2006年2月のミステリ 戻る

容疑者 χ の献身  第134回直木賞
2005年 東野圭吾著 文芸春秋 352頁
あらすじ
私立高校の数学教師・石神哲哉は午前七時三十五分アパートを出た。隅田川に沿って遊歩道を歩き、学校までの道からちょっと外れて「べんてん亭」という小さな弁当屋に寄る。そこにはアパートの隣の住人・花岡靖子が白い帽子をかぶって働いていた。彼が遠回りする理由・・・・石神は密かに恋をしていた。   しかし不運な事に石神は物理学者・湯川学のかつての同級生であった。
感想  (前期試験の付添者控え室でのめりこみ読み)
東野圭吾氏はインタビューで描きたかった事はふたつと言われていた。
ひとつは理系の人、数学者や物理学者はどんな頭の中なのか、どんな考え方をするのかと言う事。 物のとらえ方や感じ方がだいぶ違うんではないか。ほんで、お前にはわかるんか? と言われたらわからないんですけど(笑)。
ふたつ目は男にはこの女に尽くしたいという気持ちがあり(そうなんか)、自分にもあり(尽くしたい女の人は見つかったの? 見つかっていたら小説に書かないよな) その見返りを求めない無償の愛を描きたかった。
 
数学者の頭の中・・・・・・宇宙ね (はかり知れない)。ちびさぼから聞いたが高校の数学の先生が「大学に行くと化学は物理になり、物理は数学になり、数学は 哲学になる。」と言われたそう。今年の秋から東京工業大学では特別入学資格試験(AO型)として数学2問だけ5時間の入試が始まるらしい。数学だけなのは「物理、化学の力は数学ではかれるから」とか。数学のオリンピックに出るような子が国立大学で学べるのはとってもいい事だ。数学ってのは宇宙人にも通じる言語らしい(って誰か試したんかい)。しかし気になる。ちびさぼは数学がイマイチぱっとしないのだが本当に理系なんだろか。
 
ラスト近く、花岡靖子がこんなにも愛してくれる人がたくさんいるのに、なぜ自分は幸せになれないのかと虚しく感じる所、せつない。それは男に頼って生きるからやろー・・・・などと言うは簡単だが、事はそう単純ではない。真面目に学校を出て勤めて幸せな家庭を築こうと思って結婚しても、崩れる事はあるのだ。小さな子供を育てながら働くのは大変だ。 手に職をもたなかったからって責められる? ちびさぼには目減りのしない国家資格をゲットさせるのだとずっと思っていたけれど、前期試験を撃沈したちびさぼは、元々密かに希望だった後期の理学部に行く(就職無理学部だ)。「不肖・ハクラク進路ナビ」を読んでポスドクの厳しさを知っても、なお。 さぼてんは本人の意向を尊重する、わけで、もしも結婚して (もしもかよ) 仕事 (だいたい就職があるのか?) を辞めて、もしも、もしもよ離婚したら (と妄想はとめどなく) 大丈夫か? と多少の不安は残るが。まあなるようにしかならん。行くっきゃない。
おすすめ度★★★★★
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君のいる場所 「向左走、向右走」
1999年 作・絵 ジミー 小学館
あらすじ 金城武とジジ・リョンの「ターンレフト ターンライト」の原作絵本。作者ジミーは台北在住の絵本作家
感想
詩的。ところどころ「ウォリーを探せ!」のような絵があって大都会の孤独がしみじみ伝わってくる仕組みとなっている。いつか誰か「運命の人」を待っている人にはバイブルになるやもしれん。
絵本はヨーロッパ風の枯れた感じなんやけど、映画はバイタリティ溢れるまくる中国人が出てきて別物で、でもなかなかよく出来ていた。彼女が翻訳している小説が原作絵本では「悲しい話」であり映画では「ホラー」になっていたのが面白かった。「ホラー」の方がビジュアル的でしょ。映画は編集長がホラーの1巻目、彼女が2巻目を訳すはずだったのに間違って1巻を訳してバッティング。編集長に「何か! 訳の出来を競っているのか?!」と言われ、もう一度やり直す羽目に。訳している間怖くてアパートも移ってもう訳せません・・・と泣きをいれると編集長に「俺が翻訳している間、この出版社を切り盛りするか?」と脅され、やむなくこわごわ訳に取り組む事に(彼女は小説のオチは気にならないのであろうか?)というコメディタッチは原作にはなし。 本に比べ映画というのはどんどん流れていくので、サービスが多いというかイメージを与え説明し続けないと退屈してしまうのだな。
おすすめ度★★★★
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腕貫探偵  市民サーヴィス課出張所事件簿
2005年 西澤保彦著 実業之日本社 実業之日本社 255頁
あらすじ
学校に病院に商店街に路上に出没する「市民サーヴィス課出張所」。簡易机の前に座っているのは鉛筆みたいに細身の男。年齢不詳のめがねは今時どこで売っているのか黒い腕貫(うでぬき)を嵌めている。
 
