1998年12月のミステリ

殺人症候群 THE Walter Syndrome

リチャード・ニーリィ著 1970年作 角川文庫復刻版
あらすじ
内気なランバートを笑い者にした女性を、親友おもいのチャールズが巧妙な計画を立て殺害する。
感想
30年前の作品で今読むと「どんでんで驚く」という事はないです。しかし、1930年代後半、第二次世界大戦前のアメリカが映像を見るようにいきいきと描かれています。新聞社(ブンヤ)と警察(デカ)の関係とか、殺人犯の内面と第三者から見た殺人者の外面の対比がおもしろい。
千街晶之さんの解説、えらい力はいってます。
おすすめ度:★★★1/2
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実況中死 TELEPATHIC LINK

西澤保彦著 1998年 講談社NOVELS
あらすじ
チョーモンイン<超能力者問題秘密対策委員会>シリーズ長編2作目。
どこの誰かもわからない他人(ボディ)の見ている光景を、TVの実況中継を見ているように見えてしまうという特殊な体(ソウル)になってしまった主婦の訴えを調査する神麻嗣子(かんおみつぎこ)、能解匡緒(のけまさお)、保科匡緒(ほしなまさお)の3人組。その主婦が見たというのはボディが殺人を犯す光景だった。
感想
 「演じられた白い夜」と同じくHPの掲示板のオフ会がネタのひとつとなっていました。流行りなのかな。
ややこしい本格パズルです。よく出来てます。が、説明が多く真相が解明された頃にはいささか疲れていました。
笑ったのはミステリ・マニアの生態を描いた所。このミステリ・マニアにささえられている面もある作者が、ここまでデフォルメして描くとは。確信犯ですな。
「男と女の間に友情は成り立つか?」という主張も面白かったねぇ。ファンの女性に追いかけられている作者が、「友達でいましょ」と言ってるんやないかと深読みしました。もう一歩裏読みすれば「友達になりましょ。別に下心があるわけじゃないです。」って下心ミエミエで誰かに迫っているようにも聞こえる。これって、ゲスっているかしら。
おすすめ度:★★★
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演じられた白い夜

近藤史恵著 1998年
あらすじ
若手舞台演出家の神内匠は、舞台稽古のため山奥のペンションを借り役者を呼び集めた。
演出家助手の水上慎二、匠の妻で女優の神内麻子、ミュージシャンの西口洋介、舞踏家の嶋原真澄、テレビタレントの柏田日登美、小劇団員の手塚時子、モデルの真鍋洋子の総勢8人。新しい試みの推理劇「マウス」のため、役者以外からも出演者を厳選していた。
感想
雪に閉ざされた山荘。誰が被害者か、犯人かわからないままに進む舞台稽古。そして舞台劇そのままに起こる殺人。
ゾクゾクするような完璧な設定・・・・

なんやけれどねぇ、はぁ(ため息)。劇と現実がスパイラルしていく構造で凝っているんやけれど、この犯人はサイテーなやつではないか。感情移入も同情もできない。無理があると思う。
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ひとりで歩く女 SHE WALKS ALONE

ヘレン・マクロイ著 創元推理文庫 1948年作 389頁
あらすじ
「私が変死した場合にのみ読まれるものとする。」という一文から始まる手記をプエルタ・ビエハの警察署長ミゲル・ウリサールが読む。身の危険を察知した女性が自分の安全を図るため書いたらしい。
感想
かなり変形していますが、本格パズラーです。
「冒頭の手記の謎」−誰が書いたのか、書いた人はどうなったのか、実際の事なのか創作なのか−のモヤがかかったような雰囲気と、後半お屋敷での恐怖−戦慄の夜−がよかったです。

かなりねちこい文体。それぞれの人が、読者を丸め込もうとする長いセリフ。読みづらくはないのですが独特でした。。
おすすめ度:★★★
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黒と青 <リーバス警部シリーズ> 英国推理作家協会賞ゴールドダガー賞

イアン・ランキン著 ハヤカワポケットミステリ 1997年作 529頁
感想
認識を新たにしました。ヨーロッパは北海油田があるからええよなあなどと思っていましたが、大変なんだ北海の石油やぐらというのは。

エジンバラの一匹狼ジョン・リーバス警部シリーズ8作目。日本では初めての翻訳作品です。一言では説明できない複雑に絡み合った話。
ひとつは、北海の石油採掘基地の労働者が椅子に縛り付けられた状態で、2階から落ちて槍型フェンスに串刺しになった事件をクレイグラー署のリーバス警部が担当する。これは本業の事件。
もうひとつは、リーバスが駆け出しの頃捕まえた殺人犯スペーヴンが獄中で無実を訴えて自殺する。マスコミはこの事件に目をつけリーバスを追いかけ回す。実はリーバスは当時上司だったゲデスが証拠をでっちあげたのではないかと永い間苦しんでいる事件だった。そこに退職したゲデスが自殺する。
3つ目は、30年前にスコットランドを震撼させた連続女性殺人”バイブル・ジョン事件”。迷宮入り事件になったこの事件を2番目の被害者アンジー・リデルと知り合いだったリーバスは犯人を許せず今も調査していた。
そして、現在”バイブル・ジョン事件”を模倣していると思われる連続殺人事件が3件発生していた。名付けて”ジョニー・バイブル事件”。

組織の中にいながら、根っから一匹狼のリーバス警部の個性が魅力的。女に甘いねん(^^)。アルコール依存で煙草のみで、灯りを消し窓辺の椅子で一晩中ロックを聞いている。題名の「黒と青」はローリング・ストーンズのアルバム「ブラック&ブルー」から取られているそうです。リーバスが60年70年代のロックファンということもあり、全編ロックの曲につつまれています。
そしてもう一つの主人公は頑固なスコットランド。スコットランドの英雄ウィリアム・ウォレスの銅像に向かって「やあ、メル・ギブソン」とリーバスが声をかける(笑)。 石油採掘基地では労働者が休み時間にビデオを見ようとしたら、「ブラック・レイン」のはずだったのに、同じタイトルの日本映画でヒロシマの話だったとか、もっと読み手(アタシ)に知識があればもっとおもしろいんではなかろかと思う所がありちょっと悔しい。
最後に著者はチャンドラー、ハメット、エルロイなど米国のミステリ作家から影響を受けたそうです。
おすすめ度:★★★1/2
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