元警察官「梶総一郎」に順繰りにかかわっていく6人の男たちの物語。その男たちの年齢は37歳から59歳。書道の腕の確かな「梶総一郎」が書いた
「人生五十年」に
心揺さぶられる男たちだ。(さぼてんは「人生五十年」といえば高橋幸治が信長役で舞っていた大河ドラマ『太閤記』を思い浮かべる人間だ)その男たちは日々必死に仕事に生きフツーの人たちより世の中のダーティな部分を知り、フツーの人たちより権力を他人に行使できるコワモテの男達だ。家族のために耐えがたきを耐え忍びがたきを忍んでいる。が、「社会的な人間」の男達はねっこは日々自分のために生きている。ところが「梶総一郎」と出会ったことで「梶総一郎」の死守している秘密に触れ
何故自分はココニイルノダロウと今、内に問いかけるのである。
さぼてんは♀であるため♂の心理ははかりがたい。が不覚にも最後はほんの少し「年寄りめっ」になった感動作だ。かっこいいのは警察官の「志木和正」と検察官の「佐藤銛男」だが残念ながら印象深いのはかっこよくない都落ちした弁護士の「植村学」。恐らく自分がマイナーな人間だからだろう。
おすすめ度★★★★1/2
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ターミナル・エクスペリメント The Terminal Experiment 1995年ネビュラ賞(長編部門)
1995年作 ロバート・J・ソウヤー 早川文庫SF 内田昌之訳 458頁
あらすじ
1995年26歳の大学院生ピーター・ホブスンはトロント大学で生物医学工学を学んでいた。ドナーからの臓器摘出手術を手伝っていた時、心臓めがけメスが入った瞬間ドナーの胸が大きく持ち上がったのを見る。あえぎ声も聞こえた。17才のドナーが死んだのは心臓をえぐりとられた瞬間だったと確信したピーターは人間の本当の「死の瞬間」を知る手段はないものかと研究と実験を重ねスーパー脳波計の試作を続ける。
感想
ひとりを惨殺し、ひとりを巧妙な完全殺人の餌食とし、最後のひとりに瀕死の重傷を負わせた犯人は誰だ?の
フーダニットもの。容疑者達が奇抜だ。しかし話はコンピュータへの考え方があいまいというか夢みたい。音声入力でパスワードを平気で口にする日にゃ盗聴されてりゃ一発ですな。魂波(ソウルウェーブ)に関しては「牛にはない。チンパンジーにはある。」って所で多くの日本人は問うはず・・・・・・「じゃ鯨はどうなの?」・・・・
一番印象に残ったのは真夜中に悩めるピーターが「コントロール(未改変)」のシムと会話をする所。
「ときどき、結婚する相手をまちがえたのかと思う事がある。」と打ち明けるとシムが「選択肢は多くなかっただろう。」と答える。本当かどうかは不明だがシムが言うには生まれた時に引き離された双生児でも驚くほどの類似があるそうだ。ところがただひとつだけ例外がある。それは結婚相手。「結婚したい時できる時に好きな相手がいて、しかも相手も結婚の条件が整っていて自分と結婚してもいいと思っている。」というのはゼロかひとり。驚くべき幸運に恵まれれば3人か4人。よくよく考えれば−選択の余地がほとんどなかった事がわかるはずだ。とピーターを説得するのである。
社内結婚を見つづけているさぼてんには実にすんなりわかる内容であった。それが運命と言われればそうだけれど、適齢期の男女のほんのちょっとしたきっかけなのよね。席が近くになったとか一緒に残業したとか飲み会で隣だったとか。ほとんどがそのまますんなり結婚する。多くの中から選んだような気がするかもしれないけれどどうかな。
つまり作者がいいたかったのは「どこかに私だけの相手がいるはず。」と探しつづけるのではなく、パートナーが必要であれば一度決めたら相手がまっとうな人である限り、ふたりとも誠実に努力をつづけて実り多い人生を送れという事ではなかろか。この人ご両親が離婚しているんだろうか。
おすすめ度★★★★
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黒いハンカチ
1957年作 小沼丹(おぬまたん) 創元推理文庫 222頁
あらすじ
某女子大学を出たニシ・アズマはA女学院の英語教師をしている。小柄で愛嬌のある顔だが、顔に似合わずおつむのほうは鋭かった。
昭和三十二年四月から昭和三十三年三月迄、雑誌「新婦人」に読切連載された十二作品。著者は早稲田大学教授の(を)傍らに小説を書かれていたそうです。
感想
「まあ、御挨拶ね そりゃ悪かありませんよ お通しして頂戴な 御免遊ばせ 左様で ケエス ボオト トラムプ 莫伽ね お這入んなさいな」えとせとら、漢字変換ができない。のどかだレトロだ品が良いんだ。なんてゆったりと時間が流れるんだ。嫁入り前の娘さんのニシ・アズマは運動会のあくる日の「草臥れ(くたびれ)休み」に伯母の家に傘を返しに行って半日伯母の相手をするんやって(せっかくのお休みやのに)。
ふわふわした不思議な雰囲気がある。昨今力はいりまくりのミステリに比べて作り手の苦労なぞみじんも感じさせない。まあそれ程の謎でもないからであるが。ニシ・アズマの妹の名前がミナミコではなくミナミだったらそこだけ現代的で楽しかったのにな。ただなんとなく残念である。
料理自慢の院長タナカ女史の家におよばれに行って遭遇する事件「眼鏡」、ご令嬢の婚約披露内輪のパアティで若い男女が芝生の上で踊る「スクエア・ダンス」、サンタ・クロウス毒殺事件の「手袋」がブラウン神父、「黒いハンカチ」「赤い自転車」が観察眼鋭いミス・マープル物のようだな。完全犯罪の「蛇」がほほえましそうな風景の中に毒があって好み。