作中に出てくることからオックスフォード近くの村らしい。
感想
ひと世代上に起こった事件を解くためにピッパはソーシャルメディアを駆使して調べ、事件の関係者にインタビューをする。
そのたびに、容疑者が増えたり減ったり。そのたびに調査ノートが増え書き換えられ、振り返り学習となる。
わかりやすいちゃあわかりやすいねんけど、571頁は読みごたえあるというか、長い。
解説のひとはヤングアダルト小説として本作はフェアネス(公平な視点で物事を見続けること)の大切さを教えてくれる
って書いてはんねんけど、ほんまに? 交通事故の被害者はどーなんの?
犯人が明らかにされたとしても事故だからしゃーないと? 起きた事は変わらないと? 公平? うっそー
これはしいて言えばフェアネスに勝った愛と友情の物語と思うねんけど。
驚く(解説に)
 
WOWOWで「アガサと殺人の真相」というドラマを見ていると、アガサ・クリスティがゴルフ場でアーサー先生
(誰かと思たらアーサー・コナン・ドイルやった)に執筆の悩みを相談するシーンがあって、
「(読者に)推理されてしまいます。一番ありえない人物の犯行だと。練りに練った300頁を読まなくても5分で犯人が分かる。
 短絡的な読者なんです」
コナン・ドイルは「プロットに何カ月も費やし、読者を欺く筋を考え伏線を張ったのに手っ取り早く犯人が暴かれる」と答える。
そうやねー この作品もそうやね。それで、もうひとひねりしてあった。
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プロジェクト・ヘイル・メアリー PROJECT HAIL MARY
早川書房 アンディ・ウィアー著 小野田和子訳 2021年 上巻323頁 下巻305頁
あらすじ
目覚めると「ニ足すニは?」と質問をされる。ここはどこ? そして、、、ぼくは誰?
地球は野尻泡介の「太陽の簒奪者」の様なことになっていた。
感想
「火星の人」(映画はオデッセイ)を書いた作者の3作品目。
作中の相対性理論物理学はおろかニュートン物理学もまったくわからないけど、面白い! 
私は人類は1万年たっても恒星間航行、ワープとかは実現しないな と思っているけど面白い! 続けて2回読む。
 
新聞の書評を読んで図書館で予約するものの長く長く待ち、受け取った時は全て忘れ果ててて。
これがよかった。
「『火星の人』と同じかなあ」と思って読んでいたら、上巻の中盤あたりで驚く!
書評も本の帯もあとがきも、何もかも読まないで本書に挑まれることをおすすめします。
 
当たり前のことかもしれないけれど、惑星地球には月という衛星があったから、人類は宇宙へ飛び立ったそうです。
そこに、手の届きそうな、目標があるから。なるほど。
また題名の「ヘイル・メアリー Hail Mary」はアメフトの劣勢側がゲーム終了間際に放つ起死回生の投てきだとか。
作品は映画化されるみたい。期待膨らむ(わくわく)。
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