2001年3月のミステリ

内なる殺人者 THE KILLER INSIDE ME

1952年作 ジム・トンプソン「ポップ1280」「セリ・ノワール」著 河出書房新社 273頁
あらすじ
ウエスト・テキサスの田舎町セントラル・シティの保安官補ルー・フォードは、チェスター・コーンウェルにいつか復讐したいという気持ちを隠し持っていた。町を牛耳っている建設業者のコーンウェルは、兄を事故に見せかけて殺しその悲哀から父は死んだのだ。すくなくともルーはそう確信していた。田舎者でちょっととろいふりをしているルーの事を町の人々は「生まれた時から知っている。裏も表もないみかけどおりの人物だ」と信じていた。そうではない気配を感じていた人々もルーの心の内を知ることはできなかった。理解を超えていたのだ。
感想
一人称で語る主人公の空虚な心が怖い。
お人好しで善良な人間もたまに「これは本当の自分ではない。仮面をかぶって普通の生活を送っているだけ。善悪の基準や倫理や社会の規範に何故したがわなければならないの? なんか意味あるんかな? 結局人間はいつか死ぬのに・・・」と思う事ない? いきがって。 ないかな。 そんな事を思っても、親兄弟子供や世間体やら優しい感情から道を踏み外すことはほとんどないと思う。が、この小説の主人公は楽々と軽々とその一線を越えていくの。そう見えるの。でも、その「内なる殺人者」と戦い苦しんでいる姿もかいま見ることができる。作者のジム・トンプソンはしらふでこの小説を書いたとは思えない。
深い意味はないんですが、さぼてん男のような単純でかつ複雑なの内面をかいま見たような気がする。例えば知性がかっているように見えながら実は感情で行動しているという風な。気がするだけで本当の所はわかりませんが。わかりたくないのかもしれない(笑)
読んでいて楽しい小説ではないが、読むのがやめられない。魅了される。
おすすめ度:★★★★★
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闇を誘う血(やみをいざなうち)BLOOD THE LAST VAMPIRE

2000年作 藤咲淳一著 富士見ミステリー文庫 227頁
あらすじ
中学受験に成功して難関中学に受かり「これからの自分の人生、勝ったも同然」と思ったのもつかのま、親の転勤で公立中学に転校となってしまった叶居歩(かないあゆむ)。人生むなしい。何をしてもうまくいかないのではないかという考えに取り憑かれ「死」を願っていた。そんな彼が殺人事件を目撃する。セーラー服の少女が日本刀で人斬りをした!。が、その事件は報道されない。
感想
映画「BLOOD THE LAST VAMPIRE」の感想では「小夜の正体はあいまいなままがよろし」なんぞと書いていますが、図書館の「新規購入本一覧」に「BLOOD THE LAST VAMPIRE」が載っているのを目にすると手が勝手に動いて予約してしまったのであります。
が、映画とはぜんぜん違う展開で「少年少女悩み深い青春時代の学園ホラー」でした。本書は少年少女に「”死”を安易に考えたらあかん」と言われてました。 本の裏の解説には「『BLOOD』と小夜の物語。その全ての謎が今、明かされる。」と書いてありますが”嘘”です。ぜんぜん明らかにはされていません。という訳で「しょーもない顛末だったらどうしよう」とビクビクしながら読みましたがそんな心配は無用でした。どうもアニメやら小説やらこの題材で食っている人達が多数いて「謎のままにしておかないといけないのではなかろか」というのがさぼてんの読みですね(笑)。
おすすめ度:★★★
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天使の囀り(さえずり)

1998年作 貴志祐介著 角川ホラー文庫 516頁
あらすじ
恋人の作家高梨がアマゾン調査から帰ってきてからの変貌ぶりに北島早苗は愕然とする。シャイな人だったのに、やたら明るく大食漢になっていた。エイズ・ホスピスで働く精神科医の早苗は科学者としてもほっておけない。
感想
北島早苗のようなこんないい医者を、こんなにも人の役にたつ人をこんな目にあわせていいんだろうか? なんなら役立たずのさぼてんを身代わりに・・と思う程北島早苗の悲運が悲しい。薬害エイズ事件で関係者のひとりでも北島早苗のような人がいたら、これほど被害が広がらなかっただろうという作者の義憤なんだろうな。

えっと、うろ覚えの記憶では確か以前読んだハヤカワミステリ文庫の「栗色の髪の保安官」も同じ様な内容だったので、おぞましさの衝撃度は低めだったんですけれど(伏せ字にする意味はないですけれど、一応伏せ字にします)、ハートの痛みは脳内物質の分泌を補充する事で解決するってのが、救いでもあるし人間の意志の限界を感じて悲しくもある。
おすすめ度:★★★★
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溺れる魚

1999年作 戸梶圭太著 新潮文庫 428頁
あらすじ
 溺れる魚
感想
過激。面白い。
女装癖のあるやつ、前衛芸術家、ゲイ、不良公安、歩く悪臭の公安、ユーモアのかけらもないコチコチの特別監察官、学生運動のなれの果て、ガンおたくといったクセのありすぎる登場人物の中でも一番かっこよくて不気味なのは、特別監察官室・室長の御代田(みよた)警視正であった。
血みどろの修羅場で涼しげで軽い御代田警視正は、そう「古畑任三郎」の田村正和のまんま。最近土曜日の再放送を楽しみに見ているんですけれど、ニコニコして腰が低くて性格が悪い(笑)ところがそっくり。でも憎めない。

後半は、「警察への信頼を守るため(=不祥事を未然に防ぐ)」と「三千万円」と「自分の生き方を貫くため」と「くそヤバイ状況から抜け出すため」というそれぞれの事情から多種多様のグループの攻防合戦。結局誰が勝ったのかわからない。偶然からかやくざはコテンパッテンにやられ、一方チャンスを与えられる人もいるというこの世界の神様である作者の意のままの皮肉な結末でした。
おすすめ度:★★★★1/2
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