2006年7月のミステリ 戻る

各務原(かがみはら)氏の逆説−見えない人影
2005年 氷川透著 TOKUMA NOVELS 215頁
あらすじ
私立秀青高校のサッカー部。全国大会に出るほどでもないが、県大会ではまあいいとこまでいく。進学校としては上出来だ。おタクの兄に付き合ってサッカーを見ている内に、それなりの理論家になった栗林晴美。無気力な帰宅部の高校生だったはずがなぜかサッカー部のマネージャーになってしまったのよ。
感想
「各務原氏の逆説」の続編。
よく本になったもんだと(笑)。
最後のチェスタトンへのオマージュも、なんだかねえ。サッカー談義が書きたかっただけなのか?  動機については最初から放棄。
  「動機があるかないかなんて 」
  「そんなことで犯人が誰か決めようとするのは愚の骨頂だ−何よりも傲慢だよ。他人の心の中を覗くことが出来ると宣言するようなもんだ。」
 
そりゃまーそうですけどー。それをはっきりくっきり言っちゃあ、おしまいじゃん。映画とか小説ってのは人の心を覗き見するもんなんじゃないの。 それを書いてんじゃないの。  各務原(かがみはら)氏のキャラも空回りしてるしな。
高校生がふたりも殺されるという後味の悪い話に、せめても、あっと驚くタメゴロウどんでんがえし・・・なし、目からうろこのトリック・・・なし、シニカルなユーモア・・・・なし、せつない動機・・・まったくなし、で何を楽しめと?(それを求めるあたしがワガママ?)  ちょっと期待していた人なのにな。
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サウスバウンド
2005年 奥田英朗著 角川書店
あらすじ
上原二郎の父、一郎はルポライター、ジャーナリストと称しているがあまり仕事はしていない。一家の家計は母さくらが喫茶店をしてささえている。二郎は六年生、妹の桃子は四年生。もうひとり年の離れた姉がいる。十歳違いの姉の洋子はどうやら父のほんとうの子供ではないらしい。
感想
前半は石田衣良の「4TEEN」で後半は篠田節子の「斉藤家の核弾頭」みたいなお話。
元活動家でアナーキーな父や母を持った子供は大変なのだ。父はお上にさからい権力にたてつく。資本家を蛇蝎のように嫌っている。しかし家族は運命共同体。そこから離脱するには親子の縁を切るしかないっという激しい話。そして70年安保闘争は遥か忘却の彼方。父一郎の豪放磊落さ、母さくらのおもいっきりのよさは爽快だが、日本国民は牙も角も爪さえなくなってしまったのだなあと、しみじみする小説であった。しかし子供の柔軟さやたくましさがこの話の救いとなっている。
おすすめ度★★★★
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丑三つ時から夜明けまで
2005年 大倉崇裕著 光文社
あらすじ
昨年、国民のまったく知らないところで、静岡県警捜査五課が組織された。捜査五課は特殊技能採用された面々ばかりだ。その特殊能力とは”霊視”から”浄化”までえりすぐりの霊能力。なぜ組織されたかと言うと、それは5年前からの研究によって全国の未解決事件の七十パーセント以上が、幽霊による犯行であることが推定されたため、それに立ち向かう組織が必要になったのよ。
感想
「現場は密室だったんです。さらに・・・・」 「・・・自然死とは思えません」
で速攻、「幽霊だ、幽霊のしわざだ」と捜査五課が呼ばれる。名探偵が知恵をしぼらない。捜査五課に反発している一課の迷探偵はご愛嬌の推理を展開する。”孤島もの””雪の山荘もの”の「幻の夏山」が好き。閉ざされた夏山の恐怖は連続殺人鬼ではなく怨霊。(ミステリなのかオカルトなのか、どっちじゃ)
読者をなめてるよなー。本格推理”命”じゃないさぼてんは、ほんとに楽しめる。
おすすめ度★★★★1/2
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