2002年8月のミステリ

密室の鍵貸します

2002年 東川篤哉(ひがしがわとくや)作 光文社カッパ・ノベルス 263頁
あらすじ
烏賊川市大映画学科に籍を置く戸村流平は学食で手ひどく振られた。地元のちっぽけな映画製作会社に就職を決めたばっかりに彼女の暴言は「東京で一旗揚げるくらいの気概はないわけ?」から始まり果ては「アホ、スケベ、ヘタくそ」にまで及びもうメタメタ。いささか落ち込んでいる流平が「そうだ映画で慰められよう」ってんで選んだ映画が「殺戮の館」・・・。
感想
舞台となる町は、その昔烏賊(いか)がたくさん水揚げされた所だそうな。水揚げされた烏賊は川を上って運ばれた。でもって川の名前は烏賊川(いかがわ)とあいなった。したがって自然とその流域一帯は烏賊川町と呼ばれるようになる。近年、町は都心のベットタウン化して人口が増え市に格上げされることになった。そして町を二分する大論争の末「烏賊川市」が誕生した・・・・・。

ここでクダラナイつまらないばかばかしいインクが無駄紙がもったいないとか面白みが「ハテナ?」の人は早急に離脱される事をお薦めする。この「烏賊川市」の命名は本作品となんら関係なくただただ作者の楽しみだけで、、、「あほ・・・・」と口の端で笑って頁をくれる人は楽しめると思う。脱力系の説得力ある動機も快く許せるはず。

被害者、容疑者、真犯人、迷探偵が登場する本作品にはもちろん刑事コンビも登場する。ユーモアミステリでは刑事コンビとなるとオヤジ警部とモヤシかカイワレかってな若い刑事の組み合わせになるのがお約束。「名探偵コナン」でもオヤジ警部の目暮(メグレ)と高木刑事(この人は声優さんの高木渉と同じ名前。元太の声もしている)の組み合わせだ。ところが本作の砂川警部は正真正銘れっきとしたオヤジであるが、相棒の志木刑事は昔結構ワルしてたんですに設定されている。異色だ変わってんなと思っていたらそれには理由があったわけ。作者はとても頭がいい人なんじゃと思ったほんの一瞬。(そこ「たんなるご都合主義なんと違う?」とか言わない)。

頭いいなと思ったもうひとつの理由は、作家には映画マニアが多いせいか「こんな映画知っているか? これはどうだ?」と鼻息荒くビデオ化されていない作品ばかりを選んで小説に書き、悔しさに読者を身もだえさす嫌味なやから方が多いがこの作者はそういう喧嘩売るような事はしない。「密室の鍵貸します(ビリー・ワイルダー監督作品「アパートの鍵貸します」から来ているのは言わずもがな)」という題名からもその素直さがよくわかる。そこんとこ物足らないとも言えるし、好感度がUPしているのも事実。(そこ「作者は映画マニアやないんと違う?」とか言わない)。
言い忘れてますが所謂本格ミステリです。
おすすめ度★★★★
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ダレン・シャン−奇怪なサーカス−


2000年 ダレン・シャン作 橋本恵訳 小学館 313頁
あらすじ
僕、ダレン・シャンはサッカーが好き。お勉強もそこそこできる。でも何より小さな頃から蜘蛛が好きだったんだ。その蜘蛛好きのせいで半バンパイアになってしまったんだけれど。あのサーカスを見るまでは、妹アニーとパパ、ママ、親友のスティーブと普通の生活をしていたんだ。
感想
本は「ハリポタ」の二匹目のどじょうを狙ったような売られ方ですが、「ハリポタ」とは違いかなりダークです。(「ハリー・ポッター」も徐々にダークになっていくという噂ではありますが。)
サーカスと言っても、法律違反で密かに上演されているフリークショーなんですよ。ちょっとおどろおどろしい。ダレンの親友スティーブはシングルマザーに育てられ父親の顔も知らず、愛情不足で屈折している。その上直情型でのめり込むタチのスティーヴはバンパイアになる事を切望していたのに「血に飢えたバンパイア・ハンター」になる事を運命づけられてしまう。反対にバンパイアになんぞこれっぽっちもなりたくなかったダレンがバンパイアに選ばれたしまった。宿命のお話なんですね。家族愛と友情もわかりやすくきっちり描かれていて好感を持つ。しかも萩尾望都の「ポーの一族」では少年が大人になれない暗い暗い展開でしたがこちらは「半バンパイアは5年にひとつ年をとる」設定でそこんとこはどん詰まりにならないようクリアしている。次作を読むのが楽しみ。
おすすめ度★★★1/2
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ご近所探偵 TOMOE

