2002年12月のミステリ戻る

最上階の殺人 Top Storey Murder

1931年 アントニィ・バークリー著 新樹社 325頁
あらすじ
モンマスマンションの最上階4階の8号室で首を絞められた死体が発見される。被害者は住民のミス・バーネットだ。変わり者の老嬢で近所づきあいもほとんどないしぶちんにもかかわらずこ金持ちで知られている。銀行を信用せずタンス貯金などしているもんだから盗人に狙われたんだと警察は手口から容疑者を絞る。ところがモーズビー警部にひっついて現場までやってきた作家のロジャー・シェリンガムはモンマスマンション内の犯罪だと確信する。なぜなら犯行当時の出入りは住民しかいない上、窓から逃げたかのような痕跡は真っ赤な作り物と見抜いたからだ。容疑者は管理人夫婦も含めて11人いる(赤ん坊は除く)。
感想
推理というのは本来論理の組立な訳だが、そこにロジャー・シェリンガム探偵が持つロマンティックで衝動的な体質と妄想想像力の豊かさが混ぜられてしまって出来った「驚愕の真相」とは・・・・・・やってくれましたね。爆笑〜〜
美人に弱い体質が災い秘書にしてしまった被害者の姪・ステラ・バーネットとのやりとりなんぞ、これはまさしくソフィスティケイトされたスクリューボールコメディです。「新婚道中記」「青髭八人目の妻」とかの。ロジャー・シェリンガムはケーリー・グラントとかゲーリー・クーパーもいいですが、さぼてんの中ではロバート・ドーナット。「チップス先生さようなら」を見たもんで。ロバート・ドーナットはヒッチコック監督「三十九夜」、ルネ・クレール監督「幽霊西へ行く」の洒脱なお方。
おすすめ度★★★★
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名探偵に薔薇を

第八回鮎川哲也賞最終候補作品
1998年 城平京(しろだいらきょう)著 創元推理文庫 307頁
あらすじ
「メルヘン小人地獄(こびとじごく)」、「毒杯パズル」の2部構成。
第一部「メルヘン小人地獄」
「親の因果が子に報い」というおどろおどろしい話が、江戸川乱歩風の文体で綴られる。
 むかしむかしとてもわるい博士が「小人地獄」という名前の毒薬を作りました。少量飲むと心不全としか思えない死をもたらす毒薬は、政財界を巻き込んだ大スキャンダルとなる所をお上により闇に葬られました。しかし事はそれで収まりませんでした。33年たち新聞社や雑誌社に送られてきたのは「メルヘン小人地獄」という童話でした。文体はかわいいけれどそれはそれは恐ろしい内容です。「小人地獄」の材料として殺戮された同胞の恨みを果たしたい小人達は死んでしまった博士の変わりにハンナ、ニコラス、フローラを惨殺するのでした。そしてこの童話に見立てられた死体が発見されました。三橋壮一郎が家庭教師をしている鈴花の母・恵子でした。三橋壮一郎は友人の瀬川みゆきに「力を貸して欲しい」と頼みます。なぜなら瀬川みゆきは名探偵だったからでした。

第二部「毒杯パズル」
「メルヘン小人地獄」を解決した後日本中を放浪していた名探偵瀬川みゆきは毒薬「小人地獄」が使われた殺人事件を新聞で読む。あの事件から2年がたっていた。瀬川はこれも運命なのかと事件の渦中に巻き込まれる決意を固める。
感想
TVで放映されているアニメ「スパイラル〜推理の絆〜」を最近見てまして。学園推理モノなんですが気になるブルーさなんですよ、これが。オープニングは凝っているし面白いっちゃあ面白いのですが、登場する少年少女がいささか病的で不気味。ガンガンという雑誌に連載中だそうです。城平京(しろだいらきょう)という方が原作者で小説も書かれているというのを知り読んでみる事に。

うーん、感心しませんな。ストイックな名探偵瀬川みゆきは悩んでいる人なんです。ハムレットのように。業の深さに。「自分は何故名探偵に生まれてきたんだろう」と(ある種ジョークですな)。十字架を背負いブルーのオーラを出しまくり。おばばのさぼてんは色々な青さにあてられてどっと疲れました。ここだけの話ですが「青少年に悪い影響があるんではなかろか」などと過激な事まで一瞬考えてしまいましたよ。そんな言葉を思い浮かべるなんて・・・ショ〜ック。年は取りたくないものでございます。おばばにそうまで思わすキャラゆえに若者には魅力的なんだな。

決して好きではありませんが、ミステリパートは凝っているし個性的な小説ではあります。
おすすめ度★★★★
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