「櫃洗(ひつあらい)市のみなさまへ
 日頃のご意見、ご要望、なんでもお聞かせください
 個人的なお悩みもお気軽にどうぞ
        櫃洗市一般苦情係」
と貼り紙がある。
そこに寄せられた悩みと言うのは
 
 腕貫探偵登場
   櫃洗(ひつあらい)大学の学生・蘇甲純也(そがわじゅんや)が遭遇したのは死体消失と移動の謎であった。
   密かに思っている女の子と親しくなるチャンスをふいにしやさぐれモードで酔っ払う。真夜中とぼとぼ歩いてい<
   るとバス停で死体発見! それは同じアパートの間室良太郎(まむろりょうたろう)であった。しかし公衆電話
   まで走って警察に通報している間に死体は消えてしまった。
 恋よりほかに死するものなし
   蘇甲純也(そがわじゅんや)が焦がれている筑摩地葉子(つくまようこ)。母が原因不明の発作を起こし悩んで
   いる。幼馴染との再婚を目前に舞い上がっていた母の体の調子が狂ったのは何故?
 化かし合い、愛し合い
   生来の女好きが収まらず、恋人と破局を迎えた門叶雄馬(とかないゆうま)。2ヵ月後電話をして2時間説得。
   雪解けの気配。幸せいっぱいの雄馬はこの感激を誰かと分かち合いたいと腕貫男の前に座る。そこで待っていた
   のはとんでもない話だった。
 喪失の扉
   櫃洗(ひつあらい)大学の事務局長を退職した武笠寿憲(むかさとしのり)は書斎の押入れを整理していて20
   年前の学生証の束と履修届の一覧を見つける。何故こんなものがここにあるのだ? まったく記憶にない。
   それは恐怖の時間の始まりであった。
 すべてひとりで死ぬ女
   櫃洗(ひつあらい)南署の刑事・氷見(ひみ)と水谷川(みやかわ)は老舗のレストラン「カットレット・ハウ
   ス」で急ぐと言って食事をせずに立ち去る女を見る。始めは急いでいる風でもなかったのにハテナ?
   その20分後、女は死体となって発見される。
 スクランブル・カンパニィ
   風邪でへばっている壇田臨夢(まゆたのぞむ)は同僚の目鯉部(まりべ)に押し付けられた仕事であえいでいる。
   そこに現れた螺良(にしら)に拉致され失神寸前の状態で合コンにつれていかれた。目鯉部(まりべ)と螺良
   (にしら)は女遊びに目がなく会社では「鬼畜兄弟」と噂されているけしからぬやから。
   ろくでもない事になったと嘆いていた壇田(まゆた)は目の前に現れた相手に仰天する。
   営業四課の美女・秋賀(あわか)エミリと玄葉敦子(くろはあつこ)のふたり。エミリは清純派アイドル風であ
   ありながら、事情通によると「悪魔も裸足で逃げ出すしたたかさ」。伝説的存在の敦子(あつこ)は女優ばりの
   壮絶な美貌とアルコールはうわばみ、営業の成績はダントツというそんじょそこらの男は近づけない傑物であった。
 明日を覗く窓
   蘇甲純也(そがわじゅんや)は重度の筋違いでフーフー言っている友に代わり、音成比呂史(おとなりひろし)
   画伯の展覧会の片付けにやって来た。その会場にいたのは筑摩地葉子(つくまようこ)。友人に感謝の祈りを捧
   げる純也。「こんな千載一遇の機会を与えてくれて。ありがとう友よ。どうしてハヤシライスを奢ってもらえよ
