2005年10月のミステリ 戻る

君たちに明日はない
2005年 垣根涼介著 新潮社 317頁
あらすじ
リストラ請負会社『日本ヒューマンリアクト(株)』の社員村上真介33歳。アウトソーシングしてきた会社の人事部に代わり、リストラ候補社員と面接を行って引導を渡し年貢を納めてもらうのが仕事だ。
感想
(私の中ではオダギリジョーの)村上真介の好みの女性は、自立心の強いきかん気の女。年は関係ない。普通はひくよな。その風変わりな好みは話に目新しさを加えるとともに、村上真介の世間一般とは異なるユニークさと価値観を表現しているのだ、と思う。流行や世間の目に左右されないという事かな。「お前の彼女かわいいなー」と思われなくていいというか。人は見場が大事である。清潔さだけではなく、他人に好ましく映るならなおよろし。しかしそれよりも大事なのは中身。自分との相性。男女の間だけではなく、長い間付き合う仕事・職場にも相性がある。そこんとこよく考えろと言っているのだな。日本国は敗者復活のし難い保守的な風土があるけど、硬直化しすぎている。もっといきいきと働けるように変わっていかなきゃ世界で生き残れない、充実も幸せも手に入らない。業種によってウェイトは異なるだろうが「ACT.5」では「人、物、金」の中でもっとも大事なのは人材と作者は言っている。と思う。人を育てなきゃ企業は滅ぶぞー(でも大銀行は生き残るのよ)。
 
もうちょっと真面目に仕事に向き合わなきゃいけないかなーと思わせる小説だった。夜更かしして寝不足ではいかんでないの(ただいま24時40分なり)。
 
パワーで仕事をしてきたアクの強い社員が”ある程度”偉くなった後、それ以上昇ることなく会社のお荷物になった場合会社はどうするか? 最前線ではないどっかテキトーな所に押し込んでふたをしちゃうんですよ。災難はテキトーな所にたまたまいた部下。そのパワーが保身と我を通す事に費やされる。「誰がこんなんを部長級にまでしたんやー。責任者でてこいー。」と叫びたくなる。というシチュエーションがこの作品には2つも出てきて実にリアルやった。
おすすめ度★★★★
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扉は閉ざされたまま THE DOOR IS STILL CLOSED
2005年 石持浅海(いしもちあさみ)著 NON NOVEL
あらすじ
六年ぶりの同窓会。集まった顔ぶれは北海道の余市で公務員をしている新山和宏。ちくばで研究員をしている上田五月。成城のお坊ちゃまで翻訳をしている安東章吾。結婚した大倉礼子。大倉礼子の妹で火山の研究をしているごまめちゃんだったはずの碓氷優佳。福岡の大学で助手をしている石丸孝平。そして、新山を殺すためにやってきた伏見亮輔の七人。軽音楽部だったらしい。誰が何の楽器だったかという無用なモノの説明は一切なし。
感想
   ねたばれ、、、あるかも、あると思う
「開かない扉を前に、ふたりの息詰まる頭脳戦が始まった・・・・。」って防戦一方やん(**)、伏見よ。
刑事コロンボや古畑任三郎のような「倒叙ミステリ」+扉は閉ざされたままで中で何が起こっているか想像するしかないという「安楽椅子探偵物」。
 
ここで読者に求められるのは、犯人のミスとそれを推理する探偵の攻防を味わう事と、なぜ?なぜ?なぜ?と犯人の動機を推理する事だ。作者からの挑戦状だ。犯人(伏見)はどうして新山を殺害したのか?しなければならなかったのか? ヒントは次々読者に与えられる。
 
新山殺害は前々から計画されていたものらしい。犯人はチャンスを待っていた。そしてどうやら犯人(伏見)が会社の製品のモニターになれと送った健康診断キットの結果が動機らしいというのがわかる。新山が特異体質の持ち主で医療関係のベンチャー企業にとって、垂涎モノを持っているとか? それとも、なんか変なウィルスに感染していてモルモットになれるとか? 
 
どうやら臓器移植とか骨髄移植が関わっているらしい。実は自分の弟であり自分は病気でそのパーツが必要とか?(「五人姉妹」か) 新山が適合する患者がいてそれが恋人で助けたいとか? (いや、水につけておいても心肺停止になったらあかんやろ。特殊な溶液でもなさそうやし)。
 
伏見はクールな見かけと違い熱いハートの持ち主らしい。そして時間はまだあるらしい。 新山が今は自覚症状がないが、不治の病で苦しむばかりだから早く楽にしてやりたいとか? いずれ空気感染するやばい病気の元を体内に持っているとか? 遺伝病を持っているとか?
 
<結果>この理由やったん。 時間を引き延ばす訳がちゃんと説明できてるやん・・・・なるほど・・・・。
 
ちょっと、まて。 「骨髄移植」した事で命の尊さとか大切さがわかったんちゃうんー。言っている事としている事が違うやろー。新山に家族がいてたらどーすんの? 移植を待っている人がすべて品行方正なえーひとばっかりなんか? 海外で得体のしれん移植受けている人もいるっていうやん。そやから信念を持っている人っていうのは要注意なん。作者のパラドックスが感じられる(熱い人だから犯した罪。熱い人だから犯すはずがない罪。優しい人としていない所がミソか)
 
と、動機の面ではいささか不満が残るがラストのサプライズでオッケといたします。よく考えられていた。ほどよく熟成した扉は開けられます。そして同時に閉ざされていた伏見と碓氷優佳の扉も優佳の猛アタックの結果、開けられます。(教えたったらえーやんかと思うもんの、気づかない様なアホは私にはいらないという事なんだろう)
おすすめ度★★★★
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