2021年8月のミステリ 戻る

マハラジャの葬列 A NECESSARY EVIL
HAYAKAWA POCET MYSTERY 2017年 アビール・ムカジー著 391頁
あらすじ
1920年のインドは、英国の統治下とはいえ藩王が500人以上いてインド全土の五分のニほどを支配している。少なくとも自分たちは支配していると主張している。
(ウィキによると「藩王国(はんおうこく、英語:princely state, native state, Indian state)とは、イギリスが植民地統治していた時代のインド(現在のインド・パキスタン・バングラデシュ、およびミャンマーを含むインド帝国)において、イギリスの従属下で一定の支配権を認められていた藩王(prince)の領国のことである)
半独立国らしい。
その藩王国のひとつサンバルプール王国の若き王太子アディールが、カルカッタで暗殺された。
英国人警部のウィンダムと印度人部長刑事のバネルジーは犯人を追うが自殺されてしまう。
バネルジーと結末に納得のいかないウィンダムは王太子の葬式に参列するためサンバルプール王国に向かう。
サンバルプール王国は小国だがダイアモンドが採掘され豊からしい。
感想
「カルカッタの殺人」に続く第二作
英国人警部のウィンダムは第一次世界大戦で負傷して故国に戻ってみればスペイン風邪で愛する妻は亡くなっていた。
気持ちを新たにしようとインドに赴任しても立ち直れていない。その上アヘンに手を出している。
一方バラモン階級の印度人部長刑事のバネルジーは相変わらず奥手でかわいい。
今回はバネルジーよりドキンちゃんのごとく男を翻弄する美女アニーの方が出番が多い。
 
英国人も印度人も後宮も権謀術数渦巻き1920年のインドは熱い
真実、正義(誰から見て?)から離れた別次元の世界らしい。それでもウィンダムは英国流の真実を追求する。
そして英国人にもわかる政治となる。
 
「どうゆうことなん? よくわからへん」とカオスしていたことは巻末の覚書を読んで「あーそうなんや」とやっとわかった。
多民族、多宗教、多言語の国やねんね。
 
以前、漢字の先生が新聞に書かれていたには
「『婦』という字は、女の人が掃くで女は掃除してればいい、役割を固定していると解釈している向きもあるようやけど、そうやなくて
神様が降りてこられる場所を掃き清める高貴な人という意味」って書かれているのを読んだことがある。
そうなんや。
★★★1/2戻る

小惑星ハイジャック One of Our Asteroids Is Missing 我らが小惑星のひとつが行方不明
創元SF文庫 1964年 ロバート・シルヴァーバーグ著 187頁
あらすじ
2216年、手軽に一人乗り宇宙船で飛行できる時代。
24歳の鉱山技師ジョン・ストームは地球の基本給1万6千ドル、ユニヴァーサル炭鉱カルテル(UMC)の仕事を蹴って(2年間の猶予をもらって)、火星と木星の間にある小惑星帯(アステロイド・ベルト)にやってきた。
探しているのはガリウム、タンタル、セシウム、ランタンといった種々の希少金属だ。彼は一攫千金を狙っている。
感想
面白かった。味わいは「友情」っていうジュブナイルな冒険小説。
 
ジョンが鉱床を掘り当て地球に帰ってみれば、火星で申請したはずの「お宝惑星」の登記がされていない。
それどころか、自分ジョン・ストームさえ存在していない事になっていた。
 
ここから、未来世紀ブラジルの様なお役所仕事の不条理な話になっていくのかと思いきや・・・・ほお。
「ミステリやったら、かなりのとんでも展開かも。まあ、SFやからなんでもありかー」と思う。
「なんでもありー」なーんて考えは偏狭なこまかいSF原理主義の人たちに怒られてしまうかも。
★★★1/2戻る

楽園とは探偵の不在なり 
早川書房 2020年 斜線堂有紀著 315頁
あらすじ
突如地上に降臨した天使たち。ラファエロの描く天使とは異なり目鼻口がない。かわいくない。
人が人を二人(以上)殺した時、天使たちは下手人を業火と共に地獄に引きずり込む。
意図しない殺人の場合も、直接手を下した者に容赦をしない。
感想
人が地獄に落ちる様は、映画「ゴースト/ニューヨークの幻」Ghost)で犯人が餓鬼みたいなのに拉致されるところに炎が加わったイメージ。
 
アガサ・クリスティは晩年「ポワロを登場させるのが難しくなった」と言ってはったそうだ。
殺人事件に限って言えば警察が優秀やったら犯人を見つけるのに名探偵は必要ないんやから、そうかも。
 
しかし、警察がすぐにかけつけられない孤島での連続殺人事件の犯人探しには、まだまだ名探偵が必要なん。たぶん。
そこには、何故孤島なのか。何故ひとが集められたのか。何故殺人事件が起こるのか。その場所に名探偵が登場している理由は?
が必要なわけで、天使が降臨したことですべての説明がされている。
「現代人の日本史2 大化の改新」にも書かれていたけど
後ろめたいひとは、「祥瑞(しょうずい・吉兆)」をありがたがるんやね。
加えて砂糖好きの天使には他の利用方法もあった! ここに一番感心した。
 
なぜかひとり殺しただけでは地獄に落ちない(そんなことしたら、それこそ名探偵がいらなくなる)という設定は、
「地獄」があるのはわかったけど、良きひとが逝ける「天国」があるのかないのかわからん、探偵が悩むという
さらに不条理で混沌とした世の中、としてあった。なるほどなあ。この世に楽園はないから名探偵は不滅なん。
★★★1/2戻る

からくり探偵・百栗柿三郎 
実業之日本社文庫 2015年 伽古屋圭市著 334頁
感想
「超短編! 大どんでん返し」の「籠城 オブ・ザ・デッド」(伽古屋圭市)が
ゆるく面白かったので、同じ著者の本を読んでみる。
 
大正ロマンの時代、発明家として浅草「百栗庵」に棲む、百栗柿三郎(ももくりかきさぶろう)がいた。変人。いい変人。
助手は大きな招き猫の「お玉さん」(TAMA3号)。看板の「よろず発明、承り」の横に小さく書かれた「よろず探偵 人探しも承り」
に引き寄せられ、四つの「謎」が持ち込まれる。
第一話 人造人間ホムンクルスの殺意
第二話 あるべき死体
第三話 ゆれる陽炎かげろう
第四話 惨劇に消えた少女
 
第二話の「ジャック・ザ・リッパー」を『日本でいうと「切り刻み太郎」』、と書くところに作者の指向 嗜好 思考 センスが表れていると思う。
切り刻むのは、西沢保彦の「解体諸因」以外にこういう理由もあったのか。
 
続編も読みたいところ(柿三郎なのは三男なのかな。お兄さんたちの名前も知りたい)。でもこの本はこれで完成されている。
★★★★戻る