   うか。今度きみに奢ってあげます。特選和牛ステーキコースでもなんでもっ」
   ところが片付けが終わった後、箱がひとつ余ってしまった。昨年の展覧会に出品されていた「遥かなる庭」の箱。
   そう重大な事ではないが、不思議だ。絵だけ持って出ると目立つはず。どうして? 
感想
安楽椅子探偵物。 恋愛3編。どれもかわいかったな。 中でもSF「五人姉妹」の中のレトロな恋愛「「ホールド・ミー・タイト」、「君たちに明日はない」を思い出させる「スクランブル・カンパニィ」の人物造形が面白い。
「喪失の扉」が怖かったな。昔からたまーに見る夢のバージョンがある。 「何故か突如もうすぐ試験だ! 教科書を見ても何もわからへん。教わった覚えもないっ。これはどうした事か・・・(英語と数学ね)」  「誰かに追われていて、逃げている。ひたすら闇夜を逃げている。しかもあろうことかほぼ全裸(フロイトの夢判断、されたくねえ)」  そして最近加わったのが「誰かもいつかもどうやってかもわからへんけど、どうやらアタシは人をあやめたみたい。。。事故やったけど未必の故意かも・・・・お宮入りの事件の犯人は・・・」というのがある。目が覚めてたいそうホッとするのである。現実に心から満足する一瞬。 「ミステリの読みすぎやで、あんた。」って感じですが・・・・・。まさか覚えていないだけでほんまの事やないやろね(ちゃう、絶対ちゃう
おすすめ度★★★★
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犬はどこだ
2005年 米澤穂信(よねざわほのぶ)著 東京創元社ミステリ・フロンティア 309頁
あらすじ
順風満帆な人生を送るはずだった元銀行員の紺屋長一郎(こうやちょういちろう)25歳。尾羽打ち枯らして故郷に帰って来た。半年の療養、雌伏後始めたのは調査事務所 「紺屋S&R」 (こうやサーチ&レスキュー)。調査の経験はゼロ。世捨て人のごとく犬捜しを専門にしたいと思っている。世間の端っこで細々と生きたい(話はぜんぜん違うが、ちびさぼの同級生で「家、どこ?」って聞かれて「堺(さかい)の端っこ」って答えたら「世界の端っこ」って聞こえた子がいたとか・・・・失礼しました。)。まあぜーんぜん仕事が来なくていずれフェードアウトかもと思っていたところ、しょっぱなから2件も仕事が舞い込む。1件目は失踪した孫娘を探して欲しいという荷が勝つ仕事。もうひとつは古文書のいわれを探るもの。どちらも町役場の福祉課にいる友・大南(おおみなみ)の紹介だった。ここは小伏町のじいさん連中の相談所やないっちゅーの。
感想
ひゃー、空恐ろしい。 結構こわいラストだったな。
もともと迷い犬探しをしたいと思っていた主人公の「犬はどこだ」・・・・なるほど。よく出来た題名だ。賢い犬は番犬になるし、捨てられた犬は野良犬になってすさみ子供を襲ったりする。犬は2つの面を持っている。さらに猟犬になって追う場合もある。
「この件は誰にも言いません」って判子を押して渡すって訳にもいかんしな(・・・「時効警察」のオダギリジョー、いいな)
作者は「春期限定いちごタルト事件」の人。この人才能ありそ。
おすすめ度★★★★
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