2003年10月のミステリ 戻る

さよならダイノサウルス
1994年 ロバート・J・ソウヤー ハヤカワ文庫SF 332頁
あらすじ
西暦20xx年、物理学者チン=メイ・ファン博士が作ったタイムマシン<国王陛下のカナダ製タイムマシン、チャールズ・ヘイゼリアス・スターンバーグ号(外見がハンバーガーに似ている事から通称スターンバーガー)>は人類ふたりを6千五百万年前に逆行(スロウバック)させる。時は白亜紀末期。古生物学者で白人のブランドン・サッカレー(ブランディ)博士と地質学者で黒人のマイルズ・ジョーダン(クリックス)博士は斥候(偵察隊)としてこの地に降り立った。恐竜が絶滅した謎を解明するために。ブランディは隕石衝突が絶滅の原因ではないとふんでいた。
時間を逆行できるんだったらもっと人類史上重大な謎(クレオパトラは美人だったのかい?)の解明もあると思うもんだが、ファン効果のためのエネルギー量は旅をする時間の長さに逆比例していた。つまり千年前に戻るには地球上の全エネルギーの1世紀分程が必要だった。。。。こうして時間旅行は古生物学者にしか役にたたん技術になったわけ。
感想
「言葉をしゃべる恐竜!」という紹介文を読んで多くの読者はこう思うはず。
「いったい何語をしゃべるねん!」
英語でした。
昔話に似ているかな。「オリオン座は蠍座が空に現れると西の空に沈む(オリオンは大サソリに刺されて死んだから)」とか「コウモリは何故夜行性なのか」とか「空豆に黒い筋があるのは何故か(黒い糸で縫ったから)」とか・・・・。(あいかわらずたとえがへたれだな。)
「人類の敵は何なのか?」 「それはどうしてなのか?」というのにいたく感心した。
おすすめ度★★★★1/2
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カナリヤは眠れない
1999年 近藤史恵 祥伝社文庫 278頁
あらすじ
整体師合田力(ごうだりき)は体に触ればぴたっとあてる。体が発しているSOSを。体も心も直してくれるその不思議な整体師がキャッチしたのは買い物依存症に苦しんでいる新婚七ヶ月目の主婦墨田茜だった。
感想
ほんまこの本を気に入った方には申し訳ないんやけど・・・
作者の著書は合う合わないが極端に分かれるな。心の病を抱えている人の話が多い。それはえーねんけど先走って消化しきれていないように感じる時があるねんな。なんかひっかかるねん。おんなおんなしている所を拒否してしまうのかもしれん。まあはっきりいえば「甘えんじゃねぇ」とか思ってしまうわけ。 「凍える島」 「ねむりねずみ」 「桜姫」は合う。 「演じられた白い夜」 「スタバトマーテル」はだめ。本作は合わない方。ひとつ目は「買い物依存症」の墨田茜に感情移入ができない。何が原因かはっきりしないし。まあ物事の原因なんて白黒つくもんじゃないし理由の無い事も多いじゃろ。しかし本当にもう大丈夫なのか? その自信たっぷりさがまたなにやら見てて不安だぞ。 つまり「自分に自信がなかったから」でいいのか? わからん。読者は不安だ。 だいたいあんな酷い女を許すのはどういう訳? 正気なん? 信じらんない。
 
もうひとつは占い師のような整体師合田力のいう「カナリヤの話」が気になる(というかまったく気に入らない)。
「トンネル工事をするときに、カナリヤを一緒に連れていくんや。カナリヤが呼吸困難に陥ったのを見て、人間はこの先があぶないことを知るんや。」 「あいつら(節食障害、性的依存の姉妹)はカナリヤや。」
つまりそれって世の中が悪いってか? それはちょっと短絡的すぎるんじゃ。
もうひとつ「健康な心を持っているやつにも二種類おるんやで」 「単に痛みから逃げていたり、鈍感やから気ぃつかへんかったり、うまく世の中の流れに乗って適当にかわしていたり、そういうやつらかて多いんや。」
それがバランス感覚というものちゃうん。
なま言っているさぼてんもいつ強迫神経症になるかわからん。何度も戸締まり確かめたり賞味期限確かめたり確かに兆候はある。そういうあやうさは持っている。そやねんけどなあ・・・
ながなが書いてきましたが要するに合わなかったんです。優しい気持ちになれない。そえない。カナリヤはなんでカナリアやないねん(やつあたり状態)。カナリヤは眠れないってのカナリヤは合田力なのか? 他人を心配しすぎて眠れないってか? それとも世のカナリヤ達が眠れないほど世の中は変だってか? どうすりゃ良いのよ? 「問題提起するだけじゃなくなんか解決案は考えているのか?」(ああ、今の上司口調だ)。 題からして不可解だ。 いらいらするうぅ。
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第三の時効
2003年 横山秀夫 集英社 324頁
あらすじ
F県警捜査一課強行犯捜査一係、通称一班の班長は朽木泰正。笑わない男は「青鬼」と呼ばれている。「冷血」の異名をとる二班の班長楠見は公安出身。カルト教団崩しで顔を知られ公安刑事としては死に今はコロシの担当だ。第三班の村瀬は一番影が薄いが口の減らない天才肌。捜査第一課長の田畑昭信は濃すぎて独断とエゴの固まりの部下の掌握に苦労している。気持ちが全然通じない。デカ部屋も昔とは様がわりしてしまった。しかし異様な程の検挙率の高さ、人間としてはともかく刑事(デカ)としての使命は十二分に果たしている部下達だ。この課長も結構狸なのだった。
感想
人間ドラマを描く刑事物と思って軽く読み出したら一作目の「沈黙のアリバイ」のラストで目が覚める。久しぶりにイッキ読み。一つ一つのオチはまあ今までもあったかな?というお話ではあるがそこまでの持って行き方がうまい。ほんとうにうまい。小さな事からカン(頭の中のコンピュータ)ががーっと回転するというどんでん返し物なのだ。アリバイあり密室ありで本格推理に近いように感じる。冷たさと暖かさの配分も絶妙。
 
どの作品も甲乙つけがたいが、作品としての完成度は低い方だと思う意欲作の「密室の抜け穴」が好みだ。
おすすめ度★★★★★
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