2002年 戸梶圭太作 幻冬舎文庫

キャラ&あらすじ
さいたま市ひよどりが丘の一軒家でラブラブHHHHH・・・している新婚さんは石丸ともえ27才と石丸勝雄30才。石丸ともえは昔あまりの低視聴率で6話で打ちきりになった「動物戦隊ビーストレンジャー」のレギュラーだった芸能人。今も一応芸能人。石丸勝雄はイラストレーター。毎日毎日飽きもせずHHHHH・・・できるふたりは、当然売れていない。それでも一軒家に住んで毎日ご飯を食べてHHHHH・・・できるのは勝雄の亡き父・石丸重盛が残した財産のおかげなのだ。天才脳外科医だった重盛は「ザ・ゴットハンド・シゲモリ」と讃えられ、ともえは「天にまします我らのゴットハンド」と食事の前には感謝の言葉をかかさない。
173センチの身長ぶらす出るところはたくさん出て、ひっこむ所はとても引っ込んでいるナイスバディのトモエはそれを惜しげもなく露出度の高いファッションでもってすべての民に大判振る舞いしている(見るだけ、見るだけ)。マリア様かナイチンゲールかってな広い心の持ち主なのだ。そういうトモエを勝雄はとても愛している。しかしこのペア、とかくトラブルに巻き込まれるのであった。
感想
とにかく軽い。ちょちょいのちょいと読める。
エピソード1は「ヤク」、エピソード2は「完全犯罪」、エピソード3は「スパイ物」になっていて、さぼてんは「エピソード2」が一番好みやねん。金持ちの奥さんを亡き者にしちゃって愛人が奥さんになりすますというヒッチコック監督作品の「裏窓」みたいな話なのね。トモエが、天敵の妹チエと人さまの庭の鯉池で「宿命の対決」バトルする所も好き。「さあ、こいっ」(笑)。

妹のチエとか、アイパッチしている絶倫愛犬のスネイク(もちろん名前の由来はカーペンター監督「ニューヨーク1997」のカート・ラッセル=スネイク)の激しいキャラもええねんけれど、ピカイチはビデオ屋zappaのリー店長。「異様なほど独断と偏見に満ちた映画の分類」をしているお方。「勘違い男気映画」のコーナーに「北国の帝王」。「賞と無縁のそれなり職業監督」のコーナーに「シカゴ・コネクション/夢見て走れ」のピーター・ハイアムズ監督作品。「ヤッピーがド田舎の貧乏白人に苛められる映画」コーナーに・・・というとても楽しい奇人で、さぼてんもこういう人に導かれて映画を見てみたいなあなんて思ったりする。
おすすめ度★★★1/2
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殺人交叉点 NOCTURNE POUR ASSASSIN

1972年改訂 フレッド・カサック 平岡敦訳 創元推理文庫 357頁
「殺人交叉点」NOCTURNE POUR ASSASSIN 1972年フランス・ミステリ批評家賞

1962年8月に起こった事件は時効を迎えようとしていた。いや元々加害者も被害者も事件当時に死んで、一件落着していたはずであった。ところがどっこい1972年の8月28日時効4日前に真犯人の元に脅迫電話が掛かる。加害者にされたボブの母親か、真犯人のお前かどちらか高い値段を付けた方が証拠を競り落とせるという。
 
信じられないとお思いでしょうが、騙されました。フランスミステリを甘く見ていたと今反省しております。ボブの母親っていうのが息子を溺愛していてまるで若いツバメのように扱っている。対して真犯人の母親は甘いような厳しいような。なんでかなあと思っていたのですが、、、。小憎たらしいくらいうまいよね。この綱渡りの構成は。
「連鎖反応」CARAMBOLAGES
フランス・エール=ピュール社企画課課長補佐のジルベールは弱っていた。愛人のモニクと切れようとした途端「ベビィができたの」と言われてしまったのだ。恋人のダニエルとの結婚も間近と言うのに。モニカは結婚までは望んでいないという。養育費を払ってくれればと。まず2千フラン欲しいと言うのだ。それでも薄給の身のジルベールにはとてつもない大金だ。こういう場合モニカに消えてもらおうと思うモノだが、そこは心優しいフランス男。女子供を手に掛けることなどできやしない。しかもベッドを共にした相手なのだ。僕をなんだと思っている? そんな情のない事はできない。そうだお金さえあれば事は解決するんだ。それには昇進だ。昇進するには空きポストが必要だ。その空きポストを自らの手で作らなくては。
 
とぼけた味わいのあるブラック笑ミステリ。飛んで飛んでまわってまわってと円広志の曲みたいだ。
主人公のジルベールはポストを開けるために「匿名の手紙」を書くんですね。手紙を見つけたソメ警部が「家の中に鴉が入り込んでくる」と言う。フランス語では「鴉」に「匿名手紙の書き手」という意味があるそうです。そういえばアンリ=ジョルジュ・クルーゾ監督の「密告」では署名が「カラス」でした。
著者あとがきに書かれていた「ルイ・ド・フュネスとアラン・ドロンが唯一共演した」映画化作品をワタクシIMDbで探してみました。1963年製作の「CARAMBOLAGES」(原題通り)のようです。アラン・ドロンはノンクレジットで主人公役は「いとこ同士」のジャン・クロード・ブリアリだったみたい。
おすすめ度★★★★
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太陽の簒奪者(たいようのさんだつしゃ) THE SUN USURPER

2002年 野尻泡介(のじりほうすけ) 早川書房 283頁
あらすじ
2006年11月9日を境に高校二年生白石亜紀の漠然とした人生の目的は、具体化した。「水星の太陽面通過(水星による日食)」の観測精度競争に闘志を燃やしていた天文部部長・白(石)亜紀は、校舎屋上での日食観測中「水星が太陽面の縁から離れる瞬間」水星に塔のような物体があるのを目撃する。もちろん世界中のプロ/アマ天文学者がブツを目撃した訳で事態を重く見たNASAはハッブル宇宙望遠鏡の使用に踏み切る。その結果、水星にある物体が作られそこから噴き出したモノが太陽のまわりを地球の軌道面に垂直に(堀のように)リングを形成していっているのが判明する。それが我らが地球にとってどんな関係があるかというと、地球の日照時間を浸食しはじめていたのだ。当然のごとく氷河期はせまり天変地異が起こり始める。「人類文明はたまたま気候のいい1万年の内に開花しただけ。宇宙の尺度でみればうたかたの夢。」という”宇宙時間”を認識している亜紀が恐れるのは人類滅亡ではなく「(水星のあの物体を作った)異星文明を知らずに死ぬ事」だ。亜紀は道を一途に歩み始める。
感想
SFのセンスゼロのさぼてんが1日でイッキ読み。面白い。 本作が映画化されたらと想像するだけでワクワク。第二部の「コンタクト」からいよいよ主題に入っていくんやけど、ここでの大きな難所は「遭遇した時、どうやってコンタクトするの?」なん。「言語? 異星体は言語を持っているん?」 「画像? 異星体には地球人の目に相当する器官があるん?」 「だいたい体ってものがあるのか?」っていう疑問がむくむく湧く所をさぼてんでもどうにかイメージできるテクでクリアしている。
「影像で表現できないモノを映画化するなっ」の「ジョディ・フォスターのコンタクト」よりも ジョン・カーペンター監督の「ダーク・スター」の味わいに近い。

ろんぐろんぐあごーの入社した頃「アイデアコンペ」なるものがあって、「生きている壁」なんぞというモノを出した事があった。当時森林浴が大流行で「壁はひのきやマツ等に似た生物で出来ていてフェトンチッドを発散し家にいながら森林浴が出来る」とか「配管が木の根っこの様にみずから修復する」とかのお笑いアイデアで参加賞の図書券5千円貰ったんですけれどいよいよ実現化しそうですかね。この本読んでいると(笑)。
おすすめ度☆☆☆☆☆
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